416 罠 04 宰相
この章 ここで終了です。
間話無しで次章に入ります。
「圧勝でしたね」
「ルベルの優秀さの証明だ」
この頃良く連れて回る武官に、機嫌よく答えるハイエル。
良いタイミングで受け答えをしてくれる。
艦橋から見るとルベルの艦隊は、ワービル艦隊が残した残骸の回収を行なっていた。
エネルギーユニットの『ボーズ』
下水道や用水路に転用できる『コールドスリーブカプセル(CSC)』
家庭用の浄水器として、或いは下水処理装置として転用できる『生命維持装置』
イオン交換膜のユニットは、製塩や太陽光発電を利用して燃料となる水素や酸素を生み出す。
水素はプラントを建設さえすれば、可燃性のガスや液体燃料さえ作るのに役立つ。
コロニー艦の設備は捨てるところがない。
外惑星の衛星軌道に乗せておくか、地表に落下させて保管する出来る資源だ。
いずれは、ワービルの発展に使えるだろう。
配管の類も、上下水配管に使える。
『太陽光発電パネル』も回収できた。
そして、【鉄】
艦隊の大きな破片は将来ルベルに落ちて来られては、万が一があるが外惑星の周囲を回る衛星軌道に乗せるか落下する様にしてある。
小惑星帯に置くのが、楽なのだが予想外の軌道をとってファルトンに向かう軌道をとらせてしまった馬鹿がいた。
それ以来、外惑星周辺の軌道に載せるようになった。
将来工場を建てる際に必要となる鉄。
製鉄所、コンクリート工場は必要になるが『鉄鋼材』を手に入れた事は大きい。
監視用のドローンや攻撃機を降下用カプセルから取り出して、鉄鋼材をパラシュート降下させる。
ワービルもそのつもりだったようで、降下カプセルに入った鉄鋼材が見つかった。
『済まんなワービルの諸君。君達の遺産は有り難く頂戴するよ。
ここまで運んでくれてありがとう』
無傷の移送艦は少なかったが、アンドロイドを使って物資搬送に流用した。
墜落した機体もあるが、ボーズを使った推進ユニットなので大きな火災が発生しない。
「だが、もう入手出来ないからな。新たなエネルギーユニットを作るしかない」
「また、大昔に戻る訳ですね」
「前回、入植にあたっての調査をした辺りには、太古の植物が炭化した化石燃料が埋まっている。
だから、重要地点として入植をやらせてみた。
アンドロイドを使えば無人で採掘も出来るだろうが、そのうちに動かなくなるだろう。
ワービルが残していったバラバラの部品を集めたいが『ショート』でもされたら危険だ。
原住民を使って採掘させるか?
だが馬鹿な『先遣隊』の連中のせいで、粗方の街は焼き尽くしたそうだから、まとまった数は期待できないな」
「それで、【懲罰】として、あのような処置を?」
「・・・・・あぁいう奴らは、直ぐに調子に乗るからな。
宰相には言ってあったんだ。
『過ぎた行動をする様なら始末しろ』とな」
「なるほど、・・・・・」
「うるさい長老連中や、ワービルとの協調を唱えていた連中は、眠らせたままか・・・・・
賢い奴だ。こちらの考えを察している。
賢すぎると考え物だが、しばらくは様子見だな」
「コロニー艦の覚醒計画はどうなっておる。
しばらく、医務官達が過重労働でしたので、『一週間程、休暇を与えよ』との宰相の計らいで休ませておりますが
それも明日には、作業再開の予定です。
「そうか、確かに軍関係者の覚醒がスムーズだったのは、彼らの働きが大きいな。
致し方あるまい。
宰相は、長い事CSに入らずに指揮をとった様だな。
老けてしまいよって・・・・・良かろう。
入植がひと段落したら、『侯爵』にしてゆっくりさせる」
「それは、宰相もお喜びになるでしょう」
「で、その宰相は?」
「本日は、人工授精卵の管理施設に、視察に行かれております」
「精力的だな。確か、今は独り身だったな。身の回りの世話をする女を探してやるか?」
武官を下がらせて、一人、ハイエルは【ルベル】と名付けた星を見下ろした。
「なるほど、【青い海】とは本当にあるんだな」
ファルトンの、茶色い海との違いに納得がいった。
安全を期するために作業船以外は、戦闘があった領域から離れた位置にいる。
再度、コロニー艦を使ってデブリを跳ね飛ばして安全を確保したら、衛生軌道上から全域を眺めてやるとしよう。
この星は、俺の物だ!
その頃、宰相は人工授精卵の保管エリアに入っていた。
ここは、コロニー艦でも先端に近い安全な部分にある。
誰の受精卵かわからない様に、コード番号しか書かれていない。
その中のひとつの『冷凍保管庫』
彼と彼の妻だった女の間で、人工授精させた受精卵。
ルベルの移住計画管理者として多忙を極めた彼。
その妻は、この移民団には居ない。
乗船を、いや、生きる事を拒否して姿を消した。
嫌がる彼女を眠らせて、採取した卵子を使った受精卵。
目覚めて状況を知った彼女は、一言も口を聞かずに姿を消した。
美しい女だった。
賢い女だった。
だが、彼女は昔から存在している有るグループに属していた。
【ボーズ否定派】
俺にもわかるよ。
この【ボーズ】の異常性。
なんで、こんな黒い箱から無尽蔵なエネルギーが産まれてくるんだ?
そして、人々が欲するたびに都合よく目の前に出される。
誰もが、回答を出せなかった。
そうして、ここまでやって来た。
良品であれば、単位時間当たりの放出量に違いがあるが、ほぼ無尽蔵に電気エネルギーか、熱エネルギーとして放出できる。
最初、この夢のエネルギー源が発見された国は潤った。
だが、他の遺跡でも発見される。
決まって厳重に隠れされた状態で見つかる。
誰もが一攫千金を狙って盗掘をつづける。
最初は日常生活用に電池として、次に移動用の車や船舶用に使用するようになった。
もう、全ての常識を覆した。
原理法則は解らないが、使えてしまう【エネルギー源】が有る。
大気汚染を招くわけでもなくクリーンで様々な用途に使える魔法の箱。
もう、誰も【ボーズ否定論者】の声を聴く訳が無かった。
そして、遂には宇宙でも使用される。
新たな航行方法、そしてエンジン。
この航法を発明したのは、『ルベル』の科学者で有るが詳細は不明
他国から仕様にあわせた推進機構を受注し、大きな国家予算を得た。
ルベルは宇宙空間で船体を組み上げて、そこで長距離航行可能な宇宙船を開発。
他国に売り込みをかける。
そして宇宙空間で使える推進機構が、開発されて一気に宇宙開発が進む。
訳が、わからないエネルギー供給器だ。
このようにして、ファルトンの宇宙開発が進み、
更に開発が進む。
そして通信技術に、次元を超えた航法を生み出す機構。
全てが【黒い箱]だ。
ルベルで生み出される新たな技術
すぐに、配給される[黒い箱】
「踊らされて居るのに気付かない?
都合が良すぎるの!
次から次に、現れる物と知識!
誰かが、操ろうとしているとしか思えないわ!
私は、人として死にたい。
【人形】なんかにならないわ」
ルーミナス。
お前の言う通りだ。
だが、命は欲しい。
繋ぎたい。
宰相は、人工受精卵のキャビネットを締めて。
外に出た。




