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いつかは訪れる最後の時  作者: Saka ジ
299/928

299 情報網

こうして、始まった共同生活。

食事は中央の建屋の二階の食堂で済ませる。

朱雀は、男子の四人部屋で、何故か守人もこの部屋で寝る。

恋歌が使う女子の部屋も、守人の妹【雅弓】と守人の同級生二人が同室だ。

亜美達の部屋は、女子棟二階で畳の部屋で、ここに五人で泊まっている。

向かいの部屋が、更に広く週末から予約が入っている様で布団が運び込まれていた。


朱雀達は瀬戸内で、訓練していた事もあって上達している。

やはり、瀬戸内と違い風が強く、風向きが急に変わる。

瀬戸内は、風向きが変わるのが周期的だった。


二人乗りの【スループ・リグ】も油壺から回して来た。

国内メーカーの在庫と輸入品の混在だ。

瀬戸内の物も、スクールの中古品を再整備した。

国内メーカーが、廃業したり事業部門を整理して来て、九鬼の悩みのひとつだ。

(重量は重いが、ウルマで製作させた艇の方がヨットらしくって良いんだが・・・・・いずれ、こちらに持って来るか?)


スクールの責任者を兼任する【九鬼洋志】の妻が、開校のお知らせを出身校に紹介したら希望者が多く、経験者も居て【九鬼グループ】ならと見学に現地まで来て入学を決めた。

近場で空いているスクールが無くて困っていた。

埼玉県の学校で、他にも親と交渉中の生徒もいる。


中級者が、多くなりそうだな〜

瀬戸内を本格的に初心者用として関東からもそちらに行かせるか?

予想外の展開に九鬼洋志は、両親と兄を交えて話し合う事にした。


中級のクラスの練習生がやって来た。

北澤には八人の女子高生が訪れて、亜美達の向かいの和室に入る。

夕食の際に互いに紹介し合い、よせば良いのに亜美が婚約者持ちをアピールする。

食堂の公衆電話を使って、純一に一日の事を報告する亜美。


「ほんと、ガキだね〜」

「仲良いね〜」

「一緒に来ればいいのに、でも、そうしたら二人一緒に、簀巻きに縛って海に放り込むかも」

一緒に泊まっている、埼玉から来た女子高生の集団が呆れている。


埼玉か〜

海無し県だからなぁ〜

『海への憧れが強い』って、何かの雑誌に書いてあったけど・・・・・


「埼玉って言えば、古城さんの会社が有るところじゃ無い?」碧が思い出した。

「そうだけど、埼玉にも色んな会社が有るでしょう?」メルカが返す。

「聴いてみる?」

そこで、碧が声をかける事にした。

「ねえ、お姉さん」

「何、碧ちゃん」

「【古城(こじょう)光学】って、天体望遠鏡の会社知っている?」

「アレ、聞いた事あるな? どこにあるの?」

「確か、所沢って、ところの飛行機の公園のそばって聞いた」

「あぁ、【航空公園】か! あそこね」

「確か、メグミがバイトしたんじゃなかったっけ?メグミ〜!」

「なぁに?」

「あんた、古城さんの所でバイトして居たよね?」

「うん、ヨットやりたくて、冬休みと夕方頑張ったよ。

大学、決まったら、いつでも、おいでって誘われている。

ゴールデンウィークに入る前に、ご馳走になったジンギスカンと、おやつに出されるサンドイッチが美味しんだ!

私、もう大学落ちたら古城さんの所で働いても良い」

「そんなに条件良かったっけ?」

「バイト代は、まあまあだけど面白いよ。

星の事が、好きなおじさんやお姉さんが居て、工場長さんが怖いけど優しいよ。

眠そうにして居たら『ハッカ飴』くれるんだ。

私がやっているのは、どっかの工場から送られて来るレンズの検査。

衣服を着替えてクリンルームって特別な部屋に、入ってやるんだけど歌声が流れて居てホットするんだ。

学校で嫌な事あっても、落ち着いて仕事ができるよ。

そう言えば、あの恋歌ちゃんだっけ? 

あの子の声に、似ている気がするんだよね」


『あ〜間違い無い。恋歌と真奈美の歌声を流しているんだ。

ここにいる間は、恋歌に歌わせ無いようにしないと』


「繁盛しているみたいね」

「このところ、海外の注文やJAXAとかいう研究所からの注文が多いからね。

天体望遠鏡だけじゃなくって、特殊なレンズを扱っていて半導体?の会社からも注文が来ている。

でもやっぱり、天体望遠鏡が綺麗なんだよね〜

製品が出来上がって来ると星を見たくなる」

「ここの校長先生が、古城さんのお知り合いで天体望遠鏡も持っているよ。

話をしてみようか?」

「エッ! あの【キャプテン・オーガ】が?」

「それ何よ!」

「オーガって、あぁ、九鬼ね。

そんな事を言ったら『九鬼おじさん好き』の、恋歌ちゃんが泣いちゃうよ」

「エッ!あなたたち九鬼グループの関係者?」

「関係者・・・・・だねぇ〜 『京優学園』って、九鬼さんも絡んでいるからね」

「『京優学園』って・・・・・、京都の元お嬢様学校で、この頃、成績優秀者出し続けている学校だよね」

「出来る人はいるわ。(ここに居ますけど)」

「関西の会社と取引がある、うちの親父が言っていたよ。

凄っく美人で歌が上手い【あの劇団】の娘役だった女性の娘がいるって、その子も美人なの?」 

「美人で、可愛いわね」

「その子と同じくらいの年齢で金髪の少年が居て、通学の時に、その子と一緒に登下校してるって聞いたけど?」


「・・・・・凄いわね。京都の小さな私学の事でそこまで・・・・・」

「女子校の情報網を、侮っちゃいけないわよ。

きっと高等部に行ったら思い知るわ。

校内で回って来るノートは、その手の話で一杯よ。

そのノートが、生きがいの子もいるわ。

学校に行く理由が、そのノートの交換って子もクラスメイトにも居る。

写真も有って、売ってくれるわ」


『まだ、うちは学園内だけで止まっているんだ』


碧も、何度か沙羅が検閲したと言う写真を見た事がある。

陰陽師の中に【予知】を使える人がいて、その人が撮った写真は自分でも驚く程の写真だった。

光一に、見せたいような、見せたく無いような・・・・・ セクシーな写真だった。

この写真については、沙羅さんが管理しているから校外には出ない。

だが、外で撮られた写真も手を打っているはず。


「写真とかあるの?」 

「あるよ」

「見せて」

「見せても良いけど、情報を!」

「何の情報?」

「彼女の存在!」

「あ〜そこね。

多分、対象の男子は、全員彼女どころか婚約者がいるわよ。特に、赤ネクタイと赤スカーフの子は婚約者持ちの子が殆どね」

「やはり、噂は本当なんだな。

という事は、

あなたは『青山 碧』、彼氏は『星里光一』共に全国模試優秀者ね」

そして、なんといっても『岩屋 脩』

彼は『東條 桜』と、付き合っているのではないかと言われている」


こんな調子で、全員の身元が明かされた。


『ちょっと【室】さん!大丈夫?』

見えない【式】が、耳元で囁いた。

『いかんせん、学園周辺に集まる女子学生の数が多すぎます。

ご存じの通り、京都が修学旅行の一つで、学園が東山で観光コースに入れやすいのです。

この頃では、沙羅様の旅番組が全国放送になって、その再放送が、女子高生を中心に凄まじい視聴率を上げているのです。我々も、手を打ってはいますが・・・・・』


『【女帝様】が、相手じゃ文句も言えないわね。

わかったわ。

私たちも注意しておくから、男子にも伝えて置いて』

『かしこまりました。本日、沖のプレジャーボートでスクールに向かって【盗撮】を仕掛けようとした者がいましたので。フィルムを露光させて置きました。

明日も、そういたしますか?』

『そんな馬鹿がいるのね。いいわ、こっちで対処する。

フィルムの感光ぐらいじゃアイツらメゲないわ。

練習がてら、咲耶にやってもらう。

その後、フィルムを抜き取って。

盗撮に、かかったら【式】で私に知らせて。』


お姉様達は、持っている写真を見せ合い出していた。

光一の写真も有る。

どれが彼だかは、勘弁してもらった。

きっと、それもしばらくの間だろう。

この情報収拾能力。

侮れる訳が無い。

後でコンドミニアムから、館林に飛ぶか〜

この情報を伝えないといけないし・・・・・光一の写真を見たら会いたくなっちゃった。

自分が、光一に惚れきっているのに気づいて赤くなる。

「アレ?碧ちゃん顔が赤いね。この辺りかな? 彼は?」

鋭い!

慌てて目を逸らしたが、余計に怪しまれてしまう。

まさか、他でも出回っているんじゃ無いでしょうね?


翌年の話 

釧路の農業高校に進んだ大輝と、札幌の女子校に進んだ涼子が電話で話していた。

「大輝〜 うちの高校で、純一とか光一、それに朱雀まで写真が回っているんだけど〜それに私達も〜」

「あぁ、だから、『認識障害』高めに設定している。イリスの写真と、脩の写真が、高値をつけているらしいな?」

「やっぱり〜私も、伊達メガネで誤魔化している。出身校も濁している」

「沙羅さんの番組が全国で再放送されて、脩の映像が出回ったのが、この騒ぎの発端だ。

もう今更だよ。

修学旅行のタクシーが、学園をコースにしているらしい。

館林の寄宿舎は出待ちの女子対応で、警備員出している。」

「美羽さんの、シワが増えるね」

「間違いないな。オマケに、楓さんのファンも多いからな。

学園に用事で出る際は、【陣】を使うらしいぞ」

「そこまで、やっているんだ」

「脩も大変だね」

「でも、流石、女帝様の息子だ。堂々としている。桜と一緒に登下校を続けて、桜を周囲に認知させる方法で対応しているよ。もちろん、サトリの力を使って暴走しそうな人間の意識を制御している。修行の一環なんだろう」

「帝王学という訳ね。私には真似できないわ」

「今週末は、オレ当番から外れているから、そっちに行くよ」

「じゃあ、マンションで待っている」

「あぁ、朝飯頼むわ。当番の連中に見つかると、手伝わせられるから深夜に抜け出して駐屯地に行く。先に部屋で寝ているだろう」

「気をつけてね。愛している」

「あぁ、俺もだ」


「おい!西郷!お前『京優学園』出身だろう?」

「はい!そうですけど。 (あぁ、又かよ〜)」

「この子の名前は?」

「個人情報なんで、言えませんよ」

指先が示しているのは、【咲耶】だった。

「そんな事、言わずにさぁ〜」

「彼女だったら、彼女が出ている旅番組が、来週から再放送されますよ。

それで見てください」

卓也は話を終わらせた。

慌てて、番組表の確認をしに行く先輩達。

職員室に新聞を見せて貰いに行ったのだろう。

放映時間は確か、深夜から早朝にかけての連続放映だったよな?

来週、期末試験と言うのに大丈夫かね?


張り出された追試対象者の数が過去最高になって、教職員を怒らせたのは語り草になった。


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