038 覚悟
「【氷結】!」伸ばした指の先から氷の塊が出て土人形を覆う、凍りつく土人形。
しかし、土人形が腕を上げて胸を張る。
『パァアアン〜』音を立てて氷の鎧が砕け散った。
「はい。又、時間切れ!決められた時間内に凍りつかせないと何時迄も、何度でもやりますよ。氷をぶつけるんじゃ無いんです。相手を凍らせるんです。イメージが足りません」
「【氷結】!」今度は冷水が飛んでいき土人形に纏いつくそして氷始めるが、やはり時間切れで氷の鎧は砕け散る。
「さっきよりも良いですね。考え方も進歩しています。もう少し考えましょう。はい、もう一度」
「【氷結】!」今度は水と氷が混ざった物が飛んでいったが、凍る前に時間切れした。
「二つの状態の物をぶつける。なかなか思いつかない事です。ただやはり制御が出来ていません。はい、もう一度!」
「サキアは厳しいな」
「ルースは剣技が弱いから術に特化した方が良いからな。俺たちは逆に剣技が優っているからな。さて、もう一本やろうか?」
「あぁ、兄さん今度は入れさせないよ」
二人の兄は激しい打ち合いを続ける。
そばにいるゲーリンとメイルが呆れている。
「もう、何本やりあっているんだ?」
「しかも、剣に『術』乗っけて打ち合うなんて事、誰が許したんだい?」
「自分達でやり始めたんだよ。最初はどうやったら出来る?って教えあっていて、身体強化との相性はどうか。炎の剣はどこまで届くか。『遮蔽』を貫くにはどの術が効果があるかなんてやり出した」
「純粋な剣技なら相手もできるが、ああなったら何もできない。この修練場もメトル様が聖地の長から【障壁の魔道具】をつけて【青魔石】を使って周りに被害が出ない様にしている。しかも骨折くらいなら『姫様』が治しちゃうから余計に熱が入る。もう、俺らじゃ相手にならないよ」
『ドッコ〜ン』
人が壁にぶつかる時にしてはいけない音がした。
「アッテテ。今のをよく返したな。久しぶりに返された」
「よし!確実に強くなっている。アレ? 頭切れている? おーい姫! 兄ちゃんの怪我治してやってくれ〜」
「もう、少しは手を抜く事覚えてよ。この、バカ兄貴達。はい、どこ? あーぁ、ここね。じっとしててね。【フーラ】!これで良いかな」
「お、ありがとうよ。さて、【洗浄】! さっきは油断したけど今度はそうは行かないぞ。天井にぶっ飛ばしてやる」
【姫聖女】
周囲が彼女を呼ぶ別名だった。
独自の【治癒】の術を細分化して魔素の消費量を抑えて多くの人の治療をする。
サトリで治癒術師。
巻き毛の金髪で明るくやがて成人を迎えようとしていて、婚姻の申し込みが数多く寄せられている。
ルースが12歳を前にしたこの日。いつもの1日だった。
「うっ!」
「アン?」
「アレ?」
「グっ!」
4人ともその感覚を捉えた。
4人とサキアは階段を駆け上がる。
両親もそこにいた。
遅れて上がってくるゲーリンとメイル。
「皆、やってきたか」
皆が同じ方向、同じ位置を見上げている。
昼なのに彼らには何かが夜の星の様に見えているのだろう。
「かなり遠いが、同じ高さに降りてくるのだろうな」
「今度は人がいる様ね。船の大きさも今までの10、いやそれ以上だわ。でも、そのはるか向こうにもっと恐ろしい物の存在を感じる」
「大丈夫か?」
「えぇ、今は家族の力が支えになってくれてくれる。『遠見の術』を使うだけで、この距離でも見れるわ。家族の力って素晴らしいわね。でも、備えなければいけないわ。星の世界に居られたら、こちらには撃つ手が無いわ。
アーバインには『飛行』『飛翔』の術はあっても魔道具は無い。人の力で飛び続けるのは無理だから。機会を待って聖地か地下の遺跡に篭るしか無いわ」
「この街の、みんなを連れていくの?」
「・・・・・無理だな」
「どうして?お父さん?」
「聖地ではその昔1万人が住んでいたというが、それは外に出て畑を耕し、羊や山羊を育てて魚を獲っていたからだ。他にも多くの食料や物を手に入れられた。だが、今度は外に出れない。聖地の中で麦を育て野菜を作り羊や山羊を飼う。魚は無理だろう。人が多く入りすぎたら餓死するか、お互いに殺し合う事になる。外に出たら【銀の鳥】に襲われる。2千人が良いところだろう。
我ら術師は先に聖地に入り住居を作り畑を広げ、水を生み出してやらなければならない。何も無いところに押しかけられても飢えるのを待つばかりだ」
「それでは、戦わずに隠れるのですか?」長兄が問う。
「お前達も見ただろう黒石板に映し出された【銀の鳥】の事を、灰燼に化した【領主の街】を。我ら術師でも歯が立たないのだ。更に言えば我らの存在が相手に知られれば先に殺される。それは、街の人間がなす術もなく殺されるか飢えて死ぬことを意味する。だから、我々は聖地に先に籠りより多くの人が生き残れる様に術を磨き聖地を整えるのだ。
逃げる訳では無い。我々に出来る最善を尽くすのだ。時がどれ位有るか解らない今、先に動くしか無いだろう」
「私たち二人は今は術師としては未熟ですが、魔石に魔素を注ぎ込み、身体強化で仕事をして人々の生活に役に立てるでしょう。私は【土の術】をこの身に学ばせて人々の生活を支える様になりたいと思います」
「兄貴が言う通りだが、俺は【遮蔽の術】なら負けないようになる。そして聖地で壊れそうな所が有ったら駆けつけて、兄貴が来るまで支えきってやる」
「解りました父上。聖地で精進して少しでも役に立つ術師になります」
「私も、【治癒の術】を磨いて多くの人を助けます。病気が防げる様にしたいかな」
彼らはこの時が来たと確信した。




