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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
502/929

501 それから 3-16 スクープ

おうおう、今朝もやっている。

坂を駆け下るミキは、国道を走る車の音に混じって聞こえて来る甲高く硬い音を聴き分けた。

神社の横を曲がると、国道の下に浜に繋がるアンダーパスが見えて、いつもこの辺りから、お巡りさんを呼びたくなる光景が見えるのだが・・・・・

ミキは、まるで艦載機が空母に着艦する様に左腕を伸ばして左手の楠の幹に取り付いた。


香織が、道路の下を潜った地下道の先の階段に腰掛けている。

だのに、木刀が撃ち合う音が聴こえる。

香織の、お父さんとお兄さん?

だが、どうも、違う様だ。

香織の表情が柔らかく、そう、今まで見たことのない表情をしている。

幸せそうだ。

携帯電話を取り出して、その姿を写真に収める。

昨日、通信会社に勤める父から渡され操作を習ったばかりだ。

「機械音痴の娘に操作方法を覚えさせて、使えるようになれば、これからのセールスに自信が持てる」

腹が立つが、事実だから仕方が無い。

そのまま数枚撮っていると香織が立ち上がりと同時に、「洋樹さん!」と声をかけて浜へ駆けて行った。

『洋樹さん?』

香織の口から初めて出た男性の名前。

何か言い争う様な声がして、しばらくしたら朝日を浴びながら香織のお兄さんが地下道を潜ってやって来た。


「おはよう!ミキちゃん!」

わぁ! 名前覚えて貰っている!じゃない!

「おはようございます!あの、香織は?」

「あぁ、脚を少し痛めてね。でも心配する事はない。

今日一日、無理をしなければ大会には充分間に合う」

「あぁ、良かった!じゃなくって!【洋樹さん】って誰ですか?」

「邪魔しちゃいけないよ。ほら!」

剣吾さんが指差す先には、背の高い男性と香織が階段で海を見ながら並んで座っていた。

しかも、香織の頭は男性の左肩にもたれ掛かっている。

互いの腰を、引きつけ合うようにして腕が交わされている。

「あわわ!」

「彼の事は、香織に聞いてくれ。近く私の弟になる男だ。

しかし、香織も大胆だな。

ミキちゃんに、気付いている筈なのに彼に甘えっぱなしだ。

まぁ、無理も無い。12年越しの恋だからな!」


去っていくお兄さん。


ナオに電話した方がいいかな?

でもそうすると、写真を撮れない!

あぁ!撮影可能枚数が少ない!

あぁ、香織が男性の胸に頭を押し付けた。

男性が香織を抱きしめて、こっちに気がついた。

思わず頭を下げてしまう。

香織が、コッチを見た!

やばい怒られる!

でも、ニッコリと笑顔を返して、又彼に抱きしめられにいく!

もう限界!

キスでもされたら私が倒れちゃう。

ナオの家に行こう。

ナオなら、この後どうすればいいか相談に乗ってくれる。

そう決めて、ナオの家に向かう為に、もう一度香織の方を見ると、お姫様抱っこされて香織がコッチに向かって来る。

「ミキちゃん! おはよう!」

「『おはよう!』じゃ無いわ!こ、この裏切り者め!」

もう一度シャッターを切って、ナオの家に駆け出した。

くっそ〜

剣道バカのくせに〜


「行っちゃいましたね? あれ、新発売のカメラ機能付きの携帯でしたよ?」

「後で、記念写真に貰っておきますね!」

「平気なんですか?」

「恥ずかしく無いかって事?」

「学校で噂になりますよ?」

「良いじゃない。今日、決まった人がいるって報告するんだもの。

貴子さんも、そうしてお祝いして貰ったわ」

「貴子さんか。お墓参りしておきたいな」

「そうね。この後、兄さん達が行く筈だから一緒に行きましょう。

もう少しゆっくり歩いてくれません?」

「あぁ、揺れましたか?」

「ううん。もう少し貴方の匂いに包まれていたいの」

目をあげれば朝日の中に【西郷医院】の看板が見えている。



ナオが、ミキから預かった携帯から、映像を父親のコンピュータに保存して映し出していた。

父親は設計技師で仕事柄、現場写真を流行り始めたデジタルカメラに撮っては自宅で保存している。

タイピングが苦手で、娘に手書きのノートを突き付けて入力を頼んでくる。

ナオの良い小遣い稼ぎだ。

「こりゃ、西郷さんのところの香織ちゃんか?」

お父さんが、取り込んだ画像を見て唸っている。

お母さんも、事務所に来て画面を覗き込んでいて口を抑えている。

こりゃ、夕方には町内に知れ渡るな。


「ミキ!この映像!どうやって合成したの?」

映像は荒いが、間違いなく同級生の西郷香織が見知らぬ男性に抱きしめられている。

「私に、そんな器用なことができると思う?」

「・・・・・・無理ね。

テレビの録画予約設定でも苦労する人には、新しい携帯で写真が撮れた事でもマグレに近いわ。良くやったわ!」

「それ、誉めていないよね?」

「それよりも、剣吾さんが『弟になる男だ』と言ったのよね?」

「えぇ、『洋樹さん』って名前みたい」

「地元の子じゃないわね」

「京都の学園の人かな?」

「違うと思うわ。そんな人が居たら鹿児島には戻ってこないわよ」

「あの家は、ミステリアスだからね〜」


「でも、中々の顔立ちじゃ無い?」

「香織とは、お似合いだわね」

「まさか、香織に男ができるだなんて」

「そう言えば、『12年越しの恋だ』ってお兄さん言っていた」

「12年! 三歳で好きになったの!」

「そうなるわね?」

「もう、運命でしか無いわね。でも、香織には臆したところがない」

「そう言えば、香織の叔母さまって、【剣吾命】のあの律子さんのお母様で、うちらの高校で一年の時に結婚してクラスメイトを結婚式に招待したって伝説の人よね?」

「えぇ、私のお母さんの従姉妹が、同級生で結婚式に呼ばれたわ」

ナオのお母さんがやっと起動した。

「そう、小さい頃にそれを聞いて羨ましかった。私も天文館の写真とパンフレットの写真は何度も見たわ。

可愛いし、綺麗だし、何より幸せそうな表情が良かった」

「今でも、城山のホテルの式場を予約できるかどうかが、新郎の甲斐性になっているからね」

私も、先に式場の予約を入れてから母さんにプロポーズしたのさ。ホテルのエステコースも予約したよ」

「私達も、香織の結婚式に呼ばれるかしら?」

「間違いなく呼ばれるわ。卒業式の後に結婚式になりそうね」


写真用のプリンターでは無いので、ミキの父親が働いている携帯ショップで印刷をする事にして一旦自宅に帰る。

流石に、ランニング用の短パン姿じゃ天文館に行くのは憚られる。

学校からの通知で明日の昼前に、登校するようにと連絡も入っていた。

何かあったのに違いない。

ミキは父親と一緒にナオと出かける約束をした。


カメラ機能付きの携帯電話が、普及し出した頃。

撮影できる枚数は極めて少ない枚数で、画像も荒かったですね。

当時の映像を保存していますが時代の流れは凄い。


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