465 開拓団2-22 倫理観
食堂で待ち受ける開拓団のメンバー達。
だが、現れたのは、今までと変わらぬマスク姿で耳がかけ、火傷の痕が見えるジェシカ。
失望が広がる。
『失敗したのか?』
だが、マスクを外し現れたのはジェーンだった。
「エッ!」
「「「「「ジェシカがジェーンに変わった!」」」」
笑いを堪えながらジェーンの背後から、姿を消していたジェシカが現れる。
「ジェシカ!」
美しい顔。
明るい表情。そして長い黒い髪。
「ジェシカだ!ジェシカが戻って来た!」
思わず立ち上がって手を広げるアレン。
ジェシカは、全てを忘れてアレンに抱きついた。
「アレン!アレン! 好きよ!愛している!」
「あぁ、俺もだ!ジェシカ!」
熱いキスを交わしてしまう二人。
200年を越えた和解。
愛の告白。
それを眺めるしか無い団員と子供達。
「脚本より、激しくなったけど良いか?」
『良いわ! 良いわ!演技を越えるのは自然な愛よ!美沙緒!しっかり撮るのよ!』
『バッチリ撮れています!22番!下からのアングル!もっと寄って!』
聖地では、熱くなっている二人をルナと若菜が呆れて見ていた。
「沙羅に染まっちゃったわね」
「えぇ、巴様にも似ていますから、こういう時は乗りやすいんですよね」
「管ちゃん達は、うってつけの【式】だわね」
「まぁ良いでは無いか。この記録をアーバイン解放の暁に多くの者たちが目にする。
相応しいシーンじゃ無いか」
「巴様も、ウズウズしてますね
「現場には行くなと言われているからな。
地球と違って、移動距離が伸びないのが歯痒いわ!」
「不思議ですよね?」
「そうじゃった。頼まれ事を忘れておった。沙羅!」
キスシーンが終わり、団員と子供達に冷やかされる二人のシーンに移り興味が冷めてしまった沙羅。
美沙緒も、後は管狐に任せて休憩に入った。
管狐には自立心があって、美沙緒が思い描く場面を、必ず良いアングルで記録してくれる。
「何?」
「ミサが、下着のデザインを決めてくれっと言っておるぞ、工房に発注するからと事務所で待っておるわ」
「いっけなーい!」
慌てて【転移】で優秀な調整役になったミサの元へ移動した。
「衣装部まで、立ち上げちゃって」
「まぁ、元気な事よ」
「その分、地球が大変ですけどね」
「それも試練。いずれ、人はその役目を代わる。剣吾も研修医から開業医になる時が来るしな」
その日、夕食は豪華な食事会になり、皆がマスクを外して食事をした。
上座には、アレンとジェシカが並んで座って、ミーフォーが持ち込んだワインを口にする。
「なるほどな。アーバインの葡萄も、いいワインになるように品種改良をしたのか!」
「それだけでは無いわ。
アルコール度数が高いし、今はお酒を控えて欲しいから出さないけど、米で作った『日本酒』も日本の杜氏を引退した萩月の門人が仕込んで、いい味に仕上げているわ。
撮影、言い間違えた。
脱出作戦の終了時には皆で乾杯よ」
「そいつは楽しみだ。計画じゃいつになる?」
「それはまだ秘密。
でも、この冬はやらない。準備が整って居ないし、出来れば、又上の連中がいない時が良いでしょう?」
「解った。
じゃあ、残していく同胞の為にも財産となる作物を残しておくか!」
「ちなみに、作戦開始の合図はドンゴの復活よ」
「なんだって!」
「だって、逃げ出したのがバレたら、ワグルさん達が危ないじゃ無い。
全てをドンゴに引っ被らせる。
ワグルさんの時にはうまくいって居たのに、彼に代わったから逃げ出した。
そうしないと不味いでしょ?」
「ワグル達を・・・・・・そうか、連れ出したらハイエルの力が増すだけか」
「そう、彼らには最終決戦まで残って貰うわ。
叩くのはハイエルとドンゴ!後は雑魚の『緑の旅団』?
サランとミク達は、そこまで計画を立てているわ」
「解った。じゃあ、ワグルにもこの計画は伝えるのか?」
「そうだな。今は、伏せておこう。ドンゴをここの担当に戻す時に説明をしよう。
その方が自然だろう」イバがそう答える。
「ワグルに、問題は起こらないだろうな?」
「そこは、大丈夫」
話が進む17開拓団。
充電型のボーズに、太陽光発電パネルで発生させた電力を貯めるだけ貯めてルベルに戻るコロニー艦。
コロニー艦では医師たちが悩んでいた。
地上に降りている医師達も同様だ。
牛や羊そして豚などの家畜用人口子宮での冷凍受精卵を使っての成長は上手くいき、コロニー艦がワービルに接近したら直ぐにでも、今生育している分を降ろして重力に慣れさせたい。
やっと、傘の調子が戻ってはいるが、ワービルの重力と比べると7割程。
地上に降ろしても、しばらくは動けないだろう。
死亡率も、あがると推測している。
だから、数だけはおろす。
大地で生育させて繁殖してくれないと、一般市民が降ろせない。
ワービルから運ばせている飼料の事もあるしボーズの事もある。
実際に、ワービルとの行き来をさせていた艦艇の一隻は糞尿専用艦だ。
衛星軌道より下で、大気圏に放り出している。
水の搬送も負担になって来た。
家畜用人口子宮は構造上降ろせない。
ボーズが劣化する速度が高まった。
実際に今回、中型艦を幽霊船にして外惑星の衛星軌道に載せた。
要所要所を破壊してあるから、数年したらバラバラになって外惑星に隕石となって落ちていくだろう。
「時間が無いな」
ワービルの医師達は、降りて来た女性がまだ妊娠できない状態なのを憂いて居た。
人口子宮も上手くいかない。
CS中に死亡した夫婦が預けた受精卵を使って人口子宮を試している。
倫理観が麻痺して来ていた。
だが、上からは『自分達の預けた受精卵を使って子供が欲しい』と催促され、今日も呼び出しを受けた。
呼ばれたからと言って、改善策が湧く訳でもない。
軍の病院に帰った医師の目に、三人の娘の姿が飛び込んできた。




