477 開拓団3-02 オルエ
『あなたたち第17開拓団。全員、収容所に入る事になりそうよ』
『ちょっと、待ってくれ!一体、なんで俺たちが収容所送りなんだ!』
『ドンゴが企んでいるのよ。
軍の東方侵攻が失敗に終わったでしょ?
で、軍の約半数が転進して南進を開始した。
でも軍について行っていた医師団と、通訳代わりに連行されていた少年達を帰す事にした』
『何故?』
『ドンゴは、考え事をする時に、紙に書き出してくれるから助かるわ。
ひとつは、ドンゴが作っているクスリの実験。
今回の侵攻で捉えて来る捕虜を使って、クスリの効果を試すつもりだったけど空振りに終わった。
でも、やはり人体での確認はやりたい。
燻すだけで効果があるのか、中毒性はどの程度?
どの程度の、健康被害が出るのかを調べようとしている。
もうドンゴにとっては、クスリの事で頭がいっぱいよ。
抽出した成分分析を依頼した医師達が、協力的で無かったのかクビにして前線に送ったわ』
『ペニーの奴が、『カーマス達が前線に送られる』と言ってきてたが、そんな裏があったのか!
分析をやっていたのは、私達の協力者だ』
『まぁ、そうだったの。
そのキッカケは、オルエが責任者の医師に目の前で指先に【火】を一瞬出して見せた事。
アーバインの住民の中には火を一瞬だけ指先から使えるとか、力を瞬時だけ高める事ができて荷運びには便利だ、とオルエが医師に伝えてしまった様ね。
そうなると、第17開拓団の子供達は貴重なサンプルで労働力。
オルエは自分の事は、火が出せるとだけ過小申告しているわ。
隠している『サトリ』の術の、ひとつなのだけど人を操れる術がある。
それを使っているかもしれない。
私たちの処でも完全に出来るのは、接触した相手に対して一人だけ。
前に同時に数人操れる術師もいたけど、その人だけだった』
『オルエなら、やるんじゃ無いかしら』
『スイン。何か知っているのか?
あの子、術師のお爺さんも『ファルバンでも、見た事がないサトリの術が使える』って言っていた。
だから、『仲良くしよう』って心で話しかけていたけど振り払われていたの。
お爺さん。
『スインやファビオより、遥かに上にいける娘なのに』って残念そうだった』
『そう、それほどの才能なのね。
解るわ。オルエの周辺に魔素が少ないから成長しなかった、或いは、させなかったのかもしれないわね』
『展開が、早すぎる』イバが答える。
『えぇ、そう私も思うわ。
いつでも、16の倉庫とサイロに仕掛けた罠を発動できる様にして置いて。
魔石への【魔素】の充填を、子供達に忘れない様にさせて。
イバ、大輝を行かせるわ』
団員達は『脱出』の準備にかかる。
亮太が準備した物が多かったので、創芸師達が準備した物は大輝の【収納】を使う事になる。
手順を、確認する17開拓団。
間違いなく、先頭にはロボット軍用犬が立ち威嚇行動を起こすだろう。
あのバスと、機関銃を搭載したジープが後を詰める。
少年兵達も、草原に展開して逃げ道を塞ぐはずだ。
やはり、夜が都合がいいのだが、多分、朝駆けを狙ってくる。
だから、昼間は休んで、朝に備えて東方侵攻から帰って来る戦闘車両の連中が到着するのを待った。
『自分も、こうして小さな火を灯せる』
って指先から火を、ちょっとだけ出して直ぐに消した。
目の前で、そんな物見せられたら医師団が調べない訳がない。
すぐに少女達は、小さな火を一瞬だけつけれるのが解った。
ドンゴの命令を利用して、子供達を調べようと考える医師。
ドンゴに出すクスリの効果試験は、そんな子供達を隠していた開拓団の大人を懲罰がわりに使う」
医師はこの提案を、ドンゴへの機密親書として送付した。
内容が余りにも科学的では無い。
だが、ドンゴはこれに乗った。
医師が提案してきた通りに奴隷の連中が未知なる力を持つのなら、それはそれで、現地人の奴隷を一任される自分の特権になる。
そして、その秘密を隠した事を理由にして、あの17開拓団を全員このクスリの被験者にする。
アレンへの復讐が、麻薬中毒患者に仕立て上げる事。
ドンゴにとって、こんなにピッタリの復讐は無い。
俺を追いかけていた奴らが、クスリ欲しさに靴を舐めて来る。
考えただけでも、ドンゴは恍惚となった。
その頃、見張りが薄くなった軍の施設で、三人の若い医師がオルエに操られていた。
一度操られたら後は簡単だ。
何度でも、すぐに操られる。
特にこの三人は簡単で、随分と長くオルエ達に良い様にされて居た。
前から食事以外にも菓子や飲み物を、女の子の部屋に差し入れてくる。
言葉を習うふりをして、手に触れてやったりしたら簡単に【心の鍵】を渡してくれた。
奥に居る男はサイオが好みらしい、もうひとりの大柄な男はアイズ
『私が良い!』と言ったのは、この目の前の卑屈な男。
私よりも背が低い。
やたらと胸に触りたがる。
お前なんかは、下水に浮かぶ『ボルバンドラ』でも掴んでいれば良い。
(ボルバンドラ:下水に発生する。ゴムの様な球体の藻)
少年達が、昼過ぎに医局に到着する。
彼らは行軍からそのまま引き返してきたので、荷台で埃だらけだった。
すぐに風呂場に連れて行かれた。
そんな中、オルエ達三人の少女が若い医師三人に連れて行かれたのが診察室。
奥の診察室に貼られていたのは、自分達のエックス線写真。
この世界では、ルースとウルマの聖地に住む者の一部しか見た事がないが、横に置かれたファルトン女性の解体図と比較してあれば誰でも気付く。
『これは、私たちだ』
胸の膨らみの影で解る。
嫌な気分だ。
オルエは、目の前にいる男の考えを読む。
『この三人に、受精卵を入れての妊娠実験を開始する。その前に・・・・・』
オルエは、素早くアイズとサイオにコイツらの考えを伝えた。
そして、自分に寄りかかってくる若いチビにこう言った。
「首が締まって、相手ができない」
他の二人も同じ様に枝垂れかかる。
若い医師三人は、いつもの様に首輪を外した。
もう、コイツらには用がない。
オルエは、若い医師三人に接触して心を操り始めた。
少年達は、いつもの検査用の服に着替えさせられた。
簡単な検査を行い、食事を取らされ終わった頃には夜になっていた。
医局員の中には、これ以降の事は明日にするのだろうと思っていた。
軍は、もうフロール平原の手前の宿営地に入って、行軍の疲れから眠りについている。
だが、担当医は遊技場に少年達を連れて行き、術を使う様に指示をする。
その様子を、見守るドンゴ。
二階のテラス席。良い気分だ。
動かない少年達。
何の事かわからない。
もう、待ってられない。
明日には軍がやってくる。
わたしたちに手を出そうとした若い医師の二人には、互い首を締めあって死んで貰った。
この操り方は、父親から聞いた事がある。
漁師の祖父が見た話だ。
どこかの浜で、そうやって死んでいた遺体を見たそうだ。
どうやって、殺したんだ。
苦しくなって手を緩めるか、足元の石を拾って相手を殴るかするだろう?
でも解った。
こうして、殺したんだ。
私と同じ【サトリ】がやったんだ。
軍が帰ってきたら、『黒鳥』や『銀の鳥』がやってくる。
私は知っている。
北の山に守り神達が住んでいた聖地を。
そして、西の山を越えたら海が合って、そこから見える岩場の向こうに『始まりの聖地』がある事を。
そこなら、絶対にアーバインの民が生き残っている事を。
あの術師の、爺様が話していた。
あの『死に損ないの孤児』も信じていた。
今、私も信じている。
私に話しかけてくる女が居るんだ。
絶対にそこに居る。
室内運動場に、少女達が若い医師を先頭に入ってくる。
虚な表情の少女 アイズとサイオ。
その後ろにオルエ。
おずおずと近づく四人の少年。
オルエが、こう言う。
「男の子は、筋力が増します。
今は、男の子としての普通の力しか出ませんが・・・・・」
二人の少女が、前に両手を突き出す。
トク、キイ、アワ、ジジ四人の少年達も虚な表情。
その突き出された四本の手に、少年達が手を繋いだ。
横に退いていた若い医師が、チョーカーのコントローラの操作をする。
外れて落ちる『戒めの首輪』
「なっ、何を!」
ドンゴが叫んだ!
「撃て!撃ち殺せ!」
だが、誰一人銃を構える事ができなかった。
ドンゴ自身。
ホルスターは空だった。
「身体強化、火炎、薙ぎ払え!」
オルエは、六人に向かって命令する。
赤魔石を握り込んだ、少年達の身体が変わる。
全ての筋肉が膨れ上がり、顔つきも変わる。
そして、咆哮!
獣人でも無いのに、獣の様な大きな声で吠えた。
手本を示す様に、目の前の若い医局員の顔をオルエが鷲掴みにする。
「今度は、私が掴んで『良いもん』をくれてやるよ!」
そう言って、掌から火炎を出して肺を焦がしてやった。
周囲で、慌てふためく医局員に向かって投げ捨てる。
赤魔石を握りこんだアイズの背にサイオが手を添える。
青魔石の魔素を受けて、アイズが放つ炎は火焔になった。
たちまち、医局は火に包まれた。
逃げ惑う医局員に軍人。
警察や消防は居ない。
多くの人間が軍に同行しているか、今なおCSCの中だ。
歪な計画が招いた被害は広がって行く。
ペニーはアンジェラと遠くから見るしか無かった。
何が起こっているのか解らない。
炎の勢いが凄まじいのもあるが、次に起こる事が容易に予測出来たからである。
無人攻撃機による制圧攻撃。
誰が、あの炎の中に居るのか解らない。
少年達は、散開して周りの軍人や医局員達を襲う。
軍人と言えども、全く軍事経験が無い。
人に向かって引き金を引いた事なんて、もちろん無い。
しかも、警備兵程度しかいなくて隊を整える者がいなかった。
惨殺であった。
『オルエ!逃げて、みんなを纏めて海の方へ!』
余りの事に対応が遅れてしまったサランが、オルエに呼びかける。
だが、もう少年、少女は自分を制御出来なかった。
初めて使う異能の力。
しかも、相手は父や母、そして兄弟に友達の敵だった。
サランは、この時オルエの監視から外れていた。
ドンゴの襲撃を、二、三日後の朝と読んでそのシナリオに毒されていた。
代わりに入っていたサトリも、その兆候に気づかなかった。
『人心を操るサトリ』など滅多にいない。
かつてウルマに居た少女、アニとユーシアは操れる対象は一人で、これほどの威力は無かった。
しかも、帰ってきた彼女達はその能力を使う事なく、日本で学んだ事を活かして、ウルマの生活の改善を進めるグループではたらいている。
その一人【ユーシア】を眠らせて【トルア】を呼び出す。
【遠見の術】と遠くに逃げた【管狐】からの映像を見て、サランがオルエを探す。
「もう、無理じゃろうな。
これだけ、一気に【魔素】を使い切ったのだ。
中で、意識を失って倒れている。
私にも、ここまでの事はできなかった。
恐怖が、その娘の全てを吐き出させたのじゃろうな。
何年もの間、【サトリ】である事に背を向けて、必死に能力を抑え込んでいた。
それが、余計にオルエの力を増したのだろう。
『内に内に、心を溜め込んでいく』人を操る能力持ちは、そうやって育って行く。
私も、母も虐げられて苦しんで・・・・・だけど表向きの笑顔を作る。
オルエも、そうだったのだろうな。
サラン。
解っているのだろう?
もう探しても無駄だと。
『命の気配』が、あの炎の中には一つもない。
それよりも、やる事ができているぞ!
しっかりしろ!」
『イバ!』
『あぁ、ドローンと無人攻撃機が発進した。
ドローンの半数は、コチラに向かっている。
無人攻撃機は、まだ出ていない。
二機準備に入っている。
軍からもドローンがセントラルに向かっている。
16開拓団の【仕掛け】を出せ!』




