482 開拓団3-07 人形
「マイン。悪いけど寝ぐらの俺の枕があった場所のあたり掘ってみてくれ。
俺が、爺さんから貰った杖が残っていたら回収してきてくれ」
「うん解っている。
私も、赤魔石が付いた髪飾りを隠していたんだ。
『着けていたら、盗られる』って、お爺さんが言って外すように言ってくれて、袋に入れてしまって置いたの」
「あの寝ぐら。色んなものが埋まっていそうだな?
ダンテも、なんか埋めていたみたいだから」
「俺は、人形だよ」
「もしかして、あの時の・・・・・」
「あぁ、『妹の形見』ってキッチが言っていた物さ。残っていれば、良いけどな」
「あんた、あの時、それを埋めに行って空人に殴られていたの?」
スインが、その時の光景を思い出した。
「あぁ、俺にも妹がいたみたいなんだ。爺様が言っていた」
「みんな生き残りだね」
マインが、涙を堪える。
「さあ!行くぞ!言っていた通り、時間は余りない。
俺が先に入るから、合図をしたら、真よろしく頼む。
脩もな」
「あぁ!」
今から、ファビオ達が隠れ住んでいた聖地に向かう。
泉も止めておいて、連絡用の魔道具だけ隠しておく。
そいつを握りしめてくれれば、アーバインの民なら火山島を経由して聖地に知らせが届く。
【魔素】を利用しているから検知できない。
だが、望みは薄いだろう。
誰も好き好んで【空人】がいる近くには来ないだろう。
大輝が【転移】した。
大輝が再度『魔石の粉』が、舞っていないかの確認をしてから【陣】に鈴を投げ込んだ。
次々に現れる子供達。
[遮蔽】が、されているから中で光魔石を光らせても外には漏れない。
遺体の類は、先に大輝が外に埋めた。
もう、これ以上、死者を冒涜されたくなかった。
マインとスインが寝ぐらに走る。
他の子供達も思い思いに砂地を掘る。
「有った!」
スインとマインは、それぞれの【宝物】を見つけ出した。
そこに、少年達が見覚えのある『リボン』と『スリッパ』そして『紐の束』を持って来た。
リボンは三本。
あの仲が良かった少女達の髪を縛っていた物だ。
紐は、少年達が作っていた。
コレを互いにもって、引っ張り合いをして遊んでいた物だ。
スリッパは、術師の物だった。
「あぁ、聖地に持って行って葬ってやろう」
大輝が、泣き崩れる子供達の頭を撫でながら言い聞かせていた。
こうして短い時間だが『里帰り』をして、火山島で大人たちの到着を待つことにした。
ジャガー達は、あらかじめ管狐達が見つけていた小型、中型の艦艇に【陣】を貼り付けて行く。
「こんな物で、『時限発火』が出来るんだから俺たちには脅威だよ」
「一隻ぐらいは持って帰りたいが、ここまでの大きさだとイバさんでも難しいな」
小型と言っても50mはある。
「こんな物が、『見えないポケット』に入るだなんて事が未だに考えられないんだが?」
「なんで、できるんだろうな?」
卓也も常々思う事だった。
子供達を、火山島に送って行った真と脩がやって来た。
大人たちを火山島に送る。
【陣】を広げてニ人ずつ送った。
子供達と抱き合っているだろう。
真と脩が帰ってきた。
「流石に、この高速艇は無理だな」
脩が、残念そうに船体を叩く。
「次の世代に期待だな」
真も同意した。
「あぁ、あの子か? 少しは、やる気になってくれた様だ」
卓也が、何故か苦々しく応えた。
「記録だけでも撮って行くか?」
「なぁ、真。この『ボーズ』外せるんじゃないか?」
「コイツは、脩なら行けるんじゃないか?
どっちも持って帰らないと、記録を見た時に蒼さん達に怒鳴られそうだ」
卓也が首をすくめる。
急がないと、セントラルや移民団の現場を回ってドローンがやって来る。
「こりゃ、キツイな」
大きさから小型高速艇のボーズを運ぶ事になった脩がボーズに難儀していた。
「どうした?」
卓也が聞くと
「なんでかわかんないけど、充電型とは違いコイツは運び辛い。
ハッキリ言って無理だ」
「コレより、小さいトラクターの奴を外せば良かったな?」
「そうか、大きさなら救助艇の方が大きいのだが・・・・・」
「真!お前ではどうだ?」
「無理だな。【黒石板】の様な感じなんだよ」
「そういう事か? 仕方無い。今回はバッテリー型の救助艇だけで我慢するか?
どうした脩?」
「いや、なんと言うか『ボーズ』が、どっかに繋がっている様な感じがしてな。
それが、運ばれる事を拒絶している」
「兄さんも、そう思うかい?」
「あぁ、だがここまでだ。火を付けて火山島に向かおう」
火山島で一日、休んだ。
マインとスインは衣装が気に入った様で、交換して翌日は、それで過ごした。
頂上に設けた観測所から入植地を見てみる。
多くの人間が集まっているのは、17開拓団の入植地と医局があった付近、そして焼き焦げた橋だ。
驚いたのが『鑑識』の様な事をせずに、重機を入れて掘った穴に埋めて行く。
まるで何も無かった事の様にして埋めてしまう。
17開拓団の宿泊施設跡も、同様に更地にするつもりの様だ。
警察機構も無いし調べても無駄という訳か?
青木も『艦隊の動きに変化は無く、戻って来る気配が無い』と言ってきた。
『どうなっているんだ?』
バッフィムも、皇帝の考えが読みきれ無かった。
帰ってきた軍の連中も、あれだけの惨劇があった医局を重機を出して片付けてしまう様だ。
ワグルが、帰って来ないと情報が取れない。
流石に20人以上を、一度に聖地に迎え入れることは困難で、予定通り【ハン】の施設に入って貰った。
そして、言葉の記憶を上書きする。
アメの施設に移り、みんなで検診を受けた。
そこで、ジェシカとアンジェスに朗報がもたらされる。
今まで、異常妊娠を恐れて生理を止めていた。
『妊娠は、まだ早いけど薬の服用をやめて良い。
子宮位置が正常に戻っている』
と告げられた。
こうなるとマインとファビオは、アレンとジェシカと一緒に暮らすのは憚られる。
でも、告白したからって一緒に暮らすわけにはいかない。
それに、スインも出て行った方が良いかなと思っていた。
残りの子供達もきっと、新しい出会いが父親達に訪れる事を祈っている。
こうして、全員でウルマの生活に慣れた頃。
上空にコロニー艦とルベルが帰って来て小型の無人探索衛星が、幾つもの衛星軌道を回り始めた。
『コレで探し出すから、敢えて調査をしなかった訳か」
『地上でボーズを使い切るより、衛星軌道で太陽光パネルを使った探査の方がコストが安いか?』
『コレが奴らの、最後の手じゃ無いかな?』
『だと思う』
青木が、先行してルースに来たバッフィムとアンジェス、アレンとジェシカの四人に『遠見の陣』を映し出した魔石板のモニターを見ながら、アーバイン儀に衛星軌道上を周る衛星を追加して行った。
「コロニー艦の探査用センサーを流用した様だな」
「あぁ、人工重力を作る為のコロニー艦の回転数が更に落ちている。
これから、最後の運搬が始まるだろう」
「あぁ、火山島とアシの監視でも以前、実験的に入植した辺りに農地開拓の準備が進んでいるそうだ」
「そんな事を、やったんだな」
バッフィム達も知らなかった。
CSに入る事なく代を繋いだ者達を使った入植実験。
余りにも酷い仕打ちだった。
「有り得ないわ!」
アンジェスが怒る。
「あぁ、許せないさ」
バッフィムも同意する。
「そうだ、昨日、入手した映像だ。これでも、まだ太陽系の遥か外で通信は覚束無い」
【レリアの艦隊】
「どうした?」
アレンが、映像を見て怪訝そうにしている。
「コロニー艦の回転数が、異常に少ないんだ」
そこで、以前聴いていたレリアの艦隊のデータの中から直径と装甲の厚さなどを入力して、弾き出した現在のコロニー艦壁面での発生人口重力値。
【0.5】
「悪いが、コンナを呼んでくれ」
「解った」
青木は過去のデータを調べる事にし、木場や医療関係者に羽田毅らを呼ぶ事にした。
重大な事がある気がした。
『お父さん・・・・・』
アンジェスは、湧き上がる不安を押し殺していた。




