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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
35/929

033 雷

【アレ】の街の周辺でも『黒い鳥』が見受けられる様になった。

時折、上空に現れて周回して飛び去る。

時には人の高さまで降りて来て、すばしっこく飛び回る。

果樹園や市場にも現れ、どうやってか果物や並べられた魚を掻っ攫って逃げていく。

誰もが気味悪がって手を出さない。


そんな中、【領主の街】で石畳に墜落して動かなくなった『黒鳥』が見つかり領主の館に、布に包まれて持ち込まれた。

【アレ】の街から、領主に加担する術師が数名呼ばれて調べる事になる。


黒い薄い鉄の板。

4つの腕の先についた透明な硬い4枚の羽根。

真ん中に付いた物を掴む時に使う長い4本指。

そしてその真ん中についた三つの眼。

不気味で手を触れたく無かったが、一番若い術師は脅されてナイフを握りしめた。

眼が自分の姿を映していて気味が悪い。

そう思い腕の下になる様にレンガを置いてひっくり返した。

ナイフを突き立てるが、全く刃が通る様には思えなかった。

もう一度裏返す。

よく見ると彼方此方に合わせ目が見え、意を決してそこに刃を入れ少し開く。

これを繰り返して黒鳥の皮が外れそうになった。

ひっくり返して恐る恐る皮を剥ぐ。

やはり、一枚の金属の皮で思いの外軽い。

現れる見たこともない金属の筒、真ん中には何やら黒い塊があって、そこから何本もの赤や青の血管が彼方此方に走っていた。

「作り物なのか?」

離れて眺めていた年上の術師達と上半身に【遮蔽の術】を展開した前の当主の息子と領主が覗き込む。

「細い血管や筋が走り回っているな。その真中の黒い物が心臓の様だな」

「太い赤と青の血管を外せば取り出せる様だな。外してみろ」

若い術師に命令が下る。

恐る恐る、心臓に触れる。

「硬い!硬いです。」

若い術師が触っても平気なので、気を許して皆が手を触れる。

「確かに硬いな」

ピクリとも動かない。

そして行動は次第に大胆になる。

「確かに心臓はこの2本の血管を外すと取り出せますね。結構重いですよ。金貨でも入っているような重さです」

これも、一人も欠けることなく持ち上げて同意した。

「それじゃ血管を切りますね。」

そう言って若い術師は、赤い血管にナイフをあてて突き刺した。

周囲に広がる青い光り。

雷のような音。

その後に続く破裂音。

若い術師が、身体を硬直させて倒れ込む。

周囲で覗き込んでいた者達は、目をやられてのたうち回っていた。

光と雷の様な音を聞きつけた衛兵が飛び込んできて、領主や術師を運び出し目に水で冷やした布をあてた。

しばらくして、落ち着きを取り戻し眼が見える様になった領主と術師は部屋の中を覗き込む。

若い術師は、黒鳥の残骸の横に倒れたまま息をしていない。

肉が焦げる匂いと、嗅いだことも無い鼻の奥が痛くなる様な匂い。

「雷の魔道具だったのか?」

「恐らくそうでしょう。死んだ心臓であの威力ですか。恐ろしい力ですね」

「雷を操る魔道具は見つかっていない」

「生きた黒鳥ならば、どれほどの力でしょうね」

「しかし、魔道具ならあの三つの目玉が魔石でしょうか? 色が付いていないのは光魔石で一番弱い魔石です。白いのも有りますがそれでも【治癒】や【伝え石】位にしかなりません」

「それならば、『赤魔石』か『青魔石』で動かせば、街の一つくらい雷の嵐で潰せるな。現にそこで若い術師が死んでいる」

顎で、死んでしまった術師を指す領主。

その時、黒い心臓が激しく炎を上げて燃え出した。

あまりの事に近づくことも出来ずに燃え落ちるに任せてしまう。

嗅いだことの無い臭いと煙をあげて黒鳥と術師を焼き尽くして炎が消えた。

一行は外から眺めるだけで、風の魔道具を使って換気をかける。


「激しい炎だったな」

「万が一を考えて、石蔵でやって置いて良かったです」

「今までの解体方法は覚えているな?」

「もちろんです。」

「後で獣人か奴隷に回収させる。調べれるだけ調べろ。そして、何としても一匹捕まえてこい。懸賞金を貼り出せ」

「メトルに使うのですか?」

「お前のところの術師を集めろ!あの黒い心臓に『青魔石』を組み込めばきっと素晴らしい威力を発揮するだろう。起動の陣は要らないさ。見ただろう? あの赤い線を切れば起動するんだ。何も知らない獣人に持たせてファルバンの屋敷に突っ込ませれば良いだけだ。お前達も【アレ】の街から離れていないと巻き添えを食うぞ。な〜に例え失敗しても被害が出る。周辺に隠した獣人や馬鹿な取り巻き連中が、突っ込んで火を放つ手筈になっている。あの閃光を見ないように言っておけば問題ない。」

「わかりました。【アレ】の街でも良く見かけますからすぐに入手できるでしょう。明日にはファルバンに残っている術師の連中もうちの門下生と合わせてこちらに向かわせます。これが最後の警告になりますな」

「他の領主から聞かれたらメトルが何か実験をやっていたと話せば、雷の音が屋敷からしたら誰もが信用するさ」

「地下遺跡の泉は被害が出るような事はないでしょう。『黒石板』は勿体無いですが、どうせ使えない魔道具です。メトルと一緒に消えて貰いましょう。適当な石板を加工してピカピカ光る陣でも描いてやっておけば、ありがたがってくれるでしょう。」

「よく悪知恵が回る当主様だな?」

「領主様ほどでは無いですよ」

「ふふふ、フハハ〜ハハハ!」

まだ煙が出てくる石倉を背に、男達の笑い声が響く。

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