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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
524/929

524 何でも屋 2-01 新居

新しい章に入ります。

一連の内乱の後始末が終わったが、『何でも屋』の事務所は閉鎖されたままだった。

取り壊そうにも、【ベスダミオ】の臭いが強烈で近づけない。

この事務所が一番被害が大きかったのは幸いでもあるが、ミサが洋樹が借りる部屋に住み続けることになる。

一度、入らせてもらう事になった。


「えっ! こんな広い部屋? じゃなくって家?」

若い夫婦者が入る区画で、隣り数軒分空き地になった近代風の家だった。

寿区とは違い、日本に、そのまま持ってきてもなんら見劣りしない。

位置としては『遠見の部屋』に近く、海に向かって突き出している丘陵地の上部にあたる。

かつて引退を決め込んだ木場 直達が居を構えた一帯になる。

木場夫妻は、羽田と同じようにウルマに引っ越した。

寒いのは苦手であった筈だが、ウルマの方が静かで住みやすいらしい。


部屋数も、リビングを中心に対面キッチンを備えた作りでベッドルームが三つ有る。

家具や食器類が備え付けられて居て、直ぐにも家族で住める設備だ。

ミサは、流石に主寝室を使わずに、玄関脇の寝室を使っていた。

ここには、シャワールームとトイレ、小さなキッチンが備え付けてあり、ダブルベッドが置かれている。

羽田と九鬼の手による建築で、内装は九鬼友恵が担当していた。

『もう、10年近くなるから時代遅れよ』と言っていた。

とんでもない話だ。

ミサも、最初案内された時には、洋樹がスグに奥さんを連れてくるものと思ったそうだ。

それで、あの発言になった訳だ。

恐る恐る主寝室を見てみると、クイーンサイズとキングサイズのベッドが鎮座していた。

もう絶句するしか無い。

ミサが、引いてしまった事が理解できた。

「どうするんですか?」

「もう今更、変えられないよ。

しばらくは、ミサちゃんに留守番してもらおう。

何せ、街の住民達の方が優先だし、彼らに、ここを使わせると色々と問題が出る。

この作りを、また作る気はないよ」

「はぁ〜」


しかも、今はまだ設置されていないが、ゆくゆくは高性能の【転移陣】を入れる予定だそうだ。

ここからでも【岩屋の陣】に繋がる。

もう洋樹は、お腹いっぱいになった。


「さて、明日から、はいよいよ工事開始だ。

先に掘った坑道は、ベスダミオを含んだ、魔道具を放り込んだから【転送陣】で臭気を少しずつ追い出している。

こんな中に入る奴は、いないだろうが、とりあえず塞いでおいた。

再度、作業用の坑道堀りからやり直しだ。

洋樹くん! 頼んだよ」

「はぁ〜」

ちょっと落ち込んだ洋樹の肩を、ミサが叩いて元気付ける。

「こんな時は食事だ。食事! 所長!

言われた通りに、お寿司屋さん! 押さえておきましたよ」

「ありがとうな。春日さんもやっと 孫に逢える」

「春日の、おじいさんとおばあさんですか?」

そうであった、あの内乱の折に会うはずだった、母方の祖父母には会えていなかった。

「久しぶりに新鮮な魚が入って来て、店はてんてこ舞いだそうだ。

だけど、事情を説明したらボックス席を用意してくれた。

ミサを連れて食事に行け。

ミサ! 今日はもうあがりだ。好きなだけ食っていいぞ。

お酒も、洋樹が連れて帰ることにならない程度にしておけよ」

「そんな醜態は、見せません。汚したら悪いじゃ無いですか?」

「お前! どんだけ呑んでいたんだ?」

大笑いしながら、家を出る。


「チョット待って! ここの魔道具にカードを乗せて!」

青い陣を描いた魔石が玄関脇に置いてあった。

カードを乗せると、魔石が一瞬光りそして消えていく。

「これでドアノブを、触っただけで扉は開くよ。

ちなみに、盗難防止というより侵入避け。

カードは、他人が持って触れても起動しないから、鍵になっているわ」

「なるほど、それで浜の転移陣も制御されていたんですね」

「『何でも屋』と上層部。検察の一部はフリーパス。

でも、ログは取るから女子更衣室に入ったらバレるわよ」

「そんな事は、しませんよ」

「ふふ、今日は行かないけど、明日は仕事が終わったら合同練習場に行くわよ」

「でも、『ホスピタル』の入院患者の皆さんがいるんじゃ?」

「だからよ。ホスピタルの除染は終了していて、各設備の点検が終了するわ。

事前の確認で合格しているけど、検定を受けないといけないからね。

その後の移動を手伝う。時間外労働でバイト代弾むわよ!」

「管理が、しっかりしているんですね」

「木場先生と西郷先生のおかげよ。

それとも、お義父さんと呼んだ方がいいかな?」

ミサは、そう言いながらチョット心のどこかで怒っていた。


「アレ?」


寿司屋の前には、人が大勢いた。

「アレ? 並んでいますよ?」

「違うわ。

皆さ〜ん! お待たせしました!」

東郷洋樹くんの登場です!」

「ちょ、チョット! ミサさん!」

「「「「うお〜!」」」」

「君が東郷くんか!ありがとう!」

「お陰で娘が、大変な事にならなくて済んだよ! ありがとうな!」

「君が『何でも屋』に所属してくれるんだね! 頑張ってくれ! 『差し入れ』持っていく!」

「洋樹さん!握手して下さい!」

「あっ、はぁ〜?」

「驚いた?」

「でも、僕は、何にもしていませんよ?」

「いいや、あの光魔石のパネルに溜まった魔素を垂直に打ち上げて、その広がった光の術が、聖地全体を天井から照らし物陰に倒れた人や暗闇に取り残された人を助け出すのに役立ったんだ。

偶然なのかもしれないけど、結果が多くの人を救った。

それを、みんなが感謝しているのさ」

『何でも屋』に礼を述べに来た人々を連れてきた十兵衛が、感謝の理由を教えてくれた。

「十兵衛さん」

洋樹は、あの咄嗟の行動が、結果的に人々を救った事に驚いていた。


『まさに、【棚ぼた】じゃな?』

『アレ、珍しく出てきましたね?』

『まぁそれは、その、なんだ。解るじゃろうが!』

『挨拶が、済んでからですよ』

『あぁ、頼む。一番手はブリが良い。【サビ】はほどほどにな!』


洋樹の中の信長は、元々、寿司好きだったが、アーバインに転移する際に食べた寿司をいたく気に入っている。

無理も無い。

持ち込まれたのが、北陸金沢や富山からの直送品だ。

北海道根室、釧路からの魚介を堪能した。

特に、ブリとマグロ、エンガワは、生前に食した物と比べ物にならない程旨いそうだ。


何人かの女性と子供と握手をして店内に入る。

店内でも、多くの人から感謝の言葉を貰って中に進む。

なるほど、大輝さんに、そっくりのガタイがいい男性と、やはりいい筋肉をしていそうな女性がいた。

そんなに歳を、とっているようには見えない。

がっしりと順に二人に抱きしめられた。

「やっと会えたな」

「お爺さん、お婆さん。洋樹です。会えて嬉しいです」

「あぁ、ワシらもだ。さぁ、座れ座れ!」

ミサさんと、並んでテーブルについた。

「じゃあ、この後は仕事も無いそうだしワシらも、寿区の妹の家に泊まる。

早速乾杯だ。

イバとサランからは、『洋樹も、ワインの白ならば』と許可を得ている」

そういうと、一本の白ワインが店員によって運ばれてきた。

店員が、ワイングラスに注いでいく。

「洋樹は、料理の為の味見じゃな?」

「えぇ、そうです」

「出会いを祝して!乾杯!」

「乾杯!」

「「「「「「「「「乾杯!」」」」」」」」

他のテーブルやカウンターから声が上がる。

「洋樹、ご挨拶を」

お婆さんが、洋樹を促す。

「はい。東郷洋樹です。初めて私たちの世代からの派遣された者として、皆さんのお力になるように頑張ります。よろしくお願いします!」

「「「「「「あぁ!私達の方こそ宜しく! 頼りにしてるよ!」」」」」」」

「頼りにするだけじゃなくって、協力もしてよね?」

「ミサさんには、敵わないなぁ〜」

「奥さんみたい!」

「揶揄わないで!上司と新米部下なんだから!」

大笑いしながら、会食が進む。

おじ大輝の幼少時代の話や、瞳、慧一さんの話そして、ふぶき。

理解しにくいだろうが眷属についての話をした。

獣人とは違い、神に近しい巴様を支える神獣の分体として産まれて成長し、その母でもある神獣に忠誠を誓い、時によっては死を選ぶ。

明らかに上下の関係が有りながら元はひとつの身体。

だが、巴様がその縛りを解き人としての一生を与えられて居る『ふぶき』の存在。

「上下関係はないけれど産まれ方が、ダイヤと、その娘たちみたいだね」

「そうだ!彼女たちにも会わないといけない」

「でも、寝てばかりだからね。

女の子だから、一人くらいお嫁さんにする?」

「それは、大変だな。

サランさんに聞いたぞ。洋樹の嫁は四人以上を考えている。

四人がバランスが良いが、地球の女性とアーバインの民の女性、ルベルも縁があればと思っているが、それ以外でも構わないとな」

「竜種になるわね?」

「勘弁して下さいよ。寝てばかりで身体が育つのは数十年後ですよ。

もしかしたら、私の子供が相手かもしれません」


そんな話をしていたら、お婆さんが話を切り替えた。

「大輝との試合では、負けたそうね?」

「えぇ、持久戦に持ち込まれました」

「でしょうね。あの子の勝機はそこにしかないわ。

模擬戦だから、刃を落とした日本刀を使ったの?」

「いえ、コイツです」

洋樹は、収納から木刀を取り出した。

「木刀ね。これは、亜美さんからかしら?」

『亜美? また違う名前だ』

「うふふ、心配しないで亜美さんは、私の娘、尚美の友人よ。

無手の名手よ【流】と言う道場で同場主をしているわ貴女も教えて貰っているわよ」

「・・・・・・【黒百合姫】の事ですか?」

あら、よく知っているわね?」

「誰も道場で『亜美さん』なんて呼びませんよ。

なんて呼んでるの?

「【姫師範】が多良いですね」

洋樹は吹き出した。

少なくとも【姫】はない

「後で、ウルマの鍛治師に打たせた【日本刀】を送らせるわ。使って見て」

「それを、模擬戦に使うのは危険じゃないですか? 大輝さんも刃を落とした大剣ですから!」

「大剣は斬るものじゃないわ。相手に叩きつけて、骨を折る。内から破壊するのが役割よ。

綺麗な戦場になるわ」

「確かに、そうですね」

「心配しないで、尚美も持っている日本刀。自在に刃を落とす事ができるわ。意志が通えば魔素を載せて炎も(いかずち)も出せるわ」

「雷って、卓也さんみたいね」

「使える様になったら、本気で立ち会って見なさい。使う事が無ければ良いけど備えがなければ、後の祭りよ」

こんな、中々物騒な話をしながら寿司を摘み酒を呑む。

ルースとウルマでそれぞれ仕込んだ日本酒を少しだけ味見して、祖父母をミサと一緒に送り、そしてミサを自分の家に送る。

自分の家ながら、そこで踵を返して大食堂の入口の穴の修復を見に行った。

緊急事態ではあったにしろ、やってしまったのは自分で気になっていた。

それにいつまでも、裏口からの出入りを市民に続けさせるのには無理がある。

だが、綺麗さっぱり修復されていて、更にスロープも追加されていた。

ルースもそうであるが、車椅子を使う住民が増えている。


『良い職人がいる様じゃな。陰陽道の術の痕を感じる』

『助かりますよ。まだ僕にはそう言った事が判らない』

『であれば、回転寿司の回数を増やせ! ミサを誘えば良いだろうて』

『本当に調子がいいんですから〜』

『回転寿司というものは、良いものじゃ。自分が食べたい寿司を、自分のタイミングで食べれる。ネタがパサパサしないし、衛生管理もされていて安心じゃ。あやつらも早く、この時代に現れないかのう?』

『僕は、あのロビンソンさんが、久秀さんかと一瞬思いましたよ』

『どうしてじゃ?』 

『年長で有る事、知識。そして反逆的なところ。部下の扱い方ですね』

『なるほどな。あの男も少し早かったのだろうな。船さえあれば変わったろうな。じゃが違う!

アヤツなら、ファビオに向かって膝をついていた』

『・・・・・・ですね。ここなら、やり直せましたからね』

『そうじゃ。そして、【陣】を動かす時には自らが起動しただろう。用心深いから中には入る事はしまい』

『でも、僕は静以外はこちらで見つかると思っています』

『ほほう? 何故じゃ?』 

『船に乗る約束をしたんでしょう? なら、こっちの世界でないといけないでしょう?』

『帰蝶もか?』

『静で有る香織と結婚したら、アーバインに渡ってくるのですから、そうじゃ無いですか?日本では出会いのきっかけがないでしょう?』

『そう思うか?』

『その物言い。なんだか引っかかるな〜?』

『気のせいじゃろう。それよりも沙羅やルナは、お前にはもう二、三人付ける気で居るぞ?』

『二年後以降でしょう? 正妻の香織がいるから』

『そうでもないぞ? 先に側室が入り正室が後、もしくは最後と言う事はワシの時代には多かった。

英国もそうで有るし、先に正室になった者が側室に落とされることもあったからな』

『そうなのか?』 

『あぁ、じゃから良い女がいたら遠慮しなくても良い。静も、そこは理解できておる。

勿論、静に正室の座を譲った帰蝶も同じ思いよ』

『・・・・・チョット待て!正室の座を帰蝶が静に譲った? 会っているのか?あの二人は!』

『今日は、勘が働いたようだな。日本酒のお陰かな? それじゃ、またな』

『おい待て! 信長!』


『当面は、出てこない様にしようぞ。

【颯 真弓)の事は、内密にしなければいかん。のう、帰蝶』

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