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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
361/929

360 式神 ハン・フォン

襲撃犯と、その計画を裏で引いていた連中をウルマに送り込んで半年。

『タウ』と『テタ』の流刑地は事なった様相を表していた。

『テタ』が更生施設で協力者を選抜、養成する場所になり。

『タウ』が、より罪が重い者たちとその部下の流刑地になっていた。


それでも『タウ』で、かつて大陸で影の世界で大物と呼ばれていた男は、

間近に迫った冬を前に、堆肥をかき混ぜて汗だくで働いていた。

もう、一年を越えた。

今、堆肥の上に被せているのは、彼が提案した堆肥用のブランケット。

赤魔石を使って堆肥の上にかぶせれば、堆肥の面を保温してくれて発酵を促す。

『テタ』だけでは無く、他の居住地で重宝されているらしい。

匂いを抑える効果も付けれるが、ハンはそいつは外して貰っていた。

漏れ出てくる匂いで発酵の進み方がわかる。

一々剥ぎ取ってかき回すなんて、せっかく温まって発酵が進んでいるのに勿体ない。

かき混ぜは堆肥の中の酸素量が減った頃合にやってあげれば、より良い堆肥ができる。



手に、マメを作りフォーク(農作業用農具)で、麦わらを漉き込んでいく。

片時もフォークを手放さない。

自衛の為、いざという時には自らの首を突くために、寝ている時も身体の脇から離さ無かった。

以前は、部下でさえ信じられなかった。

もう何人かは、南の『テタ』の収容所に送られている。

どんな場所かは教えられていない。

帰ってきた奴がいない。

ここに、来る奴は地球から送られてくる。

そして誰もが、檻に入れられて喚き散らし泣き叫ぶ。

そして、先住者の顔を見て驚く。

無理も無い、贅肉が落ちて額に家畜の糞を付けて歩いている。

見間違える訳がない。

時折見せる、眼光の鋭さは変わっちゃいない。

元は地球の裏社会で生きて来たやつだ。


だが気付く、檻の中と外の食事の差。

外の連中は、自家製の酒さえ呑んでいる。

だが、檻の中は硬いパンと具が浮かんだスープに干し肉だ。

干し肉は美味い。

だが、酒が欲しくなる。

「それを寄越せよ!」

奥に有る湯船に入って体を洗って来たのだろう、さっぱりした顔で食事を取りながら酒を呑む中年の男に声をかけた。

「まだ、反省の色が無いな?」

「犯罪組織のボスが、反省なんかする訳ないだろう! このクソが!」

「じきに解るさ。ほれ、こんなに具が入ったスープだ。

チーズだって、かけて良いんだぜ? 

イタリヤのチーズにも負けない山羊の乳で作ったチーズだぜ? 

本場でも手に入らないんだろう?」

別皿に盛られたチーズをパンに乗せて、遠火で炙るだけではなく具沢山のスープにもかけて食べてみせる。

とんでもないカロリーだが、昼間の労働で丁度良いバランスになっている。

50歳を越えて、筋肉が息を吹き返してきた。


「ここから、出しやがれ!

なんで、この俺様がこんな所にいなきゃいけないんだ!」


「白髪の執事服が、訪ねてきたんだろう?」

「あぁ、うちの屋敷に堂々と正面から乗り込んできて、もう一人の小僧と一緒に兵隊を一瞬で眠らせた。

あれか? 世界各地で出ている裏組織や政治家の失踪」

「あぁ、ここはまだ使い用がある連中が送られてきているそうだ。

どうにもならない連中は、文字通り海溝の底らしい」

「お前・・・・・ その左手の甲の蠍の刺青。ハン・フォン?」

「あぁ、そんな名前だった」

「一年近く前に、家族と一緒に車の事故を装って殺されたんじゃなかったか?」

「良く知っていたな? 家族と飯を食って車を回させて乗り込んだ。と同時にトレーラーが突っ込んだそうだな?」

「『そうだな?』 偽装か?」

「俺と手下達は、香港の事務所から、ここに飛ばされたがな。

おいおい話してやるよ。お前の情報も手に入れておきたい。

あぁ、だけど働く気になるなら早い方がいいぞ。

もうじき、刈り入れだ。

それが過ぎたら、もう半年は雪に閉じ込められる。

室内でやる仕事も回って来るが、やはり収穫に携わったかどうかは待遇に大きな差が出る。

働いていない奴は、最下層だ。

今、食っている飯と、その檻の中だ」


「若い連中に言っておく。

ここでは、もうボスも上下関係も無い。

金もなきゃ女も、宝石も無しだ。

銃が無いから、こうして身を守るのはこう言った農機具だぞ。

だけど、人同士で争っている暇はない。

生き残りたかったら外にいる、狼の群れを殺すしかない。

言っておくが、この世界で驚くのは熊も群れを成して罠を張ってくるぞ!

死にたくないなら、働くことを誓え。

そうすれば檻が開くし、飯も上等になるし酒も飲める。

【釈放】も有るみたいだが、良くわからん。

ちなみに、お前たちのボスが入っている檻は『ワイコフ兄弟』が入っていた。

二人共に殺された。

何時迄も働かずに駄々を捏ねていて、若い連中がそれに付き合わされた。

ある日、ワイコフ兄弟との間の仕切りが外された。

若い連中が様子を観に来る獣人に、ここの【管理者】に取りなしを頼んだんだ。

俺は、もうその時には手下にアタマを下げて一緒に働き出していた。

そこに、いるのがワイコフ兄弟の手下だ。

それに、お前たち気付かないか? 俺は何語を話している?」


『『『『『『『アレ?』』』』』』 


「驚くわな? 日本語だ。書けはしないが話はできる。

時々、やってくる獣人の連中も日本語を話す。

じゃあ、ここは日本か?

さっき、言ったろう?

ここに食糧を入れてくれたり、農機具の追加や回収をしてくれるのは【獣人】だって。

人の身体に、熊や犬の耳と尻尾がついている。

人間もいるぞ。

『人族』と言って1番力がない最下層だ。

だから、知恵を使って奴らと協力している。

この臭い『堆肥作り』もそうだ。

ガキの頃、これが嫌で街に出てスラムから這い上がったんだがな。

お陰で、一目置かれている。

話がとんだな。

ワイコフ兄弟は、コイツらが殴り殺した。

あの二人が駄々をこねる限り、彼らの家族の安全が保障されないしその飯じゃ飽きてくるだろう?」


ワイコフの手下だった強面達が、ハンの言葉と共に頷く。


「お前さんは、フランスとイタリアに拠点を持つ、裏社会の『アルトラ』の人間だろう。

あれだけ、派手にやったら目をつけられる。

人身売買に薬物。

強盗に恐喝。

違法賭博に密輸まで。

お前が、ここにいると言う事は運が良かったな。

まだ生かしておいて貰えて。

ヤバい仕事に手を出していなかったか、情報を搾り取るために、ここに居るんだろうが、お前の上や仲間は海の底じゃ無いかな?

俺も、もうここの生活に慣れてきた。

いつ、縄張りを争っている連中が襲って来るか、

誰かがヘマをしてガサ入れを喰らうか、

家族を人質に取られて見殺しにしなきゃいけないか、なんて悩む事もなくなった。

これを見てみろよ、家族からのメッセージだ」


ハンは大事そうに懐から封筒に入った家族の写真と何通もの手紙を見せた。

ハンの残っている手下とワイコフの手下も同様だった。


俺達は【更生施設】に入っていることになっている。

しかも、家族の安全は『エルベ』が保証してくれた。

更生施設という事は、出してくれるという事だ。

この『刺青』も消してもらう。

新しい、身分になって働くさ。

家族も、フランスの片田舎で小さな農園を開いて働いている。

息子や娘も、大学に通うことになりそうだ。

今まで箱入りにしていたから、そっちの方が向いていた?

俺に似ていないのか、学者肌だそうだ。

家庭教師が付いていて、新しい生活に合わせた教育をしてくれている。

贅沢さえしなければ、生活は保障してくれている。

お前たちの家族も早く、安全な生活を手に入れたいよな?」


『アルトラ』の手下達はボスの顔を見る。

人身売買や麻薬には手を出さないでいた。

アレは、人の生き血を啜っている気がして嫌だった。

だから、扱うのは違法賭博と盗難車の転売。

そして入ってくる『他所者』の排除。

酒の仕入れ先を変える様に持ち掛けてくる密輸業者をとっ捕まえては放り出す。

確かに安いが、それに手を出させたら『薬物』が酒と共に持ち込まれてしまう。

いつも、『あがり』が悪くって【集会】では殴られた。

だが、どうしても友人を薬漬けにして、その家族を売り飛ばすなんて事はしたくなかった。

だから、コイツらを養ってきた。


「解った。

その【管理者】とやらに繋ぎを付けてくれ。

家族の、安全をお願いしたい。

そして、その根底にある考えを聞きたい」

「やはり、馬鹿じゃないな。

ここに、来るのは使い出があるか、潰すかの二種類だ。

心配するな。

じきに現れるさ。

そこに、『黒い蝶』がいるだろう?」


ハンが壁の一角を指した。

「蝶?」

「ハンさん。アンタも【術師】の血が流れているんじゃないのか?

俺の[式]は姿を、消しているんだがな?」

ハンの指先に、黒い蝶が現れて言葉を喋った。

「今から行くよ」

こうして、『アルトラ』のチンピラをイタリアの港町『バーリァ』で纏めていた『トニオ・アンデータ』と手下はここにいる理由を知った。

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