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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
499/928

498 それから 3-13 覚醒

あれ? ここ何処だろう?

カーテンの隙間から見える風景から、ここが社務所の休憩室だと気付く。

テーブルのコップにはスポーツ飲料が残っていて、朧げに、そのコップの中身を呑んだのは覚えている。

記憶が蘇る。

寝息。

そーっと右手を伸ばすと、腰の辺りで短い髪に触れる。

その手は離れようとせずに、その主を触り続ける。


そうか、試合中に横面を受けて、そのまま気を失ったか?

でも、脳震盪を起こした時とは違う。

あの、不快感や頭痛が無い。

まるで熟睡した後の様だ。

身体を回してみるとベッドに椅子を付けて、剣道着のままうつ伏せに眠る彼が居た。

そうか、彼が運んでくれたんだった。


『そう、殿が抱いて運んでくれました』

『そうなの? 嬉しそうね』

『あぁ、どんなに、この時を待っていたか』

『そうね。私も、ここでまた会えると小さい頃から思っていたわ。今、その顔に触れていられる』

指は頬を撫で、その唇に触れる。

香織は自分の中に、彼を待つ女性がいる事を受け入れていた。

『改めて聴くわ。あなた誰?』

香織は、右手を洋樹の唇から外して自分の唇に触れさせる。

(しずか)。静御前と言えば解るか?』

『えぇ、源義経の妻。

でも、洋樹さんの中に居るのは織田信長様では無いの?』

『義経様は、私との縁をお切りになった。

生まれ変わり私が待ち侘びたのは【織田信長公】

あなた達も聞いているのでしょう?』

『えぇ、御堂での話を聴いているわ。

そこで、あなたが『転生する時には信長様の側に』と望んだ事は聴いた。

でも・・・・・』

『そこには、帰蝶様も居たのに? そう言いたいのか?

・・・・・人を好きになるのは、誰にも止められない。

私は、御堂で過ごすうちに変わっていく、殿の姿を見て心を惹かれて行った。

あの御堂の主が、何を思ってかは知らない。

私が御堂に囚われて、しばらくの間は義経様もおいでになった。

私は『輪廻の輪』に一緒にと思ったが、あの方は、毎日腑抜けになった様に部屋から出てこなかった。

あの御堂で何も成さず、話さず毎日、庭を眺めて消えて行った者は多かった。

そしてあの方も、同じ様に消えて行った。

帰蝶様や信長様、その他の方々は部屋から出て、この世界がどう変わっていくのかを興味深く見て、そして互いの知識、経験を交換されていた』

『それで、信長様が北辰一刀流をお使いになった訳ね』

『私も、帰蝶様から色々と学んだ。お前が使う高速の切り返しは短刀で身を守る不利を補う為のもの。

それを私は学んだ。

義経様は、只人として『輪廻の輪』に乗られたのだろう。

【事を成す事を諦めた】そう思える。

そんな、男を追う気にはなれぬ。

香織。どうじゃ? 

信長公の生まれ代わり【洋樹殿】は、大事を成す人では無いか?』

『・・・・・そうね。規格外なのは間違い無いわ。

あなたが居なくとも、会えていれば好きになったと思う。

でも・・・・・・』

『帰蝶様の、生まれ代わりの事か?』

『えぇ・・・・・・』

『彼女も、近いうちに現れて彼を求める。そういう約束じゃ』

『でも・・・・・』

『遠慮はいらぬ。そういう運命じゃ。

お主達は何処へ行く? 

殿は、あたらしい世界での旅を望まれている。

それに、日本の法律で妻は一人。帰蝶様に、先んずれば正妻じゃ』

『・・・・・解った』

『殿が、お目覚めの様じゃ。後は頼むぞ』


「ううん〜 つい寝てしまった。あっ!香織さん!大丈夫かい?」

「洋樹さん。よく寝ていたみたいね?」

「済まない。今日は、一日が濃いよ。

バイト先の送別会で、自宅に帰ったのが、今朝の一時過ぎ。

仮眠を取って、出かけようとしたら拉致られて大騒ぎだ。

オマケに、久しぶりに稽古までやった。

・・・・・・喉が渇いたな」

洋樹は、テーブルに置いたあった香織が使ったコップにスポーツ飲料を注いで飲み干した。

(間接キスしちゃった!)

『さっき、唇に触れた指を己の唇に持って行ったのを忘れたか!』

無意識に、やったことを思い出して顔が赤くなる。

「さて、いい加減にシャワーでも浴びて着替えないと晩飯に遅れるな」

「もう、そんな時間?」

確かに窓の外には夕闇が迫っていた。

香織は、ベッドから立ちあがろうとしたが脚を捻っている。

洋樹がベッドを降りそうになった香織を押し留める。

「もう一度、治療をしておいた方が良い」

『桃!』

『はい!』

『悪いが、【白魔石】持っていないか?』

『いいえ手元にはありませんが、道場の更衣室の前まで香織さんを運んで貰えませんか?

香織さんの、お母様をお呼びしておきますから』

『あぁ、解った』


単純な洋樹は騙される。

こうして香織を再び横抱きにして部屋を出る。


『香織とは、話が済んだ様だな』

香織の頭の中に、男の人の声が伝わってくる。

『はい。殿。香織も洋樹殿と添え遂げる事を約束してくれました』

『そうか、それは良かった。しかし、いい女になったな!』

『まぁ、殿!』

洋樹の腕に抱かれて接触しているせいか会話を楽しむ声が響いて来る。

二人は、赤くなるしか無い。

「香織さん。良いんですか?」

「はい。私は初めて会った三歳の頃から好きでしたから」

「それは・・・・・僕も惹かれています」

『そうじゃな! あのポスターにした写真は可愛いからな!』

『そうですの?』

『洋樹!持って来ているだろう?

学生証の中に、何枚か入れていたはずだ!』

「こ、こら!」

『香織!後で見せてもらうが良い。

こやつが、どれほどお前を好いているかがわかる。

犯罪的とも言えるがな?』

「仕方無いだろう!遠距離で思いを募らせていたんだから!」

「あ、ありがとう!」


信長様は、洋樹さんがこんな良い人に育つ様に見守っていらっしゃったんだ。

私の中の静様も同じ思いで・・・・・でも、アレ?

『私は、京都の街を歩く時に注がれる視線が嫌でした。

どれ位、・・・・・・叩き潰したいと思った事か!』

急に、大人しい静が思い出した様に言葉を荒げる。

『はぁ〜それで、あの行動を取らせていたのね・・・・・』

京都には【盗撮スポット】が幾つもある。

京都駅の大階段も、エスカレーターも角度が急だ。

観光地の石段には、盗撮用のカメラをこさえた連中が屯して、取り締まりの警察官も多い。

それに、相変わらず京優学園は観光地化していた。

そんな中で、咲耶に以前習った『指弾』でレンズを潰すのを『趣味』にしていた。

靴先に仕込んだレンズを潰すと、指の一本折れるかも知れないが『天罰』と思って容赦しなかった。

今でも、試合で訪れる他校の更衣室やトイレは、彼女が先んじて入室して潰している。

その考えが、洋樹にも伝わる。

「でも、釜さんのカメラ。良く潰さなかったですね?」

『何に使うかを知っていたから。

香織の事を思い続けて貰いたかったから見逃した』

それを聴いて、香織は更に真っ赤になって洋樹にしがみつく。


その姿は、しっかりと桃達が撮影していた。


更衣室で、香織をおろして桃達に預ける。

ぶら下げたカメラが何をしていたかを物語っていたが、ここは敢えて無視をする。


その頃、城山のホテルでは・・・・・・

「卓也! もう観念しなさい!

明後日の、婚約発表に追加するわよ。

二人の衣装は、用意させたから!

西郷家も、これで安泰ね。

式は、香織が高校卒業して直ぐにやるわよ」

ドンドン話を決めていく女帝様。

「ほら、こういう写真も有るんだから!今更よね?」

早速、現像された洋樹が香織を横抱きにした写真。

二人とも赤くなっていて初々しい。

最もカメラに気付いた中の人達が二人を揶揄って、赤面させているのだが・・・・


「はぁ〜

まぁ、他でも無い和也と尚美の息子ですし、認めない訳にはいきません。

ですが、やはり帰蝶様もいずれ一緒に添い遂げるわけですよね?」

「私は、二人とは思っていないわよ。

香織には、私と同じ様に多くの妻を纏める役割をして欲しいわ。

解っているでしょう?

あの、素質よ。

妻は多い方が良い。

剣吾や真吾も、そうであっても良いと思っているわ。

よく貴方が、美玖だけで済ませるとは思わなかった。

隠し子とかいないの?」

「居ません。身体が持ちません。

それに、私たちの時にはアーバインとの事を隠す必要がありましたから、日本の女性とのお付き合いは怖かったです」

「解っているわよ。許嫁を決めて地球に連れて来たのは、そのせいもあるからね。

でも、御堂の意志が働いている以上。帰蝶様が現れる。

待つしかないわね」



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