481 開拓団3-06 顔
やっぱり! 生きていやがった!
車のライトが届かない位置だが、ドンゴにはすぐに解った。
アイツらだ!
「そんな馬鹿な! 奴は宿舎の屋根にいた筈!」
「撃て、撃て!」
ドンゴが叫ぶ。
自らも、ホルスターから自動拳銃を出して、弾倉を変えながら乱射する。
激しく打ち出されるマシンガンに拳銃。
お陰で電撃ワイヤーを飛ばすテーザー銃の射手が前に出れない。
後方の情報収集車からも、兵が出てきてライフルで撃ってくるが、何故か四人の前で弾が落ちる。
しかも、打ち上げの角度で射線に味方が居て前に出るしか無い。
皆がこうして前に集められた。
バッフィムの声が響く。
「さて、時間だそうだ。
ドンゴ!
先に行っている兄弟と会えるかな?
時間でも200年以上。
距離だと、どれくらい離れているのか検討もつかない。
神様を信じているのか知らないが、心が広い神なら良いな?」
そう言い終えた時に、四人の姿が空中から現れたライトに照らし出された。
縦縞のストライプに身を包んだ、ボルサリーノを被った素顔のバッフィム。
そして、その傍らには漆黒のレザーで体の線を表した、
やはり素顔のジェーン。
その前面に、膝をついて銀のダークシルバーのジャケットに身を連んだアレンがいて、その立てた右脚の太腿にはハイヒールが乗せられて、漆黒の髪を真紅のキャットスーツの背中に垂らしたジェシカの素顔があった。
ハイヒールがなめかしい。
「おっ!お前は!」
「誰の事?」
ジェシカが、ドンゴに問い返す。
「その黒髪の女は! この手で焼き殺した保安局の女だ! なんで生きている!」
「彼女は姉よ。あなたが行く場所には居ないとは思うけどね。火が好きなんでしょ?」
ドンゴは、慌てて胸を探る。
無い、無い!
ドンゴは、慌てて床をさがした。
「ドンゴさん。探し物はコレかしら?」
ジェシカが胸の谷間から、ドンゴのオイルライターを取り出した。
その時、バッフィムが指を鳴らす。
「パチン!」
彼らの足元を覆っていた【遮蔽】が消えて、瞬時に立ち上る可燃液体の匂い。
ドンゴが、使っていた奴だ。
ジェシカが、手にしたオイルライターのフリントを回して火を着ける。
アレンが、それを受け取って
「悪いな。俺はタバコは吸わないんだ。返してやるよ」
むせかえる、匂いの中を飛んでくる炎がついたライター。
周りの兵隊達が、逃げ出そうとする中でドンゴはライターを見ていた。
コイツは宝物なんだ。
【ありがとうアレン】
炎が、情報収集車からもあがる。
噴き上がる炎。
彼らは、逃げ場を失った。
「さて、子供達と合流しようか? サラン!どうだったかな?」
「良い出来だったわよ。
ぶっつけ本番だったから、マスク着けて行くの忘れたり、ジェーンがセリフ忘れたけど流れとしては最高よ!
後で見直して、撮り直しか修正入れるわ。
ジェシカに、鞭でも満たせたほうがよかったかしら?」
「やめて! 私は、そんな趣味じゃ無いわよ!」
「エッ!やっぱり、ファルトンでもそんな人がいたんだ!」
「イヤ〜!」
「・・・・・落ち着いた? ジェシカ?」
「・・・・・なんだか哀れよね」
「でも、彼を生かしていたら、この星で、又、あのクスリが蔓延するわ。
もし、それが私たちの中に入ってきたら、日本で、又、悲劇が起こる。
病原菌を運ぶ【宿主】は駆除するしか無いのよ」
「えぇ、そうね」
「バッフィムさん。後は私たちに任せて」
遠くに見える『セントラル』の灯りを見ていたバッフィムに、ミーフォーが声をかけた。
「私は、病気や怪我で苦しむ人は必ず助けるわ。
民間人が、移住してきたら何としてでも助けるから手伝ってくれる?」
「あぁ、それが保安局の仕事だ」
「軍のドローンが近づいてきた。子供達は火山島で待っている。
スインが、お腹が空いたって五月蝿いそうだ。
ここは、俺と亮太で始末をつける」
イバが指を刺した荷台には、人の姿をした『傀儡』が彼らが脱いだ衣装を身にまとい荷物と一緒に座っていた。
燃え上がると炭化していき、人間の体の組織成分を残す。
大腿骨など残りやすい部分も、創芸師が手塩にかけた逸品だ。
アレンとファビオとダンテの分は、17開拓団の宿舎で燃え尽きていた。
「亮太さん。済まないな。
向こうに行ったら、その創芸師さんに礼を言わせてくれ」
「彼らも、この『傀儡』がやり遂げる意味は知っているさ」
「じゃあ、四人とも行くぞ!」
大人たちを送り迎えしたばかりの脩と真。
そしてキューブを操っていた【管狐】達を回収したミーフォーも、大輝と卓也が守っている火山島へ向かった。
荷台に、【炎の陣】が広がって行く。
「じゃあ、亮太。行こうか?」
イバと亮太は、アシの洞窟からセントラルを監視することにしている。
谷間に、移植した馬鹿蔦の効果が出ているかを見ておきたい。
イバ達が以前取った『撲滅作戦』
植物学者として招いた地球の老人と、その妻が気付いた。
『馬鹿蔦が、生えている場所には問題の薬草は生えていない』
実際に試してみると、三年もすると馬鹿蔦が薬草を駆逐した。
驚異的な、侵略植物『馬鹿蔦』
馬鹿蔦は火で焼いても、抜いても再生する。
欠点は水。
水のやり過ぎで枯れてしまった。
だから、谷間のような水分量が多い場所には中々生えて行かない。
根を水で浸すようにすると枯れて行く。
だから、周囲を囲って水で浸せば良い。
根が腐って土地に栄養分を残す。
理想的な土地改良植物だ。
アーバインでは、羊やボアそして鹿の類が喜んで食べる良い飼料で地球の砂漠化防止にも役立ちそうだが、やはりまだ研究検証が必要だ。
だから、谷間を乾燥するようにしておいた。
一度侵略を開始ずると、その葉を斜面に沿って広げて根に水が溜まらないように重なり、雨水を流すように広がって行く。
帰還部隊のドローンが、やっと入植地に到着した。
帰還部隊の司令官達は息を呑む。
セントラルの火災現場も鎮火して、演習地の草原に残された5台のトラクターからは、CSCのパネルと水タンクだけが見える。
人は乗っていなかったようだ。
17開拓団の宿舎は、バラバラに吹き飛んで何かの爆発物の存在を疑わせたが、それよりも軍のドローンが捉えた異常な光景。
湾岸部へ繋がる高架になった橋の頂点部分に留まったトラクターの荷台。
燃え盛る炎の中に多くの焼死体が見てとれていた。
抱き合った姿で親子同士のように見える。
その数20余り。
吹き飛ばされた、子供服が風に舞い散らばっている。
そして、そこから下に目をやると軍諜報部に与えた車両やバイク、そして情報収集車が火に包まれていて、その傍らにも動かない人影が見えた。
下に落ちたタンクからも炎が出ているところをみると、上から可燃性液体燃料が入ったタンクを落として火を放ったようだ。
何で、どん詰まりの海岸へ逃げた?
それは、やはりいくつかの鉄鋼材を積んだ資材保管場から火があがり。
下水処理場建設場所の護岸からも、黒い煙が上がっている事で推測がついた。
船が、あったんだろう。
それを、奪う予定だったレジスタンスがいる。
だが、脱出に失敗した事から火をつけた。
だが、掃討作戦をするにはボーズが足りない。
なんと言っても、人が足りない。
とんでもないことをやってくれた。
燃え盛る炎を見ながら、軍の上官達は頭を抱えた。




