457 開拓団2-14 ドンゴの存在意義
どうしてこうなった!
忌々しい査察部が、17開拓団と親密になるとは!
査察部が、いきなり乗り込んで来て『薬物の原料を持って居る』と言うタレコミがあった。
と言って来た時は焦った。
今朝までは、この事務所に【薬物】を置いていた。
それを、隠し場所に移した。
下水道のマンホールの下で、匂いが酷いのに作業をしてくれたので、チョット一杯引っ掛けていた。
そのボトルにも目を付けられた。
タバコもそうだ。
目の前に、摘んだばかりの薬草が入った『小麦の配給袋』を突きつけられた。
うちの会社のマークが書かれているだけで、そんな物が証拠になる訳が無いと噛みつこうかと思ったが、突き出された葉を見て息を呑んだ。
葉の根元の色が違う。
こんな、赤い枝では無い。
コッソリ一枚引き抜きぬいて、査察官に酒瓶が見つかって奴らが、はしゃいでいる間に臭いを嗅いだ。
青臭い葉の臭いの中に感じるこの臭い。
間違い無い。
コイツは、この星で得られる原料だ。
それを見つけてくれた奴が居る。
この大陸に違いない。
しかも近い。
葉が新鮮だ。
これから、人口が増えれば酒もタバコも必要になる。
余興が無いのだ。
ストレスを発散する手段がいる。
誰もが品行方正という訳じゃ無い。
次の移動艦と鉄鋼材の投下まで時間がある。
そのうち引っ張って行かれたアイツらも出てこれる。
人が足りないのだ。
俺の商売の為にも、人を増やしやがれ!
早く、人口受精卵を人口子宮で育てやがれ!
自分達の欲望と都合で、多くの人間のCSCを停止させやがって!
薬の上客だって居たのに!
お陰で憎い保安局の『アレン』かどうかの確認に行きそびれてしまった。
諜報部の管理下にあった時ならマスクを外させれたというのに!
だから、朝駆けで叩き起こして全員の面を見てやろうと思っていたのに!
それで、どうこういう気はない。
使うだけ使い倒して、この手で炎の中に叩き込んでやれればそれで良かった。
オマケに、査察部の奴が農園と組んで開拓団へ果樹の苗を委託すると言う情報も入った。
完全に開拓団は査察部の管理下になってしまいやがった!
これじゃ、下手に手を出せば嫌がらせで配管屋に、又査察が入る。
クソ!
あのバッフィムとかいう奴、上手く査察部に取り入りやがった!
「なんだと! 南区の下水工事をやり直すだと!
どこがやるんだ!
17開拓団と、その周辺の開拓団!
クソ!バッフィム!又アイツら俺の邪魔をしやがる!
急げ!『ブツ』の回収を急ぐんだ!」
ドンゴ達は、下水工事の折に合流点などのマンホールの部分に色んな品物を隠していた。
マンホールの下には、配管の予備部品置き場や休憩所が有って、その床下が隠し場所になっている。
他にも港に積み上げて居る鉄鋼材の中や、建設予定の下水処理場に隠して居る。
コロニー艦に隠して居るもあるが、それでも五割程度は降ろしてある。
没収されたら、周り回って皇帝を喜ばせるだけだ!
金や宝石の類は、アンドロイドに隠して降ろして回収した。
農業用トラクターの部品にも、ボーズや薬物は隠してコロニー艦が外宇宙に出るまでには回収する。
数万人しか居ないが、今のうちに基礎固めだ!
それに、いつ皇帝の奴が裏切るか解った物じゃ無い。
子供は、皇帝の人質にならない様にCSSを分けている。
兄貴と弟の子供もいる。
女房は、子供の為に一緒にしてあるが、どうも、自分の母親の事も有り愛せなくなってしまった。
そもそも、あの薬に狂った親父が兄貴以降、その気になったか怪しい物だ。
弟は間違いなく、父親が違う。
顔立ちが違うから、あそこまで女にモテた。
俺と兄貴は、金と薬と権力で女を侍らせた。
そんな事を考えている場合じゃ無い。
残りのブツの隠し場所と、あの薬の原料の薬草を見つける事が先だ。
あの薬草の存在を知られたら、こっちの商売があがったりだ。
隠し場所はもう、港の建設現場と下水処理場予定地にするしか無い。
あの橋の管理を、諜報部で受けているので査察官の立ち入りも困難だろうし広大な敷地だ。
貧弱な人員の査察部では、発見することは不可能だ。
ロボット犬もコチラに配属が決まっているから、いざとなったらアレンを襲わせてもいい。
故障ということで爆破処理すれば問題にはならない。
このオイルライターの出番がないのは残念だが、査察官も馬鹿じゃないから近づいて、最後を見届けられないのは残念だ。
薬草の方は、ドローンを三台入手した。
特徴的な、あの葉。
『インドラ鉱石』が有る場所で日陰の場所。
石は解らないから、谷間をドローンで探すしか無い。
こればっかりは、人には任せられない。
この日から、ドンゴは外へ出ず。
ドローンから送られてくる映像だけを見る日々を過ごす。
かつての父が、そうで有った様に。
ドローンが、谷間を行き来する姿が見られる様になった。
すぐに、その意味にイバが気付く。
イバも、あの忌まわしい植物の特徴は知っている。
アシの洞窟周辺の群生地は遮蔽で隠したが、流石にその他を隠し切れていない。
だが、恐らく奴は位置を確認するだけで現地には来ないだろう。
今、ドンゴの手元に動かせる人間が居ない。
南区の下水道工事の不備はすぐに軍に知らせが行って、他の区画。特に軍の関係者の住む区画の、やり直しを命じられている。
ジャガーの元へ頭を下げて工事の事を聴きに来た時には、笑いを堪えるのがやっとだった。
何せ、ジャガーの横に居るのが原住民の子供。
ルベルの言葉を話しながら、工具の扱いから教えてくる。
口の軽い奴がいて、工作機械で接着、組み立てをやらせて、それを埋設する際に取り付けやすい方向に、配管を接続したそうで、サイホンはタダ繋ぎやすくする為の配管だと思っていたそうだ。
こりゃ、南区が傾斜地の末端に有っただけで、殆どがやり直しなんだろうな〜と、先行きの暗さが思いやられた。
そして、軍の農園にも入る。
葡萄やリンゴその他の樹々が、収穫間近な大きさまで育っているが、どれも『枝振り』が悪い。
痩せたメガネの作業着姿の男が待っていた。
『ロジシ』と言って査察官が言っていた、この農園の管理者だ。
農業従事者の息子という事で、この地を任されているが、ファルトンでは農業が続けられなくなって学校を軍学校に替えた未経験者だ。
ジャガーとて、まだ素人だがそれにしても酷い。
水のやりすぎで肥料が流れて行って、排水口周辺の雑草が凄まじい。
もう、何をしていいのか解らない様だ。
アンドロイドしか付いていない。
「原住民の子供は?」
怪我をしたり病気になって、軍の医療施設に移ったそうだ。
だが、『怪我や病気を、しているはずがない』と言い張った。
ジャガーは、水やりの回数を減らして特に、冬に備えて藁を集めておく様に言って置いた。
後で資料を渡すと言っておく。
軍の規則で一度検閲を通す必要がある。
ジャガーも、元軍人だったから良く知っている。
監査官が苗を17で生育させる事を伝えると心底ホッとしていた。
『子供達がいた部屋を見せてくれ』と言ったら、一瞬躊躇したが
『君の無実を、証明できるかもしれない』と話をして連れて行ってもらう。
四人用の部屋が並び鍵がかかる様になっていた。
ベッドは、二段で軍が使う監獄様だった。
ロジシには、罪はない。
彼の部屋も似た様な部屋で鍵が無いだけだ。
ロジシは、泣いていた。
相談する相手も居ない。
『手足に使え』と言われた少年少女は、親と友の命を奪った者として憎しみをぶつけて来る。
辛かったのだろう。
肩を抱いてやると、子供の様に泣き出した。
俺でも無理だ。
中に入れて貰い便所やベッドから、数枚の枯れた葉っぱが出て来た
「コイツは?」
「あぁ、それなら食べられる野草らしく、軍の配給の食事だけじゃ足りないからって、この頃食事のスープに刻んで入れて・・・・・そう言えば、それを食べ出してかな?発熱と嘔吐し出したのは!」
「そうみたいだな。
軍医や上には言わない方が良い。奴ら責任を押し付けたがるから、原因不明の方がまだマシだ」
「良かった。じゃあ、感染症じゃ無いんですね」
「あぁ、解ってやっているんだ。軽症で済むんだろうさ。
アンタも人が良いな。騙されたって怒れないんだから」
「そうですね。情が移ってしまったのでしょうね」
「じゃあ、これは片付けておこう。何かのきっかけでバレたら大変だ」
「軍も粗末な食事に身に覚えがあるせいか、直ぐに食中毒って言っていましたよ」
外に出て、他の作物を見る。
「済みません。ここから先は【薬草園】で私の管轄外なんです」
厳重に二重に柵が作られていて、その柵と柵の間をロボット犬がこっちに向かって来る。
特殊工作用。殺人兵器仕様だ。
「とんでも無いものが、見張りにいるんだな」
「えぇ、じゃあこっちに」
出入り口は、軍の建物かららしくコチラからは入れない。
『そうか。コイツの【精製】をドンゴがやるのか』
奴の【存在意義】を見つけた。




