528 何でも屋 2-05 兆し
「良いではないか?」
「良いのですか? 帰蝶様」
「放っておけば、どの様な女子がつくかわからん。
そうなのだろう?沙羅?」
「料理が巧くって、今回の事件で見せつけた術師の能力。優しい顔立ち。収納能力の高さ。他にもあげたらキリがない。どれをとっても優良物件よ」
「牙を隠して【うつけ者】呼ばわりされても、諸勢力だけでは無く、身内からの策謀を防ぐのに苦慮した殿とは違う。
将来、我らは縁に結ばれた殿の輩と共に進む事となる。
新しい大地を求めて、船を出す事になろう。
そうした時に、殿の傍に、どうしようもない女と子供が居たらなんとする。
ワシらの意識が無くなっても、縁だけは消えはすまい。
今度ばかりは、殿の夢を叶えさせる。
だから私は、ミサを認めよう。
良い目をしておる。
静と同じ目じゃ。
ただ決めるのは、正妻の静。
そして香織じゃ。
どうだ、真弓。お前は、どう思う?」
「この娘。良いね! 気の強さも良いし、食べっぷりも良い。
楽しい家庭になりそうだ」
「はぁ〜真弓さん。あなたは、ミサさんと気が合いそうね。
・・・・・・沙羅さん。ミサさんの他に候補は?」
「あの『竜の娘』とやらは、どうなんですか?」
「静は案外心配性なのね。あの二人は違うでしょうね。
今までの記録では、成熟まで、まだ何年かかるかわからない。
それに、日本にも英国にも竜がいるの。
そのつながりが解らない」
「【ルベル】とやらには、竜は居ないのか?」
「ルベルから私たちに合流した者には昔話は有るが、他には記憶や資料には出て来ていない。
それに、アシの言い伝えでは彼らの先祖らしき一団は、竜とは決別している」
「そうか、それならこれでこの話は終わりだ。
それで巴は、どうじゃ?」
帰蝶が、沙羅に踏み込んだ。
静も、前からその事は聞きたいと思って居た。
だが、沙羅を悲しませると黙っていた。
「まだ、何も無い。手紙のやりとりはあるが、巴の身の回りの事には触れられていない。
気になるのは、菓子や甘い飲み物が増えた事かな?」
香織と真弓が、顔を見合わせた。
顔を見合わせたのは、帰蝶と静で有るが・・・・
「それは、いつからじゃ?」
帰蝶が、聞いて来た。
そう言えば、最初は、そんな要求はなかった。
「新しい甘味が出たら一人分ずつ求めていたが、三年ほど前からひとつ、ふたつと増えている。
何かあるの?」
「そうか、甘味を要求し出したか。
あの、御堂には表情が乏しい女房が我らの世話係についていた。
殿達が戯れに抱いてみたが、逆らいもしなかった。
殿達は、詰まらんと二度とそのような事はされなかったが、ある時を境に菓子や飲み物をねだり出して話をする様になった。
伽すら、ねだったな」
「それは、又、おかしな事ね?」
「沙羅、お主たちから貰った手土産を喜んでいたのは、あの女房達もじゃ。
一光が額真に伝えていない訳ではなかろうが、状況が違うし我らと比べて時が短い。
それに、一光の前の我らの世話係の時に、それまで親しくしていた女房が元に戻った事もあった。
世話係が【常白】に代わったせいだ。
アイツは、好かん。
静は、特に嫌っておった。
死んで、やっと居なくなったと思ったら戻って来おった。
私達と同じ存在になってな。
三年程、御堂で一緒に過ごしたからな。
アレは酷かった。
殿は、光秀を間に挟んで口を聞かなかった。
輪廻の輪に載るためじゃろう、消えた時にはホッとした。
そして、いく代かの後に一光がついた。
そしたら、女房達が菓子や甘味を求め出したのじゃ。
そして、お主らを招き入れている。
近い様じゃな。
巴が御堂に、お主らを招く事が!
楽しみじゃ。
額真には、健康で居てもらわないとな。
ところで、額真の息子はどうしている?」
「間もなく大学卒業ですよ。萩月の本部付で働きます」
「仏門には、入らないのか?」
「修行は納めていますし、しばらくは社会勉強だそうです。
祖母の介護も引き受けていますよ」
「そうか、一光と同じ施設に移すのか?」
「よく分かりましたね?」
「お主ならそうする。そう思っただけよ」
「では、どうされます?」
「何を?」
「指輪ですよ」
「あぁ、婚約したら男から貰うという奴か?」
「洋樹君の意向を聞いています。
私達が、友嗣から指輪を受け取った様に、魔石を組み込んでおきます。
左の薬指を出して」
香織と真弓が、指を差し出した。
「あら、女性の平均サイズなのね。
剣道なんてやっているから太いかと思ったけど、と言っても準備させるのは魔道具よ。
勝手に、サイズが調整できるわ。
指に当てるだけで良いから、どの指にでもフィットする。
サイズを測ったのは、デザインを決めるためよ。
でも、二人とも剣道を続けるのでしょう?
ペンダントにしておくわ。
デザインは洋樹君がやるそうよ。楽しみにしてね!」
「・・・・・・それなんだが、私は剣を辞めようと思っている」
「何故?」
「ミサの動き。【流】だろう?」
「よくわかるわね?」
「無手の武術に関心がある者で、【流】を知らない者はいまい。
高校を辞めて【流】道場に、お世話になろうかと思う」
「何故? 私は、あなたに勝って無いわ!」
「だから、まだ悩んでいる。
だから、『思う』とだけ言っている!」
「ごめんなさい」
「いや良いんだ。怒鳴ったりして済まない。
前から、剣道では限界を感じている」
「・・・・・・それは、あなた以上に強い人が、高校や大学クラスにいないからでは?」
「・・・・・・般若か?」
「国分寺に、行ってみたら? お会いしたの?」
「誰に?」
「その般若に?」
「いや、他流試合には出ていない。私は陰陽師の当主ではあるが、剣道では学校関係者しか指導者がいないから、他所の道場へのコネが無い」
「沙羅さん!」
「解ったわ。もうついでだから挨拶して来なさい」
「行きましょう。颯さん。
丁度、明日が店休日。【陣】を使えば、国分寺と金沢を回れるわ」
「国分寺? アドリアか!」
「店休日だから、食事は身内だけになるわよ。おまけも付ける?」
「何を言っているんだ? アドリアは洋樹さんのご実家。おまけって?」
「『多摩の般若』、『武蔵野の般若』は東郷尚美さんよ。
ほんと、洋樹さんの事を見ているって言っていたけど、彼しか見ていないのね。
・・・・・呆れるわ」
「まさか・・・・・・」
「そう。まさかよ。お母様になる方よ。お母さまは、ミサさんも会っていますよね?」
「アーバインで、会っているわ」
「⁈ このミサさんと洋樹さんの件。ウチの母が作戦参謀じゃ無いですか?」
「流石、美玖の娘ね。
そうよ、作戦は立てたけど変更が多くって、もう成り行き任せよ。
運命の悪戯のせいで美玖もお手上げよ」
「何処の世界に、娘の婚約者に女性を添わせて、子供まで作らせようとする親がいるかしら?」
「昔は、いたわよ」
「そうだったわね。
そして、産まれた男の子を、娘が産んだ子として家をつがせる。
本妻に嫡男が産まれれば仏門へ。だったわね」
「私達はどうする? 正妻様?」
「人が居ない、足りないアーバインよ。本家なんて関係ないわ。それぞれが又、独立していけば良いわ」
「そうか、それならば!私は、いっぱい産むぞ〜」
「真弓さんの考え? それとも、帰蝶様?」
「急かすな。静。兎にも角にも、私は殿の下に静と行く。それだけじゃ」




