060 デザイン
「今日のご飯は私達が釣った魚を使っているよ」
ライラが料理を運んで来た。
「これ、ミオラが釣ったの!」
食卓に並ぶ皿にはチーズをかけて窯で焼いた魚。
トマトを刻み潰し、炒めたニンニク、ハーブと一緒に煮込み、そこに焼いた魚を他の野菜と煮込んだ料理も出ていた。
ルイスにとっては懐かしい料理だ。
ライラとミキジが並んで台所に立ち互いに料理を教えあっている。
商店街に居たミキジは香辛料を使った料理や丘の村から卸されたチーズを使った料理を教え、ライラは新鮮な魚や街には出回らない魚、貝を使った料理を教えていた。
聖地との間を馬を使ってルイスが収納で運ぶ様になり、この村も食材が豊かになった。
(本当に姉妹の様だな。)
並んでおしゃべりをしながら手を動かす二人を見ながら、ルイスはミオラに術を教える。
(この子には【水】と【治癒】の素質がある)
あれほど受けた傷で膿が出なかったのは、この二つの素質で傷口から汚れを押し出し治癒が出来たのだろう。
ミキジにも【サトリ】の力が有る。
二人とも聖地で暮らせば、その力が更に開花するだろうが本人達がそれを望んでいない。
ミキジは、ここに自分を頼って来てくれた孤児達を支える役目が有る。
ミオラも居る。
ミオラはせっかく出来た友達と別れる気など無かった。
ミキジがここに居る。
大好きなライラもソリアも居る。
ミオラはルイスの義母で有るソリアと一緒に寝たがってよく隣の村長の家に泊まる。
最初はミキジはひとりで家に居たが、ライラがそれでは寂しいし、危ないと家に呼んで一緒に寝る様になった。
この日は、ルイスは別の部屋かミキジの家で寝る。
こうして日々が続いていたが、ライラがルイスにとんでも無い事を言った。
【ミキジを嫁にしなさい!】
ルイスは最初、何を言われたか解らなかった。
「私の兄、姉が私の上に6人居る事知っているわね。男三人と女四人の母親が違うの。
お父さんは二人の妻を持っていてだから子供が多い。ルイスも村長になる事が決まっているからそれに従う事になる。特にルイスは有能な術師よ。
その血脈は重要よ。
何よりミキジがルイスを愛している。それは知っているでしょ?
思ってもいない人と結婚させるなんて、あれだけ苦労して来たあの娘にそんな事は出来ない。
私も一緒に暮らしてミキジの性格を知ったわ。
あの娘なら喜んで家族になるわ」
一気に話して詰め寄って来た。
「それに、もうしばらくは夜の相手は出来ない」
「それって・・・・」
「そう、子供が出来たわ」
ライラは赤い眼でルイスを見上げて笑顔を返した。
ミキジを浜の岩屋に連れ出し『青魔石のネックレス』を差し出す。
手で口を押さえ、涙を溢れさすミキジ。
「ライラから言われているんだろう。アイツもとんでもない後押しをしやがる」
首に回し掛けようとしたが返事を聞いていない。
ネックレスを片手に持ち直してミキジの肩に手を置き聞いてみる。
「俺ではダメか?」
「アナタじゃなきゃダメ!」
そう言いながらミキジはルイスの胸に飛び込んだ。
背中に手を回して抱きしめてやるルイス。
ネックレスを首にかけてやる。
「出ておいで! いる事は解っている!」
岩屋の中からライラとミオラが顔を出す。
「見てたの!?」
「どうせ、求婚するならここだって解っていたからね。おめでとう。ミキジ。これからもよろしくね」
「良かったね。願いがかなって、ミキジお姉さん!」
「・・・・二人共。ありがとう」
又、ミキジが泣き出した。
「で、名変えの儀式はいつにする? それと住む家は?」
真っ赤になったミキジはルイスの背中に隠れる。
「実は先日、親父殿に呼ばれて家を交換する事になった」
「それって!」
「俺に村長の座を譲るそうだ。未だ、しばらく先だが新村の開拓を自分でやってみたいと言われた。どこまでも開拓精神旺盛な爺様だ」
「じゃあ、村長就任とミキジの名変えを一緒にするの?」
「先に身内だけで名変えは済ませるよ。その方が良いだろう?」
「じゃあ、ミキジの家でしばらく一緒に住んで。私とミオラは今の家か村長の家で過ごすわ」
「そうするか?」
「ハイ!」
「よし、話は決まった。今日はお母さんに頼んで前祝いよ。それで、さっきから気になっているんだけどミキジにあげたペンダントって私のと随分、デザインが違うわね?」
「わー!見せて見せて」
「良いですか?」
「ミキジが良いなら。」
「岩屋のテーブルで私のと比べて見ようか?」
こうして、四人で岩屋の中に作ったテーブルでライラのペンダントとミキジの物を見比べる。
ライラの物は大きな白鳥が横向きで羽ばたいているデザインで、背の部分に青魔石が埋め込んであり裏にライラの文字が浮き彫りにされていた。
ミキジの物は燕が珊瑚の枝を咥えて飛び、やはりその背に青魔石が埋め込まれている。
裏には文字は未だない。
「綺麗ね。珊瑚の赤と魔石の青が際立っているわ。名前はもう考えているのでしょう?」
「その日に教えるよ。ライラの時と同じだ」
「良いな〜私も何か欲しいなぁ〜」
上目遣いにルイスの顔を見るミオラ。
「そうだな。流石に青魔石はダメだから、赤か黄色、白でも良いぞ」
「私、治癒士だから白!でも好きな色だから赤も欲しい!」
こうして、名変えの式の日。
ミオラにもブレスレットが渡された。
ミオラのブレスレットは正面を向いた翼を大きく広げた白鳥が飛び立つ姿で右の翼に白、左の翼に赤を抱えていた。
「ミオラにもミアラにも、魔素の取り込み方を教えないとな」
ミオラのブレスレットの裏側には聖地の河原で集めた青魔石の粒が数粒隠し埋め込まれていた。
ミオラのブレスはこのまま白魔石の働きで【治癒】が起動するし魔素を赤で補う。
そしてひとつひとつの青魔石の粒で赤ひとつ分の働きをする。
【ライラ】と【ミアラ】のペンダントは周囲に【遮蔽】を展開しその身を守る。
鳥が翼を広げるデザインはファルバンに伝わる、身を守る為の遮蔽の陣を隠し持っている。
白鳥は母メルルと姉サーシャの物だ。
燕はルースのデザインになる。
(このデザインを使わせるのはファルバンと認めた事になるのだが・・・・)
義父母はそのデザインの事を理解している様だった。




