594 レリア艦隊 16 アハイラ
アハイラの受精卵は、細胞膜の損傷が見受けられた。
冷凍技術に技術的な問題があって、細胞自体が損傷している物もある。
コンナは昴と一緒に【天測】で一つ一つ、状態を見ながら月夜石と白魔石を使った方法で、冷凍状態から細胞分裂を起こすまで時間を掛けている。
25のユニットの受精卵で、早くも5つがダメになっていた。
こうなると、両親の名前が刻まれたプレートが重い。
「キツイですね」
コンナの様子を見に来た新城阿佐美が、肩を落とす治癒師を休ませる為に基地内の宿舎の方へ連れて行く事にした。
これからコンナは、プレートを外して受精卵と共に冷凍処置をする。
せめて両親の元へ行けるかどうか判らないが、ドーンが宇宙へ運ぶ。
「やはり、厳しい様だな」
ドーンが、報告を聞いて自らやって来た。
人工音声だが、声に張りがない。
この宇宙でアハイラの民族は、此処にある人工子宮ユニットしか残っていない。
同じ様に少数民族を率いて来たドーンにとっては、アハイラのユニットは、レリアのユニットとなんら変わりない。
「いや! まだです!
アハイラのユニットは、着手したばっかりです」
アハイラのユニットの為に治癒師を増員した。
成長まで常に気を配る。
せめて半数に、命を吹き込みたい。
でなければ、将来混血が進みアハイラの民族が消えていきかねない。
コンナは、寝る間を惜しんでユニットの前に立つ。
最初に選ばれてしまった25ユニット。
どうしても、実験的要素がないとは言えない。
だが、前を向かなくては!
治癒師が、コンナを回復させる事も多くなった。
「いかんな・・・・・
このアハイラの胎児が生育を開始した今、一旦、コンナをオーストラリアに休息に行かせる。
阿佐美さん。入籍は済ませて置いた。
室の大奥様が、早く子供をと望まれている」
第一回目の子供達を引き取りに来た脩が、コンナの目の下のクマを見てこう告げた。
脩と真でアーバインとの間を何度か往復する。
船室にいれば揺れは無く、酔う事も少ない。
そのまま、日本まで行くかオーストラリア空軍基地の中に待機している九鬼の専用機を使って、日本に接近して岩屋神社か鹿児島のマンションに転移する。
生後3ヶ月と6ヶ月になる赤ん坊が70名。
顔立ちは、地球人と全く変わらない。
コンナが、南極大陸に居たがる理由の一つが船酔い。
砕氷船での航海の際に随分とへばったようだ。
だが今度はアーバイン。
散々抵抗するコンナの意識を飛ばせてアーバインに運んだ。
他のメンバーも交代させて増員した。
ドーンは、眠るコンナの為に書いた手紙を阿佐美に託した。
「もう、心配する事はない。
数年したら、又来るように。
私に、友人の子供の写真を見せてくれ。
コンナには、アーバインで育つ子供の事を任せたい。
心配は要らない。
優秀なスタッフが使命感を持って働いている。
元気な子供を産んでくれ」
「ありがとうございます。
コンナにもちゃんと伝えます」
南極大陸では、どうしても男女別室だ。
こうしてコンナと阿佐美は、アーバインで初めて一緒にベッドに入った。
疲れていたのだろう。
浴槽に、白魔石を入れて湯に浸かると身体の芯が冷えていたのがわかる。
「やっぱり無理をしたんだな」
「えぇ、前は少しポッチャリでしたのに。
ちゃんと休んでくださいね」
阿佐美が、コンナの背中を流す。
その手を掴んでコンナは阿佐美を膝に抱いた。
初めて重なる肌。
二人は、激しく求め合った。
「揺れなくて助かったよ」
「この客船。素晴らしいですね。
話には、聞いていましたけど揺れません」
「乗艦するチャンスはあったけど、私が船は苦手なんで断って来たからな。
阿佐美さんも乗るチャンスを無くしていたか?」
「そうかも知れません。
でも、今では私達、影護衛が付くのは幼い子供か術師ではない家族ですね」
「そうなんですか?」
「誰も彼もには、付けれません。
修行も厳しいですし、室の一族の数にも限界があります」
「私との間に出来る子供は、どうしましょうか?」
「五歳までは、自由にさせましょう。
私は、貴方と同じ医師になって子供達を見守って欲しい
影として貴方を見てきましたが、素晴らしい仕事振りでした。
それに、ドーンさんからもファルトンの子供たちの事を頼みますと
手紙も預かりました」
阿佐美が、コンナにドーンから託された手紙を渡した。
一読したコンナが、天井を見上げる。
「あぁ〜そうだった!
アハイラの子供だ!
忘れていた!
阿左美さん。
子供達と一緒にアーバインに行きましょう
アバイラの子供には、特別な施設が必要だった」
「それは?」
「目が弱いんです。
新生児室も保育施設もドーンさんが改修を頼むそうです
アーバイン号にも、その為の船室を作りましょう。
2歳迄には目の成長も終わります。
そうしたら、あの水色の目をした子供を外に出せます。
眼科医にも注意させないといけません」
「網膜が弱いんですね?」
「そうなんです」
「【遮蔽】を利用した『魔道具』で顔を守ってあげれば良いんじゃ無いですか?」
「それは、いい考えだ!
それならば、看護師達の負担も軽減できる。
同じ部屋で他の子供とも遊べる。
中々、他の民族との接触を拒んで来ていた性格の形成が、このせいだとも言われるほどですからね。
でも、アーバインには行きましょう。
新居を押さえないといけません
ウルマで生活しましょう。
ウルマなら【遮蔽】越しですが、外で子供が走り回れます
ご両親に、ご挨拶しなきゃいけないですね」
「両親は、亡くなりました。
一条 豊の犠牲です。一条との戦いはご存じ?」
「何度も、資料を読みました」
阿佐美の両親は、他の室の忍びと一緒に一条 豊を探っていたが神戸で豊が消息を消した。
その後、コンテナ船に隠れているとの情報で、コンテナ船に他の室の忍びと共に侵入したが、呪核持ちになった凶暴化を増した豊に歯が立たず帰らぬ人になった。
現場には室の忍びと一緒に一条の門人や、大陸の道士の遺体が散乱していた。
詳細は不明だった。
「私には【呪糸蟲】というのが理解できなかった」
「そうでしょうね。
こうして【式】を使う陰陽師の私でも理解に苦しみました」
阿佐美は、燕の式とリップクリームケースから【管狐】を出して見せた
「燕は、特殊な和紙を使って折り紙から創り出します。
管狐は、この頃増えてしまって、多くの陰陽師が使います。
動物の様に生殖活動ではなく、いつの間にか増えます。
これ以上は無理な数になりそうなら『増やさないで』と頼むとそこで止まります。
ただ、好き嫌いが激しいので、いつの間にか居なくなります。
この子は、真弓さんから譲り受けたばっかりで宿舎の中で眠っていました。
ボールの形をしたチーズが好きで、こうして両手で抱えて食べる姿は癒やされます」
「寒いのは苦手かな?」
「いいえ。寒さ暑さは関係ないのです。好きになった人がいるかどうかです」
「名前は?」
「絆です」
名前を呼ばれたので、絆はテーブルから阿佐美の裸の肩に乗った。
「−きずな−ですか?」
コンナの声に反応した絆は、阿佐美の顔を覗き込んだ。
阿佐美が頷くとスルリとコンナの肩に移る。
そして顎に頭を擦りつけた。
「気に入られましたね」
阿佐美が、ほっとした表情を見せた。
しばらく、絆を遊ばせていると電話の呼出音がなった
修からだ。
「子供達の診察をするから、1時間後に保育室迄来てくれ」との事だ。
「それなら、シャワーを済ませて行こうか?」
コンナは、身体に染み付いた阿佐美の甘い体臭を消したく無かったが、仕方無くシャワーを二人で浴びた。
絆が、リップクリームのケースに隠れ阿佐美が胸ポケットに入れた。
二人で白衣を纏い、保育室へ向かう。




