417 間話 八木の天体教室
済みません!
一話だけ、間話入れます。
古城光学の元工場長 八木さんの話を投稿するのを忘れていました!
よろしくお願いします。
八木がアーバインのカレンダーと、木場 直、青木達が取り続けてきた月と太陽の動きの記録を前にして、ロビーで唸っていた。
「八木さん! どうしたんですか?」
「あぁ、良いところに来た。シノちゃん!」
古城光学の工場長だった八木が、アーバインに越してきて間も無く半年になる頃。
八木は青木の事を【アオちゃん】と呼んでいたが、いつの間にか青山 碧を【アオちゃん】、青木 忍の事を【シノちゃん】と呼んで区別しだした。
碧の事は、半分弟子の様に扱っている。
何となく飲み屋に来ている気になるのだが、それでも青木は八木の誠実さが好きで許していた。
「何を見ているんです?」
「いやな、子供達に天体に興味を持ってもらう一環として、日蝕と月蝕を観察させてやろうと思ってデータを見ていたんだ。
出来れば【皆既日蝕】を見せてやりたいと思ってな。
月食だと長いし、夜中だから子供達には辛いからな」
「良いですね」
「それで、今までのデータを見ているんだがデータが足りないな?」
「それなら人を、使うんですよ。
今日はルーが、こっちにいるんじゃ無いですか?
予測してもらいましょう!」
八木の目が
『シノちゃん。自分の仕事の【抜け】を押し付けたね?』
と言っていた。
まぁ、当たり前なのだ。
九鬼修造に誘われ聖地に来て夜空の星がアーバインでは美しく、数も多く観察と星座表を子供達と作る事に専念していた。
【天測】の事を知りルベルの艦隊と地球に迫っている艦隊の事しか考えていなくって、月と太陽、更に言えば他の惑星の軌道観察は全く忘れていた。
長期的な観察が必要な『天文台』の重要な仕事のだが手が足りない。
「子供達にも手伝ってもらおう」
「天体望遠鏡の太陽投影板か・・・・・なぁシノちゃん。
【天測】で太陽を見ると、どうなるんだ?」
「あっ! やった事がなかった!」
「・・・・・シノちゃん?」
「あはは、ルーを呼んで話をして天文台に行きましょう。あはは〜」
「今夜は、シノちゃんの奢りで寿司だな?」
「・・・・・良いですよ」
ルーが言うには、『データが足りないが【シュミレーション】をかけて計算してみる』と言ってくれた。
早速、天文台にあがり現場に居た観測員達を交えて【天測の陣】を使って太陽を観測してみる。
観測員達も昼間は、【観測レンズ】にキャップをつけている。
時々子供達が訪ねて来て、昼の星の観測をするのだが、その時に直接太陽を見ない様にする為だ。
彼らも星の観察や、ルベルの観測は【魔石板】を使っている。
【天測】の際には、間違いなくそうだ。
そこで、『太陽投影板』を使って太陽を捉えた上で【天測の陣】で観測してみる。
【天測の陣】の良いところは、こういった時に融通が効く。
表面の状態を見る為に、魔石を調整する事で炎の渦が見れる様になった。
「これは凄いですね!」
青木も太陽は専門外であるが、この仕組みを地球でやろうとすると大変だろうなと思う。
アーバインの『不思議』を日本に持ち込めたら、一大変革が起きるなと思う。
それで、しばらく見ていて気付いた。
「黒点が、ありませんね?」
「偶然だろう?」
「かも知れませんね?」
「そう言うところも含めてやってみようか?」
「日本なら『気象庁』の仕事だが、潮の干満のデータも欲しい。
地震には、まだあっていないが無いとは思えない。
『地磁気』があると言うことは、マグマの対流があると言うことだからな」
「そうですね」
青木は、汗が出て来そうだった。
天文台兼気象台職員を、増員しなくてはいけない。
幸い、【天測の陣】と【魔石板】と言う便利な物がある。
これから長い年月をへて観測を続けることになるだろう。
地球では400年以上にわたって『黒点観測』を続けている天文台もあるのだ。
「さて、次は日の出と日の入り、そして中天の計測ですが・・・・・
バラバラですね?
月に関してもそうですね?
せっかく【天測】が有るんですから活用しましょうよ」
ルーにまで言われてしまった。
「あぁ、せっかく一日の時間を24時間で表すための基準時計を作ったと言うのに!」
地球とアーバインでは一日の標準的な時間と一年に大きな差は無いが混乱を招く。
そこで、アーバインでは専用の時計を作って24時間に調整してある。
一分にしては若干アーバインが早くなるが、一年はアーバインが四日ほど長い。
時差との近いで結構大変で有る。
人間の体内時計というのは案外馬鹿に出来ないので、この地球とアーバインの間を行き来すると時差ボケの状態になる。
「やる事増えたな。青木さん」
「ルー頼むよ〜」
「シュミレーションのデータがあったら楽になりますよ」
「あぁ、子供達も喜んでくれる。天体ショーは楽しいからな」
こうして、青木は子供達と製作している星座板に続いて、幾つもの天体、気象観測の班を作ることになった。
「ルースだけでなくウルマにも作るか?」
「地震計や潮位計。ルベルに見つからない様にレトロな物になるけど、その方が基礎がわかって良いか?」
色んな設備について話が白熱した。
夕方、ホールで寿司を摘みながら必要な機材の洗い出しと人員についての話をしていた。
だが、そこに塾長の篤と慎一、更にその妻ラーフィとシルバ、リルにノアと天文に見識がある面々が集まり始めて大事になってしまった。
それを聞きつけたルースがアーバインあげての『プロジェクト』に格上げしてしまった。
最初はただ、日蝕を子供達に観測させる話だったのが大ごとになってしまう。
後でやって来た木場 直と長谷山がとんでもない事になっているので驚いていた。
「どうすんだよ!八木さん!責任とってリーダー務めてくれよ!
俺は、JAXAも抱えているから無理だかんな!」
「大丈夫だ! やつがいる! 九鬼修造を呼び出そう!」
子供達まで集まって来た。
こうなると寿司は全回転状態になり、ルースが持ってくれる事となり飲み物だけ自腹になった。
破産を免れた青木は後は、九鬼修造が到着する前に八木とルーに任せて地球へ逃げ帰った。
「ただいま〜」
「あら、早かったわね?」
聖地はもう夜だったが、相模原の我が家は夕食前の時間だった。
「ごめんなさい。私も忙しかったから夕食は外にしましょう!」
「なら、私! 回転寿司が良い!」
「そうね! しばらく行っていなかったから、そうしましょう!」
青木が妻シューラと娘スピカに反対できるわけもなくビールをガリで済ましていた。
娘を挟んで三人で手を繋いで家路に着く。
月が綺麗だった。




