319 初舞台
初の【聖地劇団】の舞台は、クルーズ船のステージとホテルでの屋外ステージの演目を変えた公演が良い経験となった。
恋歌と美佳の支えで、あがってしまった子供達も落ち着きを取り戻し、強張っていた笑顔も自然と喜びを表現できる様になって来た。
実際に、嬉しいのだろう。
楽しいのだろう。
その笑顔に、嘘は無かった。
アンコールに応えて、真奈美がソロで歌う。
しばらくの間、学業の為に『ショー』を休む事は伝えてある。
恋歌と美佳、そして劇団員に任せていく。
袖で見守る『沙羅監督』は、次の演目を決めていた。
次の公演は、合唱団との合同でオペラに挑戦する。
聖地の人間なら、ワイヤー無しで空も飛べる。
アクロバティックな動きもお手のものだ。
『先ずは【スペースオペラ】に挑戦してみよう』と、脩達の背中が寒くなる様な笑顔をした沙羅がいた。
場所を変えて行われた打ち上げで、次の演目を発表する沙羅。
そして、内容が発表されるが・・・・・
『それって、地球の戦隊モノと魔女っ子モノの、いいとこ取りじゃない!』
一部からは反対も出たが、いかんせん子供が多いこの劇団。
しっかり、その気になって配役を自分たちで決め出した!
アッサリ、話の輪から追い出された沙羅・・・・・背中が寂しい。
自主性が大切よね。
脚本まで、自分たちで仕上げそうな勢いに、沙羅は更に追い討ちを受けて【撃沈】された。
塾が終わっても、そのまま居残り『戦隊モノ』や『魔女っ子モノ』そして、劇場版をビデオで見て意見を交わす少年少女。
ワープロを使える様になった子供が、幾つもの脚本を仕上げていく。
ラーフィとの間に、子供も出来てスッカリ父親になった篤も、やる気になっている子供達を追い出す気になれなかった。
慎一も、シルバとの間に多くの子供ができた。
お陰で自宅が、狭くなり大家族用の区画に引っ越している。
シルバの様に、犬人族は一度に複数の子供を産む事が珍しくない。
慎一が【家族計画】をしていないとも言えるが、流石にシルバに魔石のベルトを締めさせていた。
慎二と共に孫の顔を見に来た母親の良子も、名前を覚え切れないほどの、孫に囲まれ・・・・・呑み込まれて嬉し涙を流していた。
『兄さん!家族計画!』
とは言うものの犬人族は、聖地で暮らしていた者が少なく、多くは【アレ】の田畑で【銀の鳥】に殺されていた。
しかも、シルバは長の家系。
数を戻したい彼らにとっては、産めるだけ産んで欲しいのが本音だった。
子沢山の慎一の弟という事もあって、彼らの一族の娘から慎二に熱い視線が送られる。
母からは『良い人がいたら、それでも良いけど、孫の名前が覚えられない!』
まぁ、実際に慎一も良く忘れる、間違える。
更に『二人目の妻はどうか?』
と一族から誘いが来ている。
シルバも、認めようとしていた。
それほど、外に居た男達が死んでいる。
どうしても、優秀な男がもてはやされてしまう。
その意味では、少ないサトリの能力者で『日本の王子様』と言う朱雀は、年齢を問わず【青魔石】を持ち込まれる。
これは、
『婿に迎える』
或いは
『これを、加工して娘を迎えに来てくれ』
と言う意思表示になる。
当然、恋歌がコレを妨害する。
滞在予定の五日間が終わると直ぐに恋歌は、朱雀を連れて帰って行った。
「そんなに、心配しなくっても大丈夫」
朱雀は保護服を脱ぎながら、恋歌を勇気付けた。
「実はルース様から、【青魔石】を頂いたんだ。
少し、大きいから、コレを加工して互いが重なるアクセサリーを作ろう。
他の誰もが入って来れない事を表す様なデザインを考えてみるよ」
社務所のソファで、昔の様に朱雀の胸に抱かれて恋歌は幸せだった。
春休みが終わり、今日は恋歌のルームメイトがやってくる日。
朝から恋歌がソワソワとして、寄宿舎の玄関で待っている。
待ちきれない様で、靴を履きフェンスの外に出ていた。
もちろん、玄関には朱雀がいて落ち着かない恋歌を見ていた。
朱雀は薄々、気付いている。
左手奥の館林の屋敷の裏口が開いて、庭に人が出た気配がわずかにする。
『流石、室の影護衛とその娘だな』
朱雀は気付いたが、恋歌は通りの方だけを気にして居る。
『朱雀様、お出迎えありがとうございます』
小さな蝶が、耳元で囁く。
『ようこそいらっしゃいました、雅弓ちゃん良く来たね。これからもよろしく。じゃあ、玄関から入って三階の一番奥の部屋が恋歌との部屋だから入っていて。しばらくしたら恋歌を行かせるから!』
『朱雀さんって、イタズラ好きなんですね!』
こうして、北澤親娘が、こっそりと寄宿舎に入っていった。
数分後、
「恋歌〜少し落ち着いたら?」
「でも、心配で〜」
「アレ? 恋歌の部屋 窓が開いているよ?」
「エッ! 私開けてないのに! ちょっと見てくる」
恋歌は急いで階段を駆け上がっていった。
開いた窓から外まで聞こえてくる恋歌の声。
「え〜ッ! まゆちゃん! ルームメイトって!そうか〜お母さん【室】の人だものね〜」
「えへへ! 恋歌お姉ちゃん!驚いた?」
「これ、雅弓。恋歌様か恋歌さんでしょ!」
「良いんです。葉山でも『お姉ちゃん』って呼んでくれていましたから!私も妹と思っています」
「済みません!でも、任務はしっかりとね!」
「大丈夫だよ! ほら!」
雅弓の姿が消えた。
座っていたベッドの凹みはそのままで、そこに手を伸ばせば恋歌がいた。
「魔道具を使うのが上手いんですよ、この子は。
守人にもやっと【室】の話をしたんですが、この子の方は、早くから気付いていて、兄にも秘密にしていたんです」
姿を表す雅弓。
「あ〜!さては!朱雀! 知っていたんでしょ!」
窓から恋歌が、フェンスに身体を預けて三階の部屋を見上げていた朱雀に文句を言ってきた!
「これは、秘密じゃないからね〜」
「もう、知らない!」
「相変わらず仲が良いね。お姉ちゃん達。
私も良い人できるかな?」
青くなる母。
年上の女性客の部屋で泊まることも多く、心配していたが、やはり早熟の様だ・・・・・
「朱雀は、あげないからね!」
「朱雀さんは良い人だけど、私のタイプじゃ無いから心配しないで。
脩さんが良いな!この寄宿舎よね?」
「やめときなさい。桜さん・・・・・怖いわよ・・・・・」
恋歌の押し殺した声と、表情に頷く北澤親娘だった。




