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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
521/929

521 間話 船に・・

ルースに、付き添い彼の実家を訪ねる。

彼の働きでポイントは充分に溜まっていて、もっと良い住居に引っ越せただろうに・・・・・

一番古い居住区に両親は住んでいた。

修造は知っていた。

この両親の思いを・・・・・

溜めたポイントで九鬼修造に船を発注する。

ウルマで、彼が眺めていた帆船の仕様書と完成予想図が両親の元に届いていた。

九鬼修造が、ウルマのジリアとトリトから、ルースの若い創芸師のリーダーが長い事見ていたと聞いてコピーを送ったのだった。

両親は

「あぁ、息子はまだ海に出たいんだ」

そう思い。

九鬼修造に相談していた。

「まだまだ足りないが、造船所の訓練にもなる。心配しなくって良い俺からのプレゼントだ」

更に続けた。

「筋は良いし、リーダーシップも取れる。

悪さもするが、それはいずれ役に立つ」

そう言って笑ったのは、つい最近だ。

だが、もう笑い合える事はないだろう。

二人とも、こんなに小さく、老いてしまった。

一冊の絵日記を胸に抱いた母親。

「ウルマに、行きましょう」

そう言って、すぐさま周囲に別れを告げる事なく家を後にさせた。


造船場に誘って居たら、今回の騒動は起こらなかった?

九鬼修造は後悔した。

初めて彼に会ったのは、20年以上前だった。


七歳。

自走できる様になって、初めて沖のルースの岩場にたどり着いた。

この岩の間から風が来るんだ。

向こうの海が見えるはずだ!


絵日記に、丁寧に書かれた海の風景。

遥か彼方に見える港の跡。

紛れもなく彼が、その日、垣間見た風景だった。


ここまで乗って来たヨットでは、波が高すぎて行けない。

毎回、ヨット教室に来ては、この隙間から外を見る。

時には、ヨットを教えてくれるオジサンに怒られるが、一緒に隙間から外の海を見て

「早く、向こうの海に出れると良いのにな。ルベルの連中と分かり合えたら良いのに!」

「ルベルって何処に来るの?」

「あの港の右側の山を越えた辺りに降りて来る。だから、ここからでもドローン、黒鳥が見える時がある」

「九鬼さんも、見た事が有るんですか?」

「結構見たが、今は出てこないな」

「僕も見てみたいな」

「あんな物を見て楽しい物ではない。でも、アーバインまで来る事が出来るんだ。

海を行く船ぐらいは作れるだろう」

「デッカいんですか?」

「この海を渡り切るには、それなりの大きさが必要だ。ビデオで見た日本の船くらいはあるだろう」

「ルベルに行ったら、船に乗れるのかなぁ?」

「ルベルは、昔アーバインの民を多く殺したんだ。

あの『黒い鳥』と『銀の鳥』を使ってな」

「ルース様の、家族が殺された時の映像を見せられました。

まるで、萩月の人やサランさんが、見せてくれる映画みたいでした」

「映画じゃない! 実際に、あの方の家族は殺されたんだ!」

九鬼修造の怒気にあてられて、俺は首をすくめて謝った。


(だったら、映画なんか持ち込むなよ〜)


それからも、海に来る事は楽しかった。

だが、親は裕福な方では無い。

食べていけない事はないが、やはり暮していくには【術師】になるしか無い。

働かなければいけない。

手先が、器用で【創芸師】を勧められて弟子入りをした。

一人息子でも有り両親は、自宅から通える工房に入らせた。

細かな細工が得意で、小さな魔石の魔素を使う魔道具やアクセサリーを得意だ。

アクセサリーを作る際に、細かな炎で高熱を出すバーナーを作って金属加工の幅を広げる。

このバーナーが、大人達に認められてポイントを両親に渡せた。


だけど、それを妬まれて兄弟子に暴行を受けた。

大人達に訴えても、『職人の上下関係では、よくある事』と相手にされなかった。

痣を作って治癒を受けに行ったら、慎一先生に声をかけてもらい道場に通い出す。

道場に行けば、オヤツをもらえたし萩月の門人との語らいや、見せてくれる地球の雑誌や音楽の事。

この道場は、地下層になって居て電力を使う地球からの電化製品が使えた。

それを使って、ビデオを見たりして学ぶ。

元々、頭は悪く無い。

むしろ良い方だ。


(アレも、楽しい日々だった)


次第に、いろんな事や聖地とウルマについても詳しくなる。

この頃には、身体が急速に大きくなり、先輩の創芸士から暴力を受ける事は無くなった。


「電池を使わずに、音楽が聞こえるような物を作れたら良いのにな〜」

萩月の門人達は、空きが出ている寿区の畳敷きの部屋に移ったが、やはり不満があった。

地球から持ち込んだ電化製品は使えない。

このホールにも音を出す魔道具が有るが、デカくって、とてもじゃないが持ち運び出来るようなものではなかった。

そんな中、門人のカセットテープレコーダーが壊れた。

貰って分解してみてスピーカーの構造を調べる。

薄い紙みたいな物が震えて音を出すんだ。

薄い魔石の膜を作って振動させてみた。

甲高い音が出て耳を思わず塞ぐ。

それに細かな【陣】を書き込み、工夫を凝らして作り上げた指先程のスピーカー。

後は簡単だった。

音楽を覚え込ませた小型の魔石板に、小型スピーカーを組み込んで音楽を聞かせる。

萩月の門人からカセットテープレコーダーを借りて、音楽を覚え込ませる為には静かにしておく必要があるが、【遮音】の魔道具を使って、その為の作業台を作った。

魔石板で映像と音を出せる魔道具は存在しているが、公的な使用に限られていて、入手するには多くのポイントが必要で魔素の消費量が半端ない。

音楽だけで有るが、安い材料と低品質の魔石を薄く伸ばして作りあげ、音源のコピーも請け負い工房は表彰された。

農作業に出る人や、子供への読み聞かせ、託児所でのお遊戯。

カセットテープレコーダーに代わって重宝された。

用途は広がった。

こうなると、同年代の弟子も下に着き、一緒に道場に通い工房で働く。

成人前には、工房でも貢献度一位になる。

やっと収入の半分が自分の自由になる。

そして、その金額に驚く。


(ウチの親。どんだけピンハネしていたんだよ! でも、無駄遣いしていなかった。

あの、ボロ家のままだったしな)


酒を持って行くようになり、萩月の門人達との交流も頻繁になる。

色んな物を見せてもらい魔道具の参考にした。


(この頃は楽しかったなぁ。仲の良い女友達も出来て・・・・・どうしているかなぁ〜)


もう、ルースの岩場に行って海を見る事をしなくなった。

ヨット教室のヨットでは手狭になった。

食い物屋は南の岬の居住区に有り、ポイントさえ渡せば酒を出してくれる。

俺たちは知っていた。

南に続く馬鹿蔦の下を潜れば、外洋が見れて浜に降りれる場所が有ると。

休みの日はみんなで、その浜に出てふざけていた。

ここは海が深く、潜ると魚やサザエが獲れた。

だが一歩でも、この浜の外に出ようとすると【転移陣】を使って監視人がやって来て注意を受けて、ポイントを取り上げる。


(なんで、そこまで自由を奪う!)


そこに有る一本の見えない線が、【障壁】に見えた。

そして、それが未来を閉ざしている様に見えた。


(ここに、船さえあれば、俺は自由になれるのに・・・・・)


それでも、この場所は外にさえ出なければ、人の目を気にせずにいられた。

そんなある日、砂の中に変な『銀の筒』を見つけた。

付近を探すと、もっと有る。

筋が入っているが、どうしても開かない。

有るだけ集めて帰る事にした。

その光景を、浜の子供に見られた。

俺たちが入ってはいけないと言われている岬の先に、馬鹿蔦を潜って行くのを見てつけて来たみたいだ。

サブリーダーが脅して口止めした。

五、六歳の子供には、成人の熊獣人や犬獣人達は怖かっただろう。

持ち帰り工房で調べても開け方がわからない。

休憩時間で有ったが、遊んでいるとしかオヤジさんには見え無かったんだろう。

休みの日を与える事は、法で定められているのに。

『お前達は全員揃って休む。注文は、ひっきりなしなのに!』

オヤジさん!休み時間も働けと言っている?

遂に諍いを起こして、俺たちは工房を後にした。

そりゃそうだろうさ!

この頃には、工房のポイントのほとんどは、俺たちがこさえるアクセサリーか魔道具だった。

見返りが少なかった。


空き工房を借り受けて再出発をしたが、材料を抑えられた。

嫌がらせだ。

『材料が無ければ、その内干上がって頭を下げて来るだろう。

そうしたら、配分率を下げる書面にサインさせてやる』

元の工房主の考えが透けて見える。

追加注文も断る事なく、受け付けていた。

誰が戻ってやるものか!


前から、友人から頼まれて持ち込みの材料で一品物のアクセサリーを作って渡していた。

お代は材料と、食料に酒だ!

同じ事を手広くやる。

街で若者を中心に声をかけて、材料と食料や酒との交換で一品物を作り出した。

自分だけのオリジナルで、日本の雑誌や漫画から好きな絵を魔石板の背面に書き入れてやる。

その他の機能を付けて、完全に差別化した。

アクセサリーも、注文主が持っている魔石や珊瑚、思い出の品を組み込んだ。

もちろん、名入れもするし髪飾りも、姉妹揃ってのお揃いを作ったりもする。

だのにポイントは、今までの物と変わらない。

前の工房は注文も捌けずに、材料を抱えて商売変えした。

でも、俺たちに仕掛けた事が知られて、注文も入らない。

逃げる様にウルマに行ったらしい。


そしてアダルトビデオ。

『傀儡使い』が魔石の魔素を使って、全裸の女性が艶かしく動くベッドスタンドは闇値で捌けた。

コイツが当たりすぎた。

ヘルファーすら入手できた。

今まで数度しか加工をした事がない貴重な金属だ。

必要分を使って、残りを修理用として預かりをする。

有る所には、有るもんだな。


それからも次々に産み出す新製品。


浜で見つけた変な海藻。

調べてみたら、魔素を入れ干し上げれば燃えた時に、とんでもない匂いを出す。


「これがベスダミオ(V)の素か〜」

調べてみると、このベスダミオの匂いの素を液状で抽出したのは、ウルマに住む老人達で魔道具狂いと解った。

ウルマの工房に連絡を入れると丁度相手も、小型スピーカーと小型バーナーに興味があるらしく、二つ返事で見学を受け入れてくれた。

手土産に、スピーカーと音楽再生の魔石板そして小型バーナーを渡す。

海を見れる工房で、作業場を見学する。

「いい場所を作業場にできたんですね。羨ましいです」

俺は、本気で引っ越してきたい思ったね。

昔多くの一般人が、術師を名乗る女に閉じ込められていた場所で、誰も借り手が付かなかったから、自分達が工房にしたと話してくれた。

その中で知る『麻薬』の事 女を、その気にさせる『あの薬』

だが、年寄り二人は自分達が住まうこの大陸では、麻薬の素になる草は大人達が刈り取ってしまったと言った。


(面白そうなのにな〜)


聖地では、女とそんな関係にはなり難い。

アーバインの風習と狭い社会という事で、日本の漫画の様にはいかない。

すぐに『嫁取り石』を要求される。

もちろん、そういう事が好きで酒と食事の代価に合わせて、自分の身体を付ける女も居る。

しかし、そういう女は、若造にはポイントが高すぎて、稼ぎが多い彼らでも毎日とは行けない場所だった。


そんな馬鹿話をしながら酒を酌み交わす内にチャンスが訪れた。

遂に酔い潰した。

明日も、指導を受けるから聞き出せるかも知れないが、怪しまれるのはごめん被る。

何せ、この二人は、あの『ルース』の義兄達なのだから!


抽出方法は解っているが、実物の器材を見ておきたい。

置かれているだろう抽出用の液体と、魔石を見れば温度が推察できる。

工房に、二人がいる間なら、どこでも開くように設計された【遮蔽の扉】

緩い管理だ。

聖地でこんな管理をしていたら、抜き打ち検査を受けて営業停止だ。


俺たちはベスダミオの器材の詳細と、その工程まで知る事ができた。

他にも参考になるような物を探してタイマー機構の魔道具まで入手した。

コイツは助かるぜ!


翌日からも、しばらく、色んな手解きを受ける。

そんな中、俺は恩師の九鬼修造が手がけている造船所の見学を申し出る。

ここで、材料を切り出しして組み立ては日本だが、デモ用の船体が見る事ができた。


島には、あの九鬼修造が監修した大型造船場の計画がある。

島の木材を、使って外洋に出る為の船を建造する。

創芸師の兄弟の(つて)で、目にした設計図と完成予想図。

それだけでは無い。

大きな縮尺で組み立てられたミニチュアと言うには言葉が過ぎる。

目が離せずにいつまでも眺めていた。


何度も、夢見る船がそこに有った。

「リーダーが、仕様書の端っこに描いているやつにそっくりですね」

「あぁ、アレが俺の工房の証だ」


(あぁ〜あのままウルマに残れば良かった)


それから、魔石の交換と音楽ソフトの交換に合わせてイタズラを仕掛けていく。

特に裕福な連中が注文してくるベッドスタンドの傀儡は、男女が絡み合う様な物も付けて中にベスダミオを仕込んだ。

どれくらい効くのかは解らないが、抽出した分を、そのまま封印した。

漏れたベスダミオで、作業台に臭い取りに入れた白魔石の砂が使い物にならない。

(俺たちを、馬鹿にしたら起動させてやんよ)

他にもいくつも作ったベスダミオを、様々な魔道具に仕込む。

残して置いても捨てることすらできないし、収納に仕舞うのも嫌だ。

こうして、歪んだ技術が遂に、あの『銀の筒』の謎を解き明かした。


キッカケは、手下の甥っ子、姪っ子の為に作った背負いバックだ。

お手拭き用のタオルを仕舞う部分に、日本から送って来た銀の粒を埋め込むと、磁力で引き合って蓋が閉まる。

そんな粒が入手できた。

「面白いな」

「口にしないでくださいよ。危ないらしいですから」

「そうか、それじゃ、飛び出さない様に皮で覆うか?」

物作りは、丁寧にする。

皮細工が得意な男が写真を参考に、白いペルシャ猫のバックを作っていく。

今、ウルマや聖地では、ペルシャ猫が流行りだった。

サブリーダーが『憎めない人だった』と言うハンが、ブリーダーをやっている。

ウルマにいる時には、サブリーダーもハンに会いに行っていた。

男の子には黒で仕上げて置いた。

そんな作業がひと段落して、休み時間にあの金属の筒を取り出し、くっ付くか試して見たが磁石は張り付かなかった。

「鉄じゃ無いんだな〜」

それでも、あっちこっちに当ててみていると、微かに手の中で銀の筒から衝撃が伝わって来た。

「うん?」

同じ場所に、磁石を当てるとやはり手に振動が伝わる。

こうして、日本から送って来たペンでマークをつけていく。

「オイ!悪いがこういった形の物を作ってくれ!大至急だ!」

磁石を使ったロック機構がこうして外されて、中から白い粉を納めたガラス管が出て来た。

「何だこりゃ?」

「ここまで厳重にしてあったんだ。価値が、なきゃこんな事はしないさ」

「リーダー ウルマで聞いた【あの薬】じゃ無いですかね?」


一番下っ端が、呼ばれた。

コイツは、今朝まで徹夜していてヘトヘトだ。

あの話通りなら、ちょっとばかし、ジュースに溶かしてやったら元気になるはずだ。

「お疲れの様だな。

ほれ、萩月の門人から貰った元気が出るジュースだ。グビッとやっとけ」

「ありがとうございます」

その前の日も、遅くまで宴会に付き合って、その後も今朝まで急ぎの仕事が入って寝ていない下っ端は、何の躊躇もなく一気に飲み干した」

「ふぅ!」

「どうだ!元気になれそうか?」

サブリーダーは、白魔石を手に握り込んでいる。

もう一人はいつでも、下っ端の腹に一撃喰らわせて吐かせる準備をしている。

「あぁ〜目が覚めて来ました。・・・・・アレ?」

「どうした?」

「イヤ・・・・・・なんですかね?

徹夜明けのせいか、む・・アッチの方が収まりがつかなくなって大変なんですよ!

部屋に、戻って良いですか?」

「いや待て待て、そんなに元気なら、【お食事】に行って来い。

徹夜までして、仕事をあげてくれた『お礼』だ。

ポイントなら出してやる。ほれ!このカードを使いな」

俺は、作業所のカードを出した。

コイツには、そこそこのポイントが入っている。

「えぇ! 【お食事】って、あの〜女性が食べさせてくれる所ですよね?」

「何だ? 男の方が良いのか?」

「いえ!女の方でお願いします」

「ウチの名前をだしたら入れてくれる。

で、事を始める前に、コイツを二人で呑んでおけ!」

と、2本の先程のビンを渡した。

珍しいから『飲んでみるか?』と言えば絶対に飲んでくれる。

今、元気良いんだろう? これでバッチリさ!」

そう言って手下を放り出した。

慌てて走っていく下っ端。

「オイ!見張っていろ!」

「オレも、行って良いですか?

しょうがないなぁ〜 お前には無しだぜ?」

「解っていますよ。

足がついたら、堪らないですからね」

「ビンを回収しておけ。良いな!」

こうして、見張り役が隣の部屋に入って様子を伺って帰って来たのは翌朝だった。

「どうだ?」

「今日も、帰ってこないんじゃ無いですか?」

「ビンは?」

「この通り。何しろ、俺が入って行っても、お構いなしでやっていましたから」

「ちょっと量が多かったか? 狂わなきゃ良いがな?」

「そりゃ、怖いですね」

こうして、どうやら【あの薬】だと確信した。

こうして、薬を使って悪さを続けた。


ごく少量の薬を、酒に溶かして飲むと良い夢を見る。

ルベルの鉄の船は、どんな波が来てもヘッチャラで、映画で見た様に帆を張る事も無く嵐の海を突き進む。

あのルベルの長身の女二人に、何故かそそられる『何でも屋』の猫獣人。ミサ?

それ以外にも、女がかしずいている。

「どうだい? お前に、この船をやるよ。

お前は、ルベルの友人だ。

ルベルの、女も連れて行け。

薬も酒も渡そう。友のお前にならいくらでも、何でもあげよう・・・・・」


(お前、顔はどうした? のっぺらぼうじゃ無いか?)


(なんか変なの居たが、良い夢だ)


目が覚めたら。いつもの部屋だ。

下からオフクロが怒鳴る声がする。

オヤジが、又何かやったみたいだ。

やっぱり、工房の隣の家を借りよう。

もう懲り懲りだ。

その日から、工房の連中は家に帰らなくなって俺と一緒に住み出した。


(アレも、面白かったなぁ〜)


誰も迎えに来ない。

一番下っ端の元には、あの日相手をした女がしばらく遊びに来たが、どうも納得いかなかったらしく、下っ端は尻をさすりながら工房に出て来た。

「何だ、昨夜も、お励みじゃ無かったのか?」

「それが、俺もアイツも最初の日ほど燃えなくって尻を摘まれて、この様ですよ」

「あぁ、それは残念だな」

「何で、ですかね?」

「徹夜したせいだろう? それと、あの清涼飲料じゃ無いか?」

「そうなんですかね?

でも、もうしばらくは良いです。仕事が溜まってます」

「アッチは、空っぽだからなぁ〜」


チラリと目の隅に人影が見えた。

姿を隠しても足元の影には気付かない。

背後の光源を動かしたのにね。


今日は、もう一つの実験をする。

【遮音】の魔道具を二重掛けして、タイマーで大音響のスピーカーから音を断続的に出す。

音の数に合わせて、次々に起動して破裂する魔道具。

「どうだった?」

「それぞれ、設定通り。順番も回数もピッタシですよ」


(やっぱり俺は天才だ)


この頃にはサブリーダー達も、聖地の暮らしに飽き飽きしていた。

奴は、過去に悪さをしてウルマのハンに預けられた過去がある。

冬の海での牡蠣の養殖作業だ。

網を引き上げて掃除をする。

牡蠣の鋭い殻で、身体には細かな傷が付く。

『身体強化』で何とか防ぐが、それでも気を許すと怪我をする。

だが、ハンは憎めなかったそうだ。

俺も会ってみたかったが、寒いのは苦手だ。


そんな話をしながら、新しく出来た居酒屋でタダ酒を飲む。

同じ世代の人族の三人。

サブリーダーが、ウルマのハンのところで知り合った。

牡蠣の加工場で働いて、牡蠣の料理を学んでいた。

練習台で、色々と食べさせてもらったそうだ。

「牡蠣は飽きた。他に無いのか?」

焼き鳥や焼き魚が出るが、何だかつまらない。

「思い出した!

あの、映画みたいに炎をあげる料理やってみようぜ!」

こうして、高出力バーナーが渡された。

ただの遊びだ。

出来上がった料理は、炭になっていて、とても食えるもんじゃ無かった。

それから、しばらくは店に行かなかった。

他に行く場所ができたからだ。


「オイオイ、アイツら店を閉店させたれたぞ!」

「なんだよう〜」

「つまんね〜」

「仕方無い。浜に行ってみるか?」

サブリーダーが、偽造したウルマのカードを取り出す。

この頃は、転移陣で抜けた後は、このカードを使う。

コードはウルマで知り合った奴から、死蔵状態のカードを使って年齢を書き換えている。

抜かりは無い。

これも、映画や萩月の雑誌で見た。

上の連中は、日本のシステムを使うから改造できる。

思った通り、浜の食堂では問題なく決済ができて酒も買えた。

後はうろついて、女に声をかける。

アクセサリーを、見せると飛びついて来る。

聖地から物の流通は有るが、こういった物は珍しい。

珊瑚や浜で拾った綺麗な貝殻を使って、次に来た時にアクセサリーを返す。

これを繰り返して、気を許したら『あの薬』が入ったジュースを一緒に飲む。

後は簡単だ。


「なるほど、コレが『あの薬』の効果か?」

遅くまで女は、相手をした。

「リーダー! コレが秘密だったんですね?」

一番チッコイ女を、相手にしていた下っ端が喜んでいた。

「あぁ、そうさ。良かっただろう?

だが、家に帰さないとコッチが不味い。

さっさとふけるぞ!」

「次は【嫁取り石】で、ご機嫌を治してやるか?」


(アレも、楽しい一日だった。

そう言えば、・・・・・なんで、折角作った【嫁取り石】渡さなかったんだろう?)


「へぇ〜

何だか、昨夜はお祭りになったみたいだな」

「東郷食堂の孫の料理か?」

「タダ飯食い損ったな!

まぁ良いや。食堂が再開すれば、ちょっと脅かして配達させるさ」

「音楽魔道具でも渡せば、言う事聞くだろう」

「日本から来たとしても、住むのは寿区だろうからな。

電化製品使えないから、欲しがるさ」

「そう言えば、萩月の連中の魔道具のベスダミオ。量が多すぎだったかな?

逃亡する時用の、火炎放射器を追加して仕込んでおいたからな」

「バレたら、ルベルに逃げ込めば良いだろう。

向こうも、欲しがるさ」


今朝も、検察の野郎の姿が見えた。

「やっぱり目をつけられた?」

「飯屋の女か?

下っ端に、もう少し頑張って満足させたら良かったか?

仕方無い。逃げる準備をしておくか?

あの検察の色気ババアも、勘が良いそうだからな」

そんな話をしながら、浜へ行く準備をしておく。

【収納】に粗方荷物は入れてある。

大食堂に順番取りに行った下っ端が、大声あげて帰って来た。


(あぁ〜とうとう、この日か〜)


「何やってんだよ!」

「カードを没収されただと!」

「コイツは、裏にあの色気ババアがいやがる。

【陣】を抜けなきゃ、外に出れないのにクソッタレ!」


「お前が準備した方法で外に出るぞ!」

サブリーダーに、準備をさせた。

こうなりゃ、聖地の住民が人質だ。

あっちこっちに仕掛けて置いたベスダミオと発火装置に騒音板。オマケに発情薬!

あの『何でも屋』のミサに使えなかったのが心残りだが、あのチッコイ治癒師も向こうの大陸から来ている。

きっと同じ獣人が居る。

お前ら腹決めろ!」


あはは、もう息苦しさも無いや。

死ぬ間際には、一生を思い出すんだよな?

薬のせいか?

全部思い出せたぜ。

最後には、ウルマの帆船を思い出したい・・・・・載ってみたかったなぁ〜

風をつ か め・・・

俺は、ロビンソン!

九鬼のおじさん。

ゴメン・・・・・折角、いい名前付けてくれたのに・・・・・



長くなりましたが、内乱首謀者の最後の瞬間です。

本当に思い出すんですかね?


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