527 何でも屋 2-04 帰蝶
『香織?』
『香織!』
「うわー 静さん!どうしたの? 全校大会の後は、寝むり続けていたくせに!」
『どうしたでは無い! この魔石板の映像! もう何回目だと思っている!』
「洋樹さん。無手もやるんだね〜 私も、教えてもらおうかな〜」
『お主! 目は開いているか?』
「見えているよ〜 料理のシーンも、海でいつもの『今日も真摯に!』って言っているところとか、カッコいいじゃない?」
『お主、大丈夫か? 洋樹しか見ておらんな?』
「当たり前じゃ無い。風景は、そんなに面白く無いわ。
でも、いろんな人が頑張っているのは素晴らしいと思うわ。
ウルマの『バイ』ってオオカミが可愛かった。早く撫でて見たいな〜」
『獣人は、どうじゃ?』
「カッコいいよね!
アニメに出てくる獣人みたいに、犬さんや猫さんの顔じゃ無いけど、それっぽくって耳と尻尾があるのはかわいい。
猫獣人の機嫌が悪い時の尻尾の動きは、うちのミィと一緒。
パタパタやっている」
『お主、眼を逸らして居ないか?』
「・・・・・・解る?」
『わからいでか!』
「なによ! あのミサって猫獣人!
洋樹さんを、何度も投げ飛ばして!
でも、空中での体の捻りがすごい。
ウエストもキュゥって締まって、脚も長いし!
胸も大きく無いけど形がいい!なんか悔しい!」
『それよりも、あの娘の笑顔じゃな』
「そう、嬉しそうに組手している」
『お主が、洋樹と剣を交わしている時と一緒の目じゃな。
ミサ 18歳。
間もなく19歳か?
孤児
ファルバンの流れを汲む術師を祖母に持つ。
母親は死亡の為、能力不明。
ルースの聖地へ避難中に、同行して居た母親や護衛は全員死亡。
ただ一人救出される。
サトリ、記憶師、【何でも屋】所属。
岩屋との物流と倉庫管理を担当。
現在、内乱の際に『何でも屋』の上階にあった住居が居住不能となった為に、東郷洋樹の住居にて仮住まい。
東郷洋樹は、祖父母と寿区で寝起きしている』
「もしかして、その家って、私と洋樹さんの新居?」
『まぁ、そうなるわね?
主寝室は使わずに、一番狭い部屋だけを使っているみたい』
「良く調べてあるわね」
『報告書みたいな物が、リビングに置いてあったの。知らないの?』
「気づかなかった」
『写真を見るので精一杯か?』
「あなたも良く、私が見ている物と別の物が見えるわね!」
『サトリの能力かな?』
「でも、怪しいわね?」
『洋樹さんも、殿も男だからなぁ〜』
「静さんは、どう思っているの?」
『私は、身体より心が繋がるかどうかよ。
だから、颯 真弓、帰蝶様の事は許せる。
帰蝶様も、香織を正室にすればそれで良い。
女子は、多くいた方が良いと思っている様だし』
「日本人でも、こうも違うんだから〜
やっぱり、一回結婚している経験の差かしら?
私は、一夫多妻が認められているアーバインの人間だけど、
育っているのが一夫一婦制の日本だからね〜
やっぱり、洋樹さんを独占したい!
でも沙羅さんたちを見ていたら、あの関係も羨ましい。
四人で旅行に行ったり、イバさんと妻二人なんて良く旅行に行っているし、それがお互いを刺激するせいか、みんな若くって綺麗ななのよね。
誰も、お婆ちゃんだって思えない。
特に沙羅さんは、ひ孫よ!
ウチの、お母さんより若く見えるわ!」
『そんな事言っていると、沙羅さんが来るよ〜』
「来て欲しいくらい。寧ろ相談したい!」
「はい、じゃあ、なんでも聴くわ!」
「やっぱり来た!」
「あら失礼ね。聞き耳立てているわけじゃ無いわよ!」
「違うんですかぁ?」
「洋樹君からの相談事。面倒臭いから、直接本人に確認に来たのと、別件もあるから来たのよ!」
「彼が、なんと?」
「婚約指輪を、どうしようって!」
「あわわ〜」
『そうか〜婚約指輪か〜
あの、給料の三倍って話ですよね? でも、彼ってバイトですよね?』
「社員にしたわよ」
「大学は?」
「日本と違って二足の草鞋を履けるの。個人事業主として、英国の企業との契約を結ばせたわ」
「どうして?」
「『命懸け』何だもの。おまけに、残業も多い。
一千万円の年棒でも足りないわ。
だから、その気になれば一千万の指輪を渡せるわ」
「・・・・・・そんなの要りません」
「貴女なら、そう言うよね?」
「一度で良いです。
アーバインに、行かせてください!」
「良いわよ。でも、その前にやっておこうか? 颯さん。即ち、帰蝶様と話をしましょう」
「それは・・・・・・この、猫獣人の女性『ミサさん』の事ですか?」
「察しが、いいわね。だから、もう一人の意見も聞いておきたいの。
呼んでいい?」
「はぁ?」
「ルナ!連れてきて、
心配しないで、彼女、千葉道場で洋樹くんを見て、既に覚醒して居たわ。
そして、今までの洋樹君の予備知識はルナが説明しているわ」
「「やっぱり!」」
「むう、やはり沙羅の差金か?」
ルナさんに付き添われて、と言うより引きずられるようにして『颯 真弓』が応接室から私の部屋にやって来た。
まさか、こんな形で再会するなんて、
「クスッ!」
「これ静! 笑うで無い」
「やっと、正体を表しましたね? 帰蝶さま」
「どうしてわかった?」
「おや? お髪が解けて居ますわよ」
「えっ!」
帰蝶が、小指を曲げて髪を直す。
「これで良いか?」
「いつもの仕草ですわね?
先のインターハイで面をお取りになり、御髪をお直しになられました際に、姿形が重なりましてよ」
「・・・・・生まれ変わっても、この髪と仕草は変わらなかったか・・・・・
仕方無い。静。久しいな。会えて嬉しかったぞ」
「私もです」
長身の真弓が、香織を抱え込む様にして抱きしめた。
「なんじゃ、髪の匂いは変わらぬな?」
「それでですね、殿も髪に鼻を長い時間、お埋めになりました」
香織は、顔が火照るのを感じた。
そうか、砂浜で抱きしめられた時に、彼が長い事、鼻を髪につけていたのは・・・・・・
「そうか、もうそこまで仲を深めたか! 良かった」
「申し訳ございません」
「良いのじゃ。
正妻の座は、お主が座れば良い。
私は、子さえ産めればいい。
先の契りでは、産めなかったのでな。
もう産婦人科にいって、問題ない事は教えてもらった」
「まぁ、それは、おめでとうございます」
「帰蝶」
「なんじゃ!沙羅?この策士!」
「酷い言われ方ね」
「折角、静に先に子を成させて、それからと思って居たのに、ルナを使って私を捕まえおって!」
「ルナ! あなたどうやって、帰蝶様を納得させたの?」
「この子を使ってよ」
「あら〜、ロビン!」
ルナの影から、メルカの息子。
つまりルナの三番目の孫が顔を出した。
「ルナは、その男の子をジュピターで食事を終えた、私にぶつからせよってな。
慌てて抱き上げた私が、その可愛らしさに気を許した瞬間に肩を掴んで話しかけてきた。
『帰蝶様。お久しぶり』とな。
もう、逃げ隠れできるわけがない。
諦めて羽田家から鹿児島のマンションに【転移】した。それだけだ」
「でも、結構食べたわね。ジュピターでも食べた後なのに」
「やけ食いよ。
というか、鹿児島は初めてでね。
食べなきゃ損だろう?
遠慮するなと言われたから、思い切り食べた」
「夕べは、楽しかったわよね〜ロビン?」
ロビンは、美玖に連れられてリビングに帰っていった。
美玖も卓也も、子供が来たら大変可愛がる。
律子姉さん。プレッシャーだね。
沙羅は魔石板に、ミサの写真とミレイの映像を並べた。
「言っておくと、この二人は猫獣人でも希少な種族で、存命しているのは、もしかしたら、この二人とミレイの子供二人だけかもしれないわ」
「でも、子供は混血じゃないんですか?」
「そう。そうなんだけど、ミレイの子供に会った事は、あるかしら?」
「えぇ、一度だけ。お母さん似の綺麗な方でした。小さかったんでそれだけしか印象が残っていません」
「女性しか産まれないわ」
「「えっ!」」
「極端な性的な偏りで、男子が産まれるのは50人に一人。
しかも、母親の能力は性遺伝子に載っているのか、男性には遺伝しない。
こうなると、女児は混血とは言えないわ」
この娘を、彼の『初めての相手』にして、子供をもうけて貰うわ」
まさかの『爆弾発言』だった。
「どうしてですか?」
香織は叫びたい気持ちが、抑えられている。
静が抑えている。
「危険なのよ。二人とも。
洋樹君には、聖地の中の未婚の女性、それこそ婚約者持ちですら『嫁取り石』を相手に叩き返してでも、彼の横に立ちたいと考えている女性だらけよ。
アーバインでは、丁度、14歳から20歳くらいの女性が多いの。
男女比でも女性が多いわ。
種族によっては、他にも、ほぼ女性しか産まれない種族もいる。
そこで、聞いたことあるだろうけど、ミサの一族は【フェロモン】を出しているわ。
でも、自分は特定の男性にしか発情しない。
だけど、聖地に籠ったミサの母親は、子孫を残す為に自分の意志と関係なく子を作らされた」
香織と真弓には、その悲しみが伝わって来る。
酷すぎる。
「それじゃ・・・・・」
「そういう事。ミレイが昴に発情した様にミサは洋樹に発情する可能性が高い。
ミレイが調べたけど、聖地、ウルマ両方とも、彼しか彼女の嗅覚で適合した男性はいなかった。
だけど、ミサは男性を魅了し続ける。
今は、私たちが【術】を使って相手を押さえているけど、その効果は一時的。
万が一、彼女が襲われたらどうなると思う?」
「自殺するかも?」
真弓も頷く。
沙羅は魔石板を操作して、今まで外に出して来なかった映像を見せた。
「これは同じサトリの少女が、自分がルベルによって『生殖の為の子宮lとして使われると知った時に陥った現象。
まだ、近くに寄れなかったから遠景になっているけど解る?
彼女から立ち上がる異常な魔素の流れを。
そして、この子は暴走した」
映像では、自分でも魔素の流れを制御できなくなった娘が、周囲に居た仲間やルベルの医師達を巻き込んで炎をあげた。そして、全てを焼き尽くして消えていった」
「なッ、なんで!」
「哀れな!」
「私も知らなかったわ。こんな事が起こるなんて。
この子。オルエと言ったわ。ミサの十分の一も覚醒して居ない。
それでもこうよ。
ミサは、自分の母親が、どういう思いで自分を産んだかを知っている。
だから、こうして無手でも戦える様にしているわ。
身を守る為にね」
「その暴走を止める為に、子供を作らせて望まれた子供を産んだという認識を与える」
「流石、解っているわね」
「私でも嫌です。
もし襲われて、性行為を強要されたら、相手を【電撃】で黒焦げにします」
「それは、静も同意しているのね?」
「はい」
「殿は間もなく18じゃ。
女子の一人も、知らなくてはなるまい」
「帰蝶様。良いの?」
「悔しくはあるが、殿の為にもなる。もう、一皮剥けようぞ。
で、どんな娘じゃ?」
「どんな、娘なの?」
こうして、颯 真弓に付き合って、もう一度洋樹とミサの日常を目にする事になった。




