表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
321/928

321 崩壊 2

「イバ!こっちは、私が片付けるわよ」

「あぁ、ライラ母さんとサラも手伝いに駆けつけた。

しかし、自分の身を守る為に、どれだけの人間の記憶を弄んだんだ」

「肉親だって言っているのも怪しいわ。人間関係を炙り出して。

それに、女達の中にもう一人仲間が居るわ。

アニの様子で解ったけど、能力を隠せるみたい。気を付けてね」

「・・・・・済まないな。いつも、最前線に出して」

「大丈夫よ。少なくともこれ以上、罪を重ねさせないし、殺させはしないわ」


室の忍びが【探知】で雪の下に放置された、遺体の数に呆れ返っていた。

この冬の間に相当数が死んだのだろう。


脩が同行させた少女から、記憶を読み取っていた。

読み取った少女の記憶。

怪我を負ったせいか幼少期の頃、ウルマから親に連れられてここに入った様だが、その辺の記憶は飛ばして最近の記憶だけを探す。

三人の術師がいたが、一番高位の術師が死んで夫婦者の術師が残った。

夫婦と言いながら仲は悪く、妻が冬が来る直前に夫と娘を捨てて何人かの女達と一緒に出て行った。

残す者の為に【テタ】の全ての魔道具に【魔素】を詰め込んで突然出て行った。

夫は、狂っており魔道具に【魔素】を注ぎ込める状態では無かった。

彼女は、上空を行く【監視の目】が途切れた事を知っていたのだろう。

そして、【タウ】の洞窟の出入り口を、完全に【魔道具】で閉じて籠ってしまった。

狼が冬には餌を求めて襲ってくるので、冬場は完全に出入り口を塞ぐ。

【テタ】から娘が訪ねて行ったが誰も出て来なかった。

やがて、冬が来て【テタ】の聖地に籠ることになった。

又、冬籠り。

精神的に参っていたところへ、監視の目が切れた事に夫である術師がやっと気付く。

警戒心は、たちまち緩み外に出る【テタ】の人々。

外に出る様になって、男達が粗暴になって来た。

内部で対立が起こり何人かは亡くなったり姿を消した。

【タウ】の聖地に人を出し和解して、南のウルマの街に迎えば、もしかしたら生き残りが居るかもしれないし、避難所の魔道具で管理された倉庫に残されている備蓄食糧が有れば食糧事情も良くなるだろう。

それに、なんと言っても闘う気力が無くなった。

この際、降伏しても良い。

そう、術師が判断して人を出そうとした。

それこそ、狂った様に『ウルマに向かう!』と、昼夜構わず狂った様に叫ぶ様になった。


娘のアニが術師で有った父親が狂い、ウルマに単独で向かうと言い出して止めようとして男達に任せたが、誤って父を殺してしまった。

娘はサトリではあったが、泉の魔素を魔道具に込めることが出来ない。

母親が残して行った魔道具と手持ちの魔石で、なんとか冬を乗り切った。

そこで、春になったので【タウ】へ向かい魔道具の扉を、こじ開けてでもと分裂して居た男達が出撃準備を進めていた。


こう、脩が読み取ったが、どうも話がチグハグだ。

この事を、【念話】でミーフォーとイバに伝えて置いた。


イバが、掴んだ情報は少しばかり違っていた。

娘に突如身に付いた人を操る能力【人形】は、危険であると母親は認識して夫に対して注意する様に言い聞かせていたが、父親は娘を信じ切っていた。

早くから操られていたのかもしれない。

母親は、決別を決めて行動にでる。

戦略家だった様で、何年も前から【タウ】に食糧備蓄を進めていた様だ。

【崩壊】を予測していたのだろう。

そこで、夫と娘を見限って、自分を信じてくれた者たちを連れて【タウ】に籠った。

少年少女たちの中には娘の術に対して耐性が有った者もいたが、娘が操る男たちが居て連れ出せなかった。

しかも、娘は狼の群れまで操っていた。

母親は中々の術師で、強固な魔道具を使って防御していた様で、

『中に居た女達がコッチが送った【式】を信じてくれて【魔道具】を停めていなかったら、

土の術で穴開けるか【転送】で、ベスダミオを送り込むしかなかった』

と言っていた。

実際、その魔道具を展開してみたが、ミーファーの杖でも砕けなかった。


内臓を蹴られて死の淵を彷徨っていた女の子は、木場達医療団とライラの術師によって、意識は戻っていないが命は取り留めた。

ミオラと心理師がいるルースの聖地で、しばらく聖地で療養すれば意識も戻り、健康な身体を取り戻せるだろう。

木場達も『アーバインで無ければ助からなかった』と言っている。

地球なら、搬送中に亡くなってもおかしくはなかった。



ウルマの地で

サラが、女の尋問を続けている。

ジュンの祖父が記録を担当して、父親の残したファルバンの証から、

やはりウルマの作戦に、失敗した生き残りだった様だ。

それでも、この二人についてはファルバンの記録には残っていない。

未だに昏睡状態の母親以外では、この女の記憶だけが頼りだ。

覗く事は簡単だが、サラはアニに触れもしない。

ウルマの麦畑の遺跡の【ヘルファ】で作った部屋。

ダイアを守る為に作った部屋を、友嗣が急ぎ改修した。

ここに女を押し込めてテープレコーダーと魔石板に記録するだけだ。

嘘を言ってもサラには解る。

逆らえば【魔素】を送り込む。

【魔素酔】を使う。

他人の心を誘導する事はうまい様だが、根本的に自分の能力だけで訓練をしていない【天才】だった。

肉体的に痛めつけても、意識を飛ばして苦痛を逃れる術を知っている。

だから、魔素の処理能力が低い事を利用して酔わせ痛めつける。


最初は、喜ばせてやった。

手足の拘束を解き、足元から【魔素】を供給してくれるのだ。

サトリの能力も、【人形使い】の力も戻って来た。

『これなら、コイツだって【人形】にできる』

そう思ったが、多量の【魔素】で気分が悪くなる。

だが、正対した金髪の女は平気な顔をして【人形使い】を弾き返している。

そうまるで、【羽虫】を祓うが如く。


赤い眼が嘲笑う。

「ゴミ虫が!何をしようとしている?

今日は、これで終わりだ。

話したい事があれば、勝手にしゃべれ!

お前の一言一句は、全て記録されている。

お前の考えている事も、【魔石板】が記録している。

どうせ、この後吐くだろうから飯は抜きだ。

ゆっくり苦しめ!」


金の髪と赤い眼の女が出て行った。

戒めは外されていたが、球形の部屋に床に穴があるだけ。

固定された二つの椅子。

扉も境目が、解らない。

光魔石で明るいが、きっと消えたら真の暗闇が迫って来る。

それよりも、恐ろしいのは音がしない事だ。

自分の呼吸音と、心音しか聞こえてこない。

女、アニは、産まれて初めて【孤独】の恐ろしさを知った。

無理だ! 耐えれるわけがない。

股間を濡らした液体が、穴を伝って出て行く。

その音が消えた時に、静寂がやって来る。

それを、拒むためにポツポツと自分の記憶を辿って、自分の罪を呟き出した。


「やっぱり脆いわね〜 1時間も保たなかったわね」

「良く考えつきましたね? こんな尋問方法」

「だって、子供の時もそうでしょう?

悪さをしたら、暗い狭い部屋に閉じ込められて、ご飯抜きよ。

当たり前じゃない。

その前に、心を折っておくのも忘れないわ」

「怖い人だ。しかし、随分と幼い時から才能は有ったみたいですね」

「最初は、無意識で自分達に殺意を向けた男を返り討ちにしたみたいね」

「その様ですな。狼も手懐けていたそうですよ。

これは、どうします?」

「その狼達が、彼女を探してここへ来るって事? バイの家族を一旦中に入れましょう」

『ミーフォー!聴こえる?』

『なぁに?』

『バイの一族を中に入れて。狼の群れが、こっちに来るかもしれない』

『解った。・・・・・大丈夫。もう、中に入って来ていた。

イバが、やって置いてくれた。

探知で、移動する狼を見つけていたみたい』

『もう、ご褒美でイバと過ごしているみたいだけど、ルナと若菜が怒るわよ。

もちろん私も』

『イバ〜正妻様が、意地悪言って来た〜』

『ハイハイ。じゃあ、切るわよ!』

『ありがとう。サラ!尋問引き受けてくれて』

『ルナや若菜じゃ、無理だからね』

『それでも、ありがとう』


「お優しいですな。正妻様は」

「『シャンタ』の事もあるからね。

そう何度も、他人の罪を暴くなんてさせられないわ。

四人の中ならこういった事は、私が適役よ。

アレの避難所の事がなければ、ミーフォーは優しい治癒師で終わっていたわ。

ライラお母様、心理師達もアレの避難所がきっかけよ。

どいつもコイツも、弱い者を喰い物にしようとしている・・・・・

聖地に閉じ込めてある連中は、腑抜けになっているみたいね」

「彼らは、アニの支配が弱まって来ていて、自分達がやった事を思い出している様ですね。

泣き続けている奴が多いですね」

「悪いけど、そっちは後よ。

紛れ込んで、被害者を装っていた女もいた様ね」

「アニほどでは無いですが、能力持ちが居ました」

「お母様怒っていたからね。雪の中に放り出すって息巻いていた。

高位のサトリに向かって、【洗脳】にかかるんだもの。

相手の力量も見えない愚か者。

どう始末しようかしら?

タダ飯食わせる気はないわ」

「殺してしまうのが、一番楽ですけどもね。

教育の欠如とアニの【洗脳】の影響ですね。

おや? アニの方は一旦寝かせますね。

発狂しかねません」

「えぇ、そうして。罪の重さと時間はたっぷりあるわ」




翌朝

部屋から出されシャワーを浴びさせられて、衣服を着替えさせられたアニは素直に自供を続けた。

狼の群れが迫って来ている事を告げたら目に光が戻ったが、サランが【ベスダミオ】の話をしたら、やめてくれと懇願して来た。

『そうか〜、30頭位近づいて来ているね。

先頭は、頭に白い一筋の毛が有るのね。

可愛いじゃない。

でも、この近くに近づいたら【遮蔽の檻】に閉じ込めて、あなたが嗅いだガスを入れるわ。

何匹かは、そこで死ぬわね。

生き残っても【遮蔽】を解いてやったら、しばらく動けないか、動けても染みついた臭いで狩もできないわ。

共食いするかもね?』

こんな事を、サランが声に出して言うのだ。

心を、更に折にいった。

供述が纏まった。

「これだけ?」

「あぁ、全部だ」

「じゃあ、一つ一つ被害者の調書と照らし合わせようか?」

サラが【収納】から、多量の調書を取り出す。

「解ったわ。もう殺して頂戴」

「・・・・・そうね、でも先に【侵略者】の事を話しておきましょう」

そこで、このアーバインに迫って来ている艦隊の姿を魔石板を使い見せてやり話を続ける。

最初は信じていなかった様だが、次第に嘘はない事がアニにも解って来た。

やはり、上空からの【監視】は父親とアニには解っていた様だ。

だが、後続部隊がいる事など知る由もなかった。

だが、ここ数ヶ月監視の目が途絶えた。

その事を、皆に告げてしまった父。

アニは、隠しておきたかった。

外に出れば、自分の洗脳支配が弱まる。

記憶を戻されたら、今度は殺される。

最初は狼を使って、狩に出た連中を襲わせた。

だが、狼を使役している事を知っている女がいた。

口止めをして二人で支配を続けた。

「お母様を、怒らせた女ね」

テタを出てタウの妻の元へ、連絡員を差し向ける事を主張する父親。

彼も限界だったのだ。

完全に狂っていた。

老いたとはいえ、ファルバンの戦闘員。

アニの【洗脳】などかかる訳がなかった。

襲い掛かる父を、他の者を使って殺害させた。

それからは、支配の為に【洗脳】を広げるしかなかった。

だが、少年少女の中に【洗脳】への耐性がある子供もいた。

【洗脳】が効きすぎて凶暴性を発揮する奴も出る。

父親と同じで、精神的な崩壊が凶悪な一面を増長した。

こうして、テタは崩壊したまま冬を越す事になった。

タウに篭る妻は、自分について来た女達を守る為にテタを見捨てる事にした。

これが、この騒動の全てだった。


「で、私はどうなるの?」

「今、裁きを下したら感情に囚われた、あの人達から殴り殺されるでしょうね。

だけど、【洗脳】を恐れて、私たちに処刑を頼むかもしれない。

しばらく、棚上げよ。

ただあなたの能力は、普通の人には危険すぎる。

ファルバンの一家でしか扱えない女。

凄い女よ。認めてあげる」


「どっちがやるの? 私? サラン?」

ライラが聞いてくる。

「私がやるわ」

「何をする気?」

「サトリの能力も、脳の一部の機能なの。それが、解っていてね。

だから、そこを切り取ればアナタは普通の人になるだけよ」

「脳を壊すの?」

「地球ならね?

だけど、ここはアーバイン。

あなたの罪状が明らかになるまで、その能力を封印するだけにしておくわ。

こうしてね」

サランが女の右側頭部に指を当て、左の後頭部に手のひらを置いた。

指が僅かに動き、そして両手が外された。

「どう? サトリの力が使える? 狼達との【念話】切れたでしょ?」


「な、何をした!」

「いま、あなたの脳の一部を眠らせただけよ。

殺す事も出来たけど、父親の発狂で聖地がもっと破綻した可能性もある。

それを未然に防いだ。

雪の下の死体は、病死と自死が殆どね。

後は、あの狂った女の仕業みたいね。

彼女は狂ってしまっているから、あなたの【洗脳】を受け付けなかった。

怖かったでしょう?

だけど、あの女を狂わせたのは、あなたの相棒の女よ。

あの子も、術師の娘で親が死んだのを引き取っていたそうね」

「そんな、ユージが私より上だったの?」

「そうね、ライラ母さんを【洗脳】にかかって来たわ。

必死で自分の能力を守りに来たわ。

仕方無いから『ベスダミオ』の部屋に送り込んで気を失わせたわ。

収納持ちだから魔道具を、使っていたのかもしれない。

あなた、魔道具なしで【洗脳】かけていたでしょ?

その意味では、彼女が上手。

アナタが主役と思っているのも、彼女の洗脳によるものよ。

お母様でも、最初は侮ってアナタより下と思い込まされていた。

相当な術師が、一緒にいる様ね。

外で無くなっている被害者を、自死に追い込んだのも彼女かもしれないわね。

自死の仕方が一緒なのよ。

しかも、苦しんでいる。

普通はあり得ないわよ」

「そんな、ユージが・・・・・」

「嘘だと思うかは、貴女次第?

これで、しばらくは、あなたの命は預かるわ。

ユージだっけ?

それも、偽名よ。

【ユーシァ】

今、調べてもらっている。

術師の中には、自分の名前を隠す連中が多いのよ。

私も、私の夫もそう。

死んで初めて『魔石板』に刻まれるわ。

以前、私の夫を殺そうとした術師がいたのよ。

その手口に似ているから幼少の頃に、刷り込みされているかもしれないわね。

お陰で、又、暗殺者探しよ。

そのうち、協力してもらうかもね」

アニの耳には、サランの言葉は遠い世界からの言葉に聞こえた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ