714 結婚式そして結婚式 86 ゲリラ7
「なんで!こうも地震が増えたんだ?」
ジャイフは、山の斜面に食い込ませる様に作られた四階建の三階事務所で震えていた。
決して頑丈とは言えない建屋。
これはデカい。
大陸なら、恐らくいくつものビルが倒壊しているだろう。
どこからか、悲鳴が聞こえる。
会議の途中に、かかって来た電話で呼び出された薄気味悪い同郷人は慌てて車で出て行った。
それだけでは無く、他の連中もこの鉱山を後にした。
自分だけを置き去りだ。
すると途端に、この地震だ。
次第に、地震が治まった。
「ふぅ。とりあえず倒壊せずに済んだ。今のうちに逃げ出そう」
窓の外に、宿舎から飛び出した現地の労働者が外で震えている。
目が、一点を見ている。
つい釣られて、目を転じると・・・・
あぁ、なんだアレは?
空中に、大きな岩がいくつも浮いている。
鉱山の裏山から、落ちてきていた岩の様だ。
それが、ズル、ズルと迫ってくる。
「みんな!逃げろ!」
「落ちてくるぞ!」
「なんで、デッカい岩が宙に浮いているんだ!」
「あぁ!神が助けてくださっている!」
「神の手だ!」
どこからか、聞こえてくる甲高い音。
小さな岩が、カラカラと落ちてくる。
「わぁ〜」
「ゲートを開けろ!」
「ここに居たら、裏山が崩れて事務所と一緒に潰されすぞ!」
「早く!ゲートを開けろ!電線が切れたら人の力じゃあかないぞ!死にたいのか!このアホ!」
男達がゲートを守っている兵士に、食ってかかっている。
「オイ!開けろ!あの岩が落ちてきたらお前も死ぬぞ!」
「でも!勝手に、ここを開けたら!」
「じゃあ、お前はあの岩に潰されて死ぬと言うんだな!」
指差す宙に浮いた大岩。
宙にある物はいずれ落ちてくる。
又、大地が揺れ始めた。
宙に浮いた大きな岩に、更に岩山から岩が落ちて来てぶつかり、砕けて頭に降り注ぐ。
「オイ、ゲートを開けろ!」
ジャイフは、兵士に管理者のバッジを見せて労働者達を解放した!
「治まってからで良い。この建屋の奥に未だ人がいる。
ダメかもそれないが、助けに戻ってきてくれ!
お前達の仲間だと思う!」
「くそ、誰かが、牢に入れられてれているんだ!」
又。地震がやってきた、
ジャイフは、奥に向かって、
「壁に張り付いていろ!必ず助けに来る!」
そう言って、鉱山を離れた。
外に置いてあるトラックに乗り込んで山道を下りる。
その間にも車にガラガラと岩が落ちてきて来たが、悉く(ことごとく)空中で弾け飛んだ。
「奇跡だ!」
「神が助けてくださっている!」
「あそこだ!手を掲げて岩を弾いてくださっている」
宙に上半身だけ浮かび出したぼんやりとした人影が、手を差し出してトラックに落ちてくる岩を弾き飛ばしていた。
「友嗣さ〜ん!姿をぼかして下さいよ〜」
「あぁ、解っている。流石に神が、迷彩服じゃおかしいからな」
「釜!どうだ!残っている奴を見つけてくれ!」
「坑道の奥と、この事務所の奥!
岩山に開けられた洞窟の牢に男が三人!」
「そっちは、任せれるか?」
「坑道の奥は無理です。
それにコイツら!呪糸蟲に脳をやられている人形です。
この揺れの中でも岩を掘っています」
「そうか!それは仕方ないな!
牢の三人はどうだ?」
「二人は、首を押さえて苦しんでいます!
コイツら!呪糸蟲が喉にいます。
もう一人は!
別の牢で・・・・・マウです!
マウが、気を失っています!」
「ダメです!
奥の二人!脳に呪糸蟲が移動しました!
外に出ようと!坑道に向かおうと檻を破壊し始めました!
アレ!式が消えた?」
「武彦!」
「あぁ!今、部屋の入り口を見つけた!派手にいく!」
身体強化と金剛を合わせ掛けした上に、盾まで装着して出入り口を塞いだドアに前に立つ。
ドアがひしゃげて開かなかった。
狙うは蝶番!
ドアを岩盤に埋め込んだ蝶番を狙った。
「フン!」
あまりの衝撃波に、背後から覗き込んでいた村田が飛ばされそうになった。
「マウ!」
村田が、スマホでロロの声で叫ばせた。
「ここだ!ロロ!」
「マウ!」
駆けつけた村田が、降り注いでいた石を払い除ける。
武彦の仕業かどうかは、無視をしよう。
「さあ、ロロが待っている」
村田が助け起こした。
「あなたは?」
「ロロが信じる魔術師の仲間さ」
「そうだ、ロロ!ロロ!」
慌てて周囲を見回すマウ。
「ロロは、キャンプにいる。ほれ、これだ」
門人は牢の外に連れ出して、ロロにスマホの音声を聴かせた。
「マウ!マウ!」
「あはは、コイツだったんだ!
良かった。ロロがこんな危ないところに来ていると思った」
「さぁ、そんな危険なところからは脱出だ!」
「奥の二人は!」
「人形に、化け物にされたよ。奥の坑道に向かった。
もう助けられない。
いくぞ!」
武彦が、ぶっ飛ばした鉄扉を使って傘にした。
武彦と村田には金剛があるが、マウを守るのは遮蔽の魔道具しかない。
それだけでは、この建屋の上から降り注ぐ岩は防ぎ切れない。
マウを担いだ武彦の後ろを鉄扉を差し掛けた村田が続く。
ガンガンと屋根を突き破って、鉄扉の傘に岩が降り注いだ。
窓際に来ると、後ろも見ずに飛び降りた。
四階部分に有るが、問答無用で飛び降りた。
「ウォ〜!ロロ!」
大地への衝撃を覚悟していたが、ふわりと着地出来た。
上を見ると、とんでも無くデカい岩が宙に浮いている。
「流石に支えるのは無理だ!鉱山の出入り口に飛ばすから門の外に走れ!転移陣を開いてある!」
宙に浮いた男が声をかけてきた。
「じゃあ、先に行きます!」
「あぁ、ロロにマウを渡すんだぞ!」
マウは、宙に浮いて手を事務所の上空に掲げた男の姿に向かって礼をした。
「じゃあ、すぐ戻る。事務所の書類キープして置け!」
「もう、持っています」
相変わらず仕事ができる奴等だ。
「それ!行くぞ!」
武彦が、マウをヒョイと抱えあげて走り出した。
光に包まれながら武彦とマウが消えて行った。
友嗣の元へかけあげる村田。
生駒の地震の対策にあたった分と休みを装って駆けつけた。
「じゃあ、上に乗った分から飛ばして来ます」
「あぁ、更に崩れて来そうだ。
先にそっちを、落としておきたい。
谷側に頼む」
「はい!
金剛! 飛翔! 盾!」
三つの術を重ね掛けして、友嗣が支えていた大岩をぶん殴って谷へと飛ばしていく。
自由に動ける様になった友嗣も、山頂付近からドンドン削り落とす。
もう、坑道は押し潰されているだろう。
哀れな人形達も流石に、これでは出てこれない。
時は少し遡り
コンちゃんが真弓にクン!と言う様な声をかけて、全ての管達は姿を現しロロのいた集落の方向を見た。
「何?」
「アレ!」
ゾワッとする感覚。
「呪術の発動です!」
巫女でもあった多喜が大声をあげる。
上空に見たこともない【陣】が広がった。
寒気がする。
「うわー!」
「でかい!」
遠くから衝撃波が伝わってきた。
障壁がなかったら皆宙に浮いていただろう。
洋樹は、あまりの揺れに棚や柱に遮蔽を張るのが遅れそうになったが、修造がすかさず遮蔽を張った。
プレハブの部屋は揺れはしたが、大地を滑る様にして動いて逆に壊れ無かった。
又、婆様が住んでいたテントは水浸しになる。
ゲリラのキャンプは大騒ぎになった。
揺れで、発電機が止まり、周囲を警戒していた櫓の上から、ゲリラが弾き飛ばされて落ちて行った。
もっとも、飛ばされない様に身体を固定していたとしても櫓が横倒しになった。
集積されていた空のドラム缶が潰れて火を噴き出した。
アレでは助からない。
走り回っていた車両が横転して横滑りする。
漏れ出た燃料に火が回る。
安普請だったキャンプへの橋が落ちて、出入りが出来なくなった。
幅5メートルでは無理だ。
慌てて外へ逃げて行くゲリラ達。
「洋樹!」
「はい!ロロ!みんなを診療所に集めて!走らせるな!」
大沢と運転手が、焚き火に水をかけてテントから離れさせた。
いくつかのテントが倒れて慌てている。
声をかけて中に居た女子供を、診療所まで歩かせた。
割れたビン。
サンダルをちゃんと履かせて、ゆっくり歩かせる。
堀には近寄らせない。
火を使っていなかったかの確認をして、火元となりそうな炭壺に水を注ぐ。
夜明け前は冷えるのだ。
それこそ炭壺を毛布に入れて暖まるほど。
それで、年に数人は一酸化炭素中毒で死ぬ。
火の手が、あがったが大沢が消して行く。
「おかしい、管狐が消えた」
人員の確認をした。
何人か倒れて来たテントの柱で頭を打っていたが、洋樹と真弓が手を添えて治療して出血も止めた。
空中に浮かんだ陣。
「アフラドリトの洞窟の紋様よ!」
ロロが叫ぶ!
女達の口からも同じ言葉が出る。
「道士の奴らのせいだな!この地震は!」
洋樹の衛星電話の携帯が鳴る。
今までは傍受される事を気にしていたが・・・・・
「洋樹くん!」
「武彦さん!
金鉱に居るんだが、作戦行動に入る。
今、鉱山の裏山が崩れて来ていて、友嗣さんが山崩れを抑えている。
そっちも任せる事になる!」
「アフラドリトの洞窟の陣が稼働した様です!」
「そうか!
首都も大変な様だ。
兎も角、君達は、そこのキャンプを優先にしてくれ!」
「はい!」
巴からも電話が入る。
「アナタ!大丈夫?」
「あのね〜」
思わず緊張感が解けた。
笑みさえ溢れる。
「震源は大地溝帯。その中心部。やってくれたみたいね」
「アフラドリトの陣が、浮かび上がっているんですよ」
「えぇ、移動させていたJAXAの衛星でも捉えているわ。
美沙緒が解析中。
寿美の自宅よ。
透歌によると、かなり古い陣の書式らしいわ。
アンからもアトランティスの陣によく似ていると連絡が入った」
「でも、まだ上空に残っていると言うことは、まだ何かやる気ですかね?」
「そうでしょうね。
今、布陣をコッチで確認しているけど、アフラドリトの洞窟に回せる人員がいない。
首都防衛と、他の国からの介入から国境を守る為にも撤収出来ない。
毅が今、G式で一挙に壊滅作戦に移行した筈。
そっちから、誰かを回せると思うけど洋樹くん。
手伝える様にしておいて」
「はい」
「行方をくらました連中も居るのよね。
金鉱で、呪糸蟲を育てていた人形使いも消えているわ」
「もう、行き先わかっているでしょうに?」
「えへへ、そうよね。
ダイヤモンド鉱山。
逃げるにしても小粒で高価値。
ダイヤモンドには勝てないわね。
そっちにはヘリがいるわ。
今、衛星でも捉えているわ。
それを使って一旦、ケイランドから離れる気よ」
「えぇ、見えていますよ。
ヘリに荷物を積んでいますね。
アレがダイヤモンドなら結構な量ですね。
ヘリのエンジンは、回転してません。
給油用のローリーに走る奴がいます」
「よし!」
洋樹は200kmは離れている隼の式に乗り移り、男の手に持った鍵をくすね取った。
姿を消したはやぶさに襲われた。
男は宙を舞う、ローリーの鍵を見送るしかなかった。
ここに到着したばかりで、ヘリには燃料が・・・・・殆ど入っていない。
「何? 式を潜ませておいたの?」
「えぇ、前に婆様宛の荷物がダイヤモンド鉱山から送られて来ているとわかっていたんで、金鉱よりでかい集積所が、こっちにあると踏んでいたんですよ。
いま、ヘリの操縦席も無人なんでチョット弄りますね」
「流石、私の夫になる男ね。愛してあげられそう」
「それは、ありがとうございます。
その妻になる女性の事を知る為にも、友恵さんに、過去しでかした事を聞いておきますね?」
「あにゃ〜!切るわ!」
本当に切れた。
「もう、何をやっているの?」
真弓が笑いこけている。
「可愛いもんだよ。四人めは!」
「アレ?」
「どうしたの?」
「式との繋がりが切れた」
「そう言えば!コンちゃん? コンちゃん? みんなどこ?」
「真弓コンちゃんは収納の奥に、いるんじゃ無いか?」
「そう見たい。痛ッ!」
「どうした?」
「大丈夫。何か怖いみたい。噛まれちゃった。でも怒らないで!」
「あぁ、あの陣のせいだろう。あの中央に飛び出しているやつ。呪詛の塊だ」




