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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
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066 炎の陣

再開された領主会。

採択されるべき議案はただ一つ。

【アレの去就】


紛糾する議場。

【シーグス】への併合を叫ぶ一派。


その地理的な問題と全ての領に対しての小麦と塩の独占を防ぐという意味で、中立派が領主を出すべきと唱える【ジューア】を中心とした派閥。


深夜にまで及んだが、結論が出ないまま流会となった。

とりあえず中立派が代官を出して治めるが、次回の種まきの時に【アレ】の領主館での開催が決定した。


【呪われた街】の存在が陸路を取る事を許さず【ジューア派】は船での移動を余儀なくされている。


しかし、この【シーグス】で宿泊するのは危険だと小船を使って沖に停泊している自分達の船に戻るか、入港して出港を待つ肉屋の船で自分達の船まで送って貰う事になる。

この肉屋の船は【ジューア】の領主が買い取り今、その習熟訓練の為に領主の臣下と船員が乗船している。

【ジューア】の領主は自分の派閥領主だけでは無く、中立派も含めて乗船を薦めた。


各領主の臣下が先に港で異様な気配を感じて警戒する。


人っ子一人見当たらない。

光魔石を使った街灯すら点灯していない。


明らかに港に満ちる殺気を感じて護衛達がどう行動すべきかを考えあぐねていると声がかかる。

肉屋の声だ。

「お待ちしていました。出航の準備は揃っています。船尾と左手の甲板への斜路から馬車も乗り込めます。皆さまどうぞ御乗船願います」

肉屋に手を上げて挨拶をして乗り込む【ジューア】の領主。

ここまで言われては他の領主も中立派も乗船するしか無かった。

留まればそれは死を意味する。

そんな殺気に満たされた港。


船から警備隊の制服を身に纏った一団が降りて来る。

人族も獣人も女もいる。

見事に統制が取られた動きで、周囲の警戒にあたり始めた。


この制服には見覚えがある。

一家断絶したと言われているメトル・ファルバンを頂点とする一門に仕えた警備隊。

その制服なのだ。

聖地にいる筈の彼らが、ここに居る。

聖地の長ゲーリンはアレの領主、肉屋そして【ジューア】の領主との仲が親密だと聞いた事がある。

だから、こうして彼らがその警護に着く。


だが同時に不安に思う事がある。

この【シーグス】の領主も元はファルバンの一族。

もしも、何らかの行動をするなら『術師』を使ってくるのは明白なのに警備隊には『術師』がいない様だ。

だが、周囲に漂う不穏な空気。

死中に活を求めるならば、この船に乗るしか無い。

家臣達に命じて船に乗り込む。


甲板上で【ジューア】の領主が岸壁の造船所を見て呟く。

「あの、造船所も潰すのかね? 今でも脅威だからその方が有難いが?」

「潰すのではありません。止まります。必要な魔素が無くなるのです。」


ここの造船所に使っている魔石には細工がされていた。

大きな魔石に見えるが、細かい粒を集め固めた魔石と交換させている。

この魔石は最初は問題ないが、次第に放出魔素量が急激に減る。

使える時間がいきなり減るのだ。

だから、ここ【シーグス】の魔素の泉で魔素を入れさせても数日後には空になる。

魔素を込める時間も長くなり泉が空かなくなる。

造船場で必要な数の魔石が不足して稼働できなくなる。


悪辣なことを考える奴(兄弟)がいる。


ここに有った良質な魔石は【ジューア】の造船所に組み込まれて稼働待ちで有った。

大型船を作る為の技術を得たい。

その為にこの肉屋の船を手に入れた。

氷室は購入できなかったが・・・・・贈られた。

売る事はできない。

礼として渡す。

それが肉屋の条件だった。

丘の村との羊の購入やその仲を取り持ち『屠殺場』の事も彼が全て手配した。

丘の村の安全。

それが、彼の望みだった。


更に彼は『避難所の整備』を進言してくれた。


麦も別の大陸との取引を仲介し、派閥の領内で岩塩が散れる場所を教えてくれた。

秘密の記録書に位置が記してあると彼は教えてくれた。


今回の一連の騒動のきっかけとなった旧ファルバン一味の犯罪行為や汚職の数々を記した証拠の品、映像を留めた白石板も受け取った。

彼らの街にいつの間にか蔓延る旧ファルバンの一味のねぐらも麻薬や金貨の偽造まで記されている。

暗殺に使われようとした毒薬の種類と入手先、原産地、治療薬まで教えてもらった。


何人かの商人や役人の死に不審な点があったと他の領主が証言する。


港の灯りは消えたままだ。

出港する船がいる時には、灯りはつくし係員が出てくるはずだが人気も無い。


肉屋がこっそりと指を倉庫の窓に向ける。

ボゥと浮き上がる『赤い陣』。

堪え切れずに陣が描かれた魔石板に触れたのだろう。

こちらを攻撃する為に術師である【シーグス】領主の弟がいるという。

肉屋は色めき立つ領主達を宥めて、

「知っているという事は対処しています。もうじき出港します。

周辺にいる小船が離れていきますね。

何かやろうとした様ですが、この船は船底まで【遮蔽】が貼られて居ますから手出しできませんよ。

出港後、背後ででっかい花火が上がりますが驚かないでください。

前にいる船が舳先につけた斧をぶつけて来ると思いますがご安心を、もし乗り移ろうとする奴がいても海に落ちます。

どうです? 中々の船でしょう。

これからは、こういう船が無ければいけないのです。」

「『銀の鳥』には勝てるのかね。」

「無理ですね。こちらから空を飛んでくる敵に仕掛ける手が有りません。この船の守りも数で押し切られたら終わりです。」

「さあ出港です。魔道具使っていますから早いですよ。」


艫綱が外され錨も揚げられた。

船が動き始める。


「いよいよだ。」

肉屋の船が岸壁を離れて船尾をこちらに向けて岸壁を離れていく。

黒石板を構えて窓際に立つ。

炎の陣を相手に向けて術を発動すれば、炎の陣がいくつも空間に現れその中に炎が渦巻き出す。

「もう少し・・・・良いだろう! さぁ、あの世に出港だ!」

黒石板を構えて術を放出する。

【呪われた街】の時と一緒だ。

炎の陣が更に赤く浮き出る。

その先にもう一つ、更に一つ倍倍と大きくなりながらいくつも陣が浮き出る。

周囲にいる護衛から声が上がる。

「美しい!」

ところが、黒石板からポロポロと黒い薄片が落ち出した。

【白い石板】が姿を現した。

「なんだ・・・・これ・・・・は?」

すると、前に現れていた陣が反転し術師と護衛を包み込んだ瞬間。

倉庫ごと大爆発した。

飛び散るレンガ、炎弾が肉屋の船に降り注ぐが音を立てて海に弾かれていく。

その先に待ち構えていた軍船に炎が移る。

もう、特攻を仕掛けるどころではなかった。

甲板の火を消し、開いた船腹からの浸水を止めるので必死だ。

船から海に飛び込む獣人もいた。



この炎を撃ち出す石板もルイスの兄達の作品。

【赤魔墨】で白石板に【炎の陣】を描き、離れた場所から魔石で陣を起動させた。

予定通り術的が発動し炎が飛び出したが、二発目を撃とうとしたら逆方向に炎が飛び出した。

最初の一発で逆方向に魔素が貯まってしまっていた。

改善は出来たのだが怖くて使えないので、試作品の廃棄を兼ねて旧ファルバン勢力に安く譲ったのだ。


悪辣兄弟。

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