404 間話 通い婚
「やっぱり、ダメなの?」
「残念ながら、地球に行く事は無理の様です」
突き付けられた真実にシータは、純一と亜美に縋って泣くしかなかった。
彼らの目の前には【乾涸びた鱗】
シータが、竜化した際に剥がれ落ちた鱗。
月に一度ほどペータとシータは竜化した姿で入浴するが、その際に数枚ずつ鱗が剥がれる。
アーバインに居る間は、剥がれ落ちても生きている様にキラキラと輝いている。
それを【御守り】代わりに純一に渡したシータ。
この何気ない行動が、シータの望みを打ち砕いてしまった。
岩屋神社に到着した純一は、ポケットの中から異臭がする事に気がついた。
慌てて、ブレザーを脱いでポケットを覗くと、鱗の表面が腐り落ちていた。
長谷山の門人で生物学に詳しい者が、悲しそうに首を横に振る。
「ダメですね。完全に壊死しています。
鱗の表面に薄く皮膚の様な物が付いている部分が有るんですが、それが腐っています。
骨格も水分を失った様に、縮んでいますね」
「・・・・・そうですか」
その後も、調べてみると恐ろしい事が判明した。
シータ達の身体には【真力】は毒になる。
アーバインに居る限り豊富な魔素に体表を守られいて、月夜石からの【真力】の影響は無いが、魔素が無い環境下では竜化では無く死に至る。
涙に包まれてウルマでシータは、純一と初めての朝を迎えた。
亜美は、純一との初めての夜をシータに譲った。
「純一も大変だと思うけど、シータとの生活を大事にしてあげて!」
亜美が待つルースの聖地に帰った二人。
シータは、ガッチリと純一の腕を取っていた。
「亜美には、まだ学校があるから、赤ちゃんを産めないけど私は産めるわ!
赤ちゃん出来るまで、毎週通ってね・・・・・お願い。
・・・・・愛している・・・・・」
「あぁ、僕もシータも亜美も愛している。
きっと、日本に連れて行ける方法があると思う・・・・・だから・・・・・」
「ううん、もう無理はしないで、あなたと亜美にはやる事がある。
吹っ切れたわ。
私も、やる事が出来たから心配しないで」
母ダイヤが、身体に宿った妹達の成長を制御する為にとった行動。
ヘルファの鉱石を呑み込み、その【鉱毒】を使って妹達の成長を抑えた。
妹達も苦しんだ様だ。
その謎を解く。
妹達が、同じ様に苦しまない様に。
ファルバンの術師【ミーフォー】の、治癒の術がその身に注がれた時には、母も苦しまずに妹達も眠れた。
アシの一族として初めて人間の男と交わる事で生まれた【ペータ】と【シータ】。
妹達の身体の中に、新たな生命が生まれる事を抑えれれば苦しまずに済む。
それに、私にも同じ様に自分の【分体】が出来てしまうかもしれない。
そして、兄ペータにも【分体】が出来るのかも知れない。
母の苦しみを見てきた。
それに、竜の姿でも嫌なのに手足を無くして動く事も出来なくなるなんて、そんな事を、この妹達にはさせたくない。
だが、こうも考える。
ポアーザになる事で長寿になっているとも言える。
ポアーザにならなかったら、人として死ぬのだろうか?
自分達には、余りにも選択肢が多すぎる。
何が、幸せなのかわからない。
今日も、ルースの持っている【黒石板】を預かる。
一日に数ページしか開けれないがそれを転写する。
そして、それを読み解く。
きっと、この中に自分達の将来を決める鍵がある。
「シータ! おはよう。今日も頑張ろう」
「はい。お兄様」
「今日も、眠っているわね」
「あぁ、でも可愛い寝顔だ」
「お腹、空かないのですかね?」
今日は、純一とシータそして亜美のアーバインでのお披露目だ。
朱雀と恋歌、そして雅弓は、アーバインに来ていた。
朱雀と恋歌は19歳、雅弓は15歳になっていた。
エルラ、エメラも朱雀と同じ様な歳のはずだが、成長が遅く10歳にも満たない少女の姿だ。
ポアーザの二人に聞いても、ダイヤも眠る事は多かったが、成長は人間よりも少し遅い程度だったと言う。
ダイアの四人の子供達。
みんなが、アシの一族として、初めての誕生の仕方だった。
人との間に産まれたペータとシータ。
ポアーザの二人も聞いた事がない。
特に男子で有るペータは、女性しか産まれなかったアシの一族では異端の存在。
二人とも竜の姿と、人の姿を持つ事ができる。
月に一度、わずかな時間それこそ、身体を洗うくらいの時間でしか無いが竜になる。
ペータは、浜の娘と家庭を持って子供もいる。
男の子で、竜になる事は無かった。
そして、シータは純一と結ばれている。
子供は、まだの様だが、じきに子供が出来るのだろう。
エルラ、エメラ
アシの一族は、己の身体の中に【分体】を宿す。
その分体はやがて、母体を食い破って産まれる。
その苦しみを、この子達にも味わらせるのか?
今も、美耶がここを訪れて四人の身体に触れて、異常が無いかを確認する。
他のファルバンの【治癒】が使える術師も見てくれているが、美耶程の診察ができるのか?
何しろ、ダイアの身体の中にいる、ダイアそのもので有る【分体】を見分ける事が出来たのは美耶だけなのだから。
大きくなれば【鼓動】の違いで解るのだろうが、眠っている間の鼓動は驚く程少なく弱い。
鼓動の、ひとつで母体が苦しむのだから、自ずとそうなるのであろう。
もちろん、仁科医師が害にならない程度のレントゲンや、超音波検査をかけている。
ただ、超音波は四人とも嫌いだ。
身体の芯から痛みが生じるらしい。
どんなに眠っていても、エルラとエメラが起きてしまうほどだ。
「【ラッパエナガ】みたいね」
恋歌が、札幌のホテルで寝坊した雅弓を起こした朝霧ひとみの【式】を思い出していた。
「あれは、効きます。
私も式を使いますが、シマエナガをあんな風に使うなんて
・・・・・反則です」
「仕方ないな」
「お披露目が、もうすぐ始まるのにね」
抱き合って眠る二人の少女を残して、皆が出て行った。
「行ったね?」
「行った」
「まだだね?」
「まだだよ」
「おやすみ」
「おやすみ」




