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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
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376 家族 バレバレ

和也と尚美の話です。

横浜市内から少し離れた閑静な住宅街。

尚美が、気に入って選んだ物件だ。

年が変わったら、和也はこの部屋に引っ越して、時折訪ねて来る尚美を待つ事になっていた。

その為に、都内にカーテンを見に来ていた。

日にちを指定して届けてもらう。

今、住んでいるマンションでは駅から遠く部屋数も少ない。

来年からの事を考えると、周囲に気取られない部屋があった方が良い。

もちろん留守の間も【室】が、換気や水回りを見てくれる事になっている。


光一に聴いた雷門の近くのレストラン。

一階から上の階まで同じレストランだが、席の構造が違う。

だが基本的に料理と値段は一緒。

光一が、以前来てみて面白かったと教えてくれた。

尚美が好きなクリームコロッケとハンバーグ。

ドレッシングもマヨネーズも自家製で、今も厨房から卵を割る音と必死にボウルをミキサーでかき混ぜている音がする。

新入りの仕事。

酸味が淡く卵のコクが感じられる。

「美味しいね!」

「あぁ、光一に聞いた時には信じられなかったけど、こう言った営業方法も有るんだ」

「でも、食券の販売機が有るのは不思議だった」

「これだけ混むとオーダーミスも出るからな」

和也は、ポークチャップを食べていた。

「少し頂戴!」

尚美が、口を開ける。

そこにナイフで切ったポークチャップを差し入れてやる和也。

「うん!美味しい」

誰が、この少女が竹刀を持つと、その剣先が見えないほどの動きで、相手を圧倒する腕前とは思わないだろう。

それだけでは無く古武道に近い亜美の、いい練習相手を務めるほどの使い手で、萩月から免許皆伝を貰っていた。

この年代では、亜美に続き若い逸材だ。

最も、外での試合をしないから誰も彼女の姿を知らない。


「はぁ〜美味しかった」

「【電気ブラン】か? いろんな香草を漬けた食前酒なんだよな。

数本買って帰るか?」

ビルの横手で売っていた、このレストランオリジナルのリキュールを購入して、雷門の参道でコッソリと【収納】に移した。

すかさず尚美が、腕を絡めてくる。

「ほんと、甘えん坊だな」

「和也だけしか、甘やかしてくれないもん」

何気に亮太と貴子のカップル以上にベタベタなのだ。この二人。

影護衛の中でも、彼らの担当になった一人者は必ずゲンナリとして帰ってくる。

そもそも、彼らに護衛が必要か?


遡って・・・・・

春に二人でメンチカツや鯛焼きを吉祥寺で食べ歩きして、国分寺の将来の自分達の店に行こうと歩いていた二人を、強引にワンボックス車に押し込もうとした連中がいた。

尚美は、迫り来る車と自分達をつけて来る四人の男に気付いていた。

だが、四人をやってしまったら、車が逃げてそれに巻き込まれる人が出る。

そこまで読み切って車に押し込まれてみた。

周囲への騒音を遮る為に和也が【遮蔽】を張る。

ドアを締めようとした男を蹴り飛ばし、尚美は外に飛び出した。

和也の相手は、車内に残る運転手と後部座席の男。

防毒マスクを付けている。

後部座席の男が『笑気ガス』を噴出させた。

だが、和也には毒物や、その類の物は効かない。

後部座席の男が、昏倒させられる。

慌てて車を出そうとした男が、視線を感じて横を見ると拳を握りしめた尚美がいた。

男が叫ぶ暇も無く運転席の窓が砕かれて、運転手が助手席に飛ばされていた。

シートベルトをしていたら、もっとひどい事になっていたかもしれない。

キーを抜き取り、後ろ向きに投げると影護衛が受け取った。

「お見事ですね。手を出す余裕も無かったです」

影護衛達には『手を出すな』と【式】を使って尚美が伝えていた。

大事な和也との時間を邪魔したんだ。

その報いは受けてもらう。

「それでは、後始末は我々がやっておきます」

周囲から応援を呼んだのだろう。

2台のワンボックスが近づき、男たちを放り込んで車も持ち去った。

この辺りには阿部夫妻が経営していた工場の跡地もまだ残っているし、羽田家の経営している店舗も有る。

道場も有って、将来の道場主が尚美になる。

その為、室だけでは無く羽田、九鬼、両角が集まっている言わばホームグランドだ。

ここで仕掛けて来る。

【馬鹿】としか言えなかった。


これ以来、二人を襲って来る(やから)は居なくなった。


話を戻そう。


ぶらぶらと、歩きながら今後の事を話し合う。

「やっぱり、俺に付いてくるか?」

「ダメ?」

「ダメじゃ無いが、大学も行っていないんだろう?」

「うん! 私、やる事が無くって、亜美のところか萩月の道場、そしてアトリエに行っちゃっている。

和也の横なら勉強もする気になるけど、居ないから、ご飯も美味しく無いし何より暖かく無い」

「そうか〜なら、入籍するか?」

「良いの?」

「どうせ、押しかけて来るだろう? 俺に止められる訳ないだろう」

「じゃあ、沙羅さんに話してみる」

「そこは、友嗣さんだろうが?」

「友嗣さんに言っても、沙羅さんが反対したら、反対される。

なら、女帝様にお願いする方が良いわ」


「っとにもう! この暴走娘!

ちょっと心配になって見に来てみたら、やっぱりそうなったか〜」

「「脩、桜!」」

この二人は、脩の高校卒業と同時に式を挙げた。

子供が欲しい様だが、まだの様だ。

やはり、桜の眼が赤くなっている。

もう、沙羅の若い頃そのものだ。


「お母様はもう、許すと言っています。

今のままじゃ、尚美さんの時間が無駄になるだけですから。

でも、和也さんの留学について行くなら・・・・・」

「解っています。

彼を守り、現地の陰陽師やエージェントと一緒に【ガンナ】を潰します」

「そう、お願いね。脩に行かせたらまた、アドリア海で浮名を流すわ。

あなたも、フランスとベルギーでは気をつけてね。和也の身辺も」

「あのな〜」

「仕方無いよ。

あの時、留学の為の事前調査に行っただけなのに、あの様じゃ信用なんて無くなるわ」

「あら? 私が聞いているだけじゃないのかしら?」

桜の赤い眼が妖しく光る。

「馬鹿! 全部話したよ、記憶も読んだだろうが!」

「そうね。

という訳で私達の仲が切れない様に、ヨーロッパを任せるわ。

これなら、動きやすいでしょ?」

「なんか、ちょうどいい具合に留学する事になった?」

「えへへ! 良かった!」

「ところで、和也は、今年はどうするの?」

「大学はもう休みだから、自宅に居るつもりだったけど?」

「はい。お母様から。

尚美は、帰りのチケット持っているでしょう?

これは和也の分。それと京都駅に車を用意してあるわ。初心者マークも貼ってあるから。

神戸のホテル三泊とってあるし、アーバインが年明けに入港するわ。

あちらこちらに、行くのでしょう?

【メルル】にも行ってあげなさい。

尚美は、食べすぎない様に。

亜美も年明けに準備に為に来るから、話していきなさい。

式の日程は相談しましょう。

退学でいい? 休学でも良いわよ」

「いいえ、退学でお願いします」

「そう、決心がついていたのね。

じゃあ、私達は先に帰るわ。お母様達から頼まれた物を、仕入れないといけないから・・・・・」

「大変ですね」

「そう、大変。

でも、駅弁を東京駅一ヶ所で買える様になって助かっているわ。

京都駅にも、出来るみたいだけどそうなったら、萩月の門人さんが大変ね」


『和也、光一が碧に指輪渡したぞ! 帰りの新幹線は席を代わってもらえ、光一にもチケットを渡して置いた』

『そうか、光一はもう渡したか・・・・・』

『なんだ、お前も準備しているのか?』

『当たり前だろう? 今日はクリスマスイブだぞ?』

『・・・・・』

『オマ! 馬鹿か? 今から銀座に行って来い。桜は、もう少しコッチで引き受ける』


「悪い、脩。俺の部屋の冷蔵庫に入っている木の箱を取ってきてくれ。年末に摘む為の珍味の類が入っている」

「あぁ、わかった!桜!チョット待っててくれ!」

姿を消す脩。

「あら、あら。忙しい事。気が効くわね。でも、脩は私の指のサイズ覚えているかしら?」

「バレバレですね?」

「顔色みたら解るわよ。尚美もそうでしょう?」

「私は、知らないフリしていますよ」

「コッチにもバレバレか?」

桜は来年も式が重なるな〜と、ドレスの追加をアーバインに頼む事を考えていた。


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