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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
503/929

502 それから 3-17 墓所

香織がスクープをクラスメイトに提供して、大騒ぎになっている頃。

朝一番の羽田からの便で残りの招待客が鹿児島の地に降り立つ。

一行は、そのまま城山のホテルに入り旅装を解いて挨拶を交わす。

その中に、高身長で映画俳優の様な夫婦が居た。

アレンとジェシカ、そして二歳の娘『ジェーン』


「いよう!アレン!萩月ご自慢の『柳葉』はどうだった?」

ホテルで朝を迎えた西郷卓也が、出かけ際に仲が良いアレンを見つけて声を掛ける。

「最高だよ!

ボス達から聞いて映像も見ていたけど、実感するともう、どこにも行きたくなくなったよ」

「でも、ジェーンは遊園地が楽しかったみたいよ」

「ジェシカも、楽しめた様だね!」

「もちろんよ!

でも、不思議な国よね。

あんなビル街に面した場所に『御伽噺のテーマパーク』を作ったり、近隣に何も無い場所に宿を作って、その風景とおもてなしだけで過ごせたりする。

つくづく感じたわ。

人間って欲張りね。

アーバインでも、作れたら良いわね!」

「あぁ、この子や今、隠れて住んでいる者たち。そして新たな隣人たちにも楽しんでいける世界を作りたい」

「えぇ、マリーにも!」


娘のジェーンは、眼の前の卓也に最初挨拶しただけで、目はロビーの大きな窓から見える桜島に釘付けになっている。

「お山が火事!」

卓也は、その言葉に初めて桜島を見た時の記憶を思い出していた。

「今から出かけるのかい? 明日は、祝いの日だろう?」

「あぁ、だから妹の墓にその報告をしに行くんだ。すぐそこなんだが?

一緒に、行ってくれるか?」

「あぁ、友人の妹なら是非一緒させてくれ」



洋樹と香織は、貴子とその母親が眠る丘の墓所に訪れていた。

多くの者が、先に到着していた。

中には初めて遭うルベルからの仲間もいた。


車椅子に座る館林 茜は、魔道具で振動を受けない様にして周囲を【遮蔽】で覆い気温を調整している。

もう、90歳を越えて居るが足腰以外は達者で食事も普通に一人で摂って居る。

それでも白美が、片時もその側を離れない。


城山の高台。

錦江湾を見下ろし、桜島が見えている。

長谷山の手によって設けられた墓地。

貴子の遺言で公園の様になっていて、柵に囲まれた桜の木の根元に一枚のプレートが残されて居る。

亮太の手による少女のレリーフ。


多くの人が集まっていた。

車椅子の茜の両側には常義とエリファーナが寄り添う。

亮太が貴子が身に付けていた青魔石を持って、レリーフの前に跪いてその髪飾りの上に置くと、貴子の小さい時から成長して、亮太のプロポーズを受けたシーンから、学生生活そして結婚式、出産、育児、そして、亡くなる直前のレーシングチームのユニフォーム姿が立体映像で映し出される。

歌声も彼女の声で、イギリスの詩の朗読にはエリファーナも声を合わせた。

この詩が収められた詩集の感想を交わしたのが、エリファーナにとって最後の彼女との思い出だ。

京優学園の図書館。

萩月常義が寄贈した詩集に残されていて、貴子はその詩を覚えていた。

四季を歌い、愛する人への想いを歌いあげた名もない詩人の作品。

「名は解って居るわ。メアリー王女よ。でも、詩の内容から夫に対しての詩で無いのが明らかなの。だから無名詩人よ」

「ですね。韻を含んでいます。季節の詩と恋心の部分に、その男性の名前が出てきます」

「気付いていたの・・・・・私も、気付いたのは夫と死に別れた時よ。こう言ってはなんだけど・・・・・やっと終わったと思ったのよ。その時にこの詩を見せて貰ったデュランから手書きの原本をね。

そこには、ハッキリと記されていた。

『愛』とね」

「・・・・・・悲しいですね」

「だから、私で最後よ! だから、王室は自由にさせるわ。私のこれからを見ていてね。私の友達。貴子」

「はい。エリファーナ!」

短い間だったが、自分の過去を話せた数少ない友人だった。

「いい場所ね。私も、ここで眠りたいわ」

「そうだな」

萩月一門。

その遺骨を使って【呪術】に使われる恐れがある。


墓所は萩月神社内となって居るが、実際には解らない。

貴子と、その母の遺体はルースの聖地で真道具を使って処理をした。

ここにはその一部が眠っている。


今日も、暑い日になりそうだ。



前日、香織の通う学園の学園長と理事長と学年主任に担任が城山のホテルの一室に呼ばれた。

東郷洋樹と西郷香織の婚約についての話で、五十嵐貴子の時と同様に公開する事にした。

五十嵐貴子の前例もある事と、婚約者の洋樹がNYの大学へ留学する事になっている事が理由となる。

まぁ、遠距離恋愛で間違いは起こらないし、噂が醜聞になる前に、相手の素性を公開しておいた方が周囲への影響が少ないと判断した。


その後、室内に呼ばれて挨拶をする二人。


学園長は車の中で理事長から伝えられた彼の人となりを聞いている。

成程、随分としっかりした青年だ。

間も無く18になるそうだが、そう見えないほどしっかりしている。

聞いてみると、早くから実家から離れて寮で生活をして他の道場にも通い、更にはアルバイトをして人に使われる事、使うことを学んだというでは無いか。

特に香織の担任にとって洋樹が通う学園は彼女が通った教育大の近隣で、ジュピターは馴染みの場所で彼女も学生時代に何度も利用していた。

『ハヤシライスかオムライスを食べたくなった』と、おもわず呟いてしまった。

驚いた事に、ここに居る学園関係者の中にも東京に出張した際には『ジュピター』で食事をすると言い出した。

記憶力が良い洋樹が学年主任を見て頭を下げた訳だ。

先月の各大学の説明会の際には、昼だけでは無く夕食もジュピターを訪れていて顔を覚えられていた。

『これからは、東京出張も受ける事にしよう』

そう、学園側教師の考えが一致した。


同席していた和也が香織に耳打ちをする。

香織の目が大きく広がり、頬が赤くなったが嬉しそうに何度も頷いた。


「明日、お昼を隣の実習用レストランでご馳走しますよ。

香織さんの同級生や友人。

そして、剣道部の方々もご招待します。

皆様に、我が息子。

東郷洋樹をご紹介する場にさせてください」


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