027 金物屋
「ゲーリン久しぶりだな。相変わらず独り身か?」
聖地の入り口に立って馬を見ていると、犬獣人のコムに声をかけられた。
「なんだコムか? 久しぶりだな。嫁さんに逃げられたか?」
「まぁ、それに近いが別れたわけじゃない」
「どうした?」
「今、【領主の街】で金物屋やっているんだが税が厳しくってな。『人頭税』減らしで聖地に帰って来ている。来月には女房も帰って来て息子も、一旦ここに来て【アレ】の街で商売やるつもりだ」
「そうか、・・・・・それなら急いだ方がいい。
しばらくしたらファルバン家当主が修行の為に、ご一家と門人を連れて聖地に入られる。今日はそのお願いに来た。奥の部屋を掃除しなくてはならないから、金物は全部買うぞ」
「全部!そいつはありがたい。領主の街は税が高くて、発注している品はアレの先で止めているんだ。いい噂を聞かないから【アレ】の街の先に業者が運びたがらないんだ。盗賊も出るしな」
「盗賊?【アレ】と【領主の街】の間でか? それは済まなかった。人を出すよ!」
「イヤ、辞めておけ。噂だが領主のとりまき連中が奴らの正体だ。下手に捕まえたり切ったりしてみろ、やれ、内偵の役人だったとか言い出すぞ。私兵に獣人を使ってやらせている」
「なんだって!そんな事やっているのか!」
「世も末さ」
「奴ら獣人嫌い、じゃなかったか?」
「いくら兵隊の給料が高くっても、街の物価があれだけ高くって人頭税まで上げたら兵隊でも辞めて行く。【アレ】の代官には手をあげてしまった過去もあるし、【アレ】の街で働いているのを領主の手下に見つかったら何をされるか分かったもんじゃない」
コムは考え込んで、
「そうか、なら馬を借りて浜の村に行き船でサイスに出て、倉庫のある街に出よう。
そこから船で借りている倉庫から浜の村の沖に荷を運ばせよう。倉庫代もバカにならないしな。女房には聖地から護衛を獣人に頼んで迎えに行かせよう。店の売り物は税金代わりに徴税官に渡させて身体一つで馬車を使えば安心な。ありがとうよゲーリン!で、お前は未だ独り身か?」
「実は、ここ出身のルナと結婚した」
「ルナ?・・・・・ちょっと待て、あの歌姫のルナか!
そういえばファルバン家に当主の妻の付き人で働いているって聞いたな。参ったな!一番の女房だな!おめでとう!」
「子供も今月産まれる。だから旅ができる様になるまでは半年かかるが、当主様もその頃かな。冬が来る前に聖地に入りたい」
「なら、先に聖地で待っているよ。当主様のお部屋の事は任せておきな。
ここの長なら閉まっている部屋ももう少し開けれるだろう。食糧は・・・・・そうだな、俺の荷物と一緒に【倉庫の街】と【アレ】、【サイス】で仕入れてこよう。倉庫の街なら領主の街に送るのを躊躇っている連中から安く分けてもらえるだろう」
「なら、家賃分として先に渡しておく。これを仕入れで使ってくれ。使い切っても構わない。もちろん手間賃も取っていい」
ゲーリンは決して少なくない額の金をコムに渡した。
「ありがとう。って、おいこりゃ多いいぞ」
「倉庫の街で買い叩くなよ。困っている時はお互い様だ。ちゃんと手間賃は取れよ。余ったら、日持ちのする菓子も手に入れてくれ。お子様達や奥様達に少しは慰みも必要だ。今後も聖地の仕入れを任せたいんだが良いかな?」
「ゲーリン。本当にお前は人を疑う事を知らないな。商人には向いていない。だが、俺はここの生まれで兄弟だ。わかった。任せてくれ兄貴!」
ゲーリンとコムは握手を交わした。
コムは手紙といくばくかの金を犬獣人の三人組に預けて【領主の街】に居る家族へ走らせる。
【領主の街】の中には一人だけ入って、口頭でコムの伝言を告げて街の外で合流する。
全員が街に入ったら、領主の手下の目について面倒になりかねない。
金も危険だ。
手紙には【アレ】の街に仕入れに行くふりをして、手紙に添えた地図に従い抜け道から丘の村を超えて聖地に入るように指示をしてあった。
金は途中囲まれた時に使う取引の金だ。
相手も犬獣人三人の護衛相手では怪我無しでは済まない。
何もなければ護衛全員の取り分だ。
家財は領主にくれてやるつもりで置いて来させる。
門番に疑われたら元も子もない。
コムは領主が代わった時からもしもの事を考えて、抜け道や脱出手段を準備していた。
聖地の長とゲーリンでこれから必要な物をあげていき木札に書き記すコム。
これだけ有れば、今の倍の住民がいても冬を越すことができるだろう。
伝書を調べて術師達も昔使われていた氷の魔道具が取り付けられた石室を幾つも見つけていた。
これならばこの石室を氷を使わずに冷やすことができる。
肉や魚は塩蔵か燻製で一冬位なら持ちはするが出来れば冷やしておきたい。
野菜も収納できる。
長やゲーリンは術師達を労った。
コムは翌朝、ゲーリンに再会を約束して浜の村に向かう。
聖地での仕事とコムの協力を得てゲーリンとメイルは聖地を後にする事にした。
ファルバン家の出立の際には先触れを出す事にして、秋の収穫後に出立する事にする。
この頃が人の行き来が落ち着き街を出やすい。
渡しておいた多くの魔石と長の厚意で追加された魔石を収納に入れて、三人の獣人と共に聖地を出た。
後、1日で街に入るというところで先頭を行く獣人が合図をする。
待ち伏せだ。
領主達が手下を川の上流に伏せさせている。
だが、緊張感無く話し声さえ聞こえる。
ゲーリンは少し戻して馬を獣人達に預けて徒歩で街へ行く事にした。




