351 船上の映写会 再会
これで、この章終了です。
次回は土曜日に投稿予定です。
よろしくお願いします。
Saka ジ
「成程、月だ」
「えぇ、一矢三郎様ですわ」
「叔父様?」
「三郎!」「三郎!」
「お姉さん」
「叔母さん?」
ひと月後、館林の館に、二人を連れて行って萩月常義と館林 茜、一矢 仁、桜夫妻とその父と弟、室 遥、立浪 晶に引き合わせた。
流石に、20代の晶に『オバサン』と呼ばれて、月のコメカミがピクピク動いたが気にしたら負けだ。
【室】の庇護下にあった七条家は、娘達の外出を制限して常に室の護衛を付けていた。
そして、萩月との接触を避けていた。
どんな、難癖を付けられて、一条の屋敷に呼び出されるかもしれない。
それを極限までに恐れていた。
その中でも、譲の代になって常義との婚姻の話が進められたのは【呪糸蟲】が上手く行って【呪核持ち】が数多く手に入った慢心からだったろうか?
常義は、婚儀の際に月の婚礼の列を襲わせて、彼女を攫うつもりだったと思っている。
その時は、彼女に為に共に死ぬ気でいたのだが・・・・・
目の前の月は、あの時の決意をその身に宿した眼差しではなく、ただの少女でしか無かった。
常義は寂しさもあったが、何よりその表情が年相応に無邪気な明るさを持っている事に安堵した。
「本当に、常義なのか?」
「あぁ、後50年もすればお前もこうなる」
「嫌な話だな」
「何を言うか!また! その歳からやり直せるんだ。俺は羨ましいよ」
「常義」
「三郎!聞いただろう?
アーバインと、この地球に迫って来ている船団の事を?
それに立ち向かう為に、多くの者が手を尽くしている。
もしかしたら、その結着に私は立ち会えないかもしれない。
手を貸せないのかもしれない。
それが、悔しくて仕方が無い。
三郎!友としてお前に頼もう。
手を貸してくれ!」
「あぁ、俺も月さんも、この年齢に生まれ変わったのはのは、その為だと思っている。俺たちは学んで行く。
そこで、提案なんだが、あの家名を再興したい。
俺の母方は、そこの出だったのは知っているだろう?」
「・・・・・源か?」
「あぁ、源だ。俺は、戦闘能力は高く無い。
ウチに婿に入ってくれた仁なら、どんなに経っても片手で捻られる。
だがら、【軍師】となる。
面白い子が、いるじゃ無いか?」
「美玖か?」
「あぁ、ウチの爺様が生きていたら養子に取っただろうな!
今は、あの子を目指す。そして、共に参謀になる。
ゲリラ戦になるんだろう?
ならば、源の名を継ぐさ。
源 三郎 まるで義経だな?」
「アレは九郎だ!
相変わらず、どこまでが本気か分からん奴だ。
お前は知らないが、それで、茜さんは苦労したんだぞ!」
「常義さん。彼は12歳の『一矢三郎さん』です。私とは縁の無い無い人ですよ」
「・・・・・そうでした」
「三郎さん。伸び伸びと生きなさい。
私は、その姿を記憶に留めて行く事を約束しています。
月さんもそう。今度は自分の為に生きてください。
身を捨てるなら、愛する人に為にしてください。
私も、月さんの幸せを見届ける約束が増えました」
「(茜様は、何を言っていらっしゃるんだろう?) はい。解りました。自分を磨き、三郎さんを支えて生きて行きます」
「約束ですよ」
「本当に姉さんだ」
「お母さんの若い頃の写真とよく似ていると言うか、三人で並んだら女の一生が撮れるわ!
今度、私のフィアンセに会わせてあげる!
フィンと言って、アーバイン出身の歳下の子。
数学の天才で、何度も数学オリンピックで優勝して、もう参加させてもらえなくなっちゃった!」
「それは、年齢制限のせいよ!」
「青魔石のネックレスも、貰ったからいつでも結婚できるわ!家族が増える!楽しくて仕方無いわ」
「親戚が、居ないって寂しがっていたからね」
「あら、親戚なら一杯できたじゃ無い。
巴様が、いらっしゃる。
そこに繋がる者は、みんな親戚でしょ?
白美さんだって萩さんだって、雪さんも考えてみれば同じ【妖狐】なんだからそうなるわ」
そうなのであった。
萩月に繋がる女性を調べると、そのRNAにしっかりと巴様の系譜で有る証が残っていた。
不思議な事に貴子にも、それが存在した。
さらに言えば、やはり、兄 卓也と姉 亜里沙とは他人だった。
スミレとの、血縁関係は無かった。
だが、この情報は秘匿されている。
「しかし、三郎が生まれ変わるとは・・・・・」
ここ、数年で一矢家の父母は亡くなっていた。
「いや、こんな姿で生き返って見せたら逆に、あの世に送り返されただろうさ。
あの、四条の店は有るのか?」
「あぁ、北っ側にビルとデパートが出来てうるさくて仕方無いけど、まだ残っている。
お前の部屋は、筆の材料置き場になったけどな」
「あぁ、散々、毛の処理をやらされたなぁ〜」
「なんなら手伝いに来い。
もう、外注で受けてくれるところが無くって困っているんだ。
アーバインで受けて貰っているけど、追いつかない」
「筆作りなんて、どこでも出来るだろうに? 特にウチなんかは書道用の筆と日本画用の筆だろう。数は知れていたじゃ無いか?」
「はぁ〜桜が、あっちこっちに売り込むから大変なんだ。
今じゃ、油絵の筆まで作っている」
「商売は儲けるところと、時を逃さない。
イギリスからの注文も【王室御用達】になったから、増産!お願いね!」
「聞いてないよ!」
「言ってなかったよ!」
「あはは、『京美堂』は安泰だな」
「おじさん。色々と教えてくださいね。
おじさんの、墨の調合が一番だって言ってた、お客様もいましたよ」
「アレは、どうだろうな?
墨の調合、調合を習い始めるのが13歳からなんだ。
知らなかったのか?
つまり、俺はやった事が無いんだ」
「え〜!そんな〜! 注文も受けちゃったよ!」
「だからお前は先走りしすぎるんだ! 爺様の書き付けが残っているから、それを見て三郎に試してもらえ。
そう長くはかからんさ。源蔵もいるし星里光一と青山 碧がいる。解析してくれるさ」
「それよりも、日本画用の旗ネズミの筆やってくれないか?
もう、誰も怖くって手が出せなかったんだ。材料が残っていない」
「どうして? 琵琶湖に行けば、いくらでもいるだろう?」
「それが、今、琵琶湖にそんなに居ないんだ。居ても使える毛じゃ無い。
だから、今残っている毛が最後だ」
「そんなに貴重なの?」
「毛の質が良いのは元から少なかったけど、旗ネズミのコロニーが無くなって来ている」
「50年前には、一年分を取るのに五日も有れば良かったんだが?」
「今じゃ、ひと月かかっても一匹取れるかだ」
「一度、見に行ってみるか・・・・・」
こうして、二人は琵琶湖へと脚をすすめる。
乗用車の存在や、琵琶湖を囲む様に走るJRの速度に驚き、かつて漁村だったところが、ベットタウンになっているのに目を見張る。
そして、『鮒寿司』が高級食材になっている事にも驚いた。
月は苦手だったが、三郎に勧められてお茶漬けにして箸を取る。
匂いは気になるが、案外さっぱりとしている事に満足した。
「私、琵琶湖は初めて来たの。今まで、京都の街から外に出た事無かったわ」
「これからは、休みができたら旅をしよう。それが、僕らの糧になる」
琵琶湖を仁と桜に案内されて、最後に近江神宮へ参内する。
「ここは、高校生の【競技かるた】の大会や、名人戦やクイーン戦が行われる会場だよ」
「競技かるた?
私、【小倉百人一首】のかるたは好きですけど、それの大会があるんですか?」
「おや、月さんは興味がありそうね?」
「えぇ、外に出してもらえませんでしたから、室内でやることと言ったら将棋や、碁、かるたになります。
姉も、かるた強かったですよ。
読むのも、上手いですから」
「良いな!それじゃ、『京優学園』に【かるた部】を作ってみたらどう?
何か他に、特色のある部活動がやってみたいって若菜が言っていたのよ。
そうか〜なんで、気付かなかったんだろう。
京都と福井、そして福岡や広島、もちろん東京にも強豪と呼ばれる学校はあるわ。
早速、若菜に掛け合ってみましょう。
遥さんを指導者にして、顧問は暇してる巴様が適任ね?」
「誰が、暇人じゃ!」
黒子狐の式が、いつの間にか月の肩に乗っていた。
「暇じゃ無いの?」
「・・・・・否定はできんな。
工作員もとんと減って、手持ち無沙汰は嘘では無い。
良かろう。講師だけでは暇なのは事実。
受けてやろう」
こうして、中等部に競技かるたのクラブが出来上がった。
読み手として自信満々だった巴様だったが、次第に感を取り戻した遥に脱帽。
今では、大会への参加書類や京都支部への届出、それよりも予想外に集まった入部希望者の多さに閉口していた。
なんでも、今、『競技かるた』は静かなブームを迎えていた。
「月さんの、姿勢が良いね。
それに、相手の札の位置を常に把握しているし耳も良い。
遥さんが読み手だというにも有るだろうけど、こりゃ良いとこいくな?」
自分も負けてられないと、萩月の道場に通い体幹を鍛え直す三郎だった。




