368 家族 赤い眼
翌朝、セントラルで朝食を済ませてランチボックスのサンドイッチを受け取る。
影護衛の夫婦の【式】がハマーに張り付いている。
きっと、少しばかり距離を開けて追いかけてくれるのだろう。
その気になれば引き剥がせるが、武田は大人しく『間欠泉』に向かって車を走らせた。
間欠泉は、大体周期は合っているが、その時に応じて高さや湯量が異なる。
今日は、なかなかご機嫌で湯量が変わったり爆音が変わったりして結構楽しめた。
あと数カ所を廻って帰ることにするが、コースを外れた武田お勧めの湖に向かう。
武田が上空を飛ばしている【マル】の視覚で異常に気づく。
「掴まって!」
アクセルを踏み込む武田。
咲耶も【サトリ】の力で、何故、彼が急に運転を変えたのかに気づいた。
すぐに現場に到着。
「私を相手に向けて!」
「でも!」
「早く!」
そこには、家族連れのハイカーを襲っているチンピラが、鉄の棒と銃を構えていた。
武田が左にハンドルを切って、咲耶をその方向に向ける。
咲耶の右手が、チンピラに向けて伸ばされる。
【収納】から取り出したのは、さっき間欠泉の駐車場で拾った樫の実。
ゴロリとした実だ。
流石に鉛玉はダメだし、『ベスダミオ』は使えない。
それを高速で、拳銃を持った奴の手首と銃を跳ね上げさせて銃を吹き飛ばした。
鉄の棒を持った奴は、そのガラ空きの鳩尾に一発。
更にナイフを、取り出そうとしたチンピラにも同じ様に鳩尾に食い込ませた。
車に残っていたチンピラは仲間を捨てて逃げようとしたが、手刀一発で影護衛の夫婦に気を失わされて車の鍵を抜き取られていた。
うずくまっているチンピラ三人を、武田が軽々と引き摺って奴らの車に放り込んだ。
両親と八歳くらいの男の子。
父親の大腿部に銃で削られた痕があり、母親の頬には殴られた痕があった。
眼底に出血がなければ良いのだが・・・・・
子供を庇っていたらしく子供は無事だった。
「アンタ達は?」
父親の問いには答えず、咲耶は続ける。
「傷を見せて」
急がないと、銃声を聞きつけたレンジャーがやってくる。
傷口を見て『コレは歩けない』と判断した咲耶は覚悟を決めた。
【収納】から【白魔石】を取り出して、父親の出血を止めて傷を治していく。
たちまち、傷は塞がりGパンの血痕も消えていく。
流石に銃で空いた穴は塞がらないが、次に母親の頬の傷を治しておく。
眼底には異常がないが、内出血と少し爆ぜている。
だが、これなら治せる。
みるみる傷が消え痛みも無くなった。
目を見張る親子。
「貴方達の車かロッジは何処?」
「車が、向こうに有る」
父親が、指差したのは湖の反対側。
「ちょっと、見せてね?」
父親の額に手を当てて記憶を読み取り車の位置を割り出した。
「直線なら300メートル。2回に分ければ行けるわね」
咲耶が、父親の腰の部分に手を当てた。
「武田さん。ちょっと、この人たちを車に送っていくから待っていて!」
そう、言い残して父親を先に連れて転移した。
そして、ポカーンとした母親と子供も連れて転移して戻ってきた。
「眠らせておいたわ。記憶も消しておいた。
さて、急がないとレンジャーが来るわね?」
「噂には聞いていたけど、この距離を一瞬で移動できるのかい?」
「【マル】で見ていたんでしょ? 彼の目を疑うの?」
「それは無いな!」
「咲耶様、後10分ほどでレンジャーが到着します」
「ありがとう。
じゃあ、まず記憶を消して置くわ。その上で、キーを戻してくれる?」
手首を痛めた奴を助手席に乗せて、後部座席に腹を打った二人を乗せて意識を回復させたうえで、レンジャーの車が走ってくる方に向けて車を走らせた。
【遠見の術】を使って、運転手が必死になって車の操作をしようと足掻くのを抑え込んで、レンジャーの車の直前で道から飛び出させた。
死にはしないだろう。
1メートル程の段差だ。
車を【式】で調べた時に、酒や大麻の類があったから散々調べられる事だろう。
「さあ、静かに離れましょう。
エンジンをかけても向こうには聞こえないわ」
【遮蔽】を2台の車にかけて現場を後にした。
「車を操作したのも君かい?」
「私の四人のお母さんのひとりが、ああいったふうに物を動かせるの。
それを習っただけよ。
治癒もそうよ。知っているんじゃない?
私の、オリジナルは最初のドングリを使った【指弾】
その気になれば、数キロ先のタバコの箱にパチンコ玉を当てれるわ」
「それを、あのスピードでか?」
「便利よ。
火薬も銃もいらないし、音も殆どしない。
前に盗撮犯のボートを沈めた事があったわ。
実戦は、それ以来かな?
あぁ、違うわ。
所沢の航空公園で、木に引っかかりそうになった子供の飛行機を壊さないようにして方向を変えたわね。
あれは良い訓練になった」
「へぇ〜、航空公園か〜懐かしいな」
「あら、あの近所?」
「爺様が、あの近くに住んでいたんだよ。
もう亡くなったけど、都内から遊びに行っては連れて行って貰ったよ。
そう言えば、古城さんの工場にも行ったそうだな?」
「よく調べているわね?
他にどんな事を知っているの? 私達の事を?」
「ありきたりの事さ、君の能力については伏されていただろう?」
「そうね、【指弾】の事も知っていなかった様だしね。
あなたも【盾】と【マル】以外には何が出来るの?」
「残念ながら、その二つだ。
一応武術は出来るけど、化け物が多いから霞んじゃうだろう?」
「まぁ、そうね」
「【収納】は学びたいな! 出来るかな?」
「イメージなのよね。自分のそばに自分だけの物置がある。
でも意識しないと、どっかに行っちゃうし、開けれなくなる。
だから最初はビー玉を使ってトレーニングしたわ。
半年したくらいかな?
意識しなくってもそこに、おいて置けるようになっていつでも出せるようになったの。
それからは、少しづつ容量を増やしたわ。
あなたも、【魔石】を使ってみたら?
今は、【月夜石】と【真力】しか使っていないでしょ?」
「【マル】と切れたりしないかな?」
「それは大丈夫よ。
『【式】との繋がりは命の奥底で繋がっている』って、常義お祖父様も言ってらっしゃったわ」
「そうか、それなら、試してみるか?」
ロッジに帰り、影護衛の夫婦にBBQへの誘いをかけた。
最初は遠慮していたが、咲耶が『命令にするわよ』と脅して手伝わせた。
二人とも外食が常だと言うだけあって、中々に手際が悪かったが次第に慣れてきて、野菜や魚の処理もできるようになった。
咲耶の実力を垣間見た影護衛に、『心配しないで』と言ってワインを勧めた。
夕闇の頃に食事を済ませて、良い心持ちになった夫婦を送っていく。
【探索】を入れてみても【式】の存在はマルだけだった。
「少し冷えるわね」
リビングに備え付けられた暖炉に火を焚べて、二人でコーヒーを飲む。
武田の事を色々と聞く咲耶。
咲耶も資料だけでしか知らないと言う武田の為に、最近リニューアルされたアーバインと萩月そしてエリファーナ達の映像を見せた。
「あの、古城光学の天体望遠鏡が地球の危機を見つけ出したんだ」
「星には興味無かったの?」
「都心だったからな」
「新宿だっけ?」
「あぁ、あの『ツリガネムシ・シンドローム』の時には自宅の前で、親父達が一般人の誘導をしていたよ」
「あれも、酷い話よね」
「でも、アーバインの方だって酷い話じゃ無いか?」
「そうね、もうしばらくしたら奴等が来るわ
私は、どうすれば良いのかしら?」
咲耶は、膝に自分の頭を押し付けた。
「君の出来ることをすれば良い」
「【指弾】で敵を殺すの?」
「でも、相手は宇宙空間だ。届くか?」
「今は無理。【転送】を使った方が確実だけど相手が大きすぎる。
核弾頭を送り込むかって話も出たけど、それをやったら地表にも大きな被害がでるわ。
やはり、地表に降りて来たところを叩く事になるわね」
「それなら、まだ時間は有る。
今は、知識を身につけよう。
でも、さっきの映像で出て来ていたけどイギリスとイタリアの妖精か〜
日本は巴様を始めとした妖狐や式神。
他には無いのかな?」
「それを、探すのが私が選んだ道よ」
「仕方無い。付き合うよ」
「いつまでも?」
「あぁ、君さえ良ければ」
「私、【サトリ】なのよ。あなたの気持ちには気付いているわ」
「それは、仕方無い。
初めて会った時から、恋に落ちていた」
「ありがとう」
「私の秘密、教えてあげる。私の眼の色は何色?」
「アレ、カラーコンタクトして居たのか?」
「違うわコレも私の能力。身体的な特徴の眼の色は分からなくしているの。
だから本当の色は青よ。
でも、初めて結ばれた男性がサトリなら赤い眼に変わるわ。
あなた、【サトリ】の素質があるの知って居ないでしょう?」
「えっ、それはどう言う意味?」
「私の、眼の色を変えてって言っているの!
私も、あなたが好きよ豪さん」
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コレを見る為に投稿を続けていると言っても過言ではありません。
ありがとうございます。
これからも応援よろしくお願いします。
Saka ジ




