460 開拓団2-17 ロード家
ワグルは、席を立ちアンジェスとアンジェラの間に立ち二人の肩に手を置いた。
「この『レリア移民団』の船団長ドーン・ロードは彼女達の父親だ。
アンジェスは、ルベルに住んでいた弟の一家に養子に出された。
ロード家はルベルを母国とするが、ファルトン連合において、歴代中立的な立場を持ち議長や、その他の要職を務めた。
ルベルの、一部の国粋主義者達からは『裏切り者』として憎まれていた。
アンジェスが、自分の出自を明らかにしなかったのは、こう言った理由からだ。
彼女が幼い頃に、誘拐しようとした犯人も国粋主義者であったろうが、警察の捜査がおざなりだったのはそのせいだろう。
ドーン・ロードは実直、博愛主義者だ。
彼が存命ならば、あの艦隊が地球に対してルベルの様な侵略行為をするとは思えないが、ルベルの様な技術力がある訳でもない。
それに気になるのは、艦隊の構成が減っている。
逸れたのかも知れないが、ドーンの事だ恐らく集約したのだと考えている」
「そのことに関連があるかも知れないが、こちらの観測で艦隊の動きが、一時期、同じ空間に停止した事が観測されている。
それが、なんらかの参考になるかも知れない。
その後に、船が減った。データは今度準備しておこう。
そこでだ。【レリア】に連絡を取りたいのだが・・・・・・」
「次元通信か・・・・・・簡単に持ち出せる大きさでもないし管理が厳しい。
ワービルの残骸を見てみるか・・・・・・」
「なら、施設部の交換パーツ探しを名目にして、コロニーにいる査察部を動かしますよ。
ボーズも有れば、こちらもありがたいですがね」
「宇宙空間で、ジャンクパーツ探しか〜憧れるな〜」
亮太が、欲望のままに言葉を発した。
「これは、是非友好関係を構築できる様にしないといけませんな!」
地球に向かっているのがレリア艦隊で有れば、ドーンの性格上ワービルの様に予定星域を外れる様な事はしないと考えて、ファルトン、アーバインそして、地球の相互位置関係がおおよそ解る事が考えられた。
ファルトンから見た場合の移住目標の銀河の位置と、その他のデータを入手する事が約束された。
そして語られる。
ファルトンの歴史。
記録が黒石板に保存されて行く。
返す返すに思うのは不思議な『ボーズ』の存在。
古代遺跡から出土したと言うならアーバインの【魔素】と【魔石】と変わらない。
だが、その用途が違う。
イバもイギリスや日本で様々な【陣】と【マナ】、【法力】に触れて来た。
だが『エネルギー』とは違っている。
明らかにボーズはエネルギーだ。
電気エネルギーの蓄電効果はいざ知らず、宇宙船を飛ばす様な巨大なエネルギーを蓄えているとは思えない。
ただ、今は無人攻撃機に使っていた小型のボーズは、ただのバッテリーになっている。
しかも、効率は下がる一方だそうだ。
「それで、無人攻撃機の出撃が減少している?」
「あぁ、だがまだコロニーの中には、ワービルからせしめたボーズが残っている。
気をつけるのに越した事はない」
「アーバインで昼夜問わず『流れ星』が降り注ぎました。
あの戦いは、予定されていた作戦なんですか?」
「あぁ、その様だ。
『ワービルのカブ』、『ルベルのハイエル』
共に優秀な将官だったが、ハイエルは父の跡を継いで将軍となり裕福になった。
カブは同じ民族ながら政治体系の違いから、なかなか芽が出なかった。
最後の逆転のチャンスが、この移民事業だった。
だが、最後までカブに運命の女神は微笑まなかった」
「その言い方ですと、ファルトンには宗教が存在する様ですね」
「あぁ、様々な宗教が存在する」
「地球もです。
ですが、アーバインには宗教らしきものは存在しない。
そこで、質問ですが、こういった姿のものの伝承は有りますか?」
イバが取り出したのは竜、龍そしてポアーザの写真。
イバはバッフィムの記憶を読んだ時に、竜の絵が書かれた絵本を読んでもらっていた事を知っていたが、あえて出してみた。
アンジェラとアンジェスが反応した。
「【ウォルート】ですか?」と竜の写真を指差した。
「やはり伝承が有りますか?」
「えぇ、だけどファルトンでは『裏切り者の神』として忌み嫌われています。
ですが、一部の人には人間の間違いを正したが、聞き入れられずに去っていった神。
そして、その後に現れたのが、人の姿をした神です。
名前は無いです。
神としか言われていません。
この宗教だけは、神に名が無いのです」
初めて聞いた『名のない神』
いや、【神】という名が有る。
地球上には、姿がない神もいる。
だが、名は存在する。
それに、竜は裏切りの神。
ポアーザ達の伝承に、立場は違えど一致する。
だけど、今は、この話は置いておこう。
「ありがとうございます」
「それが何か?」
「似た様な伝承があるんですよ。地球にもこのアーバインの一部の民にも。
後日、少し整理してお話ししましょう」
「さて、大輝と卓也が帰って来ました」
陣が閃き、二人の男が現れた。
初めて目にする【転移】
「やはり、お客人を中に入れたか?」
脩の方を見る大輝。
「俺じゃないよ。親父だよ」
「だろうな。思い切った事をやるのは、この夫婦だからな」
「で?」イバが成果を確認する。
「ミサが言っていた様な、地下に層が作られた聖地だった」
「だった?」
「あぁ、全滅していた。
恐らく火山ガスが、地下から噴き出したんじゃないかな?
下に行くほど白骨が増えた」
「そうか、今は大丈夫だったのか?
「例の水中呼吸器の応用で、正常な空気を遅らせた」
「器用なやつだな」
「念の為、近くも探したんだがダメだ。
居るのは野生動物だけだ。
数百キロに渡って、二人で調べたが引っ掛からなかった。
だから泉は止めて、魔石だけ隠しておいた。
魔道具も置いておいたから、もし、アーバインの住民が入ったら知らせが来る」
「待て待て、あの火山の先まで行って帰って来たのか? しかも、周辺の探査までやって来た?」
「ワグルさんでしたね。私達に、かかれば安全な場所なら数秒で行けます」
「食堂から、ここへならわかるが、そんな距離でもか?」
「行けますね。ただ、余り上空の航空機に移るのは好きじゃないです」
大輝は、若干『高所恐怖症』なところがある。
あの火山島が限界に近かったはずだ。
相変わらず素直すぎる。
「それならどうする? 侵攻作戦を止めるか?」
「いや放っておこう。なんで知ったかと言われるのが落ちだ。
火山ガスで滅びたというなら、亡くなった方には悪いが無駄足を折ってもらおう」
ワグルがそう判断した。
「魔石置いて来た分以外は、回収して来ただろうな」
「あぁ、かなり残っていた、こんなのもあったぜ」
「ファルバンの暗部か。済まんが、これはルース様に渡す」
「「それ、見せてください!」」
ファビオとダンテが、イバの元に駆け寄った。
「間違いない。爺様が持っていた物と同じ杖だ」
「それは、どうした?」
「僕たちがいた洞窟の奥にある、僕らの寝る場所に埋めている。
【空人】が襲って来た時に、悲鳴が聞こえたので、いろんな物を埋めて隠した。
【魔石】もいくつか、そして爺様が俺にくれた杖もそこに有る」
これは、一度その【聖地】に忍び込むしかないな。




