461 開拓団2-18 治癒師
『これ以上、居ては怪しまれる』とセントラルに帰る事にした一行。
様々な土産に、鉢植えの花をいくつか渡した。
そして、石鹸、シャンプー、リンス
アンジェラが、鼻を近づけて香りを嗅ぐ。
アンジェラも石鹸には悩んでいた。
今までは、配管の詰まりによる排水の悪さから、多くの水やお湯を流すのには時間をかけてやるしか無かった。
イバに部屋を覗かれている視線は感じていたが、諜報部のドローンと割り切って怒っている様子をみせつけた。
ジェーンも、その姿を見て『姉に似ているな?』とは思ったが、冷静な姉が、あんな姿を見せる訳ないと思ったらしい。
「私だって怒るわよ! あのエリアは査察部が集まっているからドンゴの嫌がらせに決まっているじゃ無い!」
「まあまあ、落ち着いて。バッフィムさん達のおかげで他所が羨むほど整備されたんだから」
慌てて取りなすペニー。
「怒っている妻にする態度はどこも同じだな」
卓也が脩を見ながら呟く。
「俺には、三人居るからな」
「君にも、三人の妻がいるのか!」
ペニーが、哀れみの視線を飛ばす。
「人口が減ったのも有りますし、彼らが優秀ですから子孫は増やさせたい。事実こうして脩は優秀ですし、その子供も優秀ですよ」
卓也が取りなす。
『まさか、うち二人は竜人と人魚なんて言えないからな』
『あぁ、まだ早い』
つい、口走ってしまった脩が話を合わせに来た卓也と念話を交わす。
「メルカも私の子供ですが、人の心を凪ませる歌姫でも有ります。今度、このドームでリサイタルやりましょうかね?」
「それは是非」
アンジェラがメルカと握手をした。
「あなたも相当やるわね?今度、お相手してね!」
「えぇ、アンジェラさんも良い【術師】になれそうですね」
「術師?」
「私たちと同じ様に、魔素を使って技を繰り出す者ですよ」
「石鹸やシャンプーは、これで我慢してください。
この作り方を広めれば、もっと素敵な物を作っても不思議に思われません。
マイン。これから咲く花でいい香りがする花があるなら摘みに行こうか?」
「花じゃないけど、ハーブが有るわ。それと木に傷を付けて取る蜜集めもしないとね」
「オッ!サトウカエデの木があるんだ!」
「サトウカエデて言うの?」
マイン達は、『甘い木』と呼んでいた。
「あぁ、そうだ。アンジェラ、アンジェスは知らないか?」
「そんな木が、あるなんて知らないわよ。もう長い事『合成甘味料』だけだわ」
アンジェラが答える。
「そうか!じゃあ、これをあげよう」
「何これ?トゲトゲしている」
アンジェラが、手にとって光にすかしている。
「あっ!金平糖だ!」
スインが目を輝かせる。
「スインちゃん。これ『コンペイトウ』って言うの?」
「あぁ、まだ沢山あるが、これも見られたらいけないから口に含んでご覧」
「あぁ、甘〜い。でも、優しい味ね」
「この、金平糖を作る為のサトウキビも、この大陸にはある筈だ。昔、この大陸から逃げて来た船乗りが米とサトウキビを持って来たんだ。
探して、バッフィムに育ててもらうよ。多くの人達に喜んでもらいたいからね」
「楽しみが増えたわ」
「じゃあ、済まないな。色々と貰ってばっかりで」
ワグルが、手を差し伸べて来た。
その手を握り返すイバ。
「良い出会いだった」
「あぁ、これからも済まないが協力してくれ」
「さて、今度は、諜報部の車両が橋の検問所から出ました。
卓也、ちょっと遊んできてくれ。切るのはタイヤ一本だけだぞ!」
「あぁ、解った」消える卓也。
「パンクで『足止め』させますからもう戻って下さい。車は出しておきました。ドンゴが『車が無かった』と言い出したら倉庫に入れていたとでも言って下さいね。
まぁ、自分の管轄から外れた場所に乗り込んだ事を、とやかく言われたく無いので、何も言ってこないとは思いますけどね。
それと車には、脩が仕掛けをしています。
仕掛けた物は目には、見えませんから気にしないで。
音声だけですが、ここと繋がっています。
ハンドルの中央を3回軽く叩けば繋がります。
切るには一回叩いて下さい。
繋ぐ前にはこちらから車内を覗きますので了承願います。
こちらからは、同じ様に車内を確認して声をかけます」
「もう、なんでも有りだな」
「地球の車両電話を参考にしただけですよ。では、上にあがりましょう!」
こうして突然訪れた会合は終わった。
消えていく車両を見送るバッフィム。
テーブルに、腰掛けて夕陽を見ながらイバが大輝と亮太に脩を念話で呼んだ。
脩に椅子を出させて座る。
アレンも呼んで来て貰った。
「バッフィム、アレン。悪いがマスクを外してくれ」
二人のマスクを、亮太と大輝がマスクを調べ始める。
「どうだ?」
「少し弱いな」
「バッフィム。予備はないのか?」
「有るが、そっちは布だ」
「そうか、亮太。ジェシカには布の物を使って貰って寸法を取ってくれ」
卓也が、収納に木刀を仕舞いながら転移して来た。
「そう言えば、ジェシカの火傷を卓也に診て貰うのを忘れていた。
ジェシカの傷は、マインにも診察の方法を見せてくれ。
アレンもジェシカの後に、脚を診て貰ってくれ」
「相変わらず人使いが荒い夫婦だ」
「卓也はこう見えても、腕の良い医師だ。
息子も跡を継いでいる。
アーバインで暮らす様になったら、病気の事は心配しなくて良い」
アレンは、驚いていた。
「『足運び』から、武術をされるのは解っていましたが医師でしたか!」
「ほう? 射撃だけじゃないんだ」
卓也もアレンの目配りと、冷蔵庫に保存されているソーセージや熟成中のハムの量からアレンが狙撃手と見抜いていた。まぁ、サランとイバの監視結果も聞いてはいたが・・・・・・
「えぇ、ですがこの脚ですからね」
「ふふ、『想い人』の後に診てやるよ。
亮太、真を呼んでアレンの部屋で、とりあえずの【義足】の寸法採りをしてくれ。
ファエイスマスクの加工をするんだろう?
なら、源蔵達に追加注文だ!」
「ところでアレン! 剣はどのタイプだ」
テーブルの上に、様々な日本刀やサーベル、シミターに蛮刀まで出て来た。
「お前、武器庫か?」
呆れる大輝の声を無視して、アレンが目を輝かせて色々な剣に手を伸ばし抜いて行く。
「じゃあ、俺はジェシカのところへ行く。
アレン!『焼きもち』焼くなよ!俺はこれでも医者だ!」
流石に、【転移】で女性の部屋には入らない。
3回1回と、ノックをした。
【念話】でマインが聞いていたので、スインも一緒にジェシカの部屋に入った。
「聴いてのとおり、これでも俺は医者だ」
【収納】から手袋や白衣そして、靴も履き替えベッドに清潔な滅菌シーツを広げた。
光魔石を使った灯りを宙に浮かして、ジェシカに下着姿になって傷を見せる様に言う。
マインとスインにも、少し大きいが白衣と手袋そしてマスクを着けさせた。
「本当みたいね」
ジェシカは、下着だけになって腹這いになった。
「マイン。よく見るんだ。健康な部分との差を見ろ」
今までも、ジェシカとお風呂に一緒に入って、傷は見ていたが目を逸らさないでいたが敢えて見ていなかった。
足に広がる火傷の跡。
「姉さんが庇っていなかったら、私は死んでいた。床から這い上がって来た炎を、姉が私を気絶させながら覆いかぶさったの。そのせいで、私は暴れることもなく炎から守られた。
姉さん・・・・・」
「あぁ、その姉さんの為にも治してやるよ。
マイン。治癒士から治癒師になるんだ。良いね?」
「はい!」
「その為には、どんなに、ひどい傷でも目を逸らさない。
患者さんの方が、傷も痛いし不安だ。
それを、治癒師が目を逸らしたら、その時には患者はどう思う?」
「不安になります。怖くなります。悲しくなります」
「良い子だ。
全部は、まだ無理だ。
私には出来るが、君には、もうひとり先生を呼ぶ。
だから今日は、自分ができることをしよう。
悪いねジェシカ。この子の練習台になってくれ」
「もちろんよ。娘の為になら喜んで、それにマインにだけやってもらえたら勲章になる」
「お母さん」
「マイン。コレを胸に下げて」
卓也は、マインにサランから預かって来たペンダントを渡す。
白鳥が羽を広げた台座に、白い魔石と青い魔石が付けられた物。
「うわー綺麗!」
スインが、声を出したのでジェシカも身体を起こした。
露わになる胸。
「悪いコレを!」
慌ててバスタオルを渡す卓也。
「医者なのに、純情なんですね?」
「年上を揶揄うんじゃない」
「でも、綺麗ですね。コレは?」
「白い魔石は、治癒の効果。青い魔石は、魔素を一番多く溜め込む事ができる。
だから、この二つを持つと治癒師は、その力を余計に発揮出来る。
スインにも後で渡そう。
預かって来ている。
今は、ジェシカの治療と診察が先だ。
アレンの、脚も見てやらないといけない」
「アレンも、良くなるんですか?」
「取り敢えずは義足だが、おそらく再生できると思っている。
一旦、傷口を開放してそれからだがね。
何例か成功している」
「あぁ〜!アレン。良かった!」
「まだ、必ず成功するとは言っていない」
「でも、何かしら進むんですね!」
「あぁ、解ったら、うつ伏せになりなさい。
足首から始めよう。
【魔素】は、サランが入れていてマインが1日で使える分なら数十日分溜められている」
「そんなに!」
「あの夫婦は、化け物なんだよ」
『化け物で悪かったわね!』
「いっけね〜! 女帝様が静かなので気を緩めた!」
『本当にもう! 少し地球に行っていたら悪口ばっかり言っているんだから!』
「何か、あったのか?」
『帰って来てから話すわ。マイン、スイン!頑張りなさい。
マインは覚悟が決まっているけど、スイン!あなたも目を逸らせない!
良いわね!』
「「はい!」」
『じゃあ、卓也始めて』
「やれやれ、大学の実習を思い出すよ。さあ、頑張ろう!
じゃあ先ず、この左の足首からだ。
両手を、火傷の痕に添えて。
胸の魔石との間を両方の手から出て来る【何か】が感じれるかな?」
「えぇ、暖かい感じがします。体の奥から流れて来る水のような物が感じられます」
「右手から左手、左手から右手。それをペンダントを通してやってご覧」
今までは、光るだけだったマインの指先。
それが、優しい青い光になった。
「あっ、火傷の痕が消えていく」
「慌てないで、ゆっくりやるんだ。でないとムラになってしまう。
一気にやるんじゃない。
それこそ、ゆっくりとゆっくりと撫でる様にね。
どうだい?ジェシカ!気持ちいいだろう?」
返事が無い。
スインが、ジェシカを見ると『寝ています』と答えて来た。
「そうか、じゃあ脚を終わらせたら驚かせてやろう」
『いい腕ね。
私達は、又貴重な人材を得たわ』
飽きる事なく、サランもマインの治癒を見ていた。




