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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
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495 それから 3-10 七五三

一条の血を引く和泉に取り憑いていた【呪糸蟲の鞘】を剥ぎ取り、周囲を海水から塩を寄せ集めて身動きできない様にして封印。

更に封印の容器をも塩でガチガチに覆って、熱や光などのエネルギーとなる物を遮蔽。

その上で【転送】で、力の限り宇宙へ送り出す。

今、その物体は外宇宙へと移動している。

貼り付けた観察用の【天則の陣】からも、急激に鞘の中の呪糸蟲が消滅している事が観測されている。

生体エネルギーも熱エネルギーも得られない。

もちろん【呪素】も無い。

間も無く消え失せるだろう。


何度、映像を見ても破格の【魔素量】だ。

友嗣や沙羅達を中心とした主力メンバーが、魔石板の映像を見て舌を巻く。

「あの触手に相当『生命エネルギー』を持っていかれそうになっていたな」

「私なら、あの攻撃に耐えれなかった」

友嗣が、正直に話す美耶の肩を抱いて労った。

見つかっている【鞘】は柳達が陣を張り何本もの呪旗を立てて、時間を掛けて消滅させている。

柳と黄の一族も、映像を見て何かを考えている様だ。


他にも奇異に見える映像があった。

陣の外で【手印】を切り洋樹の行いを見守る女性。

ジュピターのママである悠子は半裸の姿で、万が一の時には自分の身に取り込んででもと覚悟を決めていた。

請代(うけしろ)

元は、室の一門で【術】が、そのまま家名になっている。

主の病や、受けてしまった【呪術】を身代わりに受けて、その身を滅する事で主人を護る。

使える者は、少なく使えば必ず死が待っている。

彼女は、洋樹と美耶が失敗した時の切り札として同行していた。

だが、洋樹は生体エネルギーを引き摺り出そうとした『呪糸蟲』の触手を【鬼丸】の力で、その触手を消し去って封印した。

「鬼を斬ったと言い伝えがある太刀だ。我と共に霊界に合った事で、尚更に、この世の物では無い物を斬れた」

と、全く別人の口調で答えた。


最も、それを使いこなせた洋樹の力量も大した物だ。

「本人は、信長様とシンクロした状態で余り覚えていない様です」

「しかし、大丈夫なのか? アーバインに行かせても?」

「むしろ、行かせてやってくれと頼まれました」

「麗子か?」

「阿国様ですね」

「予知の力か・・・・・次の運命の出逢いはアーバインか?」


沙羅は、昨日も奈良の石塔へ出かけたが、扉は閉じたままだった。

だが、額真が供える供物は消えて、代わりに手紙が添えられ続けている。

時折、頭に中に御堂の意志らしき者が沙羅への伝言を頼む事も有り時折それを伝えて来る。

ただ、手紙の中で巴は、己れの事には触れていない。


今日、書き置いた手紙に、信長が初めて顕現した事を伝えておいた。

そして、その洋樹をアーバインに送るとも、阿国も麗子の身体を借りて洋樹のアーバイン行きを推した事も書き置いた。

いよいよ始まると言うのに・・・・・まさか、・・・・・・私が死ぬまで逢えないのか?


こうして、洋樹のアーバイン行きが決定して、すぐ様『アドリア』に連絡が入る。

だが、洋樹はジュピターでの送別会で、まだ帰って来ていなかった。


「丁度、瞳と慧一が羽田さんのところへ、アーバインに送る荷物の事で、お邪魔しているから迎えに行かせるわ。

岩屋の陣は、彼に持って行ってもらいたいコンテナが集められているから羽田空港から民間路線を使ってね。

プライベートジェット(PJ)は、名古屋のメーカーから羽田家に搬出するコンテナの出発に立ち会って貰っているバッフィムさん達の送り迎えで空いていないのよ。

洋樹がいるから、空港でお土産買って来て良いわよ。

長谷山さんの、ところの学生や街の人たちにも、お裾分けしたいから宜しくね」


そう言う訳で、洋樹はアーバインへ行く事になったなど梅雨知らずに、下心を胸に国分寺の駅に向かっていた。


渡してある携帯電話の電源を切って『念話』に応えない。

元々、サトリの能力は低い。

彼の自室に入った、お巡りさんと諜報活動に強い自衛官が導き出した行き先は【海】

置かれた男性雑誌の特集記事から、『ナンパの妄想を抱いて出掛けた』とバレていた。

「しかし、良くこんな写真が撮れたわね?」

壁に張られた、テニスラケットを振る香織の写真。

まるでアイドルそのものだ。


駅ロータリーで繰り広げられた路上コントは、しっかりと記録されて亜美と尚美に送信されていた。

【流】道場のモニターで流される瞳と慧一の臭い演技に笑い、新幹線の中で尚美が腹を抱えて笑ったのはご愛嬌。


尚美が金沢へ向かったのも【流】の洋樹の道場着と海鮮類を岩屋へ持参する為だった。

「氷見の、ブリは冬に送ってやろうかね?」


羽田空港へ移動する車中では、

「僕は、来年からNYの大学に留学する予定なんですが?」

「どうせ、知識は十分積んであるんでしょ?

咲耶が言っていたわ、『アメリカの大学は、実績作りと派閥を決める場所だ』って。

アンタは、実績はアーバインでの生活とその日々の生活を、まとめれば良いそうよ。

派閥は、武田 豪のブレインで決まり。

豪さんは、将来の国務大臣、さらには大統領候補よ」


「そんな立場に、なっていたんですか!」

「あら、知らなかった?

でも、その忙しい最中、二組の婚約発表と貴方の激励のために、キッシン夫妻と一緒に来日しているわ。

他にも、各国の重鎮がいるわ。もちろん、お忍びでね」


「フランスやイタリアが、貴方を迎え入れたいと言ってきているわ。

私は、あなたにはアーバインで脩を支えて欲しいけどね。

貴方の中の人も、そう思っているんじゃない?」


車は、羽田空港のターミナルへ入るトンネルに入る。

「子供の頃から海をゆく帆船に、乗っている夢を良く見るんですよ」

「あぁ、そう言えば、御堂でもアーバイン儀を使って船での旅行や帆船に関しての話を、九鬼さんを交えて龍馬さんとアーバインで誰も知らない航路を探すって言っていらっしゃったようよ」

「えぇ、帆船や航海術がお好きで九鬼さんが、色々と揃えてお渡ししたと聞いています」

「その身の中に『織田信長公』がいても動じなかった?」

「小さい頃から、・・・・・家を出る前から気づいていました。

夢の中で、同じ歳位の少年が言うんです

「家を出よ!外から見れば、家族の大事さがわかる」

そんな事もあって、家を出ました。

間違って、いなかったと思います。

いろんな経験もできましたし、学ぶ事ができた。

父の作る料理は、美味しいし美しい。

素材を生かして、食べる人をよろばせてくれる。

でも、僕はお母さんが作る毎日の食事の方が好きだ。

ジュピターの、食事がそれを教えてくれた。

今、手に入る食材を使って笑顔になる。

だから、わずかな間でしたが、修行の場所をジュピターにしました」


羽田空港に着くと、星里家や羽田 毅とその家族、九鬼修造の息子達も顔を揃えていた。

みんなが、洋樹の肩を叩いたり抱き締めたりしてくる。

大事に思って貰っている。

だがそれも一瞬だった。


羽田空港には、東京近郊だけでは無く日本全国、世界各国の土産物が揃う。

沙羅の頼みもあって、空港の売店で買い占める様に土産物を購入していく。

今回は、岩屋神社が出してくれる。

もちろん持ち込み量を遥かに超えるので、運送業者に持ち込むと言いながら洋樹の【収納】に放り込む。

雅樹も、恵梨に引きずられて時間ギリギリまでウィンドウショッピングを楽しんで、やっと搭乗ができた時には二人ともくたくたになっていた。

雅樹は、洋樹ほど【収納】の大きさは大きく無い。

どちらかと言うと小さいが、器用にも数個同時に開く事ができる。

脩と同じ能力だ。


鹿児島空港に着くと萩月神社からの迎えが来ていた。

北海道からの便、羽田からの次の便、大阪からもやって来る。

聞けばアーバインからも客人が訪れていて、各地を回っているそうだ。

何人かは、しばらく残って日本で学ぶらしい。


岩屋神社で、買い込んできた土産物を出していく。

本当にくたびれた。


社務所を出て裏の林の石畳を歩く。

「ここも、久しぶりだな」


5歳の頃に雅樹を抱いた両親と来た事があるだけだ。

だけど、見覚えがある石段と社の前に出た。

『あぁ、そうだ七五三のお祝いを兼ねてやって来たんだっけ?』

両親も、日本の風習には詳しく無く、同行してくれた九鬼さん達に聴きながらだった。

幾ら萩月一門のサポートがあるとは言え、神の存在が無い世界から来て萩月の神に祈る。

萩月の神は萩月一門の始祖『孤月』を祀ってあるが、実際は妖狐『柳葉』の間に生まれた『萩月 巴』が御祭神で、無数の尾を表した円を背負った白い狐の姿で描かれて、その左右に萩と白美が控えている。

先日まで顕現して居た巴が御祭神で有る。

『今、巴様は御堂で何に変わろうとなされれいるのだろう?』

これは誰しもが思う事で、霊界と違う裏高野の御堂の意志が解らぬまま時が過ぎている。


巴様は、人になられるのかなぁ〜

そう思いながら、境内を歩く。

「東郷さん?東郷洋樹さん?」

声をかけられて、横を見ると美しく成長した香織。 

【西郷香織】が居た。

「香織さん! お久しぶりです。二年前は、済みませんでした!

お元気そうで何よりです」

「洋樹さんも・・・・・あの時は失礼な事を言ってしまって申し訳ありません」

香織が頭を下げた。

「いいえ。あれで目が覚めたし、踏ん切りがつきました。

出来る事は逃げずに、やってみようと思えたのです。

なんと言って感謝すれば良いか、わからないくらいです。

ありがとうございました」

「・・・・・・洋樹さん。本当ですか? アーバインに行かれるとか?」

「僕も、良く分からないんですよ。

今朝、聞いたばっかりです。なんでも、今回、ルースとウルマの環境整備の設備を入れたコンテナを運ぶ為に僕の収納を使う様です」

「それなら、直ぐに帰って来られるのですか?」

香織は、どうしてこんなに感情が昂っているのか解らなかった。

ただ、『自分もついて行きたい』

そんな感情が込み上げてくる。

「それは何とも、今、その打ち合わせを皆さんでされている様なんですよ」

「本人の、意向も確かめずにですか?」

少しばかりむくれている。

可愛い。


「そうなのですか。洋樹さん。私、お母さんに聞いて思い出した事がありました」

「?」

「私達、十二年前に、ここで会っていたんです」

「エッ!」

七五三の時に、七五三を迎えた子供達を集めてお参りをしたんです。

私3歳の時に、ここで洋樹さんと会って一緒に写真に写っているんです。

今日、会えると思って焼き増ししてもらいました。

良かったら貰ってください。

これです」

香織が、取り出した写真。

確かに、晴れ着を着た二人で写っている。

「あぁ、そうだった。この、石段か!」

「そうなんです」

「ここで、こうして並んで写っているんです。

良ければ、一枚撮って良いですか?」

「良いですけど?じゃあ、」

洋樹が【収納】からカメラを取り出してこう言った。

「桃、葵、居るんでしょ?」

「ほら、やっぱりバレた!桃ちゃんの下手くそ!」

「エッ!どうして?解ったんですか?」

「香織さんの気配に合わせたつもりでも、紬みたいには隠せて無いよ。それに、桃の気配は子供の頃から知っています」

「だって、ナナちゃんは太陽の家族が来るからって空港に行っちゃったから、香織さんのガードが甘くなっちゃう!」

「はいはい。言い訳はそこまで、じゃあ、お互いに写真を撮っておこう。二人には、もう一台コンパクトカメラも渡して置くから、みんなを撮ってあげて」

二人で並んで何枚かポーズを変えて、フィルムに納まる。


「現像は、城山のホテルに出せば天文館通りの写真館に出してくれるから大丈夫よ」

「洋樹さん!香織さんの写真のコレクションが増えますね!」

「ここ、こら桃!」

「知っていますよ。釜さんに【式】で撮ってもらったんでしょ? 後で、私にもくださいね!」

「あはは、つい、釜さんに乗せられちゃって!」

「でも、今日は、湘南の海にナンパに行こうとしたんじゃなかったかしら?」

「・・・・・桃。裏切者!」

「・・・・・」

「いや〜!香織さん。ナンパなんかじゃ無くって・・・・・実際に女性とデートなんしてた事無いんですよ!嫌だな〜本気にしないでください」

「(・・・・・・どんなに、他の女性と戯れられても構いません。ただ、私と帰蝶様を愛していただければと思います!) エッ! 何今の!」

「帰蝶?」

桃が、その名前に気付く。

「そうか、静か?」

洋樹の、口調が変わる。

「わぁ〜・・・・・・」

駆け出して行ってしまった。香織。

「洋樹さん。帰蝶さんと静さんって・・・・・・」

状況が飲み込めない葵。

「桃は、知っていたのだろう?」

「尚美様と沙羅様と巴様が、お話ししていたのを聞いたことがあります。洋樹さんが織田信長様の生まれ変わりで、香織様が恐らく静様の生まれ変わりと・・・・・・」

「巴様か・・・・・・、もう少し話をしてしたら良かったのか?」

「それは無いと思います。巴様は洋樹さんとは距離を取っておこうとされていました。余計な情報を入れるよりは運命に従って引きつけ合えれば良いと思われていたのでしょう」


『洋樹! 香織の事頼むわよ。今、社務所で震えているわ』

『沙羅様。僕達は、ずっと意識の中に信長様や静様を持ったままなんでしょうか?』

『それは無いわ。巴からの手紙にはアーバインか地球で御堂で再会を誓った者達が集まったら、個々に、その意識は消えていくそうよ。あくまで皆が揃うまで残っているだけよ。出雲阿国は麗子の中にいるし』

『そうですか・・・・・・、久秀、光秀、謙信、そして龍馬か・・・・・・そして、帰蝶』

『帰蝶さんが早いと思うわ。女としては、もう成熟しているから子供が産める年齢になったら目覚めるのじゃ無いかしら?』

『僕は、覚醒が早かったから一人暮らしを始めた?』

『信長様が家庭に恵まれ無かったのと裏腹に、貴方には、その家庭に埋もれてしまわない様に信長様が自立を促した?』

『ふふ、じゃが亜美と母の闘う姿に恐れ慄いたのは事実じゃ!』

『・・・・・・だそうです』

『何? 信長様、みんなにバレたから挨拶代わり?』

『久しいな沙羅よ! そうじゃな! この際だ!卓也とその息子の剣吾。そして真吾と剣をあわせてみたい!洋樹の実力を知っておきたい』


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