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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
438/929

438 それから 貴子

麗子

脩と桜の間に誕生した。

【岩屋麗子】

誕生したその姿は、沙羅、桜、咲耶とは違い、黒髪の姿で産まれた。

誕生後、京都の萩月のマンションの最上階に設けられた岩屋家の部屋で過ごす。

親子三人。

脩と桜は【サトリ】で有るから意思疎通は、そちらが楽なのだが敢えて声を出す様にしている。

ただ、麗子は声帯の成長が未だなので【念話】を使う。

生誕から、ひと月ほど経ったその日、麗子が恐るべき事実をあかす。

『私のオリジナルは、お母さんと一緒。身体強化の様に髪、目位なら問題なく変える事ができる。今は、時間がかかるけど数日後にはオリジナルに戻る』

その言葉通り4日目に、ウェーブした金髪で翠の目をした赤ん坊に変わっていった。

出産前に、若菜が見舞いに来た時に『こういう日本人的な姿も憧れる』と、思ったらしい。

『どう? 驚いた?』

と、【サトリ】の力で、みんなを呆れさせた娘。

それが、麗子だった。

「この、性格。間違いなく、お母様の血を受けているわね」

「黒目、黒髪の姿だったから、名前も日本人ぽくしたんだが」

『なんて付けるつもりだったの? レイラ? 麗子で良かったわ。せめてレイにして欲しいわ』

「お父さんは、あのアニメのファンだからこそ付けなかったんだ!」

「ヘタレ」

あっさり父親を切って捨てた娘。

「今は、できないけど、灰色がかった水色の髪に赤い眼も出来るわよ」

「ほんとうか!」

あっさりと、自分の趣味に走ろうとする脩を抓る桜だった。


こうして『悪戯大好き』の麗子だったから、狐巫女や聖地からの子供達と岩屋神社で遊びまわる姿に、沙羅も「大人しかった桜とは大違いね」と目を細める。

「良いではないですか?」 

その様子を眺める雪が微笑む。

麗子は特に、スミレと仲が良く。

スミレが岩屋神社に来たおりには、お昼寝の時間はスミレと一緒に眠っていた。

夜も狐巫女達の部屋で眠る事も有り、脩は寂しい思いをしていた。


桜と沙羅は、そんな麗子に気が付いていた。

鹿児島市内に居る貴子とスミレのつながりを使って、月夜石からの【真力】を、その命を長らえる様に助けている事に。

【寿命の延長】

そうとも言える麗子の能力。

【治癒】とも違う誰も知らない能力。

【魔素】、【真力】、【法力】、【マナ】何でも良かった。

生命を繋ぐ為に役立つ様に変換して、個人に合った状態で注ぎ込む。

今回は、スミレと触れ合った時に貴子の存在を感じその命の灯火が消えそうな事を感じた。

だから、こうしてスミレを通じて貴子と繋がった。


【魔素】では、もう彼女の身体にはキツ過ぎる。

だから、スミレの体を使って【真力】の力も和らげる。

【奉石】を使って、安寧の力で痛みを和らげる。

貴子の体調が優れない事は、みんなが西郷卓也から聞いている。

卓也は妹を、近々、自分の病院で過ごさせることを考えていた。


「貴子。時が近いのね?」

スミレが呟いたのを沙羅は、聞き逃さなかった。


暑い夏の昼下がり。

麗子が岩屋神社にいた時に、境内の能舞台で神楽舞の準備をしていたスミレが倒れた。

「麗子!」

「お母さん。貴子さんが皆んなに、『ありがとうって伝えて』って言っている」

『脩!貴子が逝ってしまう!』

『何が起きた!【探知!】 大分のサーキット? なんでそんな所に? 亮太! 何があった!』

『脩か? 貴子が真吾を助けようと、パドックに飛び込んできた・・・・・バイクの・・・・・前に、・・・・・ 身を投げ出した! 息をしていない』

『卓也!準備できたか! 今からそっちに転移する』

『脩、無駄だ。俺も、現場に居る。スタンドで律子と一緒に観戦していたんだ。午前中に真吾のレースがあって真吾はそのまま、パドックに残って居たんだ。貴子も最後にパドックに入りたいと駄々をこねてな。スタッフの制服まで新調してな。

知っていたんだアイツは。

事故の直前に、貴子から最後の念話が来た。

【兄さん。ありがとう。何もしないで、最後の頼みよ】

・・・・・・解っていたんだ。こうなる事を』

『卓也・・・・・【予知】か?』

『実際、もうボロボロだったんだよ。生きているのが不思議なくらいに。だから、このレース明けには入院させるつもりだった。貴子は『麗子ちゃんが、命を伸ばしてくれている』って言ってたんだ』

『やはり、スミレと一緒に居たのはその為ね』

『桜。ありがとう。貴子の為に、親子の時間を奪ってしまっていたな』

『うぅん。それより真吾と律子は大丈夫?』

『そっちは萩さんと雪さんで見ている。貴子が子供達に【萩月の勾玉】持たせていたからな。認識阻害かけて勾玉を使って渡って来た様だ。常義さんからも【念話】が来ている』

『そう。それなら日本の司法に任せるしかないけど此処に運べるかしら』

『そのつもりの様だ。長谷山さんが動いている。大事にはならないだろう』

『悪いけど、亮太と相談して。日本で埋葬するか聖地に帰すか』

『あぁ、解った。貴子の事だ。何か残しているだろう。長い事、この時に備えて居たのだからな』



貴子の『遺言書』が卓也から渡された『入院関連の書類』に挟まれていた。

そこには、家族それぞれと、転移組の仲間そして、常義ら陰陽師たちへの手紙の入った包みの置き場所が記されて居た。

日付は、この20日ほど前からになって居た。

全ての手紙に溢れんばかりの謝辞と感謝の言葉が記されていて、友人達には、それぞれに思い出深かった事が記されて居た。

遺骨は、鹿児島の錦江湾が見下ろせる場所に母の遺骨の一部と葬られた。


それまで仲が良かった、

真吾が麗子と、距離を置く様になったのはそれからだった。

麗子は真吾の心を読み、その理由に納得した。

「麗子は、お母さんが死ぬ事を知っていた」

麗子は貴子からの願いを受け入れて、スミレと貴子のコンタクトを利用して【真力】と【法力】を使って、その命を長らえさせて来た。

逃れられないられ無い【自分の死】を知って、その命が一番有意義な物になる時まで引き伸ばした。

『死んでいたのは、間違いなく自分だった』

真吾は、そう思う様になっていた。

『京優学園』でも元々、生活態度は良く無くレースの疲れから居眠りをしていたのだが、次第に寄宿舎にも帰らなくなり京都の街でぶらつく様になっていた。

言っちゃ悪いが真吾程度の術者ならば、親だけでは無く狐巫女でも抑え込んで学園に引っ張って来れるのであるが、貴子の遺言に『手を出すな』と記してあった。

予知の力を持つ貴子。

そして、彼女の【欠片】を持つスミレまでもが『手を出すな』と言っている。

周りは、見守るしか無かった。

真吾が、やっていた憂さ晴らしは『チンピライジメ』

寺町や八坂、辺りに行っては、悪さをする連中をとっちめていた。

先斗町は、地元っちの連中に任せていた。

大人の世界には手を出さない。

母親の命日にあたる祇園祭の引回しの舞台。

姿を消して四条河原町のビルの屋上に駆け上がり、街を眺めていた巴様の横に立った。

「どうした?」

「暑いね!・・・・・・あぁ、信長様に会ってみたかった」

「会ってはいるが、赤ん坊じゃったからな」

「と言う事は生まれ変わりは、俺じゃないか・・・・・・」

「そうなるな」

「あの方も、母親には恵まれなかったんだっけ?」

「お主は、恵まれて生きているがな?」

「そうだった。巴様 お袋は【輪廻】には乗っていないのか?」

「少なくとも日本の輪廻には、いない様じゃ」

「やはり、アーバインかな?」

「元々、消えそうだった魂を、幸子の魂が拾い上げたのだからな。

貴子の魂の欠片がスミレにある以上、アーバインでも難しいかもしれん。

しかも、貴子は、何かを伝える為にスミレの身体にいる」

「そうなんだってな。なんで、親子の俺に入ってくれ無かった?」

「それは、霊波が違いすぎるかな。お前は亮太に似ている。律子も明らかに違う」

「そうなんだ。お袋は、まだ何かやる気なんだな?」

「・・・・・・後、一月(ひとつき)学校に来れば、卒業に足りるぞ?」

「いや、悪いが【退学届】だしちまった」

「これか?」

一枚の書類をヒラヒラさせる巴様。

「ふふ、そうだった。理事の一人だったっけ?」

「何をしたいと言うか、もう聞いておる。

もう、悪いが手を回して置いた。

エリファーナが怒っておったぞ! 

『イギリスの大恩人の息子に、何もさせない気か?』とな。

だから、明後日の便だ。

行ってこい。

【留学扱い】にしてある。

ただし、チームでは一番下からだ。

工具は、もう送った。

使い慣れた物が良いだろう。

亮太が準備しておった。

後戻りはできんぞ」

「嫌だね〜【サトリ】だらけの生活は!」

「そのサトリの一人からの伝言じゃ

『怪我だけはするな!信じて待っている』」

「お前の親父さん見習って【北欧の妖精】でも見つけてやんよ!」

脩は、振り返れば麗子がいる事には気付いていたが、あえて振り向かずに京都の街へ飛び降りていった。


脩は、ロンドンへ渡り僅か一年だったが学生として留学した。

この間に、全ての単位を取得。

卒業の資格を取って、かつてマン島で父たちと戦ったレーシングチームの門を叩いた。

小さな個人の集まりのチームで積み上げる実績。

多くは望めない。

高校生、しかも国内ライセンスしか無かったので地方のレースに出て実績を重ねて、時にはワークスのテストライダーを務めて腕を磨く。

あまたのワークスからの『引き抜き移籍』の誘いを断った。

父たちが歩んだ道を行く。

そんな真吾のライダースーツには【勾玉と桔梗の紋】が重ねられて背中に【天下布武】の文字が書かれていた。

レーサー名 【織田真吾】 彼は、こうして一歩を踏み出した。




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