291 無視
更新したパソコンの画面を見ながら青木は、聖地の若者に話しかけた。
「位置取りが、変わって来たな」
最初の発見から三年を超えて、徐々に二つの船団の位置が変わって来た。
先行していた巨大コロニー艦を前面に出した艦隊は、相変わらず黄道面を進行し、二艦のコロニー艦を後方に置いた艦隊は相変わらず小惑星の影や惑星の月に隠れては移動をして、今では両者アーバインまで変わらない距離まで進んでいる。
【天測】をかけているから見えるが、後から来た艦隊は、上手く隠れている。
「面倒だ、このでかいコロニー艦を持つグループをA もう一つをBと呼ぼう」
「青木さん。やはりBの動きは、Aから隠れて行動していますし何か企んでいますね」
「あぁ、だがAが、罠をかけているのは間違いない。
20〜25年後、このアーバインの空を埋め尽くすのは、どちらかの艦隊と残骸だろうな」
「何年くらい、かけて来ているんですかね」
「解らんが100年以上かけて来ているさ。この三年で調べた限り生物がいそうな惑星を持った星は、少なくとも百光年より手前には今のところ発見できていない。
北半球しか観測できていないが、すぐ隣という訳じゃないだろう。
それだけ、生物の誕生は奇跡に近いんだ。
さて、俺はあがるぞまだ続けるのか?」
「いや、私も今日は彼女の為に帰りますよ」
「【青魔石】の準備は済んだのか?」
「創芸師に加工を頼みました。新婚旅行は鹿児島空港から東京に行って、伊豆で旅館に勤めている兄夫婦に会って来ます。甥っ子の顔も見たいですしね。京都を回ってアトリエで過ごし【転移陣】を渡継ぐで王道のコースです。ホテル・旅館を聖地からの働き先、宿泊先にしてくれて助かります」
「ほんと君たちは優秀だよ。和也くんが言った様にホテルと飲食業界は聖地の人間に占有されかねないな」
「いけないでしょうか?」
「そういう事ではない。現に私たち日本人が、教育の分野と農業で入植している状態じゃ無いか。
気にする事はないさ」
『警告! 漂流者発見。新村の北方6キロ海上。男女各一名、共に成人。敵船到着まで72時間。救助部隊出動願います』
「おやおや、メイルさん。今日は孫との、お風呂はお預けか?」
『電子的な発信信号無し、侵略者の関与は無いと判断します』
「半年ぶりですね。向かいの大陸からでしょうね」
「あぁ、生き延びて連中が居る。命に別状がなきゃ良いが、木場さんも眠れないな」
「僕らに出番は無いですよ。野次馬根性出したら怒られますよ」
「間違いない。スピカの元に帰るとしよう」
「それでは、明日!」
「あぁ、お休み」
青木は、父になり。
水色の髪の女の子が産まれた。
時折、日本に帰ってはJAXAの連中を悔しがらせる。
【こっち】に来てよかった。
青木の目は天球儀の二つの赤い点を見つめてこう誓う。
『スピカとシューラの為にも、お前たちの動きは俺が逃がさない』
来月には、名古屋だ。
いよいよ、岩屋さんと館林夫婦が組みあげた【目隠し衛星・アンブレラ】の組込みだ。
他のダミー衛星の準備は出来た。
上手くいってくれよ。
『JAXA衛星制御失計画』がいよいよ大詰めだ。
所長も芝居の為の台詞と表情。
間違わないでくれよな!
「宰相閣下」
「どうした?」
「CSにお入りにならなくて、宜しいのですか?」
「【寿命】が減るのを、心配してくれているのかな?」
「はい」
「このところCSCの劣化でユニット、制御機器、生命維持装置、いろんなトラブルで目覚めぬままに死ぬ者が、週に一人はいる。
それは、どうなんだろう? 寿命じゃないだろう?
確かに、CSCで生命活動を減らせば肉体の老化は極力抑えられる。
だが、先ほど言った死亡原因は増えている。
私は、自分の意思で毎日を過ごすことにしているよ」
「確かに、そうですな」
「それに、子孫の事は人工授精で、優秀な女の卵子と受精を済ませている。
入植したらすぐ様、冷凍保存から出して人工子宮を使って成長を開始する。
後は、その中から私の子を決めるだけだ」
「これは、余計な事を進言いたしました!お詫びいたします」
「仕方ないさ。死の恐怖は誰しも持っている」
「報告します!」
「どうした?」
「ワービル艦隊、進行方向を変えました」
「次の惑星の影に隠れて、先行するつもりだろう」
「はい!予測通り、こちらから発見しにくい位置に入ります」
「放置しなさい。艦隊通信は無しで。あのコソコソと隠れて、ついて来ている艦艇はどうですか?」
「一機、不調の様です。ノイズを出しています」
「もちろん無視なさい。
もしかしたらボーズの暴走かもしれませんが、無視して直進しなさい。
・・・・・そうですね、暴走の兆候が出たら少し艦隊速度を上げなさい。
相手には、そのせいでこちらが気がつかなかったと思わせなさい」
「はっ!」
「かかりますかね?」
「人というのは、自分に都合が悪い事は無視する生き物です。
今の指示、カプセル通信で伝えなさい」
ワービル艦隊
「【シャドウ】の三番が、不味いぞ!」
「どうした?」
「推進機の温度が上がって来ている。推進機を停止させようとしているが・・・・・
クソ!止まらないぞ!」
「【ボーズ】の接続解除は?」
「やって見ている! ダメだ!」
「ダクトを開けて、熱の放出は試したのか?」
「それをやったら、熱源探知に引っかかる」
「不味いぞ!」
「敵艦隊加速!」
「しめた!ボーズの接続部を『自爆』させろ!」
「なんだって!
「相手は加速に入っている、小さな自爆のノイズなら探知出来なくなる。急げ!」
「えぇい!ままよ!」
「どうだ?」
「推進機は停止した。アイツら、気付いたか?」
「いや、相変わらず加速している。
こっちから遠ざかっている。助かった。この角度なら、こちらへの探知信号は届かない」
「シャドウは、自己分解モードにして、バラバラにする。
これなら、ちょっとうるさい音が出るだけだ。
宇宙空間なら、他の雑音で聞こえない。真空だしな」
「どうする?上を起こすか?」
「どうせ、覚醒モードにしても、起きてまともな行動が取れるのは48時間後だ。
報告書だけ上げておけば良いさ」
「爆破の事は?」
「言わなきゃバレない。見もしないさ。
それに、この状況じゃ起こった事は取り返せない。
調査する価値もない。
ログと会話だけ修正しておけよ。
面倒事は、嫌だしな」
「後方でボーズのユニット回路の爆発と見られるエネルギー放出!確認しました」
「敵は?」
「進行方向、変わらずです」
「面倒ごとを、避けましたね」
「こちらも速度と進行方向を調整して、彼らが見えない位置に調整しなさい。
この傘からは、逃れられないのですがね」
宰相は、今日も概ね順調と記憶して明日の予定を考えた。
明日は、督戦隊の、うるさいジジィの生命維持装置が止まる。
前に故障したユニットの製造番号を移しておいた。
後で、ロット不良として処理すれば良い。
来週は、その右腕の女兵士だな。
私は、カプセルに入る訳にはいかないんだ。
寿命を全うするというのは、こういう事だ。




