003 背中のホクロ 後編
会議室は怒号に溢れていた。
損失艦を考えれば3船団を再構成して2つの船団に組み替えるのが安全なのだが、組み合わせが悪すぎる。
犬猿の仲の『ワービル』と『ルベル』
そして彼らに迫害を受けていた少数民族の国家と連合の職員の『レリア』
彼等『レリア』には軍事的な警護艦は準備されていない。
「ルベルの船団長!ハイエルとか言ったな? 資材運搬用の輸送艦に一般人を乗船させていただと? 明らかな違反行為では無いか!」
「何を言うかカブ! 元はと言えばそちらの船団が予定されていた衛星軌道上のエリアから外れて船団を組んだせいで、我が船団がヨーカの正面の軌道に押し出されてしまったせいでは無いか! それに、輸送艦の動力機関が正常に稼働せずに出力不足となって衛星軌道からの離脱が出来なかったのは破壊工作の疑いがあると報告が上がってきている。一旦、こちらで移民登録をしておきながら最終乗船の際にそちらの移民団に移った者が多くいる。言い分として配偶者の家族がワービルにいるからと直前で変更している。奴らは乗船予定艦に準備として乗船した記録がある。
確かに、移民条約で認められた行為では有るが、彼等が乗船するはずだった艦は助かった艦も含めて動力機関で異常が発生している。これは偶然か?」
それぞれの副官も歯を剥き出しにして机を挟んでいがみあっている。
この船団長の二人。
移民計画を進める上で問題となる軍縮会議の代表である。
名前はおろかお互いの生い立ちや学生時代の素行の悪さ、家族構成、趣味、食事の嗜好、果ては身体中のホクロの数や位置まで知っている。
己が知らない背中のホクロさえ知っているのだ。
「何の証拠も無い言いがかりだ。これだから大国の影で悪巧みをするしか無い卑屈な人民しか集わぬ国家。やはりワービルの様な優れた人民の元が安全なのだろう。運搬艦なんぞに乗艦させようとしたから不安になるわ!彼等は命拾いした訳だな」
「そっちこそ、あれだけ強力な物理シールドを展開させた旗艦の癖に機関部に被弾?鈍足の輸送艦を見捨てて逃げた? どんな操艦をすればそんな無様な姿を晒すことができるのだ?それに引き換え我が旗艦『ルベル』はシールドを展開させて殿に控えて船団を守ったわ。優秀で勇敢な我が乗員はどこかの腰抜けとは大違いだ」
泡を噴きながら捲し立てる『ルベル』船団長ハイエル。
更に続けて
「それに、今回は2隻の大型コロニー艦か! 我が新型コロニー艦はそれ以上の人員を収容できる。しかも、擬似重力が0.8。外宇宙に出れば0.9だ。これならば与圧スーツ、与圧居住区も要らないからな。新型の多重外壁、積層隔壁のお陰で浮遊隕石など問題では無い。弾き飛ばして進める。損失艦分くらいの積載スペースは余分に有るから我らだけで船団を組んで行くとする」
「そこまで優れた技術を持ちながら、隕石弾からの防御を口実にコロニー艦の造船ドックの周辺を遮蔽壁で囲んで連合の査察を逃れたのはどう言う訳だ!ファルトンの人民を救う気は無かったのか!」
「隕石弾の脅威が増したのは事実であったし、又しても天才がルベルに現れたと言うだけだ。これ以上は時間の無駄だ。我がルベル船団は予定通りヨーハイに向かい船団を編成して目的地の惑星エリアに向かう。幸運を祈る!」
こう言い残してハイエルは去っていった。
同じくカブ達も『レリア』を後にする。
しかし、退艦する際にお互いの副団長がイザコザを起こして殴り合いの喧嘩に発展してしまった。
アンドロイドを使って引き離したが、お互いペンを握り締めている事に不信感を感じたドーンが身体検査を行うと、この仕込みペンの他に幾つもの暗器を隠し持っていた。
仕込みペンは毒針が飛び出す仕様で、更にお互いの『暗器』も同じ様な仕様。
互いの居室を捜索したところ、出るわ出るわ。
幾つもの暗器、毒物が没収された。
しかも、『究極の呪い』『呪殺大全』等と言う眉唾物の書物も見つかり、お互いの憎悪の深さを思い知った。
収容する様な余裕も無いので罰金がわりの【ボーズ】を徴収して彼等を釈放した。
去って行く二つの船団を、艦橋から見送りながらレリアの面々はホッとしていた。
これが一番良い結末で始まりだ!
ドーンはコロニー艦に乗船して彼の到着を待ち侘びる家族の元へ急ぐ事にした。
「さぁ、行くぞ!新たなファルトンを目指して!」
20230626
やっと、次章に移る文章まで準備できました。
これを機に行の調整や文脈の調整行います。