401 接近02 捨て石
今回は、ここまでです。
次は、又次世代の話題になります。
【ワービル艦橋指令本部】
「アイツら、先に降下させただけで、何もやらないぞ」
「アンドロイドが、色んなの種子を蒔いて、生育させていますがそれだけです」
「下に降りた連中はどうしている?」
「どうも、遊んでいるとしか、思えないんですが・・・・・」
「オイ、うちのコロニー艦でも、同じような奴らが出たな?」
「はい、CSを拒否した連中ですね。もう、全員死に絶えました」
「アイツら、同じ様な人間を使って、ワービルの安全性を最終確認してやがる」
「それは?」
「事前探索で解るのは、大気や人間や動物の血液や感染データ。
鉱物の分布や放射性物質の有無だ。
水中、地中の安全性は、降りてみなくては解らん」
「人体実験ですか?」
「あぁ、だから軍部は防護スーツと手袋は外さない。
しかも、畑地には近付かない。これは、未だ数年かかるな」
彼の読みはあたっていた。
走り回れる様になって暖かくなった時には、用水路や川で泳ぎ、実をつけていた果実を口にしていた。
だが、三年後。
それは突然始まった。
船が降りてきて明らかに医療関係者とおもわれる連中が、ストレッチャーの様な物を押してきた。
医師団は防護服に着替えて、周囲の居住スペースからストレッチャーに乗せて患者らしき住人を、中央の管理棟に次々に搬入していく。
この光景は聖地でも観測されていた。
木場 直、木場 昴を始めとした医療チームが居る。
「発熱していた様だが、防護服は簡易型に変わった」
「川の中を、調べていますね?」
「ルースさん。何か思い当たる事有りますか?」
「いや。ワシには無い。ゲーリンどうじゃ?」
「川、川、そして発熱ですか? 昔、聞いたことある様な気がします」
思い出したのは、看護師の美玖。
「【日本住血吸虫!】 川や池、田んぼの中にいる巻貝に寄生して、人や動物の身体に侵入し血管内で繁殖するわ。
赤血球を栄養源にして、栄養失調や下痢、下血、発熱で命を落とすわ」
「対策は?」
「宿主となる巻貝を駆除するしか無い。護岸工事をして川の中に素足で入らない。
コンクリート製のU字菅が、ミヤイリガイの撲滅に有効だったという報告もあったわ」
「日本では、山梨県で発生していたから、武田信玄達が苦しんだ。
最終的には、溜池を一旦埋めたりもして、土壌を干上がらせた上で耕して宿主を潰した。
木酢酢を多量に撒いて貝を殺して、更に鋤きかえしをして干した稲藁を上で焼いてすき込んだり、
石灰を撒いてアルカリ性に土壌を変えたわ」
「うちでも、調べておくか?」
「それが良いわ。
幸い、豊富な地下水を使っているから大丈夫だと思うけど、ウルマでは雪解け水を溜めた池もある。
寒冷地だから可能性は低くなるけど、他の病原体もあるわ。
専門家が、又必要ね」
植物については日本とアメリカから人材が訪れて、研究を続けてくれている。
いくつか、地球と違う植物が見つかっていた。
中には大麻の様な成分を持つ植物が有り、やはり使用された事がある。
だが、幸い聖地の農作地やウルマの居住地周辺では見つかっていない。
重機が、アンドロイドと共に、フロール平原へ向かって移動を開始した。
キャタピラーを使っている。
それほど移動速度は高く無い。
先頭を行く重機が、整地をしながら進むのだ。
時速1キロにも満たない。
「いよいよ、フロールに向かうようだな」
三つのポアーザが、その映像を見ている。
ペータとシータも眺めていた。
亜美もシータと並んで、大きなお腹を抱えてソファーで見ている。
亜美の出産は、今までの経験で少し早産になる事は分かっていたが、シータの出産は手探りだ。
翌朝、皆が朝食を取って、又、映像を見ていた時にそれは起こった。
患者達、住民達は、全て中央の施設に集められていた。
そこから、次々に出てくる軍人らしき者達と医師団。
ストレッチャーは、置き去りだった。
移送艦に乗り込み、急速に上昇して行った。
「おい!まさか見殺しにするつもりか!」
脩が、叫んだ!
その時、サトリの者が感じた強烈な不安。
上空から放射された熱線が、中央のドームを囲む様にして照射されて、耕作されていた畑地を、水路を焼き尽くす。
立ち昇る炎と水蒸気。
10分ほど続いただろうか?
「奴ら、見殺しにしやがった。それどころか、熱消毒でもする様にして焼き尽くしやがった」
「同胞じゃなかったのか?」
更に、驚く事が起きる。
今、熱線を照射した船が、軌道を離れて南へ移動して行く。
しかも、高度が落ちてきている。
後から来てくれる本隊に回収されて、CSから覚醒させて貰う。
約束された貴族の座。
この新しい星に立ち、支配者の階層に入り、新たな家を起こす。
そんな夢を、抱いて眠っていた青年軍人達。
だが、彼らは回収されること無く、炎をあげて大気中で散って行った。
「アレには、二十人くらい眠っていたんじゃなかったけ?」
沙羅が、脩の問いかけに答える。
「そうね、それくらい居たはずよ」
「事故か? それとも不要とされた?」
落ちていく火の玉を見ながらルースは思った。
ブラドも、同じ様に始末されたのかもしれんな。
そんな気がした。
ブラド達が、乗った探査船は外部からの信号で、張り付いていた衛星で機能停止していた。
ブラドは、二度と目覚めぬ眠りについていた。
「レーザーを短時間放射しただけで、【ボーズ】が切れてしまうとは運が無かったな。
機関部にエネルギーが供給されなくなるとは、ここからでは何も出来ない。
CSの最中だった事が、せめてものの慰みだ。
勇敢な、彼らの冥福を祈ろう。
残して行った物が有れば、墓碑には二階級特進でその勇姿を刻んでくれ。
と言っても入植してからの話だ。
そう言えば、プラドの船からの信号はまだ掴まらないのか?」
部下達は、薄々気付いていた。
彼らは、【踏み石】にされた。
貴族なんかになったら、誰かの敵になりかねない。
消せる時に消してしまう。
口約束に、乗らずに良かった。
欲を掻くと、利用されて始末される。
皇帝にも、手を出してもおかしく無い。
だが、宰相は皇帝の座など望んでいない。
アイツらが【ボーズ】や金、そして、その他の資産をコロニー艦に隠しているのは解っている。
それを、どうにか出来る見通しがつかない限り従順な宰相を勤めてやるさ。
フロール平原に移動した重機は、広大な平原を開拓して石や岩、そして自生している木々を撤去して行った。




