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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
404/928

404 間話 通い婚

「やっぱり、ダメなの?」

「残念ながら、地球に行く事は無理の様です」

突き付けられた真実にシータは、純一と亜美に縋って泣くしかなかった。

彼らの目の前には【乾涸びた鱗】

シータが、竜化した際に剥がれ落ちた鱗。

月に一度ほどペータとシータは竜化した姿で入浴するが、その際に数枚ずつ鱗が剥がれる。

アーバインに居る間は、剥がれ落ちても生きている様にキラキラと輝いている。

それを【御守り】代わりに純一に渡したシータ。

この何気ない行動が、シータの望みを打ち砕いてしまった。

岩屋神社に到着した純一は、ポケットの中から異臭がする事に気がついた。

慌てて、ブレザーを脱いでポケットを覗くと、鱗の表面が腐り落ちていた。

長谷山の門人で生物学に詳しい者が、悲しそうに首を横に振る。

「ダメですね。完全に壊死しています。

鱗の表面に薄く皮膚の様な物が付いている部分が有るんですが、それが腐っています。

骨格も水分を失った様に、縮んでいますね」

「・・・・・そうですか」

その後も、調べてみると恐ろしい事が判明した。


シータ達の身体には【真力】は毒になる。


アーバインに居る限り豊富な魔素に体表を守られいて、月夜石からの【真力】の影響は無いが、魔素が無い環境下では竜化では無く死に至る。


涙に包まれてウルマでシータは、純一と初めての朝を迎えた。

亜美は、純一との初めての夜をシータに譲った。

「純一も大変だと思うけど、シータとの生活を大事にしてあげて!」


亜美が待つルースの聖地に帰った二人。

シータは、ガッチリと純一の腕を取っていた。

「亜美には、まだ学校があるから、赤ちゃんを産めないけど私は産めるわ!

赤ちゃん出来るまで、毎週通ってね・・・・・お願い。

・・・・・愛している・・・・・」

「あぁ、僕もシータも亜美も愛している。

きっと、日本に連れて行ける方法があると思う・・・・・だから・・・・・」

「ううん、もう無理はしないで、あなたと亜美にはやる事がある。

吹っ切れたわ。

私も、やる事が出来たから心配しないで」


母ダイヤが、身体に宿った妹達の成長を制御する為にとった行動。

ヘルファの鉱石を呑み込み、その【鉱毒】を使って妹達の成長を抑えた。

妹達も苦しんだ様だ。

その謎を解く。

妹達が、同じ様に苦しまない様に。

ファルバンの術師【ミーフォー】の、治癒の術がその身に注がれた時には、母も苦しまずに妹達も眠れた。

アシの一族として初めて人間の男と交わる事で生まれた【ペータ】と【シータ】。

妹達の身体の中に、新たな生命が生まれる事を抑えれれば苦しまずに済む。

それに、私にも同じ様に自分の【分体】が出来てしまうかもしれない。

そして、兄ペータにも【分体】が出来るのかも知れない。

母の苦しみを見てきた。

それに、竜の姿でも嫌なのに手足を無くして動く事も出来なくなるなんて、そんな事を、この妹達にはさせたくない。

だが、こうも考える。

ポアーザになる事で長寿になっているとも言える。

ポアーザにならなかったら、人として死ぬのだろうか?

自分達には、余りにも選択肢が多すぎる。

何が、幸せなのかわからない。


今日も、ルースの持っている【黒石板】を預かる。

一日に数ページしか開けれないがそれを転写する。

そして、それを読み解く。

きっと、この中に自分達の将来を決める鍵がある。

「シータ! おはよう。今日も頑張ろう」

「はい。お兄様」



「今日も、眠っているわね」

「あぁ、でも可愛い寝顔だ」

「お腹、空かないのですかね?」


今日は、純一とシータそして亜美のアーバインでのお披露目だ。

朱雀と恋歌、そして雅弓は、アーバインに来ていた。

朱雀と恋歌は19歳、雅弓は15歳になっていた。

エルラ、エメラも朱雀と同じ様な歳のはずだが、成長が遅く10歳にも満たない少女の姿だ。

ポアーザの二人に聞いても、ダイヤも眠る事は多かったが、成長は人間よりも少し遅い程度だったと言う。


ダイアの四人の子供達。

みんなが、アシの一族として、初めての誕生の仕方だった。

人との間に産まれたペータとシータ。

ポアーザの二人も聞いた事がない。

特に男子で有るペータは、女性しか産まれなかったアシの一族では異端の存在。

二人とも竜の姿と、人の姿を持つ事ができる。

月に一度、わずかな時間それこそ、身体を洗うくらいの時間でしか無いが竜になる。

ペータは、浜の娘と家庭を持って子供もいる。

男の子で、竜になる事は無かった。


そして、シータは純一と結ばれている。

子供は、まだの様だが、じきに子供が出来るのだろう。


エルラ、エメラ

アシの一族は、己の身体の中に【分体】を宿す。

その分体はやがて、母体を食い破って産まれる。

その苦しみを、この子達にも味わらせるのか?

今も、美耶がここを訪れて四人の身体に触れて、異常が無いかを確認する。

他のファルバンの【治癒】が使える術師も見てくれているが、美耶程の診察ができるのか?

何しろ、ダイアの身体の中にいる、ダイアそのもので有る【分体】を見分ける事が出来たのは美耶だけなのだから。

大きくなれば【鼓動】の違いで解るのだろうが、眠っている間の鼓動は驚く程少なく弱い。

鼓動の、ひとつで母体が苦しむのだから、自ずとそうなるのであろう。

もちろん、仁科医師が害にならない程度のレントゲンや、超音波検査をかけている。

ただ、超音波は四人とも嫌いだ。

身体の芯から痛みが生じるらしい。

どんなに眠っていても、エルラとエメラが起きてしまうほどだ。

「【ラッパエナガ】みたいね」

恋歌が、札幌のホテルで寝坊した雅弓を起こした朝霧ひとみの【式】を思い出していた。

「あれは、効きます。

私も式を使いますが、シマエナガをあんな風に使うなんて

・・・・・反則です」


「仕方ないな」

「お披露目が、もうすぐ始まるのにね」

抱き合って眠る二人の少女を残して、皆が出て行った。


「行ったね?」

「行った」


「まだだね?」

「まだだよ」


「おやすみ」

「おやすみ」



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