070 奇襲
安寧な時間を過ごして来た人々が午後のお茶を楽しむ頃、そいつらは目の前に現れた。
【シーグス】の港。
大型艦に麦を積み込む馬車の列の前に【黒鳥】が現れた。
驚き嘶く馬。
御者に記憶の底から浮かび上がる炎の光景が鞭を振るわせる。
逃げ惑う人々、彼等を追いかける様に【黒鳥】は飛び回る。
高い位置でその光景を記録し、ブラドの眠る船を中継して後続艦に映像が送られる。
今や、乗員24名のうち12名が覚醒してこの惑星上に存在する人口密集地と、ブラド達の報告に有った要注意地域へのドローンを使って探査を行っていた。
この作戦が終わったらデータを送信して、衛星軌道に入るまでCSSに入る事になっている。
【シーグス】【アレ】を担当する隊員は、過去データと比べて明らかに変わっている点を見ていく。
沖合に大型艦が停泊して多くの小船が集まっている海域、以前は無かった蔵まで有る。
沖に商船の様だが大型艦が停泊している海域も有る。
盛んに小型の舟が動いていて街を形成している。
「この3箇所は要注意だな。」
「艦船も大型化している。」
「造船用のドッグまで持ってやがる。」
「沖に大型艦が係留されて物資の積み込みが盛んだ。穀物と塩か・・・・・叩く必要があるな」
『攻撃条件成立』
「無人攻撃機を向かわせろ。」
「特にこの倉庫を持った港町は壊滅させろ! ブラドの攻撃に耐えた街らしいからな。後で映像見せて悔しがらせてやるか」
こうして、【シーグス】【アレ】【サイス】は炎に包まれた。
ルイスは自分の犯した間違いに気付いた。
彼の中では【サイス】は塩の村で、攻撃は受けないだろうと思い込んでいた。
【ジューア】【アレ】【サイス】の街も含めて多くの街が焼かれた。
避難所に逃げ込めた人数はどれ程だったろうか?
しかし、ルイスは自分の村と新村を守る事に専念した。
上空からは、この一帯は砂地と荒地にしか見えていないはずだ。
建屋には更に網状の【魔絹網】をかけてある。
村人は出来るだけ丘の斜面に作って置いた洞窟に入らせて何枚もの【魔絹布】を重ねた板で囲ってある。
大丈夫だ。
遠見の陣で見張っていた長兄とその息子が告げる。
「サイスの方から【黒鳥】が向かって来る」
いよいよだ。
黒鳥は何度か浜の上空を旋回している。
見つかったのか?
前回、無かった岩場が不味かったか?
【魔絹布】がかかっていない場所が有ったか?
『飛行の術』で見て回ったから大丈夫のはずだ。
時が過ぎる。
更に2つやって来て、聖地の方に向かう。
馬車の道は心配のひとつだ・・・・聖地まで草地が続く様に見える。
違和感は無いか・・・・
もっと手をかければ良かったか?
「ルイス!」
兄貴が声をかける。
海の向こうの港町がやられている。
他にもいくつもの煙が上がっている。
同時に何箇所も攻撃を受けている様だ。
丘にも数本煙が上がっている。
何処がやられたかは見えないな。
聖地の上に【遠見の陣】を置けば良かったか?
だが、それが何になる。
見ているだけなら、何も変わらない。
沖から【黒鳥】が迫って来る、その背後から【銀の鳥】が村を飛び越えて行った。
しばらく経って耳を澄ますが【銀の鳥】が出す甲高い音は聴こえない。
その夜は、その後何もなく夜が開けた。
朝日が上がる前にその時がやって来た。
「来る!」
シューラが声を上げる!
こちらから指示がない限り、出てくる事を禁止している。
浜を見渡す。
大丈夫だ誰も外に出ていない。
【遠見の陣】で見えてくる、
サイスの方から海岸沿いにやって来る。
高度が低い。
人の身の丈より下を行かれたら遮蔽がされていない。
ハラハラしながら見ていると、【黒鳥】は空高く飛び上がっていく。
そのまま、北の岬を通り過ぎて行った。
その日はそのまま何も起こらずに終わった。
夜が来ても、空には【シーグス】【アレ】【サイス】の炎が照り返していた。
海の向かいにも、赤い夜空が続いていた。
翌日、意を決した者たちが隠れる為の厚手の【魔絹布】を持ってサイス、聖地に、新村に向かう。
サイスからは、女の子の遺体が運ばれて来た。
丘の村との間で、様々な品を運ぶ商人の娘だった。
聖地のゲーリンの友人の息子が、コムの援助を受けてやり始めたばかりで、この娘も先日、此処に寄ったのに・・・・
先まで行った者達の話だと関所の手前から見渡す限り、一面焼け野原で立ち入ることはできなかった。
聖地には何の被害もなかった。
しかし、丘の村の幾つかが【黒鳥】が打ち出す『銀の球』で何人かが死に、【銀の鳥】で術師が死んだらしいとの噂が有った。
いくつかの村に駐在していた【代官】の兵も死んでいた。
その先の【ジューア】は、巡回の獣人達が入れなかったと言うほど凄まじい業火だったそうだ。
サイスの塩田の外れの川の縁で、保護した子供が聖地の運ばれて来た。
獣人がルイスの元に駆け込んできて、彼の言葉と伝言石でゲーリンから聞いた。
それから後、しばらくの間、【黒鳥】が飛び回っていたが姿が見えなくなった。
ルイスとシューラは、未だ大きな船が空を進んで来るのを感じていた。
肉屋は聖地がつけてくれた獣人の護衛と治癒が使えるミオラ達、更には土の術師を連れて丘の村々を周り被害を調べ、助かった物達の話を聞きリルに渡す。
新村では一人の男が【黒鳥の銀の球】で死んでいた。
【遮蔽】がかかっている木の下にいたのに、横に回り込まれて撃たれた様だ。
誰も見たものはいないが、彼の体の横に有った岩に男の体を貫通した球が当たった跡が残っていた。
新村での死体を回収に行った浜の男は
『間違い無く【遮蔽】の下に彼がいたのは間違いない。だけど、横に回り込まれた様だ』
とルイスは聞いて、未だ考えなければならないと思った。
こうして、次に来る彼等の襲来に備えるルイス達の生活が始まった。




