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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
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338 ドルフィン

ルクア・ファルバンとリーファの娘 サーファそして、ミーフォー。

彼女達が、アーバインに持ち込んだ『シュノーケリング』と『スキューバダイビング』を

青木忍の妻シャームがマスターして、ウルマで救った若者達に教えていた。

狭いエリアながらも楽しんでいる。

『素潜り』ならば浜の男達も女もやっていたが、【シュノーケリング・マスク】の登場は新たな世界を与えた。 

ルースの岩場で区切られた外洋との間に堆積した砂を、【転送陣】を使って南の岬の沖に捨てるのに『箱メガネ』を使っていたが、船上から見下ろすのでは無く接近して見る事ができる。


海底に砂が溜まると、海水の流れ次第で『養魚場』がダメージを受ける。

それにルベルに【遮蔽】の範囲外で、潮流の変化を見られては相手の興味を引いてしまう。

ライラの父の様に長時間潜れる超人でも無い限り無理な作業が、スキューバダイビングの機材で出来る様になった。

ウルマでも冬場は無理だが、それ以外の季節で魚道の整備に利用していた。

だが、【ボンベ】が面倒だ。

こんな大きなタンクを背負っていては、発見されるリスクがある。

呼吸と共に排出される空気の泡も同様だ。


【転送陣】を使って移動する時間は、数秒であるが息苦しさを感じない事を不思議に思った源蔵と木場 直が、現在その秘密を調べている。

空気が【陣】で供給されているのなら、それを使えばタンク無しで海に潜れる。

そう考えた。

そんな実験をしている事を聞いた、あの兄弟がウルマの地でとんでもない実験をした。

【転移】の魔道具を使って、片方を遮蔽で作った部屋に入れそこに『ベスダミオ』を少し燻して、その部屋に向かって【転移陣】を稼働させた。

もちろん人は送っていない。

これで、どの時点でベスダミオの匂いが来るかの実験をした。

結果は、出発側の【陣】でも『ベスダミオ』の匂いがした。

これで、【転移陣】がつながった瞬間に、空間が繋がる事がわかった。


これを知った【梓】が、蒼のレーザー技術を使って与圧された大気を、潜水用のマスクに送り込む魔道具を開発した。

呼吸に合わせて圧力センサと、二つの【陣】を動かす魔石の駆動を同期させる。

圧力センサと言っても薄いダイアフラムを使った物で、両面に【陣】が青魔墨で描かれて表面を、コーティングしてある。振動で魔墨が粉体になってそれを吸い込まない様に考慮した。

ミダクの不幸は繰り返したくない。

双方の相手側の【転送陣】に魔石さえ有れば、呼吸が可能になる。

『とんでもない物が作れたな』

蒼の繊細な加工技術に、満足そうな阿部。

彼も又、新しい技術者を育成する為に相模原の学園で指導する事になっている。

同じ様に、工学好きの青山 碧が教えてくれて、紹介までしてくれた友人が新たに出来た。

週末には、所沢の航空公園や体育館に出没しては、飛行機を飛ばす事に興じている。

モノレールが、延伸して所沢まで入ってくれれば便利なのだが・・・・・

西武鉄道で所沢の駅に着くと、航空記念公園で仲良くなった鳴上君が迎えに来てくれる。

彼も工学系の大学生で、付き合いだした『酒井 恵』の紹介で彼女のバイト先『古城光学』に見学に行ってすっかりレンズの世界にのめり込み、古城光学への就職が内定している。


更に梓は、改良を考える。

二組の【転送陣】を利用して、潜水中の気泡の放出を無くしてみせた。

今は、【転移陣】ひとつで高速に送気/排気を切り替えて小型化をする事を考えている。

後はその距離を延ばせれば、更に通話の魔道具を組み込めばと思い描く。

もうこうなると歯止めが効かない。

亮太と脩、そしてイリスを引き込んで、あの砂になってしまった『魔絹布』で作った透明な板。

その技術を使って透明な船そして、潜水構造を持った小型潜水艇を作ってしまった。

深海には潜っていけないが、浅い海を移動できる小型潜水艦を作れる見通しがついた。

「攻撃は出来ないが、索敵や諜報には使えますね」

室 兼親が、その可能性に心躍らせる。

電子機器が発する電磁波が、ルベルの科学能力を使った索敵装置に感知される恐れがあるので、魔素を使った魔道具を使う移動手段はありがたかった。

相手は宇宙空間を飛んでくるのだから、潜水能力がある艦艇も持って来ている可能性がある。

ウルマのアメ洞窟魚道を改修して、この潜水艦の実験を行うことにした。


これに、雅弓とサーファが興味を持つ。

散々、ねだり倒して石垣島のホテルに二人用の小型艇を置いた。

深度制限をつけて5メートル以下には潜れないし、【探索】を使って自動的に回避行動を取る。

そんな、珊瑚礁を見る為の二人の為の小型潜水艇 『ドルフィン』が作られた。

恋歌があきれる。

「はぁ、あなた達。とんでも無いオモチャ作ってもらったわね?

【グラスボート】のはずじゃ無かったの?」

悪ノリしやすい性格だと聞いてはいたが、梓がここまでやる人だとは思わなかった。

アーバインに渡って魔素と魔道具を知り、一層その知識を使った発想に磨きがかかる。

ウルマでルースの義兄と弾けている姿は【混ぜるな危険】という言葉がピッタリ。

JAXAに通っているフィンが心配になり、真奈美に相談した。

「もう遅いわよ」

構造計算に立ち会ったのはフィンだった。

晶が、フィンがJAXAから帰ってこないとカンカンらしい。

しかも、どうやらフィンが南極に行こうと考えている様で、さらに機嫌が悪い。

「昭人さんで、良かったね!」

「それが、そうでも無いのよ。

あと10年もすれば風間さんが、【アーバイン】を降りるわ」

「まさか?」

「そう、まさかよ・・・・・

私、どうしようかなぁ〜

その頃には、きっと子供が出来ているし、その子とひと月とか長い場合は三ヶ月毎の帰りを待つの?

そんなの嫌!」


朱雀は・・・・・大丈夫よね?

慌てて、アトリエに朱雀の様子を見に行った。


今日は、一光までやって来ていた。

友嗣と三人で、何やら真剣な眼差しで話している。

『あっ、多分あの事だ』

朱雀の悩み。

魔素を使える様になっては来ているが、【転移】の様に一瞬で魔素を循環させて術を発動させる事が中々制御できずに目標の空間に出れずにいる。

時には高速で壁に向かって叩きつけられたりもするが、ここならば、安全に衝撃を受け止めてくれる。

が、体のダメージは減らせても、失敗のイメージが朱雀を苦しめる。

【真力】なら制御もできるが、それだと(ひろし)の様に、姿を消すほどの高速では移動できない。

そこで、精神的な安定感を学ぶ為に一光を呼んだ。

座禅を組み丹田で、息をして魔素を回す。

それを繰り返した。

「だいぶ、平常心が保てる様になったな」

「先に【宝珠】をお借りして【法力】を回したせいですかね?」

「そうかもしれんな?」

「一光様」

「何だい?」

「友嗣さんは、法力を回せますよね?」

「あぁ、彼は真力も法力も使える。

法力を使って【サトリ】の力と合わせて、周囲の人間に【安寧】を与える事も出来るぞ」

「それって、混ざっているんじゃ無いですかね?」

「混ざる?

そうだな? 無意識のうちに【サトリ】の術は身体の魔素を使っているだろうからな・・・・・試したいのか?」

「はい。魔素の爆発的な威力を安定させるには法力か真力を先に流して、おけば安定する気がするんです」

その言葉の意味に友嗣が気付く。

「・・・・・確かめたんだな?」

「えぇ、さっき少しだけ真力を流した状態から、魔素に切り替えた時にわざと遅らせてみたんです」

「いっそのこと混ぜてしまうか?」

「えっ、良いんですか?」

「朱雀くんの今までの状態だったら、この黄魔石からやってみよう。

月夜石はこれで良いだろう。

どちらも、吸い出せる量が制限されているから、一気にやってご覧」

朱雀に新たに【陣】が刻まれた魔石と月夜石を渡す。

「あっ!はい!」


『さては、気付いていたな? 友嗣?』

『彼が考えてくれるのを、待っていたんですよ』

朱雀が目を閉じて真力と魔素を月夜石と魔石から吸い出す様にして、身体の中を回す。

開かれる感覚。

『この、道場のあの角へ!』

【頑張れ!朱雀!】

恋歌は、念話にならない様に気をつけて朱雀を応援する。

身体が、浮いた気がする。

「ほほう! 角を狙ったのか? だが、少し怖がったな? 大丈夫だ。

コレなら、今の位置を繰り返して精度を上げた方がいい。

自信をつける方が先だ! 忘れないうちに繰り返して!」

「はい!」

【転移】を繰り返す朱雀。

もう、壁に激突したり、高所から床に叩きつけられる事が無くなっていた。


『恋歌ちゃん! 心配で見に来たのかな? 大丈夫! 朱雀は自分の方法で制御できる様になっている』

恋歌にも朱雀が、【魔石の魔素】と【月夜石の真力】を混ぜて使ったのがわかった。


『混ぜたら、安全?』

いろんな方法があるんだな?

恋歌は、術の複雑さに感心していた。


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