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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
441/928

441 それから 女子会2

翌日、早朝から渚と直美はバイクで『知床岬』へ向かい、他の四人は、ルイさんと観光農園に向かった。

実は、四人とも乗馬の経験が無い。

イタリアでは、乗馬が出来る環境が少ない。

イギリスでは、竜の血を引く二人を馬が怖がるそうだ。

だけど、今回、認識阻害の魔道具を改良して馬にも【竜人】で有る事を隠せた。

こうして、夕方には皆で遠乗りができる様になっていた。

ルイは乗馬が上手く戦国物のドラマでは、一騎で駆け抜けるシーンは彼が任されることが多かった。

今も、この観光牧場には彼が撮影の為に来た時の写真がサイン付きで飾ってある。

今日も、何枚か写真に応じていたから、札幌でのパーティーの際には、何枚かの写真にサインをする事になるだろう。

夕食は、鹿児島から来た面々と一緒に外で食事をする事になる。

そこへ、ツーリングから帰ってきた渚と直美がやって来た。


「香織ちゃん!」

中学生の『西郷香織』も夏休みが早く始まるからと、『釜 琴音』の家族と駐屯地で合流して共に観光農園にやって来た。

お兄さんの西郷剣吾さんも五十嵐律子さんも、京都から師匠の送別会には参加するそうだ。

彼女も朝霧先生には、並々ならぬ指導を受けている。

親元を離れ『京優学園』に進み、アトリエで剣を振る香織に指導を続けていた。

ある意味、最後の愛弟子だろう。

基礎は、鹿児島の示現道場でみっちり仕込まれているし、何よりも、その俊敏性が彼女の武器だった。

普段は、ポニテにした黒髪が美しく背中で揺れていて、間違いなく京優学園一の美少女。

ただ、中学を卒業したら地元の剣道の強豪校に進む気でいる。

『高校で全国大会に出たい。個人戦も、団体戦でも!』

無理も無い。

今の上級生が出て行ったら、高等部に進む剣道部員は彼女一人になる。

よく笑い、よく食べる。

馬もすぐに乗りこなせる様になり、ルイと二人で駆ける姿は、まるで巨費をかけた戦国ドラマの『戰乙女』そのものであった。

だが、やはりアーバインの血のせいか天然タイプで笑わせてくれる。

それが、又人から妬みを買う事を防いでる。

朝霧ひとみも、『どこまでも、真っ直ぐに進みなさい』と彼女の事を買っている。


そうして、開かれた駐屯地での訓練。

萩月道場や地方の門人達も集まった。

アメリカから武田咲耶も二人の娘を連れて、友嗣と沙羅、脩に桜もやって来た。

脩の四人の子供達も桜に、懐いていて麗子も呆れる程だった。

「賑やかだな!友嗣さん」

「毅さん!お久しぶりです」

「今夜は、美咲の旦那の店で久しぶりに呑もうや!

もう、店ごと押さえてある」

「良いですね。うちが全額持ちますよ。

この子達も良いですか?

あぁ、構わないさ。札幌では『女子会』があるんだろう?

その前に、子供の交流を図るのにも良いだろうさ。

なんなら、三号店を抑えるぜ! 店名は違うがウチの隊員が修行後に蕎麦屋も兼ねて開いたんだ。

他の隊員の実家が喜んでいるよ。蕎麦の安定出荷先になっている。アーバインからの移住者も農園でも店舗でも働いてくれている。真面目だし釧路の住民も助かっているよ」

思い出深い居酒屋に、思い出話で花を咲かせる事になりそうだ。


模範試技ではやはり、朝香ひとみの抜刀と鎌鼬、その弟子の御室美咲と釜 琴音の髪飾りの変化と模擬戦、朝霧 (ひろし)とメルカの、空間に【転移陣】を浮かべての連続転移に目が釘付けになった。


そして、遥か上空を行く練習機の後方に引き摺れる【標的機】。

距離も高度もスピードも有るが、これを咲耶が細かく打ち砕いてしまう。


練習機から叫び声があがる。

「うひゃー!

レーダーに何にも写っていないのに、小さな炎の球だけが見えたぜ!」

「コウ兄!」

御室美咲の長男 (ひろし)が操縦士だった!

穂花が、今更ながらに心配する!

バレルロールを決めて、機体を左右に揺すりながら去って行った。

三沢から米軍の機体を借りて飛んできたのだろう。


【魔石板】を張り合わせたスクリーンで見てみると5秒間に20発の、小さな鋼球が後ろから順に撃ち抜いていっていた。

凄い!

喝采があがる。

知ってはいたが『本気モード』の咲耶の【指弾】の威力。

まさにひとりで師団クラスの威力の持ち主。


「私の、跡を継ぐのは誰?」

イヤイヤ。それは難しいんじゃ無いかい?

後に【種明かし】が咲耶からされた、

遠距離射撃は【転移陣】と【転送陣】を使う。

そして、ターゲットに近い【転送陣】を制御して手前の【転移陣】に高速で打ち込む。

それだけだ。

だが咲耶は、それを悟られない様に手前の陣でも、自分から離した場所に【転移陣】を展開している。

だから、陣なしでも数キロに直接射撃はできる。


だから、上空の敵でも当てる事も、できるが余りにも敵がデカい場合には効果が薄い。

指弾をマスターする為に、手のひらの【収納】、指の動き、【転移陣】への打ち込み、【転送陣】の制御。

どれだけの事を瞬時・同時やって退けているか、しかも相手に気取られない様に手前の【転移陣】もそれらしく動かしている。

魔素の処理量が多く、かつ器用さが求められる技だった。

種明かしされたところで、おいそれと出来るわけがない。


その後もあちらこちらで交流が始まった。

自己紹介や、新たな繋がりで紹介されていく。

特に、萩月八家とそれに繋がる者達は、憧れに満ちた目を集めた。

そしてアーバインからの転移者の面々。


今回、ここでの交流しかチャンスが無い者達も多く様々な食事が提供された。

東郷和也と雅樹、西郷美玖が、梓月の娘達に手伝わせて提供する食事やデザート、郷土料理。

子供向けの軽食やオヤツ。

そして忘れてはいけないアーバインからのタレと魔女のタレが産み出す焼肉とジンギスカン。

長谷山が提供する城山のホテルのビュッフェメニュー、アーバインを降りる風間と、その後を継ぐ三好昭人が『天空のテラス【メルル】』のスタッフと提供する世界各国の料理が提供された。


その中で、香織はひとりの高校生の所在無げな姿に目が留まった。

「確か、東郷さんの長男。洋樹さん?

高校生に、あがったばかりで私の二つ上のはず」

食事をする事もなくただ、料理人の動きを追いかけていた。

「香織〜」

渚と直美が御室美咲を引っ張って来た。

たちまち盛り上がる剣術談義。

ちょっと目を話した隙に、洋樹は居なくなっていた。

『本当は、料理が好きなんだろうな』

香織は、彼が料理人の手の動きより、視線の動き方を見ていた気がする。

そして、その周囲の調味料や火加減の様子。

食材の、切り方にも目が行っていた。


その日は色んな物を食べて、お腹いっぱいになって観光牧場のロッジへ帰った。


翌朝、いつもの癖で部屋の明るさで起きてしまう。

が、京都よりも日の出が早い。

「あっ!そうだった」

でも起きてしまったなら、トレーニングをしよう。

そう、思い立ち着替えて外に出た。

朝露に濡れた草の匂いがする。

木立の奥から木刀を使った素振りの音がするが、どうも、良い音でない。

強さは有るが、無駄に振り回している様な・・・・・・

東郷洋樹であった。

子供の頃なら、それでも通用したのであろうが

・・・・・『迷っている?』

たまに良い剣筋があるのだがすぐに、それを打ち消す様な動きをする。

香織にも覚えがある。

京優学園を続けるか、鹿児島に帰るか迷った時だ。

香織の視線に気付いた洋樹は、木刀を掴んで去って行ってしまった。

悩みか・・・・・

香織は、思い直して走り出した。



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