402 間話 近況1
しばらく、間話が続きます。
主だった登場人物のその後になります。
期間はバラバラですが、おおよそ7〜8年と考えてください。
デファイア国王 フレデリアの勧めもあってワッグと妻イリスはノルウェーに帰化。
養殖技術向上の為に設立された公的機関の責任者に就任した。
これには、友嗣も驚いた。
ワッグ・アレアスト 【アレの街の正直者 ワッグ】
アーバインの誰もが、彼の新しい名を聞いた時に納得する。
ワッグの両親は、サイス出身でアレの街で塩の取引をしていたが、領主が自分の息がかかった商人とすげ替える為に、行商の際に死に追い込まれていた事が判明した。
ワッグは、乳飲み子だったために知人に預けられていたが、事件後に路上に捨てられていたのを『土の術師【イリス】』が助けて、自分が育った聖地に連れてきた。
アレの街の領主を務める事になった【キヌク】が、最初に行った事は過去の不正を調べる事。
そして、ワッグの家族の記録に行き当たった。
不明、記録抹消、捜査終了の文字が並ぶ。
そして、ある記述に目が止まる。
『父親には、左目の縁に三つの黒子が有って笑っている様に見える』
『アレアスト』と呼ばれた塩商人。
そして、子供を預かった者が『金が入らないから捨てた』と供述した。
その時に得られた調書。
『寝ていても、その黒子が笑っている様に見える』
そう、記されていた。
この記述と、父の通り名が記憶に残る。
その後、命を狙われたキヌクが、領主を辞して浜の村で『米と砂糖造りの責任者』と顔合わせをした。
その中で会った
『ひとつの顔に、ふたつの笑顔』
キヌクは黙って、彼を抱きしめた。
告げられる彼の出自。
そして、彼の名が判った。
【ロールデ】 笑顔
だが、彼はワッグ、を名乗り続ける事にした。
先の聖地の長が名付けた名。
【ワッグ】 努力
この名に、誇りを持つ。
その話を聞いた、フレデリアが自国民にしたがったがノルウェーがこれを阻んだ。
『彼は、もう、この国になくてはならない人間だ』
そう言って彼を、【名誉市民】として表彰までした。
友嗣も、まさかワッグが、そこまで重用されるとは思って居なかった。
その話を、病床で聞いたゲイリンは笑っていたそうだ。
「イバの恩人だ、それくらいの人間にはなるさ」
最後に、良い話を聞いたゲイリンが旅立った。
実際の年齢は、彼も拾われた子で解らない。
だが、75は越えただろう。
ルナが、最後まで世話をした。
「お前は、本当に【私の妻】にそっくりだ。
歌って送っておくれ。悲しい曲は嫌だ」
「はい、『春を喜ぶ歌』ですね」
ルナだけでは無く、恋歌や真奈美、そしてメルカまで枕元で歌い彼を送った。
墓にはルナが生前身につけていた櫛が共に葬られ、聖地の谷間で花が揺れた。
「ゲイリン!
必ず、空を取り戻してみせる。
それまでは死なない。
約束する!」
肩を落とした、メイルを叱りつける。
「メイル!お前も約束しろ!
この空を、取り戻すまで死なないとな!」
親しい人が去れば、新しい命が生まれる。
現に、アメリカ合衆国、ニューヨーク州では、咲耶の夫『武田 豪』がまだ30歳を越えるかという歳でありながら、財務省で頭角を表し政府内に巣食っていた不正を暴き出していた。
キッシンは、いずれ彼を引っこ抜いて重要なポストを与える気でいる。
『咲耶』は、世界各国を回って【マナ】の秘密を探っていた。
今日も、ローマからの帰りだ。
ニューヨーク・ラガーディア空港。
キッシンが、『私のプライベートジェットを使え』と言ってくれるが、あまり借りを作りたくはない。
キッシンが、そんな事を思わない事は知ってはいるが『ゴシップ記事』になるのはゴメンだ。
ゲートを潜ると、豪が迎えにきてくれていた。
室の影護衛だった老夫婦が、子供の世話をしてくれる為に自宅に住んでくれている。
娘達も、二人には懐いて咲耶も少し寂しいくらいだった。
車に乗ると、いつもの様に豪の肩に頭を預けてしまう。
思った様な収穫が無かった時の咲耶の仕草だ。
「バチカンもダメだったか?」
「収穫は、それなりに有ったわ。でも、【マナ】では無いし精神的な安寧を人々にもたらして不安をとり除く、確かに霊的な事象にも効果が有ったけど、物理攻撃は使えなかった。
【法力】と同じ様なものだったわ。
【エスソシスト】が、そういう物だと知ってはいたけど、現実を見てしまうと辛いわ。
彼らは、数値化されたデータを見て喜んでいたけど、高野山から来た研究者に後を任せて帰ってくるしか無かった。
アディの事を思うと、自分の無力さを感じるわ」
「そうでも無いさ。その、アディが怒りながら連絡入れてきた。なんだと思う?」
「怒りながらか〜憂鬱だけど、何が有ったの?」
咲耶は、豪と普通の夫婦でいる為に、サトリの力を使わないように努めていた。
「バチカンに来たのだったら、なんでアドリア海に来なかったって言ってきた」
「ニースじゃ無かったの? パリじゃ寒いからってニースにいると思っていた」
「赤ん坊を産むには、アドリア海に居ないといけないそうだ」
「エッ? 赤ちゃん! アディ達に赤ちゃんができたの!」
「そうみたいだ。早乙女さんと美耶母さんにルナ母さんが間も無く到着する。
咲耶、【念話】出来ないようにしていただろう?」
「あっ!忘れてた」
「結果が思わしく無い時は、魔道具起動させるから今回もそうだと思っていたよ。
安定期に入ったら脩が沙羅母さんと行くらしいから、その時に行ってきたら?」
「ありがとう!豪!
ということは、今夜はビーフシチューね?」
「お祝い事があった日は、なぜか作りたくなるんだよ。
でも、今日は肉が特別だ。
やっと、輸出入の許可が出たから、大輝さんの牧場からの肉だ。
焼肉用の肉も送って来た」
大輝の牧場の肉
春に子供達を連れて釧路に行った時に、食べて余りの美味しさに言葉を失った。
咲耶は、たちまち機嫌が良くなる。
「今日は、いっぱい食べるぞ〜」
英国では、まだ家庭を持っていないが、メルカが英国王妃付きの秘書官を務めている。
今日は、京都から越して来た少女と一緒に買い物をする。
準備の為に、何度か渡英して来ていて手慣れた物だ。
必要な物は、【収納】に入れて来ているのに、コチラで流行りの物とのコーディネートを考えている。
「メルカ姉さん! このチェックの柄が大きいベストだと余計に小さく見えるかな?
でも、こっちの細かいチェックはなんだか、ボヤけて見えちゃう」
しっかりと、物を見る事ができる。
「そうね、色合いを変えてみたらどうかしら?
少し、黄色が入ったら良いかもしれないわね?」
日本語が、解るものが聞いたら不思議に思うだろう。
姉は輝くばかりの金髪で、妹は漆黒の黒髪。
目の色も青と茶色。
姉妹には見えない。
9月からの新学期に備えて制服は準備していたが、やはり寮での私服も準備しようとメルカと待ち合わせをしてロンドン市内にやって来ていた。
今夜は、久しぶりに兄、脩とも会って食事をする。
いつものホテルだが、一人で過ごすのも悪くない。
影護衛と式が、見守ってくれているのだろうが・・・・・
しばらくは、忙しくなる。
ターム1が終わる12月中旬までは気を抜けない。
まだ、イギリス流の発音になっていないと豪さんにも指摘された。
でも、姪っ子達が可愛くてブレイクに入ったら又、NYに行くんだ!
あれやこれやと、楽しみな美沙緒。
「イギリスの私学は、課題が多いわよ。
ブレイクも長いけど、美沙緒が通う学校は厳しいと有名だから落ちこぼれないでね?」
そんな事にはならないと解ってはいても、ついお姉さんぶってしまう。
可愛いのだ!この妹は!
メルカは、その妹の為についつい奮発してしまって、翌月、カードの請求額に後で驚くのだが・・・・・
彼らだけでは無く、ウルマとルースの聖地で学び日本へ転移して、更に知識と技能を身につけて世界各国で、その功績を讃えられるワッグの様な存在も現れていた。




