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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
32/926

030 ルナ

「済まない。ゲーリン」

「ごめなさい。ゲーリン。ルナを守れなかった」

ゲーリンが網小屋で隠れていた夜半に、破水したルナだったが出産の最中、胎児の身体が出るという時に心臓が止まった。

胎児も息が無く医術師や治癒の術師を集めて対処をしたが、二人とも助からなかった。

赤ん坊は、せめてものと柩は一つにして産衣を着せてルナの胸に抱かせてあった。

男児であった。

「【ザイ】と名乗らせるはずでした」

「【ザイ】か(強き心)」

メトルの横で赤く腫らした眼に涙を浮かべたメルルが頷いていた。

「私がお前を聖地に行かせたばっかりに・・・・・済まない」

「私も、黒鳥を見つけて夫を不安にさせてしまって、しかも、ルナにも心配をかけてしまった。申し訳ないゲーリン」

「主人様、頭を上げてください。臣下に首を垂れてはいけません。

奥様も御身を責めないでください。私は、ルナとこの子の将来の為に任に出向いたのです。悔いはありません。ですからお願いですから、ご家族と一門の事をお考えください。それが一番の手向けになります」

「申し訳ありません。一言だけお願いします。ルナは私と同じ聖地の孤児でした。死ぬのを待つばかりだったルナを救ったのはメトル様とメルル様が丘の村の窮状を知って派遣された獣人達のお陰です。彼女はその事に恩義を感じ歌う事で感謝を表していました。【聖地の歌姫】その名をお聴きになられたメルル様に屋敷に招かれてお付きになれた事を幸せに感じて日々を過ごさせて頂きました。ありがとうございます」

肩を震わせる主人夫婦。

ゲーリンは、メイルを呼び止めて一言二言彼に告げた。

目を見張るメイルだったが、頷いて主人と一緒に部屋を後にした。

葬儀は済ませているので埋葬を明日の朝と決めてゲーリンを一人にして皆部屋を出ていった。

自ら【遮音の魔道具】を使ってゲーリンは泣き続けた。


翌朝

鐘の音と共に柩は墓地に運ばれる。

ここはファルバン家の墓地の一角。

本来ならば警備隊長の妻にしかすぎないルナが埋葬される場所では無いがメルルが譲らなかった。

深い穴の中に納められる柩。

最初の一掬いの土はゲーリンがかけなければいけない。

手にした両手の土を持つ彼の手が震える。

「ゲーリン・・・・・私が・・・・・」

「・・・・・いえ。これが私が妻と子にしてやれる最後の仕事です。・・・・・又、あの世で逢おう」

ゲーリンの手から土がこぼれ落ちて行った。

参列者が土をかけていく。

その中には周辺の村々の代表も居た。

丁度、月初めの取引という事で【アレ】の街に関わる者達だ。

次々にお悔やみを受けるゲーリン。

葬儀の席に居なかったのだ。

仕方ない。


墓のそばから離れたくなかった。

その中には浜の村長夫妻、サイスの村長、蔵の街の代官もいた。

それぞれがゲーリンと握手をする際に白魔石を握らせる。

【伝え石】陣を彫った石で強く握りしめると、送り手の声で短い文章だが言葉が聴ける。

ただ、石としては脆く一度使えば砕け散る。


時は彼を失意の底に沈める気はない様だった。


墓所を後にして屋敷で着替えをして、警護隊の制服に袖を通す。

焚き込められた香が彼女の心遣いを思い出させる。

意を決して、館の番人に当主への目通りを願う。

ゲーリンといえどもよほどのことがない限り、これがルールだ。

帯剣を預け部屋の前で待つと中から扉が開いた。

今日は副官の1人が部屋に詰めている。

「入ってくれ。」

「失礼いたします。」


ゲーリンが入室する。

「私は如何しましょうか?」

「どうするゲーリン?」

「トルクは信頼できます。もしもの時にはメイルよりも彼を隊長に押しますよ。」

「それでは向こうに行こうか?」

三人は奥の執務室に移った。

トルクが目を閉じて細かく探る。

そして、並べられた書類の中から指一本程の黒い板を抜き出してへし折った。

「【耳】ですね。前の当主の息子です。挟んであった書類も過去の物です。混ざり込んだと思わせるのでしょう。

新しい書類でしたら目を通しますが表紙に処理済みの印があるから目を通さずに置いたままにしますから。

他には有りません。今日の書類を運んできたのは・・・・・キムクですね。」


「相変わらずトルクの壁は越えられないな。窓の外に張り付かせた【耳】もモップで叩き落としたからな。

それに、触れていた人間の情報がわかるのもお前だけだな。まぁ証拠がないからほったらかしにするしかない」


「さて、掃除も終わった。仕事を始めよう。最初は何から始める?」

「先ずはこれを聞きましょう」

「【伝え石】か、どれからいく?」

「近い順にやりましょう」


蔵の街の代官ですね

「こちらから小麦、干し肉、干した果物、干菓子、飴、調味料、寝具、薬、酒それらをご要求の量に少し増やして船で送ります。ありがとうございます。」

白い魔石が砕けた。

「慣れていますね。名乗らないお互いにわかっている情報は出さない。

最低の挨拶に止める。侮れないですね彼は。【合格】です」

トルクの分析。


次だ。

「サイスの村長です。

普通の塩 120袋上質の塩 20袋そして最上級の塩が10」

魔石が割れた。


「多分10袋でしょう。仕方ないでしょう。滅多に使いませんから」


最後だ

「塩と蔵からくる荷物は荷馬車を使って運びます。4度に分けます。お立ち寄りください」


「【合格】です。録音時間に余裕がありましたね。」

「これは?」

「聖地出身の商人に聖地で偶然会いました。そこで聖地で暮らす為の食糧や必需品を入手してもらっています。塩も入手に不安要素が有ったのでメイルに塩の倉庫に戻ってもらって村長に交渉をかけました。それらの事でもご報告があります」


「聞こうか」

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