766 結婚式そして結婚式 117 首脳会談03
アンは、自分の本体はとうに死んで、その遺体はルコに埋葬されていたが、そのルコもどうなったか解らないと話をする。
地球を周回したドーンの移動艦を見て確証を得た。
「【シャトル】そのものだな」
京都で他のレリア艦艇とアーバイン上空に居座る【ルベル】についても映像をみて確証している。
艦の本体は新造艦かも知れないが、ボーズは間違い無くトウラの物だ。
ルコはバッフィム達から得たファルトンの座標から随分離れている。
もう計測不可能な距離と言っていい。
「彼らの子孫は、二回もしくは三回・・・・・もっとかも知れん。
又、星を彷徨ったのだろう。
私が、ルコを出てこの地球に到達するまで、どれくらい時間が経っているか解らないのだ」
「それは?」
「次元航法中に、我々は出られなくなったのだ。
【次元嵐】とドラウドやその後の研究者は言っておったが、巻き込まれて帰って来た者がいないからな。
次元航法中に観測された事は、あったが逃げるのに必死だからな。
それで、ファルトンから、どれ位この地球は離れている?」
「それが、よく解らないんです。
ドーンによると、事前調査と探査船を出していますが、生存出来る惑星かどうかは【博打】だった様です。
探査船を出して、アーバイン迄200年ほどかかったらしいのですが、実際には着けるかどうかわからないまま出たと言うのが正しい様です」
「無理もない。
次元航法を使うと、ボーズは次第に光の速度を越えて宇宙を進む。
しかも、次元航法を繰り返す程、早く、長く次元航法を続ける。
時間が遡る事は無いから、時間は経過している。
だが、その時間の流れは、あくまで艦隊の中の事であり、実際にはどれくらい時間が経過したか解らん。
50年未満で到達できたルコから観測されたトウラの滅亡は、そう時間の狂いは無かった。
だが、200年となると、その距離は1,000光年以上。
更に、それ以上離れている事になる。
先に話したが、私は生きてはいない。
この身体の中には、門以外に三人の擬似人格が存在している。
その力を使い、トウラの民に手を貸してルコへの移住を助けた。
そして、又、ルコを飛び出した。
次元嵐に巻き込まれて数日しか経っていなかったが、この地球に辿り着いた」
アンは、地球に到着してからの事を話した。
「そうですか・・・・・・
竜人の直系が、我が国の天孫降臨の元つまり【上】
そして、当時の日本人の女と竜人の男との間に出来た子供で、竜の特性を持たなくなった者が【皇族】」
「そうなるな」
「それで、アトランティスに向かった、男の一族の末裔がアンか・・・・・
でしたら、海の妖精、人魚は?」
「ファミール・・・・・我が孫ルーマが作り出した新たな竜人」
「やはり・・・・・・では、アシの一族もですか?」
「おそらく、そうであろうな。
あの子は、新しい生命を生み出す事に喜びを感じて、自分の卵子を使っていた。
壊れていたのかも知れん。
種を残したいが、ドラゴニアの雄が持つ狂気は不要。
あの子は、100を越えて枯れる様に死んだ兄と違い、幾つもの種となる受精卵を隠して190を越えて死んだ。
自分が設立した人工生命の研究所の水槽の前でな。
彼女亡き後、アンの意思を受けてハイデマンの姿で、彼女が残した研究資料を盗み出して処分したつもりだったが、まさか新たにボーズを使って実験船を作り上げ、人工子宮に様々な竜人の受精卵を他の惑星に向かって、幾つも送り出しているとは知らなかった」
アンは、お茶に口を付け目を見張る。
美味い茶だ。
お茶を入れてくれた女性に、頭を下げてその腕を讃える。
嬉しそうに盆を抱え込む女性自衛官。
コレで実家で怒られない。
柳葉から独立して千葉、館山で店を構えている両親に自慢できる。
「そんなある日、飛び込んできた次元通信に、私はいても経ってもいられなかった。
行方不明の息子が乗船していたコロニー艦からの救助要請だった。
方向だけわかる。
だがその距離、位置が解らない。
だが、次元通信が届いていると言う事は、宇宙空間にいると言うことだ。
私は、軍の研究所にあった実験艦に乗ってルコを飛び出した。
この船が最速と聞いていたからな。
次元通信からは、息子ロビンの声で私を呼んでいた。
『お父さん!助けて〜!』
だが結局、見つける事はできなかった。
私を追って来たのは、友人アーロンが作った憲兵隊の夫婦とその部下。
孫娘ルーマが産み出した一番初めの、水の竜人ファミールの女。
ルーマの娘と言っていいだろう。
そして、ドラーザの男。
この二人は、ファミールの世話と監視をしていた。
ルーマ亡き後も、逃げ出した多くのファミールを捕らえては研究所に戻す。
その行いで見つけた犯罪者も、ついでに憲兵に突き出していたからな。
そうして、憲兵やその筋から金を稼いでいた。
ファミールは、愛玩動物の様な扱いを受けていて密かに売買されていた。
軍にも、その取引に手を出す連中が紛れ込んでいてな。
私が乗り込んだ実験艦が、実はファミールの冷凍受精卵と人工子宮、その交換ユニットを積んだいわば、養殖場だったんだ。
誰も、そんなところが、ファミールの養殖場とは思いもしない。
警備兵をアスアッドの剣技で眠らせて、私の能力で実験艦の拘束と外部制御を解除した。
後は、飛び出すだけだ。
それこそ、後ろも見ずに飛び出した。
ドラウドとアンの墓、そしてアーロンの墓に別れを告げてな。
どう言う訳か、自分で産んだ子供と孫には愛着がなかった」
もう一口茶を、口にした。
お代わりをもらおう。
そう思うと、同時に茶碗が代えられた。
先程よりも少し濃くした茶で、添えられた茶菓子に合いそうだ。
アンは、少し休憩しようと声をかけて団子を口にする。
コレは美味い。
「コレは?」
「アーバインで、採れた果物と米を使ってみたわ。
後で、持たせてあげる」
沙羅の気遣い。
熱海から新作を取り寄せていた。
随行員達も少し休ませた。
カウンターテーブルを使う様に洋樹が勧めた。
「紗羅。私達にもお願いするよ。家内にも食べさせたい」
「もう、送っておいたわ。貴方よりも先に頂いているはずよ」
「そうか!それなら、余計な気遣いは不要だな!」
キッシンとエルベは、旨そうに団子を頬張った。
柳葉について話が弾み、先のお茶を入れてくれた自衛官の両親が、柳葉から独立して館山で料理旅館を経営している事を話した。
なんでも、JAXAの面々も敷居が高く予約が取れない柳葉に代わりこちらを使っているそうだ。
「ふ〜ん。黙っていたわね〜」
沙羅が早速予約を入れる。
貝に目が無い沙羅にとって、この辺りは好きな場所なのだ。
冬のアンコウ鍋もいける。
早速、エリファーナと早くも旅行日程を組み始める。
このままでは、話が終わらない。
舞台の幕を開けなければ・・・・・
キッシンが、先を促した。
「こうして、すぐさま次元航法に移った私を追って彼らが追尾して来た。
アーロンの部下は、私の正体を知っている。
ハイデマンの盗賊能力にも手を焼くが、アスアッドの剣技、アンの転移にかかっては逃亡は防げない。
だから説得して連れ戻すか、護衛として働く事を命じられていた。
賞金稼ぎの二人は、言うまでもなくファミールの受精卵だ。
これを回収しなければならない。
軍の犯罪者を憲兵に突き出して、同じ様に新型艦で追って来た。
どうしても、逃げられない。
この、3機の艦艇。
ボーズは、連係されていたんだ。
彼らと違って長い時間無酸素で生きれる事を利用して、次元航法を長く設定して振り切って諦めさせようとしたんだが、これがいけなかった。
後方について来ていた、どちらかの艦艇が意識を失って操船ミスで次元の狭間に落ちてしまった。
これまで、数々の次元航法を繰り返し次元航法に特化したボーズを積んだ小型感。
他の艦艇に追いつかれないと思っていたのだが・・・・・
引きずられる様にして巻き込まれた。
息子が乗艦していたコロニー艦もコレにあったのだろう。
一番艦が辿った航路を、行ってしまった。
そう思ったが、どうにもならなかった。
そして辿り着いたのが地球という訳だ。
艦内の時計では、10日程経過していた。
ボーズは、なんとか動いていたが、完全停止させるわけにはいかない。
意を決してこの惑星で、よく似た地形を見つけて降り立った。
大陸の端に寄り添う島国【日本】
後は瀬戸内海の島に無人艦を隠して、【ソーサー】小型の立って移動する円盤に乗ってこの国を探索した。
後を追って来た二組も同様だ。
ボーズが復旧するまで、この地に残る事にした。
麻や獣の皮を加工した衣服を来た民族。
日本民族だよ」
「そうでしたか・・・・・」
「他の二艇も瀬戸内に降ろしてしばらく休戦協定。
ところが、この五人が日本の風土病に感染してしまってね。
麻疹と言うんだが、私とサポートユニットにかかれば造作もない。
全員助けることもできたんだが・・・・・
憲兵の夫婦に仕えていたファスラーザの女が不憫になって、と言うか危険に感じてね。
憲兵の二人からは引き離した。
男に異様な雰囲気を感じてな」
改めて茶を頂く。
茶の温度が、いい感じに下がっていて喉に優しい。
それで、茶器を替えたのか・・・・・
今度は、日本で住んでみるか・・・・・
館山にも興味が出て来た。
もう、あんな不快な思いはしなくてよさそうだ。
アスアッドもハイデマンも了承するそうだ。
門も消える前に、しばらく過ごしたいと思っている様だ。
それなら、目をつけている男の心臓を人工心臓に変えるか・・・・
「次元通信をかけてもルコに繋がらないし、その時に備えて様々な惑星に散った無人探査船にも繋がらない。
文字通り、この地球に迷い込んだ囚われの身だ。
日本人からは、ソーサーに乗って空から現れた私たちを見て、神とやらに祭り上げられてしまった。
この地は合わないと、ファミールとドラーザの二人は私たちから離れていった。
残っていたボーズのエネルギーを使って、世界を回って住む場所を決めると言ってね。
私は知らなかった。
乗って来た小型艦の仕組みを。
息子を探すのに全神経を注いだからな。
重力場のある惑星に到着したら、自動的に分析を開始。
小型の分析用カプセルを放出して、海洋、河川、湖水を目指す。
水の赤外線反射光を使っていたんだろう。
しかも、瀬戸内の島の沖合に沈めておいたのが、更にその機能を発揮させた。
そのデータを、ファミールの人工子宮へ送り受精卵の成長過程で適応できる様にする。
ルーマは、とんでも無いマッドサイエンティストだよ。
天才だった。
ファミールとドラーザの夫婦は、その事を知っていたんだろうな。
私が使っていた艦艇を無理やり動かしてな。
自分達の艦艇からは、ご丁寧にボーズまで外してな。
最初のロットの、人魚が瀬戸内海に放出されていた。
コレが日本に伝わる人魚伝説の元だ。
そんな事が、瀬戸内で起こっているとは知らなかった。
私は、どうにも王に持ち上げられた、男が嫌で女王を連れて逃げようとしたんだ。
だが、ファエロモンの虜になっている女は言うことを聞かない。
昔を思い出してつい同じ態度を取って、私は全てを捨てて大陸に渡って今に至る。
まさか、瀬戸内海と大西洋に、人魚が生まれているなんて知る由もなかったよ」
「他にも、広がった様ですね。それが、【海の妖精】と呼ばれています。
私の弟の婚約者・・・・もう、妻で良いでしょう。
ロイアという娘が、海の妖精、人魚です。
海の中でも自在に行動できます」
「コレは、又身近に知り合いの子孫が居るとは嬉しい限りだ。
しかしなんだな。
あの時のドラーザの子孫が、【アン】を名乗るとはな・・・・・」
「アンに聴いたら代々、一番優秀な竜の女王は【アン】と名を変えたそうです」
「そうか・・・・彼女にも逢いたいな」
「巴にも、ご執心でしたね?」
『アン・・・』
『大丈夫・・・・任せて』
「・・・・・・彼女の事はそれこそ平安の時代から大陸の道士の中でも有名で、私にも聞こえて来たからな。
道士達の狙いは、彼女の血。
或いは、卵巣だった。
彼女に子を産ませる。
それをやってみたがっていた。
だが、それは君の役目だ」
「知っていたんですか?」
「萩月で聞いているよ。常義が嬉しそうだった。
彼女がそこに居る紗羅と言う親友を得て、更に夫まで得て子を成す。
しかも、その男が自分の友人岩屋友嗣の様に素晴らしい人格者と褒めていた」
「そうですか・・・・・・」
「それでだ。頼みがある」
「なんです?」
「御堂に、連れていってくれ!」




