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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
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491 それから3-07 傷痕

店の中に、こんな階段があるとは!

先頭から、木場、洋樹、和泉、美耶、悠子の順で降りて行く。

電線と照明を付けた跡があるが、今は光るパネルが嵌め込まれていた。

アーバインの『土の術』による強化もされていて不思議と恐怖感は無い。

「ここ、丘の上ですから、結構深く地下に入って行っているんですよね?」

「あぁ、戦時中の物だ。【天測】は、知って居るだろう?」

「えぇ、木場先生と昴先生が使えると言う、あの昼でも星が見えたり、コンクリートの建屋の向こう側の様子が影になって見えると聞いています」

「それを、軍部が狙った。人間レーダーだからな。

私の祖父や父は『月夜石』も無く『魔素』も無い。

そんな状態で術が使える訳がなかったが、陰陽師を知らない連中と一部の陰陽師が手を組んだ。

それから逃れる為に、この逃げ道を作ったんだよ。

ジュピターの近くにある公園を知っているだろう?」

「僕がジュピターの匂いと音を聞く為に、過ごしていた小さな公園ですね?」

「あそこが、東京に有った木場家に繋がる一族の自宅跡だ。

そこに匿わられていた。

力を貸したのが【上】

上羽 崇さんの、お父様にあたる方だ」

「もしかして、軍部に手を貸したのは?」

「あぁ、一条だ。一条は【天測の術】を手にしたかった。

彼らは【真力】に代わる力【呪素】を使う事で、それを使えば【天測】が使える様になると軍に吹き込んだ。

大陸や南の島々への侵略は、柳や黄の一族が隠している【呪旗】を強奪する為でも有る。

そして、私の祖父、父に【呪核】を仕込もうとしたんだ。

ここだ」

階段を降り切った木場が、扉の横のスイッチを入れると中に書斎が広がっていて奥にはベッドも有った。

「和泉仁志君。そこに掛けたまえ」


和泉は、前を行く二人の会話が、なんの事だか分からなかったが傷が疼くのは感じていた。

勧められた椅子に座ると同時に、その足元に【陣】が浮かびあがった。

「これは?」不安がる和泉。

「心配する事はない。

アニメなんかで知っているだろう?

『結界』みたいな物だ」

和泉は、両手が肘掛けに張り付き、腰も足も動かない事に恐怖を覚えた。

それどころか、今では声も出ない。

頬の傷が、さらに疼く。

【天測】を使って、和泉の身体の隅々を診ているのだろう。

木場が、最後に顔の傷を診て頷いた。

「洋樹君、和泉君の傷に触れてくれ。傷口に沿ってだ。

ただし、指先に【障壁】だけは張ってくれ」


指先に、全ての侵入を防ぐ【障壁】を張る。

洋樹は、その言葉で理解した。

この傷は【呪術】の一種。

洋樹は、指を耳の方からなぞって行く。

唸り声が聞こえる。

和泉の、目つきが変わる。

牙さえ、剥き出しになって来た。

噛みつこうと足掻く。


「解ったかい?」

「えぇ、【呪糸蟲の鞘】です。丁度、豆の鞘の様に無数の呪糸蟲が蠢いています」

「一条が、仕掛けた地雷、時限爆弾だ。

もしかしたら、一条もこの事は知らないのかもしれない。

ただの『宿主』にしか過ぎなかったのかも知れないな。

一条に繋がる資質を持っている人間を襲う。

彼の父方が一条の一族の末裔で、その中に萩月の血も混ざっている。

和泉家は、かなり昔に在野の陰陽師となり今に至る。

事故の原因は父親の居眠りとされているが、この呪糸蟲が憑依する為に運転席の窓から飛び込んで、助手席で寝ていた彼の右頬に取り付いた。

父親は、見ていないだろうが後部座席の母親と妹は、その光景を見たそうだ。

彼の耳の下から潜り込む、この大きな【呪糸蟲】を。

だが、体内には取り込めなかった。

一条の血と萩月の血。

それが彼の根幹にあって、鬩ぎ合いをして【呪核】となる事を防いでいる。

だが、時間が無い。

彼の抵抗が、もう持たない。

頬の傷は消えるが、彼の身体に入り込む。

そうなれば、彼の中に【呪核】と【呪糸蟲】を生み出す睾丸が形成される。

そうなっては、呪糸蟲を撒き散らす存在になるだけだ。

その時には、彼には残酷だが死んでもらうしかない」

「そんなのが、まだこの日本に残っているんですか?」

「あぁ、私達も油断した。忘れた頃に孵る。

今、黄家と柳家の助けを借りて全国を探している。

四つほど見つかっている」

「嫌な話ですね?」

「あぁ、最低だ。ただ、今のところ取り憑かれたのは彼だけだ」

「なんで、母親や娘じゃ無く彼だったのですか?」

「性的な、成長過程にあるかどうかだよ。

直ぐに勢力を戻したかったんだろう。

12歳の彼と7歳の妹。

どちらが、先に性的に成長し性行動をとれるかだ」

「まるで、意志がある様ですね」

「意志というより生物の本能だ。

だが、知っての通り生き物でも無い。

その正体が、解らないんだ。

だが、人類にとって危険すぎる。

一条も、最初はこうして取り憑かれたんだろうな。

何か文献でも残しておいてくれたら助かったんだが、篤も、そんな物は無かったと言っている。

それに、こうして、一条の血を受けている者を狙ってくるんだ。

篤や彼の娘は、もう日本に戻ってくる事はしない方が安全だろう。

今、和泉の家族はアメリカに行く手筈をとっている。

もちろん、向こうにも忌み地は有るが今のところ呪糸蟲や呪核持ちの報告はない」

「でもどうやって、駆除するんですか? 切り取るんですか?」

「言っただろう? 憑依しているんだ。

切れば、その傷口に移るだけだ。

V字にカットするのが普通だが、その傷口に移る。

そうなれば、更に体の奥底に沈んで行く。

火で炙っても、レーザーで焼いても同じだろう。

『生体エネルギーや熱エネルギーを吸収する』

そんな研究結果が、過去のデータでわかっている」

「では、海水で呪核を持った者が死んでいったのは?

マスクをかけて、塩水に浸ければ大丈夫じゃ無いのですか?」

「アレは、『呪核持ち』だけだ。

それに、命を奪っている。

呪糸蟲には効かないよ。

現に女達を塩風呂に入れたりもしたが、呪核を持った男たちの様に死ぬ事はなかった。

海水が、呪核持ちを殺す。

その理由はわかっていない。

消えてしまうからな。

溶けてしまうか、突然、爆発するか、溺死してもしばらくしたら、その死体が消えたんだ。

呪糸蟲には効いたが、この鞘の中にいる状態ではルナ達の唄も効かないんだ」

「ではどうやって? それにどうして僕なんですか?」

「『飛ばせ!』 そうだな、月より遠くへ!

そこの【ガラス瓶】

知っているだろうが、魔絹糸が砕けた後に残った砂で焼き上げて、更に青魔石で陣を描いで有る。

その中に、転送して遮蔽と保護をかけて宇宙の遥かなたに飛ばしてくれ」

呪糸蟲は、魔素は吸収しない。

真力は、吸収する。

だから、生命エネルギーや熱エネルギー、そして真力のない世界に放り出して仕舞おうと考えている。

消えるかどうかは、天測で監視し続ける」

「それで、和泉さんが助かるならやってみます」

脩君や真君よりも大きな、術が使える才能。

「釧路に跳ぼうか!」

木場直が、両手を広げて和泉を拘束している陣の下に『転移陣』を展開する。

「仕込んであるのさ。源蔵さんの、仕事振りは見事だったよ」


「行ったみたいだな」

「はい」

マスターと残された、従業員達は只々、新しい仲間の生還を祈っていた。


釧路の駐屯地の地下から、すぐに海岸への転移をする。

美耶が【収納】から、杖と日本刀を取り出した。

椅子に捕らえられたままの和泉が暴れる。

「この杖で、何人もの呪核持ちを葬って来たからね。

その気配を、感じて居るんだろうさ。

潜り込みにかかるよ!

洋樹!これを、使いな!

脩から預かって来た。

信長様の差量だ!

やるよ!」


自分が、失敗すれば和泉は殺される。

失敗は許されない。

利き手を空ける為に、左手を頬に伸ばす。

右手は腰に刺した太刀の柄に触れて居る。


先程よりも強い【呪】を感じる。

侵入しようとしてくる。

成程、自分が呼ばれた訳だ。

あがらう為に、強烈に魔素を使う。

再度、魔素を込めて呪糸蟲が詰まった鞘を包み込む様にして、和泉の頬との間に薄いながら強い障壁を潜り込ませる。

汗が滴り落ちる。

だが、陣の外から見守るしかない。

【陣】を美耶と木場 直が解く時。

その時は、和泉を殺す時だ。

鞘が外れた。和泉が気を失う。

一瞬、そちらに目が行った。

「洋樹!」

鞘から何か触手の様なものが伸びて来て洋樹の左手を掴む。

「グァ!」

吐き気を催す様な不快感。

右手に、脩の太刀を掴んで【魔素】を纏わせて斬りつけた。

だが、空を切る。

「クソ!実態がないのか!」

木場が、陣を解こうとした時、

「是非も無し。【鬼丸】よ来い!」

そう呟いて、洋樹が手にした差量を捨てて手を伸ばす。

触手に掴まれて居る左手から、ゆっくりと剥き身の大刀が現れた。

薄く紫の光を纏った太刀が、洋樹の右手に握られた。

突然、鞘から伸びて来た触手ごと洋樹の左手に打ち下ろされる。

「馬鹿な!」

美耶は接合をする為の青魔石として胸元に手を伸ばす。

だが、洋樹の手は切れておらす。

鞘から伸びていた触手が黒い霧となって消えた。

返す刀で【鞘】を斬るが今度は弾かれた。

太くなっている。

「洋樹!しっかりせい!」

洋樹の口から別人の声がする。

美耶も、木場も聴き及んだ声。


こうして、和泉に取り憑いていた【呪糸蟲の鞘】は切り取られて封印された。



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