383 流の血脈2 フレデリア
「エローラ王女。今三歳だが、若菜。真の嫁にしたいと、オーロラが考えていて王室はそれに同意している」
「はい⤴︎?」
若菜が変な返事をした。
残りの三人の妻は互いを見合って、事の重大さが解っていない。
だが、沙羅が再起動した。
「あなた。それはエローラ王女が、萩月家の当主の嫁になるという事ですか?」
「あぁ、その通りだ。真に萩月姓を名乗らせて萩月家当主とする。そう話が済んでいる。これには巴様も了承済みだ。美沙緒を当主とすると思ったが、巴様が美沙緒には婿をとって、別の家を立ち上げても良い。そう言われている」
「良い話?」【ルナ】
「良い話すぎる」【沙羅】
「結婚詐欺?」【美耶】
「それは無いだろう?」【友嗣】
「ちょっと、無理。今は考えられない!」【若菜】
「そうだろう? それで、時間をかけて話を進めるために『エローラ王女』が京優学園に留学する事を考えているそうだ」
「あはは、エローラ王女が京優学園」に、留学?」
「しっかりしろよ。若菜。お前今、京優学園の代表理事なんだから。明日、宮殿に行くぞ。朝から迎えが来る。他の件もあって、四人とも行く事になった。あの指輪を持ってきてくれとの事だ。定められた者しか入れない場所で話をする事になった。俺も、このステッキを下賜された」
友嗣は外見は黒檀で出来たステッキを取り出した。持ち手のところに指輪と同じ刻印があり石が埋め込まれている。
「先の王族出身の宰相のものだそうだ。今後は岩屋がこれを使い、お父様はエリファーナから既に一本頂いているそうだ。そっちは・・・・・竜の持ち手になっているそうだ」
「それって・・・・・」
「あぁ、先先代の王が使っていた杖。ある意味、王の証だ」
翌朝、ホテルに3台の馬車が横付けされて注目を浴びた。
周囲に天幕が張られて、乗り込んだ者の姿は見えなかった。
すぐ様ホテルに記者が飛び込み取材を開始するが、誰も黙して語らない。
友嗣達が泊まった階は直通のエレベーターで、他の宿泊客とは会わない様にされていた。
馬車を何台ものバイクに二人乗りで跨った『パパラッチ』が追いかける。
だが、次々にハンドル操作を誤ったか、転倒したり、カーブを回りきれずに信号にぶつかったりした。
昨日から機嫌が悪い妻のひとりが憂さ晴らしにやったようだ。
馬車はカーテンを開ける事なく【バッキンガム】に滑り込み中庭に消えていった。
今頃、彼らが宿泊した部屋は【室】が、指紋も髪の毛ひとつ残さない様に清掃しているだろう。
ホテルには、『許可が出るまで近づくな』と王室から達しが出ている。
馬車が中庭に到着すると、全ての衛兵が姿を消した。
御者も馬車に車止めをかけて外に出ていた。
周囲に異常がない事を確認してデュランが現れる。
その後ろからエリファーナを先頭に王族が並ぶ。
デュランが指を三度鳴らすと、馬車の扉が開き友嗣が先に出て、残りの馬車から降りる四人の妻の手をとってエスコートをした。
その左脇には、下賜されたステッキが黒光を放つ。
「お呼びにより岩屋友嗣と、その妻参上いたしました」
友嗣が、口上を述べる。
デュランから、作法は仕込まれた。
友嗣に合わせて四人の妻もカーテシーを取って頭を下げた。
「よくいらっしゃいました。
さぁ、あちらの建屋に参りましょう。
途中庭を抜けますが、指輪をお持ちですね?」
四人の妻は握った白い手袋を開いて指輪を見せた。
「確かに。それではいきましょう」
友嗣がさりげなく王族を見ると、ローランド王が右手をひらひらさせて指輪の存在を見せた。
抱かれたエローラ王女も、その真似をして小さな腕輪に取り付けられた指輪を見せた。
笑顔が可愛い。
『可愛い子ですね!』【若菜】
『確かに・・・・・』【沙羅】
『あぁ、ウチの娘達とは又違った愛らしさがあるな』
『もう、義理の娘に陥落?』【ルナ】
『親バカすぎる』【美耶】
「さぁ、ここです。
ここからは指輪が無くとも入れますが、この庭が曲者で、この庭には入れません。
【室】でしたか?
一度試して貰っても結構ですよ。
私も、一度見てみたいですから。
死ぬことは有りません。捕まえるだけです」
美耶が『やってみようかな』という目になっていた。
「あら、美耶さんが、やる気になっているわね?」
オーロラが、美耶が拳を握りしめたのに気付いてしまった。
「ひとつ聞いても?」
「ハイ。なんでしょう?」
「空からは、どうなんですか?」
「デュラン。お答えして」
デュランが懐からいくつかの、球を取り出した。
「銀の玉?」
それをいきなり空に向かって投げ上げた。
『ポコ』『ボコ』『ボコ』
あちらこちらから、先が尖ったツルが飛び出した。
先程投げ上げた銀の球を、その先端に掴んで引き下ろすと全体が地中に消えて先端が銀の球を掴んだまま残った。
デュランが庭を脚で一打ちすると、銀の玉を残してツルが消えた。
「拾っても良いですか?」
「指を掴まれますよ」
「そうですか?」
若菜が、庭に向かって手を突き出した。
『ピクっ』と地面が動いたが、それよりも早く全ての玉が若菜の掌に集まった。
「どうぞ、お返しします」
「あぁ、ありがとう」
「ふふ、あなたが真君の、お母様【岩屋若菜】さんでしたね。
真君も今の技使えますの?」
「・・・・・はい。使えます。恐らく私より広範囲に、重いものでも移動できるでしょう」
「そんなに警戒されなくっても、無理に婚姻を進める気はありません。
ただ、あの子が、きっと真君にふさわしい淑女となる事は保証します。
ただそうなるためにも、あの子を【京優学園】で預かってください。
イギリスでは、彼女の教育は出来ません」
「それって・・・・・」
「続きは中で、若菜さん。お茶を入れて頂ける?
茶請けは友嗣さん、常義さんに頼んでおきましたが?」
「【柳葉】の女将が用意してくれました。日持ちしないんで【陣】を使って送らせました。
ムクのジャムを使った求肥と新作のロールケーキです。
しかも、こんなに。どうするんですか?」
「それは、客人に、お土産ですよ。
デファイア国王 フレデリア。オーロラの叔父にあたります」
「初めまして岩屋友嗣様。それに、四人の奥方様」
「ありがとうございます。ですが、様付けは不味いんではないですか?」
「お聞きしています。アーバインの事。ルース様がお開きになった国ですが、その功績を考えれば岩屋友嗣様。いや、イバ・ファルバン様。貴方も一国の王とお聞きしています」
「・・・・・イバ・フォン・ファルバンです。フレデリア殿。以後、お見知り置きを!」
「アーバイン王妃 サラン・ファルバンです」
「同じく、ルナ・ファルバンです」
「同じく、ミーフォー・ファルバンです」
「同じく、ワカナ・ファルバンです」
四人の妻が、カーテシーを返す。
「ありがとう。立派な挨拶だ。
よろしく頼むよ。
だが、固い話はここまでだ、若菜さん!あなたは茶の入れ方が上手いそうだ!
エリファーナが、すごく褒めている。
私にも、茶を入れてくれ。
それと、その日本の和菓子を頂こうか、エローラ!おいで!私の膝の上で食べるが良い!」
「皆さん。こういう方です。肩の力を抜いてください」
オーロラが席を進める。
「メルカ!若菜お母様のお茶を手伝って!」
「はい。オーロラ様」
そこには、紺色のスーツに身を固めたメルカがいた。
その凛とした姿。
襟と袖口に金のステッチがされている。
「気付きました?
メルカは、もう私の専属の秘書です。
『秘書付き』では有りません」
「本当にもう、手が速いんだから!
【九鬼友恵】を、知っていたら彼女も抑えたかったわね」
「そうですわね。お母様。ウチの出入りに指名しましょうか? そして・・・・・」
「良いわね!それ!」
「おいおい、本当に似たもの母娘だな。
萩月の面々の優秀さは聞いている。
面白い人材も、いるそうだな?
エルベが自慢していたぞ、半年後には面白い人材を合わせようとな!
うちにもアーバインからの人材を預けてくれ。
ノルウェーも言っていたぞ【ワッグ】は優秀で、幾つもの改良点を見つけてくれて作業員も助かっていると喜んでいた。
本人は黙っているが、彼は友人なんだろう?
彼には勲章を授与する事になった。
私も、その授与式に呼ばれている」
「ワッグは、私に出来た最初の先輩で友人で家族です。
彼には、感謝しても仕切れません」
「それに、【Kai】。ウチの娘がわざわざ日本に行って、エリファーナのコネを使って髪を纏めて貰って日本に住みたいと言って聞かない」
「もしかして、・・・・・」
「ワッグと娘は、作業船で仕事をしていて、その目と目の光が、【Kai】の店長と同じだったそうだ。
違っていたらすまん」
「良い目をお持ちです。彼女はワッグの娘です」
「いや、種明かしをすると我が一族は君達で言う【サトリ】なんだよ」
「ですよね?」
沙羅とルナは、気付いていた。
それにオーロラ王妃、エローラ王女。
「そういう訳ですか」
「流石、【女帝】と言われるだけあるな。
これが、エローラを日本に行かせる目的だ」




