734 結婚式そして結婚式 104 後始末 06
実は大陸政府には、キッシン自らが連絡を入れていた。
大陸の上層部は、兼ねてからキッシンが様々な異常現象や事件に関わっていた事を掴んでいる。
そして道士と呼ばれる大陸と台湾に残る呪術集団との関係も。
「そうか、仭も君らに加わったか」
「なんだ、仭の事を知っていたという事は、呪糸蟲の騒ぎも知っていたな?」
「あぁ、あの事以来。私も少しばかし知恵を付けさせてもらったからな」
「仭の事は許してやれよ。彼も必死なんだから」
「解っている。だが、知っての通り国粋主義者、現実主義者が多い国でね。
道士の事は隠しておきたい。
彼らは、先人によって利用され、時には殺められたんだ。
台湾に渡っている一族や、陰陽師と組んだなどと言ったら、何も知らない癖に騒ぎ出す」
「それは、お互い様だ。全てを我が民族に差し出せという馬鹿がいるのは、何年経っても消えやしない」
「時間が無いんだろう? 私に何をさせたい?
黙って君らがやる事を、認めさせれば良いのかな?」
「流石だな。損はさせないから良いだろう?」
「・・・・・・条件がある」
「なんだい?」
「天空のテラスで、CCFのメンバーと会食を設けてほしい」
「・・・・・CCFに入りたいのか? 引退する事になるぞ?」
「あぁ、丁度良いタイミングだと思っている」
「後任を決める会議はいつだ?」
「緊急の会議は、来月。人選はもう済んでいる」
「そうなると、軍部は・・・・・成程。随分若返るな?」
キッシンの方には、後継者と新たに組閣される新組織の予測表が提示された様だ。
「家内が、アーバインⅡに乗船したいそうだ。
今のままでは、一生叶わない望みだから、ここで貸しを作っておきたい」
「そういう事か。
『引退するには未だ若い』と、君の後釜を狙っている年寄りが焦るんじゃ無いかい?」
「もう充分だよ。長すぎだと思っている」
「ボディガードを、手配して良いか?」
「この電話も、聞かれているからな。じゃあ、頼む」
「先に、仭と会うんだろう?」
「よく知っているな?」
「仭が土産を持っている。
前に、お忍びで買って帰った羊羹だ。
奥さんに私からだと言って、渡してくれ」
「エリファーナからだろう? 全く、よく知っている」
「バレていたか!それじゃ、頼む。また後でな!」
「国連事務局へ。繋げ! 映像もだ!」
こうして、議会も経ずに独断で大陸の国家主席が国連の会議場で、世界各国に対して頭を下げるという前代未聞の事件が発生した。
この事を伝えていた大陸国内の国営放送局は大慌てで映像を消したが、SNSや海外からの放送は継続して放送を続けた。
「国内の放送局も、全て放送をする様に」
そう国連で発言し、更に追加で彼は宣言する。
「この事を国民に知らせずに、国を纏める事はできない。
今、我が国は最大の危機なんだ。
国家としての信用を失うという危機だ。
私は、CCFの提案を受け入れる。
・・・・・・もう、作業にかかっていた様だな?
相変わらず、手が速い。
未来の為に彼らを止めない。
よろしく頼む!」
何処からかの映像か解らないが、国家主席の執務室に向かう廊下に、武器を抱えて走って来る一団が現れた。
それを抑えようとする一団は、拳銃位しか手にしていない。
だが、その両者の間には何か壁がある様だ。
何か叫んでいる様だが聞こえない。
「成程、ワザと侵入させたな?
キッシンが言っていたボディガードか?」
国家主席の脇に、タイトスカート姿の女性が現れた。
少し赤毛の癖っ毛。
それこそ、光の輪の中から現れる様に・・・・・・
流暢な大陸の言葉で、楊主席に声をかける。
「ご家族も無事です。彼らは収容いたします。
申し訳ありませんが、収容先はこちらで選定しました。
国家反逆罪ですね?」
「あぁ、重罪だ」
タイトスカートの女性が、執務室の扉に向かって踵を返す。
京劇の面。
「消えなさい!」
その一言で、襲撃して来ていた連中が消えて行った。
「国賊め!」
そんな声が、微かに聞こえた。
あまりの事に、議事場では声があがる。
だが、それを制する様に武田 豪が言葉を続ける。
「ありがとうございます。
ただいま、大陸の国家主席の許可を頂き、タンカー周辺にNADを設置開始しています」
映像が切り替わる。
監視衛星からの映像。
どこをどうやったのか、タンカーを中心とした半径1k mの円状で海中からパイプが突き出された。
先端で発熱している。
その外側2kmの地点に泡が発生し始めた。
「先程、二日と言っていたんじゃないか?」
「ご厚意ですよ。協力者が頑張ってくれました。
楊国家主席の御英断に敬意を示しました」
「ではなんで、二重に? しかも内側のガスは燃やしているのか?」
「内側で発生したガスがそのまま海上にあがると、今のままでは放射線を含んだ水蒸気が上がります。
それで、海上までガスを導いて燃やしています。
近寄らないでくださいね。
水素炎は見えませんから!
これもファルトンの友人の経験ですね。
内側のタンカーから漏れ出る、放射性物質が無くなるまでは、この状態が続くでしょう」
「この辺りの海岸線は、どうなるのかね?」
楊国家主席が問いかけて来た。
その側には、先程の女性が立っていてその肩で何かがチョロリと動いた。
「済みません。
もう協力を頂けると確信していまして、左右50キロに渡って洗浄作業に掛かって頂いています」
「全く・・・・・まぁ、感謝するよ。
1分でも早い方がいい。
他の国でも設置するのかね?」
「北の大国に、お口添え願えませんか?
冷戦終結後に抱え込んでおられる負の遺産が、北の海に沈んでいますよね?」
「カムチャッカの事か!」
北の大国の代表が大声を挙げた。
目に輝きがある。
「そうです」
「本当に、本当に消し去れるのか?」
「えぇ、NAD を横取りしようなどと考えなければですが?」
「頼む。私の故郷を取り戻してくれ!」
この一言に会議場は、我も我もと声が上がる。
楊主席は映像を切った。
「もうこれで良いですよね?先輩」
「なんだ、泣いてんのか?」
「他には、誰もいないんですよ」
「全く。お前も仭の一門ならしっかりしないか?」
「それは、秘密なんですよ」
「敵対勢力にはな?」
「お身体は、大丈夫なんですか?」
「聞いているんだろう?」
「えぇ、長年の被曝による放射線障害は治るもんじゃ無いと聴いています。
年齢も、いっていらっしゃるので・・・・・」
「ファルトンの友人が、薬を提供してくれた。
結局人体実験だ。
未だ直接会ってはいないが苦労人だ。
会うのは大変な様だ。
いくつか見つかった癌が直ぐに治る訳ではない。
それでも効果が出ている。
指の血管に血が戻って来て痺れが無くなった。
疲労感も消えた。
この面会が終わったら又、京都の病院に連れ戻される」
「そうですか!」
「だから、先に言っておく。
未だ呪糸蟲を飼っている奴や、呪旗を使う連中が残っている。
しばらくは、そいつらの駆除の為に、国内で私の門人と黄、柳が手を尽くす」
「萩月もですか?」
「あぁ、中々の別嬪揃いだぞ。
あぁ、解ったもう帰る。もう少しだけだ!
全く、この念話って奴は使える様になったのは、嬉しいが・・・・
軍の方は、済まない。
しばらく洗脳しておく。
市中にいる犬も餌に絞れ薬を混ぜてある。
国外にいる犬にもな。
お前が知らないところで、野犬を飼った馬鹿がいる。
もう、そいつらにも見張りをつけた」
「【符人】ですか?」
「そうだ。仭の【符人の術】も復活出来た。
陰陽師風にはなったがな。
柳と黄をまとめ上げた翠と言う男だ。
楊 白蘭の夫になる。白蘭の腹に子供もいる」
「あぁ〜楊 小美が聞いたら、どんなに喜ぶ事でしょうか!」
「しばらくは、秘密にしておけ。京都で合わせると良いだろう」
「無理ですよ!顔がこんなに綻んでしまいます!」
「仕方無い。
お前の住まいにも、色々と仕掛けられていたし犬もいる。
うちから人を出す。
彼女達も同行する。
二、三日は家を出るな。
先程、この女性がやった様に現れる。
先に鈴を投げ入れて来るそうだから人払いをしておけ!」
そこまで言うと、仭の姿が消えていく。
後には、楊主席と京劇の面の女性が残った。
秘書や護衛がいないところを見ると、彼らも暗器を忍ばせていた様だ。
尋問が済んで戻すとは限らない。
「さて、どうやって自宅に移動するのかね?」
「申し訳ありませんが、お車は使いません。
もう、ご自宅には陣を置く準備をさせて頂きました」
「では、君が私を安全になった自宅まで連れて行ってくれるのかね?名前は?」
「はい。コン!とお呼びください」
『なんて、呼び名を付けるのよ!』
『だって、仕方無いでしょ? 私の名前知られすぎている!』
『なら!その髪染めて来るか!認識阻害掛けなさいよ!』
念話で素早く会話を交わす二人。
「どうやら、もう一人いるね?」
「エッ!」
楊の指が動いて姿を消しているもう一人を指差した。
緊急避難用の、もう一つのドアの横になる。
「出ておいで」
「参りました。
翠さんから聞いてはいましたが、道士としての能力が高いですね」
黒いポニテの女性で、同じ様に狐面を被った女性が現れた。
「で、君は何にする? 今は東郷香織さん?
ご結婚おめでとう!
颯さんは、コンにしたが?」
「あはは、やっぱり!」
「もう!真弓!」
コンちゃんが集めて来た盗聴器や隠しカメラの山が、カーテンの横から見えている。
「夫の東郷洋樹君は、先程襲撃班がやって来たドアの外かね?」
ドアを開けて、真弓と香織の間に洋樹が立った。
「初めまして楊 一石国家主席。萩月一門 東郷洋樹です」
楊主席は、手を差し伸べて握手を求める。
「仭一門 楊 。門人名は魁だ。
今後は、魁と呼んでくれ!」




