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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
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069 油断

この大陸は中立派まで【ジューア】派に傾いてしまった。

【シーグス】派は麦で絞り上げようとしたが、西の大陸が【ジューア】とその周辺との交易に乗り出した。


麦の値段は下がり【アレ】の街から人々が逃げ出す。

【呪われた街】を抜けて【ジューア】に向かう者も出て来た。


【シーグス】の先の、いくつかの領主の土地を抜けて中立派の領地へ逃げ込む者も多い。


それでも【アレ】の街から裏切り者の聖地、浜の村へは行かせないと守りを頑丈にしている。


【シーグス】は仕方なく、今までの付き合いが深い大陸の絹の港へ小麦と塩を運ぶ。


【ジューア】相手の、偽造金貨の事が知られて信用を無くしたので、物物交換を要求され商人達は悲鳴をあげる。

だが、商人達が【シーグス】領主に対して非難できないのは、彼等もこの偽金作りに積極的に噛んでいたせいであった。


それでも【シーグス】が生き延びているのは、この街と【アレ】にある魔素の泉のお陰だ。

今、取引している大陸には【魔素の泉】が見つかっていない。

今まで肉屋が持ち込んだ高品質の魔石が有りそれを受け取って、魔素の入れ替えをする事で金を受け取っていた。

皮肉な事に肉屋が回収できなかった高品質の魔石が彼等を救う。

魔道具も広まっている。

聖地で作られた物より質は落ちるが、それでも生活を支えるには十分な働きをする魔道具は広がっていた。


こうして金貨だけを、魔石関係の代価とした事で何とか貨幣経済を維持する事ができた。


今は力を取り戻す時だ。

幸い魔素の泉は健在だ。

術師も何人かは戻って来ているから、彼等を使って魔素を魔石に注ぎ込ませ続ければ幾らでも金貨は稼げる。

聖地からの魔石の供給が無くなったので、今手元に有る魔石に頼るしか無い。

魔石への魔素の供給を逆に独占できる。

徐々に手数料を上げてやればより大きい利を得る事ができる。

【ジューア】の奴らの介入が無くなったので、勢力の発展を露骨に進めても咎める奴らもいない。

かえって動きやすくなった。


更に時が立つ。

大きな変革はなく、ただ、互いの領域を守る事だけは続いていた。

サキアとマウアも日々の生活に慣れてしまい、いつからだろう? 

聖地に向かう際に持ち出す荷物を確認しなくなった。

それ程までに、平和な生活になっている。

今では下の関所の連中までもが、暑い最中には氷を貰いに来たりしてサキアと声を掛け合う。

出ていけたのだろう。

本気になれば子供を抱えてでも逃げれただろう。

それをしなかったのは・・・・平和すぎた。


ルイスも外に向けてやる事がなくなり、【魔絹布】の欠点の解決と増えていく家族をまとめる事に注力していた。

ライラとの間には三人の子供だけで終わり、ミアラとの間にはミリアの後の子供が出来なかった。


だが、家庭は明るくミオラが良く訪ねて来る。

色んな男がミオラに【青魔石】を差し出したが受け取らない。


『別に貴方を嫌っているわけじゃない。でも、まだやりたい事が沢山ある』

と言って退ける。

聖地に出かけたり、丘の村を回って治療を続ける。

時には治癒術師になったリルの妹達も同行する。

肉屋の義理の子供にも、子供が出来て肉屋の夫婦は孫を抱きに丘の村に向かう。

実子の二人は、キヌクの娘達と魚の養殖に没頭している。

キヌクの1番上の娘はライラの従兄弟の息子に青魔石を渡され、好きにしろと言うキヌクの言葉に従い求婚を受け入れる事にした。

但し条件が合って『妾は許さない』との条件をつけた。

キヌクが領主には珍しく妾を持たなかった為だとの事だった。

今でも夫婦で養魚場にルイスの兄達が作った、透明な通路から魚の様子を観察している。

この通路も【魔絹布】で作られていて安全を考えて一年半交換にしてあった。

二人はこの中で良く毛布を持ち込んで眠っている事があって周囲を驚かせていた。

キヌクの他の子も大工仕事か果樹園に出かけて作業を手伝っている。


キヌクは幼少の頃から好きだった、絵の具を手にして村の風景を書き残していく。

収穫前の風が強い日に、心配そうに空を見上げる姿などを捉えた姿絵を渡されて息を呑む夫婦。

そこには、紛れも無い農村の一日が描かれていた。

妻も自ら腕を振るい料理をしたり、絹でドレスを作り【名変え】を迎える娘達の夜着を作ってやって喜ばれていた。


丘の村にいた兵も数を減らし『代官』が治めるようになる。

そんな時、突然【ジューア】の領主が亡くなり中立派に権力が移る。

病死とされているが、暗殺されたとの噂が広まっている。

後を継いだ【ジューア】の領主が凡庸で今後が心配になり、肉屋は聖地から巡回する警護隊の設立をゲーリンに依頼してメイルが指揮を取った。



接近する船から、数機のカプセルを乗せたユニットが打出された事にルイスもシューラも気付かなかった。

予め観測された人口密集地と前回、反撃を喰らった位置が入力されたドローンと無人攻撃機が先行して発射された。

ルイスもシューラも、もしかしたらどこかに居た高位のサトリは気付けたのだろうが後方をやって来る船の方に気を取られていた。


大気圏に数多くのカプセルが放出される直前になって、初めてルイスとシューラが異常に気付く。

すぐさま漁に出ていた漁船に帰港命令を出す。

網を切り急ぎ戻れの指示だった。

未だ、経年劣化の問題が解決しないままだが、ルイスは浜の岩場と裏の農園を包み込む【魔絹布】を展開しキヌクの館も隠した。

北の岬から新村にむかって、全員、簡易避難所に入るように光魔石を使って知らせた。

養魚場を覆い隠す【魔絹布】の網にも魔石を使って、空から見えにくくする様に偽装をかておいた。

丘の村では浜の村が見えなくなった事に気付き、肉屋から渡されていた網を母屋にかけて、羊や山羊を窪地に作って置いた柵へと移動させた。

此処も【魔絹布】に【遮蔽】と【偽装】の術を展開する為の魔道具が有る。

谷にも同じ物が張ってあって、子供や女達は此処へ逃げ込む事になっていた。

聖地でも同じ行動が取られる。

今までも、数回行って来た行動。

だが、誰もが今までと違うと感じていた。


今度は【訓練】では無い。



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