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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
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744 間話 アクション・スタート03

「こ、こんな事が!」

予定通り、トウラの移民船団は最後の次元航法に使うボーズへのエネルギー供給の為に宇宙空間に出た。

その瞬間に、寮監が団長室に現れる。

寮監の緑色の光の球が現れ、そこから、いつもの様に皮肉たっぷりに挨拶がされた。


「順調な航海の様だな! 12世。

そこで、君たちに保護してもらいたい者が居る。

アンという竜人の女王だ!

出産を迎えている。手伝ってやって欲しい」

こちらの返答も待たずに、薄桃色の小さな光と共に雌の竜人が現れた。

誰の目で見ても、腹に子供がいる事がわかる。

そして、薄い夜着の下に胸の鱗が紺青色の中に輝き、その中に紋章が浮かび上がっていた。

紺青に金の縁取り。

女王の証だ!


「こ、こんな事が!」

ドラウド12世は、すぐさま自分の近習を集合させて、彼女を横向けにストレッチャーで医務室に運ぶ。

その頭上には、初めて見る薄桃色の光る球が付き添い。

このアンと呼ばれる竜人の女王を、天幕の様に包み込んでいた。

ドラウドにも解る。

かつて、寮監が言っていた。

『我々は、竜人の遺伝子をファスタバに組み込んでドラーザを創り出した。

進化を促す為に。

宇宙へ一歩を踏み出す為に、竜人の遺伝子を組み込んでみた』

と・・・・・

間違いない。

その竜人だ!

だが、何故ここに?


手術室に運び込み準備を進める。

秘密を守れる者だけに、ここに来てもらった。

ファスラーザの女医が診察をする。

ドラウド12世も、手袋を付けて白衣を身に纏う。

「出産の事を、先に聞いておくか?」

「あぁ、お願いする。我らと同じ様に出産するのか?」

「あぁ、出産や生育には違いは無い」

先程まで、苦しそうだった竜人の女王が平然と答えた。

「どういう事だ?」

女王が自らの胸の鱗を指差した。

「今は、この胸の赤い球が、私の陣痛の痛みを抑えている。

そうか、君も医師ならば、この夜着を脱ぐ事にしよう。

済まんが、代わりになる物が有れば貸して欲しい」

胸の鱗の下で、光が脈を打つ様に点滅を繰り返している。

女医が、全裸になったアンに妊婦用の手術用ガウンを掛けた。

「これは、心臓では無いのか?」

ドラウドは、鱗の下に赤く脈動している光を見た。

豊かな胸に目が吸い寄せられる。

それを堪えた。

しかし、いい匂いがする女だ。

ドラーザの女ともまた違う。

狂いそうになる程に性欲が湧き上がる。

「おやおや、ドラウド12世君だっけ

若いね?

でも、彼女は今から出産するんだ。

馬鹿な事は考えないでくれよ?」

薄桃色の光の球から聞こえたのは明らかに女性の声。

「当たり前だ!」

ドラウドは手術服の前を直して、エコーで胎児の状態を確認した。

最新式の医療機器が、この艦には装備されている。

男女の双子か・・・・・・

成程、ファスタバと同じ様だ・・・・・


「やはり、鱗を抜くと我々ドラーザの様に竜人になれなくなるのか?」

今度は寮監が答える。

「それは、君達ドラーザだけだよ。

アンの鱗には、君達と同じ様に竜人化を行う為の情報が刻み込まれている訳じゃ無いんだ。

身分を証明する。

面白い機能なんで、君達の鱗にも付けてみただけだ。

君達にとって鱗は、竜人に変化する為の身体データの書き換えを行う生きた記録体。

言わば記録の保管をする小さな脳なんだ。

彼女には、脳と心臓にその能力が備わっている。

訳あって、その心臓の代わりを彼女は身に付けているが、その能力や記憶を含めて、

この胸の赤い球が弱った心臓の代わりを務めている。

だから、鱗が無くとも羽を持ち竜の尾を持つ。

そして、それを仕舞い込んでファスタバの様な姿になるのには彼等独特の術を使う。

君達みたいに、いちいち身体細胞を組み替えるわけじゃ無い。

まぁ、出産後に落ち着いたら見せてもらうが良い。

本当は、その術ができればとドラーザを作り上げたんだが残念だ」

「まるで、失敗作みたいな言い方をしないでくれないか?

君が望んだ様に、こうして宇宙に飛び出しているんだ」

「そうであったな。済まん。

それに引き換え、アンの星では宇宙へ飛び出すのがやっとだったんだ。

多くの人間が星と共に太陽に飲み込まれて行った。

灼熱の環境下で皆、蒸発してしまった。

生きて宇宙空間に逃げれたのは、私の監視下ではアンのみだ」

「他に、脱出を(そそのか)した者がいたのか?」

「アン!唆しは酷いな。

でも、【魂の復活】を使役できている様だな!

君が言った【影】なのか解らない。

どうも、私達を感知する事ができるらしく、存在を確認できていないんだ。

そいつら竜人の身体を凍らせて、眠りにつかせて宇宙空間に放り出した。

何百ものカプセルに詰め込んでな」

「目的地は?」

「それは、ハッキリしていない。

どこに到着できるかは定かで無い。

氷漬けにしただけだからな。

遺伝情報を運ぶだけだ。

到達した場所に、例えば君らの様な進んだ科学力を有する知的生命体がいたら。

なんらかの方法で、新たな生命体として復活できるかもしれないだろう?」

「そんな、無茶苦茶な!」

「そうでも無い。

かつてドラゴニアという星が存在して、宇宙に飛び出す技術まで持った証にはなるだろう?」

「存在証明か・・・・・」

「君達だって牛や馬などの家畜は受精卵にして、運ばせているじゃ無いか?

それと同じことだ」


「寮監。

この女王の安全は保証しよう。

その代わりと言ってはなんだが、

この女王が使っていた宇宙船の所在を教えてくれ」

「あぁ、次元通信で伝えておくが良い。

次の艦隊に大型コロニー艦が有ったな。

その、空いた空間に取り込めば良い。

アンの乗艦は、大気圏での自動降下が組み込まれている。

新しい星で新たな発見をすれば良い」

「大型コロニー艦の事故。知っていたのか?」

「あぁ、その悲劇は見ていた。

そのエリアを使えば収容出来るだろう」

「折角の助言を生かせずに済まない。防げた事故だった」

「仕方無いさ。余りの大きさと遠心力を生み出す為の回転応力で生じた応力を抑えきれなかったんだ。

初めてなんだ。

ぶっつけ本番。

だが、物資が残っているのは幸いだ」

「私の乗艦には冷凍睡眠の実験機が搭載されている。

しかし、次元航法か・・・・・天才がいた様だな?」

「この、12世君の祖先が発明者だよ!」

「科学者であり、医師でもあるか・・・・芸術家でもある様だな!

それでは、子供たちの出産。

手伝ってくれ!

私も初めての事で、どうすれば良いかよくわかっていない」

「任せてくれ。

まずは、竜人の姿を解いてくれるか?

ベッドに尾を通す穴が無い。

その羽も引っかかる。

仕舞えないならば、ベッドの上で四つん這いで産んでもらう事になる。

ドラーザの貴族の女には、そうやって子供を産む者がいる」

「そんな姿は見せたく無い」

アンは羽と尾を仕舞い込む。

背後に一瞬光が刺したと思ったら、羽と尾が消えた。


ドラウド12世はこうして、アンの次代を繋ぐ二人を取り上げた。

ドラウドが名付け親となり、

男の子をアロン。

女の子をミアンと名付けた。


だが、ドラウドとの間に子供は出来なかった。

性欲も制限するのだが、サポートユニットが制限を解く。

ただし、卵巣の働きは止めていた。

だが、二人は仲が良くアンがもたらした陣を使った術を研究する合間を縫っては体を重ねた。

アンもドラウドが持つ知識と、アンの持つ知識を重ね合わせて更に進化をさせる。

今度は、ひとりぼっちにはならない様に・・・・・・

アロンとミアンが産んだ孫たちの子孫の為に。

もう、数世代繰り返せば、それなりに増えるだろう。

【ドラゴニア】と名付けられた竜・・・・・

アロンはドラーザとの間で子供を産ませたが、ドラゴニアでは無くドラーザになる。

寮監も興味深げに見守りにくる。

学園の設立をするかは今は保留だ。


科学技術の発達によりドラーザの竜人化は無用。

しかし中には、胸の鱗に秘密があると研究を重ね、せめて空を飛んでみたいと研究を続ける者もいた。


アンがドラウド12世に助けられて、2年後には新しい大地を踏み締めた。

もう多くの施設が建設されていてドラゴニアと変わらぬ景色が広がっている。

12世は、研究開発を行い一生を過ごしたのは東大陸の中央部。

『祖先の様に海を見ながら、余生を過ごしたい』

そう思っていたドラウド12世の為に用意されていた離宮は岬の突端。

ここから、アンとアロン、ミアンの間に産まれたドラゴニア達は空を舞った。

そして、アンとドラウド12世がこの邸宅に住んで73年後。

ドラウドはこの世を去った。

アンも心臓は問題無いのだが、他の臓器が機能不全を発症する様になっていた。

「よう!詐欺師。やっと来たか?」

「なんだ? 後5年は生きるつもりじゃ無かったのか?」

「そう言うな。胸の奴と相談したんだが限界らしい。

記憶力は、もう全くと言って良い程働いていない。

試しに助けを切って貰ったんだよ。

ドラウドの晩年を思い出せない。

もう長い事自分の頭で考えれれなくなっていた様だ。

もう充分だよ。

新しい種の記憶を取りに行かせるだろう?」

「あぁ、トウラに住んでいるドラーザの王だ。

ドラウドとは親戚関係にある。

元は同じ家系だ」

「そうか。それでもトウラに残っている。

あぁ、聞いたなアスアッドだな?

ドラウドの話から想像すると、ドラーザ本来の性格を持っているらしいな?

相棒が疲れそうだな。

少し、休めせてやってくれ」

「あぁ、そうしよう。

彼の生まれ故郷の星も最後を迎える。

その大地に残る同胞をもう、彼と引き合わせる事はできない。

最後の別れだけでもさせてやろう」

「そう言えばそんな事を言っていたな。

致死性の空気、硫酸の雨そんなかでも生きていたんだよな。

でも、遂に最後・・・・・

今、星の最後と言わなかったか?

星は残るのでは無いか?」

「それがな〜

サポートユニットにも手が負えなくなった。

この星は幾つもの体制国家を持っていて、その持てる兵器を使って自滅しようとしている」

「なんと!」

「しかも、こいつの同胞はそれに手を貸して、この星全体を炎に包み込もうとしている。

核兵器というんだ。

通常の時ならば星が無くなる事は無いが、地殻変動を起こしているんだ。

そんな状態でそんな事をしたら、星は持たないよ。

公転軸さえもうブレているんだ。

恐らく砕け散って小惑星帯になるのだろうね」

「馬鹿な連中。集団自殺・・・・・。だが、私の一族もそうだった。

早く行ってやれ。私も、夫の元ドラウドの元に行きたい。

あの世とやらが有るのなら、今度は彼の子供が産んでみたいよ。

人工授精なんかではなくてな。

ありがとう。相棒。

達者でな!」


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