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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
31/926

029 礼

翌朝 この辺りでも中々見ない様な薄汚い二人組が、塩の集荷場に現れた。

彼らよりはマシな姿では有るが、やはり食いっぱぐれ達が集まっていた。

「あぁ、良いぞ。朝と昼に飯を出す。それから街で夜明かしするなら塩を下ろす倉庫の端で寝ていろ。明日の朝にも飯を出す。昼にはここに帰って来るから簡単な飯を出してやる。街で荷下ろしが済んだところで銀貨6枚。帰りにここで銀貨4枚だ。働きによってはここで銀貨2枚追加してやる。もうじき積み込みだ。早めに飯を食え」


毎月1日はサイスの街から塩がアレの街の倉庫に持ち込まれる。

正門では無く反対側の門を使って入る。

こっちが倉庫に近い。

この塩の取引も領主の重要な収入源だ。

雨でも降らない限り必ず行われる。

焼いた魚にタレを塗った物と薄いが柔らかなパンが出る。

焼かれたばかりなのか、まだ仄かに暖かい。

人夫の中にはコッソリと塩の袋の隙間に挟み込む奴もいるが、どうせそんな事お見通しだ。

堂々と持って来た袋の中に入れている奴もいた。

荷車には予め結構な量の塩の袋のが積まれている。

「そう言えばこの塩の袋を作っていた丘の村が離村して大変だったみたいだな」

「えぇ。そうです。大きな声じゃ言えないが領主様の税が高くって逃げ出す村がいくつか出ていると聞いています。袋を集めて来る馬車の御者が来月分が集められるか不安を訴えていますよ」

「隣の領から買うと足元を見られるからな」

「しかし、隣の領では塩が作れません。ですから、そうなったら塩の値段が上がるか売らない事になります。塩をめぐっての争いが起きてしまいます」

「まぁ、来月は雨の月だ。今月作ったらしばらくは塩作りは休みだからその間に解決してくれれば良いさ」

「そうしてくれないと・・・・・」

「積込み終わりました。綱と幌をかけます!」

「あぁ、頼んだ。終わったらすぐに出発だ。馬に水やってくれ!今日は暑くなる!」


ゴロゴロと塩を乗せた馬車が3台【サイス】の村を後にした。


途中、途中馬を交代で休ませる。

こんなに暑い日には、馬はすぐにへばってしまう。

昼の休憩が済んだら代わりの馬も繋いで坂を越えなければならない。

ここで、人夫には飯が渡される。

ここは街道の横まで小川が迫り、その下流側には便所がある。

上流側には湧水があって、旅人が喉を潤し茶店で休んでいた。

簡単な共同の炊事場があり網で豪快に肉が焼かれていて、それを人夫に板の皿に盛り付けて朝のパンの残りと共に渡される。

「オホ! コイツは良いぞ。細切りにした羊肉に胡椒をかけて塩で焼いた物とタレで焼いた物か、知らない香辛料を使っているな。これは、新兵の訓練にはちょうど良いな!」

「私は嫌ですよ。もう、馬車を押し続けたせいか腰が痛くってたまりません」

「これから、一番キツイ坂を上がるのか! ちょっとの辛抱だ。その後は平坦な道で楽だぞ。それに手を抜いたら荷台に轢かれるのは俺たちだ。気合を入れろよ」

「何で、こうなったのか?」

「しかし、このままでは領主の交代を周囲の領主が要求し出すぞ。街道を通る荷車の数が減っている。物の移動が無くなれば街が死ぬぞ」

「メルル様が領主になっていたらどうだったんでしょうね? もちろんバカ二人とババアの首を晒してからの話ですが・・・・・」

「新しい産業を考えられて開発も進んだろうな。先日抜けていた草原を開墾していく計画があったんだがな。領主の妨害で棚上げされた」

「そう言えば、門を出た先の一帯は綺麗な麦畑になって水路が通されていますよね。干し場も作って有るし」

「あそこがメルル様がお輿入れされた年から開墾が始まった畑だ。それに、あの領主が税をかけて来た。【開墾税】だと。普通は金を領主が出して開墾させて5年以上は税を免除するのが当たり前だ」

「バカなんですね」

「そ〜れ!休憩はお終いだ。用を済ませて馬車の後ろに着け!馬喰(ばくろう)は馬の蹄鉄を確認しろ! この坂はキツいぞ!手を抜いたら塩にまみれてあの世行きだ! 気合を入れろ! 準備はいいか! じゃあ、行くぞ!」


夕闇が迫る頃に【アレ】の街の倉庫街に入った。

塩を下ろして、倉庫の隅に轢かれた板場で銀貨を受け取る。

男達の中には外の井戸で水浴びをして、持って来た服に着替えて街に出る者もいる。

家族への土産か酒を呑むか、古着屋に向かう者もいた。

飯と一杯のエールで銀貨一枚が、この辺りの相場だ。

二人は倉庫と倉庫の間に潜り込み着ていた服を脱ぎ捨てた。

白魔石を一つずつ握りしめる。

コイツには洗浄の術の陣がl刻まれていて、どういう訳か身体にこびりついた土や油も汗も臭いも消し去ってくれる。

こうして着替えを済ませてフードのついた服を身につけて、ファルバン家の屋敷に向かう。

フードの内側には使い慣れたナイフがいつでも抜ける様に刺してあった。

『ルナ・・・・・』

このフードの内側にはルナが使う香が少し焚き込まれていて、否が応でもゲーリンの気持ちを揺さぶる。

「隊長・・・・・隊長・・・・・」

「どうした?」

ルナの事を思い周囲のに気が回っていなかったゲーリンは慌ててしまう。

「様子が変です。」

「・・・・・」

「周囲に領主の私兵や間者がいて、こちらを見ているんです。明らかに気が付いています。ですが・・・・・」

「確かに、目を逸らすな・・・・・」

屋敷に近づく。

様子がおかしい。

私兵の一人が、深々と頭を下げて来た。

完全にこちらが誰だか知っている!

ゲーリンは不安にかられてフードを開けて走り出した。

慌ててその後を追うメイル。

私兵の一人が胸の前で両手の指を組み合わせて頭を下げた。

(アレは! 亡くなった者の家族への哀悼の礼だ!)

メイルは先を行くゲーリンを追い越す様に声を張り上げた。

「主人様! ゲーリン様です!ゲーリン様がお戻りになりました!」

その声に応える様に、門に飾られた葬儀の印が風に揺れた。

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