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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
706/926

706 結婚式そして結婚式 82 ゲリラ3

陽が昇る前から、ルビ婆様の舌打ち音が続いている。

歯の隙間から音が抜けるので聞き取りづらいらしく、堀の向こうから何度も聞き返すから、五月蝿くって仕方が無いない。

『遮蔽で音を塞ぐから、自動翻訳機でも作って欲しいな』

と思っていたら新たに三台。

多喜たちの為に送って来たスマホに、翻訳アプリがインストールされて来た。

早速試して見ると、結構エグいことを言っている。

どうやら、この婆様は道士との直接の繋がりを持っているらしい。

しきりに金鉱のゲリラに同行している協力者に、タバコではなく()()()を寄越せと伝えてくれと言っている。

タバコの吸い殻を入れていた灰皿から、大量の煙が出て火事と間違えられたと思っている様だ。

それに対して、ゲリラからは向こうのゲリラとは、表向き敵対している事になっているので接近できない。

なんなら、キャンプの外に出るか?

と聞いて来たが、それは断固として拒否している。

『外に出ると殺される』

とまでも言っていた。

何をやったんだバァ様は?

それに、敵対行動は偽装だと認めている。

他の人間に理解できないと思っているから、こうまで簡単に機密事項を喋っている。


朝から婆様の分の食事を受取りに来た(ロロ)に、真弓が婆様の親類かと聞くと一言。

『孤児だった自分を育てた』

とだけ伝えて来た。

『善行ですね』

と言うと、

『腹黒いだけさ』

と、吐き捨てて出ていった。


管狐を通して観察していて分かった事は、他の集落で孤児になった子達はロロが面倒を見ている。

子供達も、ロロを母親の様に慕っている。

戯れに子供の一人がロロの真似をして、鳥の鳴き声での会話を遊び半分やろうとしたら、ロロが飛んで来て頬を叩いてやめさせた。

「覚えるな!」

「耳を塞いでいろ!」

と、激しく諭し

「覚えたら、アイツらに利用されるだけだ!」

そう、怒りをぶちまけていた。

朝飯の後、また向こうから鳴き声が聞こえて来た。

『バルル!協力者からの荷物が届いた。婆様に渡すから橋に取りに来い』

(ロロ)が、ブツブツ言いながら橋までやって来た、

バイクに乗った男が、やってきて荷台から箱を外して渡す。

大陸の文字が書かれた箱。

「そう言えば、大沢さん。あの箱でジャイフに賄賂渡していましたね?」

「あぁ、アレかい?

あの箱に入ってきた荷物は、ゲリラは開封しないのさ。

協力者と言うのは、大陸の事だからね。

『彼ら関係の荷物は、開けない』

そう言う決まりになっていて、アレはコピーした箱だ」

「と、言う事は、すり替えできますね」

「そう言う事か。

流石に今回は出来ないだろうから、準備しておくよ」

「えぇ、その前に、あの箱の中身を見ておきましょう。

真弓!彼女を呼んで!」

ロロと呼ばれている、その女を真弓が呼び止めた。

キャンプの皆から敬遠されている。

ロロと名前も誰も言わない。

鳥女(バルル)】と呼んでいたが、健診の際に小さな声でロロと答えた。

真弓が

「ロロ!いい名前ね!」

と褒めてやると嬉しそうに笑った。

その後は、真弓と会話を続けた。

話し相手が欲しかったのだろう。

「ロロという名前は、神に仕える娘を意味している」

そう教えてくれた。

はにかんだ様子は、まだ若い事を窺わせる。

夫のマウは、同じ様にルビ婆さんに養われた子供。

だが、夫が言うには攫われて来たと言う。

マウは集落でも賢く、街との交易をしていた。

その中で、政府の役人に誘われた金鉱での作業。

マウに、金鉱に出稼ぎに行く男たちを集めさせた。

当時は、金鉱を国が管理していて、待遇は良かったらしい。

給金も払われたし、夫達は手土産を抱えて、月一度は休みを溜めて帰って来てくれた。

ロロも、その頃までは皆から慕われた。

だが、国の経済がおかしくなり、大陸からの金に頼り金鉱の権利を借金のかたに取られた。

経営が大陸に代わり、一挙に待遇が悪化した。

皆んなで、仕事を辞めて故郷に帰る事をロロの夫が申し出たが、政府から作業員込みで引き渡し書が作成され、期限は国の借金が無くなるまでとされていた。

事実上の奴隷契約。

政府が無い状態なのに、借金を返しているなど誰にも証明・管理出来ない。

大陸の言い分だけが通る。

もちろん、ストライキで抵抗したが、暴力と銃で脅されて働かされている。

家族も夫や息子を返すように国連に訴えているが何もしてくれない。

矛先を、こちらに向ける為に、こうして婆様と子供にタバコや食料が決まった箱で届けられる。

一度、婆様が何を受け取っているかを確認しようと、箱を開けて確認した。

急に吸う様になった嫌な匂いのタバコ、ライター。

ビスケットに、お茶の葉。

そして封をされた手紙。

別の紙に品目が書かれていて、抜く事はできなかった。

箱を元に戻したが、開けた事をすぐに見抜かれた。

酷く杖で殴られた。

『マウを、殺す事も出来る』

そう、婆様が言うので黙って従っている。

実際に婆様に強く逆らった女が居たが、その夫が金鉱で酷い目にあった写真が、しばらくして届いた。

死んだかもしれない。

それ以来、あの婆様に育てられた女として仲間外れにされている。


自分と同じ様な孤児もいる。

アイツ(ゲリラ)らが、子供を連れて来て押しつけて来る。

もう、一年くらいそんな子は居なくなったが、食事も、こうして受け取るから逆らえない。

そう言って指し示した、婆様宛の荷物とは別の箱。

そちらは、封が開いている。

箱が普通の箱だ。

嵩が足りていない事から、ゲリラがピンハネしたのだろう。

「だけど、どうして子供と一緒にいない?」

「子供同士は仲が良い。親が止めても遊んでくれる。

私がいたら、子供が寄ってこない。

子供達にも菓子を分けてやるから、大人達も強く子供に言えない」

寂しそうに笑う。

だから、一番外れのテントで一人寝ている訳か・・・・・


【天測】と【真眼】を使って婆様宛の荷物を見た。

成程、荷物に細工がしてある。

手荷物に触れると、細い繊維が切れる仕組みだ。

ゲリラには出来ない。

中身をみるとタバコにライター、パウチに入ったビスケット、飴玉、乾パン。

それに、封書。



続いて子供たちに渡す物を確認した。

怪しい物は無いが、余計に気になる。

箱を開けて代わりに持って来た、菓子やビスケット類を入れて置いた。

ロロが、不思議そうな顔をした。

「ロロは、これを口にするか?」

「いいや。子供たちの為だから自分は食べない。

大人たちもそうだ」

洋樹は、飴玉を指差して、

「飴玉を食べると、子供は、よく寝ているんじゃ無いか?」

「そうだ!よく寝てくれる。

腹をすかせても、身体を掻きむしっていても寝る・・・・

まさか・・・・・」

「分析にかけてみないと、はっきりとした事は言えない。

ごく少量だが、幻覚剤の一種が含まれている可能性がある」

「そんな!何の為に!」

「ロロ、黒い炎を見た子がいるんじゃ無いかな?」

「あぁ、最後に連れてこられた子だ。キスル」


未だ衰弱している子だ。

動けないので、テントに往診に行った。

腸の中に寄生虫がいて、その毒素で体が弱っていた。

寄生虫を取り除き、点滴を打った。

今日届く入院用の施設に移すつもりだった。

「預ろうとしていた、ところだ・・・・」


婆様の舌打ちが聞こえる。

ロロがビクっとした。

外の連中が贈り物が届いたと伝えてきたのに、持って来ない事に痺れを切らしたようだ。


「ここに立ち寄った事を咎められたら、キスルを預かる為の話をしていたと答えてくれ。

後で、迎えに行く」

「信じて良いのか?」

「あぁ、俺たちは大陸の企みやゲリラからの暴力から、あなたたちと夫や子供を解放する為に来ている。

だから信じてくれ。

今、言った事はしばらく伏せてくれ」

「でも、ルビ婆さんが・・・・・」

又、あの婆様が舌打ち音を出している。

「奴等に漏らす?」

ロロが頷く。

「大丈夫だ。策は有る。

さぁ、これをキスルに呑ませてくれ。

甘いシロップだ。

食事で取れていない栄養を取らせる。

お腹の虫が出たんだ。

すぐ元気になる」

「あぁ、魔術師。ドクターサイゴウ。

私は、あなたを信じるよ!」


「で、奴らの狙いは、子供を薬漬けにする事か?」

修造が、子供の分の菓子を手に取っていた。

「この匂いが気になって・・・・・」

洋樹は、飴玉を一つ取って多喜に渡した。

多喜が、飴玉に鼻を近づけた。

「微かですが、これ、生駒で呪糸蟲の動きを止める為の(こう)の匂いじゃ無いですか?」

大沢達も、間違いないと言っている。

「この飴には、さっき言った様に、幻覚剤のような物が含まれているとは思っていたんですが・・・・」

「この、匂いに慣れさせるのが目的?

でも、狙いは兎も角。

他のゲリラの元に、呪糸蟲を扱う道士が居るのは確実ですね。

さっきの荷物が、どこから来たか逆辿らせましょう。

出入りの様子が、衛星に捉えられているでしょうし」

洋樹は、ロロから回収した飴玉や菓子の類を、萩月で使う保護がかかる箱に詰め替えて収納に入れた。

すぐ様、巴が抜いた。

しばらくして、

『嬉しく無い、お土産ね!

今度は、嬉しくなるようなプレゼントをお願い。

アナタ❤︎」

などと書いたカードが添えられて、熊野神社での奉納舞の様子が記録された魔石板が届く。

「そうか、奉納舞で地脈が呼び寄せられたのか・・・・・・」

「早速、九鬼の門人たちが神社に詰めているそうだ」

現場責任者が映し出されて、看護師の女性 多喜が目を細める。

「夫です」

お返しに、コチラでの彼女達の働く姿を返しておいた。

今度は、巴とその横でプリントを手に勉学に励む、未彩が映し出されて帰ってきた。

香織のナレーション。

「巴さんが、補講の為のプリントを溜め込んでいたので未彩さんが手伝っています。

付き合って起きてましたけど・・・・・明菜ちゃんが寝て私も、もう無理。

真弓! 未彩さんの数学の実力高いわよ!

アナタ!頑張って!

おやすみなさい」


「はぁ?」

コピーしたプリントが、大量に送られて来た。

『手伝って!』

未彩の字で、そう書かれた付箋が張り付いている。

「中学二年の宿題プリントだろう?」

だが、見て驚いた。

「イヤイヤ、これはムズイって!」

理数特進コース!

香織は文系。

真弓も、どちらかと言えば文系。

洋樹は理数系だが、プリントの内容は完全に高校生レベル。

「そりゃ、無理だな」

「でも、未彩姉さんが解いているの!」

「未彩は、解くのではなく考え方、解法を説明している。

教員向きなのは未彩か?」

美彩に合わせて理科のプリントに、解き方のヒントを赤ペンで走らせる事にした。




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