797 CCFの企み 20 エトランゼ 8
円卓のアンに全ての視線が集まる。
ドラゴニアの女王アン、トウラの竜人のアスアッドとハイデマンの二人をその身に持つ間代表。
『彼は人間なのか?』
『貧相な中央の役人に過ぎなかった彼が、小さいとは言え省の知事となり、近隣の省をも巻き込んで発展させ、どうして大陸の国家主席の座に上り詰められた?』
『何より、今後どうなるのか! 死ぬのか? 死ねば彼も、彼らと同じ存在になるのか?』
『死ぬと次の身体を探すのか?』
『不死の存在。そうなれば神では無いか?』
そんな疑念が、その視線には込められている。
「(無理も無いか・・・・・)当然の質問ですね。お答えしましょう」
アンの姿から間に姿が変わる。
胸の辺りのダブつきを修正する隠された紐を引っ張る。
空間から上着を取り出して羽織る。
マムドやカストムや他の代表代理達も身を乗り出してきた。
マムドもアンの秘密について詳細を明かして貰って居なかった。
身支度を整え会場を見渡す間。
『【寮監】の気配がするな』
『アスアッドもそう思うか? 姿を消しているか、姿を変えているかだろう』
『あぁ、確実にこの会場に居る』
『今回の事は、了解を貰っているわよ。さぁ、間、始めましょう』
「あぁ、上手く話せれば良いんだがな」
自分に言い聞かせる様に間が小声で囁いた。
「さて、皆さん。過去の私を知っている人々は、痩せて青白い顔をした中央官僚の時代の私を知っているでしょう?」
多くの者達が頷いた。
「千年以上前、そうですね一万年は行かないでしょうが少なくとも二千年以上前。
銀河の果てで青白く凍りついた星から一機の宇宙船が飛び立ちました。
コレがアンの物語の始まりでした。
物語の始まりは死への恐怖です。
この宇宙船の中には彼女・・・いえ、お腹に二人の胎児を抱えたアン女王だけがいたんです。
ドラゴニアの先代女王。
アンの母親が、無理矢理アンを宇宙へ放り出しました。
見たことも無い魔道具で転移を防がれ、上昇する宇宙船の加速度に耐える為に竜人化した最後のドラゴニアの女王。
最新鋭のコールドスリープ、人工子宮の設備を搭載し、搭乗員に行き先も告げられずに打ち上げられた宇宙船。
コースを変えた事から、予めプログラムされた何処かへ向かっている事は間違い無い。
無重力で過ごす事は苦痛でした。
常に体の動作をゆっくりと行う事が必要になる。
不用意に、四肢を動かすと身体が回転して意図しない方向に流されてしまう。
そうなると、何かにぶつかるまで止まれない。
こんな、実験用の宇宙船を母が所持しているとは思わなかった。
操縦マニュアルを探すが、完全にオート制御になっていて手の打ちようが無い。
食糧、水、空気は積み込まれていましたが、それでも心許ない。ですが、胎児に影響を与えない様に管理しながら生活を続けます。
打ち上げからもう何日経っただろうか?
時間を知る事は出来るが、時間の感覚に異常を来しているせいか睡眠時間が短く何度も寝起きを繰り返す。
無重力で自分の身体をベルトで規定して眠るが気持ち悪い事この上無い。
お腹の子には、無重力は影響しないのだろうか?
こうも、辛い生活ならばコールドスリープをした方が楽なのだろうが、腹に子供がいる限りコールドスリープ(CS)は出来ない。
コールドスリープに入る為には、心拍数や血圧、脈拍、脳波を計測しながらカプセルの調整をするのだ。
しかも、アンのお腹には2人の子供がいる。あまりにも危険だ。
出産しても子供が成長するまではカプセルに入れない。
最低でも後三年、いや五年。成長を待ってコールドスリープ事になるが・・・・
でも・・・・・このままでは産むのも無理じゃないか・・・・。
不安と代わり映えがない毎日。
そして閉塞感。
何より孤独が、彼女の心を蝕み身体をも弱らせる。
母との通信は、切れ切れになる。
最後の言葉は『愛している』だった。
しばらくは、ノイズしか聞こえない通信を繋いだまま、窓の外から小さくなっていくドラゴニアの青白く凍った姿を眺めて泣いた。だが、それも見えなくなってしまう。
ノイズの音が、更に孤独感を増す。
好きな音楽さえも無意味だった。
宇宙船の中は、本当に静かだった。
何故、私は一人でここに居るのだろうか?
何故、母は私の子宮に受精卵を定着させたのか?
何故、私は妊娠を受け入れたのか?
何故、母はアンを宇宙へと送り出したのか?
孤独に死ねというのか?
こんなに一人が辛いなら・・・・・・母と共に宮殿で死を迎えたかった。
幾つもの疑問が彼女を更に苦しめます。
疑問を辿る事しか時間の過ごしようも無かったのですが・・・。
そんな彼女の前に彼が現れます。
『間も無く予定位置だ。・・・・・随分と弱っている様だが?』
女王を引き継いだ際に、ドラゴニアで母に紹介された【寮監】
透明なバスケットボール程の浮かぶ球。
意志を持ちテレパシーで言葉を伝える事が出来る。
宇宙を彷徨うアンの乗った宇宙船の中にも現れる事が出来る存在。
自らを【寮監】と呼ぶ、向こうが透き通ってしまう珠がアンの前に現れた。
傍には菱形をした人の拳大の浮かぶ赤い石を伴って・・・・・まぁ、宇宙空間ですから浮かぶしか無いんですがね」
会場から笑いが湧き上げる。
だが、そんな声を無視してマムドが問う。
「神なのか?」
「それは否定されました。彼らも作られた存在だと言っていました。
彼はアンの母親に提案したのですよ。
『この星は終わりだ。ドラゴニアは新天地にたどり着く事ができなかった。ドラゴニアの種を残す為に、アンを妊娠させて宇宙へ送る。そこで、私の教え子の一人。新天地を目指すトウラの王ドラウドにアンを任せよう』
こんな途方もない事を、アンの母親に提案したのは【寮監】だったんですよ。
彼女はトウラと言う惑星にドラーザと言う竜人が存在し、このドラーザは寮監が初代王女の遺伝子を使って創り出した事を王家の秘密として知っていた。
王家が有るのも、この浮かぶ珠の知恵を借りた為。
彼を疑う事は有り得なかった。
ドラゴニアの種を残したい。中でも最も優秀な王家の血筋を。
娘を・・・・・助けたい。
王妃はアンに王座を譲る為に、巧みにアンに妊娠を勧める。
女王となるには、次代の誕生を約束しなければならない。
アンの卵子は、成熟期に採取されていた。
彼女を眠らせ母自らが行った卵子の採取手術。
精子の提供は、アンの同世代で最も優秀な雄の物。
その事を知って、妊娠などしないと決めて王宮を出たアン。
だが、マントル対流の停止が進み全球凍結が進むドラゴニアに残された生存可能な場所は王宮しか無くなった。
そして、今この星に残る生存したドラゴニアは二人だけ。
多くの者は凍りついた大地の下で眠るようにして亡くなったか、宇宙に飛び立ち一縷の望みを胸にコールドスリープに自分の命を預けた。
宇宙を漂流している宇宙船を誰かが見つけて蘇生してくれる事に期待しながら、何時目覚めるのか解ら無い無限の眠りについている。
アンは娘でありながら、王女として女王の母の願いを聞いたことも無かった。
母の最後の頼みを引き受け人工受精卵を子宮に定着させた。
性行為の無い妊娠。
処女の妊娠です。
二人っきりの譲位と戴冠式を行って時を待った。
ここで、【寮監】のお話ししましょう。
【寮監】とは、ドラーザに知恵を与え、翼と尾を操る事を教える【学園】での呼び名。
【寮監】には仲間がいました。
【教授】と【女神】と呼ばれる存在。
その他にもいるようですが、私たちは知りません。
長い時間は無理みたいですが、人物の姿を持つことが出来ます。
今も、彼がこの会場にいるかもしれません。
彼には今回の会議で、【寮監】の存在を明らかにするかも知れないと伝え、了解を得ていますから、面白半分に見物に来ている。そんな気配があります」
会場の者達が周囲を見渡した。
天井の照明の影に、何か動いた様な気がするが・・・・・
あのCCFの職員は見た事がない。
そんな声が聞こえて来る。
「【寮監】が手掛けていたトウラ。
このままでは、隕石群により最後を迎えるトウラの人型生命体。
地球の中世以前の生活をしていました。
このままでは、ファスタバの民を宇宙へと旅立たせ、滅亡から逃れさせる事は無理な話です。
そこで、彼はファスタバにドラゴニアの遺伝子を使い竜人ドラーザに変えてみた。
これが、進化というべきかどうかは解らないが、飛翔能力と爪と牙を与えて更に知恵を授けた。
強制的にドラゴニア並みの文明に急速発展させたのです。
その目論見は成功し、トウラの民は遥か彼方から向かってくる隕石群を発見。
滅亡を避ける為に、宇宙へ飛び出す脱出計画を練り、ルコを見つけて宇宙へ飛び出した。
【寮監】は、ドラゴニアも同じ様に救いたかったのでしょうね。
ですが、ドラゴニアはそこまで発展しなかった。
さて、アンの話に戻りましょう。
宇宙でただ一人、死を目前にしたアンに彼が使用したのは菱形をした赤い石。
いつの頃からかドラゴニアでも、それは【魂の復活】として知られ、死者をも蘇らせると言われていました。
何故、その様な事が伝えられていたかは解りません。
【寮監】はアンの胸に【魂の復活】を置き彼女を生き返らせました」
「人工心臓なのか?」
「心臓の代わりになりますが全身に融合するのです。内蔵だけでは無く髪の毛一本一本まで脳さえ融合します。そして、何より人格のコピーとでも言うべきものが形成されます。
この【魂の復活】は、午前中にお見せした炎に包まれた惑星で作り出された物です。サポートユニットとも呼ばれていた様です。
意志を持ち宿主と共存する。
意志のある生物なのでしょう。
あの炎に包まれた星も、元はあそこまで酷い状況ではなかった。
ですが、地上は熱風が吹き荒れる地獄でした。
ですが、ひとりの男が防護服を着用せずに外から地下都市に現れたのです。
秘密は伝説の【魂の復活】
男は王の元へと連行されます。
彼はまだ若いのに、過酷な環境で瀕死の状態になっている妻の命を救う為に、伝説の【魂の復活】を遂に古代の神を祀った神殿の奥で見つけたのです。
彼の言葉に従い妻が担架に乗せられて来ました。
「待たせたね」
「その、お姿・・・・見つけたのですね?」
「あぁ、始めよう」
男は、王の目前で寝台に横たわる妻の胸を露わにし、赤い石を胸に起きました。
食事も取れずに痩せた乳房が潰れる。
体温を感じた赤い石が、沈み込んでいきます。
一滴の血も流さずに沈み込む赤い石。
そして、完全に石が沈み込んで、一瞬女の身体が痙攣して動かなくなりました。
周囲は慌てますが、男は笑っています。
「死んだでは無いか!」
「呼吸も脈もありません!」
「見ていてください!」
男が上着と下着を脱ぎ捨てます。
慌てる警備兵。
王の前で裸体になるなどあってはならぬ事。
ですが、皆が硬直します。
男の胸に赤く光る珠が肌を通して見えるのです。
そして、死んだ筈の女の胸にも同じ様に赤い珠が肌を通してみえます。
夫の問いかけに応える様に、光の点滅が始まります。
大きく息を吸い込む女、
「生き返った・・・・・・」
「復活・・・・命を取り戻した・・・」
「神殿の場所を教えよ!そこにはまだ【魂の復活】は残っていたのか?」
王は探検隊を組織して宮殿に向かわせます。
後は、ご想像通りです。
ですが、あの星の最後をご覧になった通り復活の石で生き延びた者達は、あの炎の惑星で流れる溶岩に焼かれて亡くなりました」
(サポ。済まないな。辛い過去を思い出させて・・・・・)
(・・・・・優しいですね大人)




